魔王「勇者がワンパンで沈んだ」 2/4

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  側近「ゆ、床がえぐれた……」

  執事「ふむ」

  勇者「はっはっは、すごかろう」

魔王「あんたたちなに避難してるのさーっ!!」

僧侶「ガアアアアアア!」ブオンブオンブオン!

 ズガガガガガガガガ!

魔王「こ、この!」

  側近「頑張って魔王さま!」

  執事「そこですかさず反撃ですよ」

  勇者「しかし分が悪い」

魔王「後で全員はったおす!」

魔王「ボディ!」ガス!

僧侶「っ……」

魔王「――からのアッパー!」バゴォン!

僧侶「!!」

魔王(よし、通った!)

僧侶「――っ」ギロリ

魔王「!」

僧侶「ガアッ!」ブン!

魔王「うぐっ」ビシ!

  側近「魔王さま!」

  勇者「問題ないかすっただけだ」

魔王「あんたたちも闘えー!」

執事「とおっしゃってますが」

側近「わ、わたしは根っからの文官です!」

執事「わたくしも荒事は好みません」

勇者「ふむ。ならば俺が行こう」

  魔王「早くしろやこらー!」

  僧侶「ウガアアア!」

勇者「よし」スタスタスタ

  側近「な、なんだかずいぶんと余裕そうですね」

  執事「さて」

勇者「僧侶!」

僧侶「! ユウシャ!」

勇者「僧侶、もうこんなことはやめるんだ」

僧侶「グルルルルルル……!」

魔王(うわあ、威嚇してる……)

勇者「俺は、君が本当は優しい娘だって事を知ってる」

魔王(信じたくなかったけどやっぱり女の子なんだ……)

勇者「だからおとなしく森へ帰るんだ」

魔王「森って」

僧侶「グルルァ!」ヒヒーン

勇者「どう、どう」

魔王「いやいや」

僧侶「ユウシャガワタシノモノニナラナイノナラ」

勇者「……」

僧侶「アナタヲ殺シテワタシモ死ヌ!」ズダン!

魔王「危ない!」

僧侶「アアアアアアアアアッ!」グワ!

勇者「"消え去れ"!」ビシィ!

 ――ポヒョ

魔王「って、あれ?」

  側近「消えた!?」

  執事「消えましたな」

魔王「あ、あれだけの質量を一瞬で……」

勇者「……」

魔王「……あんた、まさかあたしとやりあったときは手加減してたってこと?」

側近「魔王さま! 大丈夫ですか!」

魔王「なんで初めから全力を出さなかったのさ?」

勇者「強い力には制限があるってことだ」

魔王「制限?」

勇者「制約による力の行使。

   それには代償がつきものであり、得るためには失う勇気が必要だ」

魔王「……」

勇者「背負うべきものが大きいほど、漆黒の刃は鋭く冴え渡り――」

魔王「いやもういいよ……」

勇者「む」

魔王「ところでよかったの? あんなんでもあんたの仲間でしょ?」

勇者「……」

執事「魔王さま。よろしいですか?」

魔王「なに?」

執事「先ほどの勇者の魔術ですが」

勇者「三日だ」

魔王「へ?」

勇者「俺の魔術は三日しか持たん。それを過ぎれば奴は暗黒の淵から再び姿を現すぞ」

魔王「封印術?」

執事「いえ、転移魔術です」

魔王「あれ?」

執事「しっかりと解析しなければ分かりませんが、東に三百キロほどかと」

魔王「今はそこにいるの?」

執事「恐らくは」

側近「ええ!? ってことは……」

勇者「その通り、奴は再び我々の前に姿を現す」

魔王「マジですか……」

執事「おお」

側近(あ、まずい。執事さんが楽しそうだ)

側近「に、逃げましょうよ!」

魔王「城を捨てるのはちょっとねえ……」

側近「そ、そんな!」

勇者「これから俺たちは運命共同体だ。ははは、共通の敵を迎え撃つというのは心躍るな」

魔王「踊らないよ。あんたを追いだせばいいんでしょ」

勇者「無理だ。奴は俺の匂いをたどってくる。必ずここを通っていくだろう。そうなれば――」

魔王「はた迷惑な。ていうか匂いをたどるって」

勇者「あれを甘く見るな」

魔王「規格外すぎる」

魔王「規格外といえば三百キロを三日って」

側近「で、でも規格外ですし……」

魔王「考えるのが馬鹿らしくなってきた」

勇者「そうだろう。俺も恐ろしくなって逃げてきたのだ」

魔王「なんでさ。仲間でしょ?」

勇者「あれと生涯を共にできると思うか?」

執事「なるほど」

勇者「天寿を全うするなど夢のまた夢だろう」

魔王「とことん規格外」

執事「いやはや愉快なことになりましたな」

魔王「全然愉快じゃないし」

側近「また来たら転移魔術でどうにかすればいいんじゃないですか?」

勇者「三百キロも転移させたからな。次に使えるのは十日後くらいだ」

側近「そ、そんな」

勇者「それに転移させたところで問題の先延ばしにしかならないだろう?」

側近「それは、そうですが……」

勇者「なら君、根本的な解決を目指さないといけないよ」

側近(この人が原因なのになんで偉そうなんだろう)

勇者「さあ今日はもう遅い、休もうじゃないか」

魔王「……そだね。なんかもう考えるのが疲れたよ」

側近「お部屋の用意はできております」

勇者「ありがとう」

側近「え、いや、あなたじゃなくて……」

勇者「なに? じゃあ俺はどこで休めばいいんだ?」

魔王「適当にそこらの床で寝ててよ。広さだけは無駄にあるから」

執事「さすが魔王さま。寛大ですな」

勇者「ありがたい」

側近「ありがたいんですか」

魔王「執事くんは後で被害状況を確認しておいてね」

執事「御意」

<次の日>

勇者「僧侶対策会議だ」

魔王「僧侶一人に対策会議って何かがおかしいよね」

勇者「だが見ただろう。あれはただの人間ではない」

側近「そもそも人間なんでしょうか」

執事「魔物の血が入ってるのかもしれませんな」

魔王「下手したら異世界からの使者かも」

勇者「いや人間だ」

魔王「そこは断言するんだね」

勇者「かつて王都の酒場で会ったとき、あれは普通の女だったからな」

側近「普通の?」

執事「それは例えば筋繊維が異常に肥大化している程度の、といったような?」

勇者「残念ながらそれはない」

魔王「別に残念じゃないけど……」

執事「……」

側近「執事さんは残念なんですね……」

勇者「普通は普通だ。村女Aと言い換えてもいいくらいの普通さだ」

魔王「それがなんであんな人外に?」

勇者「話せば長いような、短いような……」

魔王「とりあえず聞くよ」

勇者「そうか? なら話そう」

執事「……」ワクワク

<数か月前>

僧侶「ごめんなさい勇者さま、足を引っ張ってしまって」

勇者「気にすることはないさ」

僧侶「でもわたしいつもこんなんで……」

勇者「焦ることはない。徐々に成長していけばいい」

僧侶「……わたし、頑張ります!」

勇者「ああ、頑張ってくれ」

魔王「話し始めたところ悪いけどちょっと待って」

勇者「なんだ?」

魔王「それホントにあのバーサーカー?」

勇者「ああ、本当だ」

魔王「信じられない……てっきりもっと」

勇者「もっと、なんだ?」

魔王「……まあいいや。続けて」

勇者「分かった」

僧侶「とは言ったものの、何からすればいいのかな……」

僧侶「……」

僧侶「わたしは聖職者。だったらとりあえず祈りの時間を増やしてみましょう」

僧侶「神とのかかわりを増やす。これがわたしにできること」

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僧侶「きゃあ!」

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