「当たり前だろ、今さら引き返せねーよ」
「そもそもさ、ホントにあるの? その……遺跡だっけ?」
「遺跡じゃねーよ! ダンジョンだダンジョン!」
「でもさー、ただの噂でしょ?」
「噂じゃねーよ! ホントのことだって!」
「村の皆にも内緒で出てきて……バレたらどうなることか」
「あーもううっさいなあ……いいから行くぞ!」
「はいはい……」
「確か酒場のおっさんが言うにはこのあたりだって……」
「……こんな草原のど真ん中に?」
「ああ、草原のどこかに穴みたいな入口があるんだって」
「穴みたいな?」
「ああ、そんで穴の目印が……」
「――あれ?」
「え? どうした?」
「あれ……あそこに何かあるけど」
「え? ……ホントだ、なんだあれ? 箱?」
「……近づいて見てみる?」
「……そうだな、行ってみるか」
「……なにこれ?」
「箱だな」
「箱だね」
「……宝箱?」
「それにしては随分ボロボロだけど」
「だよなあ……」
「……あっ! そうだそうだ思い出した!」
「え? なにを?」
「目印だよ! 酒場のおっさんが言ってた入口の目印」
「目印?」
「うん、ボロボロの宝箱がダンジョンの目印だって。多分これのことだ」
「へえ……これがかあ」
「と言うことは……あっ! やっぱりあった、あそこの穴だ! あそこがダンジョンの入口だって!」
「わあ……ホントにあったんだ」
「なあなあ! 早速入ってみようぜ!」
「ちょっと待ってよ……あ、その前にさ」
「あ? なんだよ?」
「この宝箱開けてみようよ、中に何が入ってるか気になるじゃない」
「ええー? そんなボロい宝箱、何も入ってねーよ」
「一応見てみようって」
「……ちぇっ、しょうがねーなー」
「ほらほら、はやく来ないと勝手に開けちゃうよ?」
「待てって! 開けるなら一緒に開けるぞ!」
「……じゃあ」
「……うん」
「開けるぞ」
「開けよう」
「「……」」
「「せーのっ!!」」
――――パカッ
「……」
「……」
「……空、だな」
「だね……」
「まあこんなもんだろうな」
「だね」
「多分酒場のおっさんが中身パクっちまったんだろ」
「多分そうだろうね」
「まあ宝箱の中身もわかったことだし、さっさとダンジョン入ろうぜ」
「そうだね」
「んだよ、お前結局乗り気になってんじゃん。あんな文句言ってたくせによー」
「そんなことないって」
「いやぜってーそうだろ」
「そんなことないってば――――」
「――――!」
「―――! ―――!」
――――ズズッ
結局、二人の少年が入ったダンジョンには何もなかったらしい。
魔物はいなく、罠も無く、宝箱の一つも無かったそうだ。
そこはダンジョンなのに何も無い……到底冒険の舞台にはなりえない場所だった。
――――けれど、ただ一つ。
ただ一つだけ、少年たちが持ち帰ったものがある。
少年たちがダンジョンに足を踏み入れる前に、入口にあった宝箱。
その宝箱が――二人がダンジョンを出るころには跡形もなくなくなっていたらしい。
宝箱は何処にいったのか?
そのたった一つの謎だけ抱えて、二人の少年は村に帰った。
誰かに持ち去られたのか、
一人でに動き出したのか、
それとも宝箱自体幻だったのか――最早定かではない。
……けれど、きっと
その宝箱は――未だこの青空の下にあるだろう。
――――――――END