勇者「魔王死ななきゃ俺不死身じゃね?」 5/10

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勇者「久しぶりだな」

龍人「……何の用だ。よくも私の前に姿を現せたものだな、勇者!」

勇者「すまない。でも、ひとまずは戦争を止めてほしい。それを伝えるために来た」

龍人「いきなり侵入しておいて、言いたいことはそれだけか? お前が、お前が魔王様を倒さなければこんなことには……!」

勇者「……すまない。俺の、エゴだ」

勇者「だが、戦争なんて魔王の望むことではない。ここは退いてくれないか」

龍人「我が主を救う。只其れを為す」

龍人「私は私の流儀で魔王様を救う。魔王様の意思に反するとしても」

龍人「それにこれは、私と魔王様の為だけではない。魔族の為の戦いなのだ」

勇者(……ここで、魔王は俺の家にいると言っても話がこじれるだけだろうな)

勇者「龍人、お前戦争を経験したことがあるのか?」

龍人「……ない」

勇者「考えてもみろ。戦争で救われる命と、犠牲になる命、どちらが多い?」

龍人「…………う」

勇者「お前は、魔族のことを本気で想ってる。驚くくらい民に優しい」

龍人「当たり前だ。お前ら人間のような醜い生き物と一緒にするな!」

勇者「なら、人間の真似ごとなんてするなよ」

勇者「戦争が生み出すほとんどは、不幸だ」

龍人「それこそ、人間と一緒にするな……!」

龍人「民を想う誠の想いと、誰にも負けぬ力があれば、人間の二の舞にはならぬ!」

勇者「お前がどう思っているかと、魔族がどう思っているかは、まったく関係ない」

勇者「戦争で、強い魔物は名を上げ、生活は豊かになるだろうな。だけど、弱い魔物は卑下され、扱いが酷くなるだろう」

勇者「再び平和の世界が崩れ、やがては下剋上の時代が来る」

勇者「弱体化した魔物は卑下され、恨みを宿し、また新たな下剋上が起こるだろう」

勇者「また世界が統一されるのに、膨大な年月がかかる」

龍人「…………」

勇者「想いと力があれば、大切な人を守ることができる」

勇者「だけど、それでは民を守ることができない」

勇者「剣を退け、龍人。お前がやるべきことは、他にあるはずだ」

龍人「っ……この、人間風情が……!」

龍人「偉そうに、何様のつもりだぁっ!!」チャキッ

勇者「――――」

龍人「…………!!」ギギギ

勇者「すぐ熱くなるの、お前の悪い癖だな。最初に来た時も、いきなり斬りかかってきやがって」ギギギ

龍人「何故、剣を素手で受け止められる!?」

勇者「防護魔法かけてるからな」

龍人「龍族に伝わる名剣が、防護魔法などに!」

勇者「まー、俺の防護魔法だし。だいたい、魔王が勝てなかったのにお前が勝てるわけないだろう」

ガチャリ

九尾の狐「や-れやれ。やはりドンチャンやっておったか」

勇者「げっ。九尾」

九尾の狐「げ、とは何じゃ」

九尾の狐「話がこじれるじゃろうから仲介に来たというに」

龍人「九尾、お前も勇者に味方するというのか……?」

九尾の狐「おもっきし負けてる奴が言ってもかっこ悪いのう」

龍人「うるさい!」

九尾の狐「のう龍人。お主、先代魔王の時代はおらんかったじゃろう?」

龍人「? いなかったが、それがどうした」

九尾の狐「じゃろうなぁ。鬼も然りじゃろうなぁ」

九尾の狐「今だから言うが、実は先代魔王は、人間と結婚しているのじゃ」

龍人「先代様が……!? それはつまり、」

九尾の狐「そう。今の魔王様は、人間の混血じゃ」

九尾の狐「力が多少劣るだけで、魔力が衰えることはないがの」

九尾の狐「龍人、お主は魔族と人間の子である魔王様の前で、魔族と人間の殺し合いを見せたいのか?」

龍人「何故、今までそれを黙っていたんだ……」

九尾の狐「魔族の中には人間を恨む者もいる。ごく一部の魔族を除いて、この事実を知らされてはおらんのじゃ」

九尾の狐「今じゃからよいが、お主がまだ魔王様に忠誠を誓っていなかった時。人間という種族を卑下しておるお主が、この事実を知ったら、どうなっておったろうな?」

龍人「う……」

九尾の狐「当時、人間と結婚した魔王様は酷い非難を浴びた。そして、魔王様の元から離れていく者も出た」

九尾の狐「そして、新たに集まった魔族にも、お主らのように人間を卑下する者がいる」

九尾の狐「無駄な争いを避けるため、この事実は極秘とされているのじゃ」

勇者(…………)

龍人「……人間側はどうするのだ。もう既に一度戦を起こしている。人間とて、このまま退くわけにはいかないだろう」

龍人「一度止めておきながら人間に襲撃されては、収集がつかなくなるぞ」

勇者「人間の城まで、ついてきてくれないか?」

龍人「なにっ?」

勇者「戦争を止めるってのは、その為の契約が必要だ。その契約をする役をやってほしい」

龍人「……わかった。行こう」

九尾の狐「私も行こう」

勇者「そうだな。何せ魔族と人間が大規模な戦争をするのも初めてなら、停戦も初めてだ。何人か居た方がいいだろう」

九尾の狐「善は急げじゃ。早く行くことにしよう」

龍人「も、もう行くのか?」

勇者「俺の魔法だと文字通り一瞬でつくからな。心の準備なら今の内にしておいた方が良い」

鬼「…………」

鬼「俺は誘ってくれねえのかよ」

鬼「いーっすよ。どうせ年中酔っ払いが話し合いなんてできませんよ」

子鬼「そういう時は飲んで忘れましょう!」

鬼「いやそもそもお前らが年がら年中何かとつけて誘ってくるのがだなぁ」

―城内―

ザワザワ…

龍人「……思い切り怯えられているな。こんな状態で話し合いができるのか……?」

九尾の狐「戦争をけしかけた奴がよくもまあ」

龍人「うぐ、……」

王様「勇者。……戻ってきたと思ったら、これは一体どういうことじゃ」

勇者「魔族と人間で大きな戦争が起きようとしているのは、王様もご存じでしょう」

勇者「戦争の収集がつかなくなる前に、こうして、魔族と人間とで話し合いをするべきと思い、魔族二名をつれてここにやってきた次第」

王様「貴様、何を言っているのか分かっておるのか……?」

王様「魔族と人間で、話し合いが成り立つと思うのか」

勇者「成り立ちます」

勇者「王様、あなたは魔族をご存じか? きっと知らないでしょう。野蛮なもの、邪悪なもの、そんな周りのイメージをあやふやに持っているだけでしかない」

勇者「私は、魔族の世、人間の世を、二つとも見て参りました。そして気付いたのです」

王様「何に気付いたというのじゃ」

勇者「――魔族も人も、同じであると!」

王様「貴様ッ、人間を愚弄するのか!」ガタ

勇者「それこそ大きな偏見でございます、王様! この二人を、ご覧ください!」

勇者「彼らは、戦争を止めるために魔王城から来た、魔族の将軍です」

王様「こ奴らが、どうしたというのじゃ」

勇者「彼らの目をご覧ください。王様の思う魔族は、こんなにも優しい目を持っていますか」

王様「…………」

勇者「王様。様々な人の目を見てきたあなたなら分かるでしょう?」

王様(……あの狐のような魔族は、昔見た、わしの母君の目に似ておる)

王様(あの龍人は、……若かりし頃の勇者の目に似ておる)

王様「しかし、しかしだ。それは余りに都合がよいというものであろう」

王様「既に街が一つ、壊滅寸前まで追い込まれたのじゃぞ。それを我慢しろというのか」

勇者「……そんな街を増やすわけにはいかないのです」

王様「その街に住んでいた者たちはどうなる。あの者達の無念を、どう晴らすというのだ」

勇者「では王様は、彼らの無念を知っているというのですか?」

王様「何?」

勇者「私は、いろいろな兵士たちと話してきました」

勇者「魔族との戦いで生き残った歴戦の兵、まだ戦いに出たこともない新兵」

勇者「多様な経緯がある兵士ですが、彼らは決まって言うのです」

勇者「『早く平和になってくれないものか』と」

勇者「彼らは、人間の繁栄など望んではいないのです。守るべき者の為戦っているのです」

勇者「彼らの願いは、皆、一刻も早く魔族との戦いが終わることなのですよ」

王様「しかし、だ。犠牲になった兵士の家族は果たしてそうか? 魔族を深く深く憎むのではないか」

龍人「……人間の、王よ」

スッ

九尾の狐(おお、あの龍人が、人間に跪きよった)

龍人「此度の争い、全ての責任は私にある」

龍人「私は民の為を想っているつもりで、戦争をしかけた」

龍人「しかし、その結果、魔族と人間の双方を不幸にしてしまった」

龍人「人間が魔族を恨んでも仕方がないと思う」

龍人「だからこそ私は、……戦争を止めたいと、自分なりに考えた」

龍人「決定的な亀裂が入る前に、止めなければいけないと、……そう、思った」

王様「お主の言いたいことは分かった。しかし、結局勇者と言い分が同じではないか」

王様「戦争を始めたが、すぐに止めようと思う。そちらの被害は甚大だが、我慢してくれ。そんな自分勝手はないじゃろう」

九尾の狐「人間の王よ」

王様「……なんじゃ?」

九尾の狐「なに、長ったらしい説教をするつもりはない。つぎはぎの言葉を並べたてるつもりもない。まあちと聞いてくれぬか」

九尾の狐「龍人が言うとおりな、まだ、人間と魔族に決定的な亀裂はない」

九尾の狐「人間と魔族が共に暮らす村も、ごく一部じゃが、ある」

九尾の狐「私は彼らを守りたい。これ以上、亀裂を大きくするわけにはいかないのじゃ」

九尾の狐「それを埋めるには、埋めるための何かが必要なのじゃ。それは私にも分かる」

勇者(……何を言うつもりだ?)

九尾の狐「平和には、犠牲が必要じゃ」

九尾の狐「長年魔王様にお仕えしてきた身。この身ももはやもうもたぬ」

九尾の狐「王よ。貴殿が民の為に魔族を殺すというのなら」

九尾の狐「代わりに、獣魔将軍、この私の首を持って行ってくれ」

王様「……なんと」

九尾の狐「老いぼれの身であるが、仮にも魔族の重役、何代にもわたり魔王様にお仕えしてきた古参の首じゃ」

九尾の狐「この首一つで話が解決するのなら、よろこんでさしだそう」

龍人「おい、何を言っている九尾! お前がいなければ、誰が魔王城を管理するというのだ!」

九尾の狐「魔王はまた生まれる。その方に、魔王城を任せる」

九尾の狐「私は、もう十分生きた。何代も魔王様にお仕えすることができて、私は充分幸せだった。今更未練など無いよ」

龍人「お前、最初からそのつもりで……!」

九尾の狐「さあ、王よ。私を牢にでも放りこんでおくといい」

王様「その必要はない」

九尾の狐「……む?」

王様「戦争を止める。だから、その必要はない」

九尾の狐「…………ふむ? だが、それでは犠牲になった者たちが」

王様「お主達も犠牲は出たのであろう?」

九尾の狐「それはそうじゃが、元はと言えば私達が戦争をしかけたのじゃぞ」

王様「お主が死ねば、また魔族が我らを恨む。そうして恨みの連鎖が続く」

王様「平和には犠牲が必要か。それは違う」

王様「むしろ平和を生むというのは、どこかで犠牲を断ち切らねばならない」

王様「自分がやられたことを受け入れる勇気と覚悟が、平和には必要なのだ」

王様「……と、何も被害を受けていないわしが言うのも何じゃがの」

勇者「ありがとうございます、王様……!」

王様「人間の王としては、間違いだったのかもしれんがの」

王様「先代には、魔族を滅ぼすようにと遺言を残されたくらいじゃ」

王様「お主の言うとおり……わしは、会ったこともない魔族を、高慢で、野蛮で、狡猾な生き物だと、勝手に思い込んでおった」

王様「会ってみると、何じゃこやつらは」

王様「真っ直ぐな眼でわしを見据える龍に、魔族の為に自分が死ぬと言う狐」

王様「……わしは、こやつらの前で戦争を続けると言うことはできなかった」

龍人「……終わったのか、これで」

九尾の狐「うーむ、何ともあっさりじゃ。人間の王と言うからには、もっと傲慢な者かと思っておったのじゃが」

勇者「結局のところ、お互いがお互いを知らなかったってことさ」

九尾の狐「若造がなぁにを知った風に」

勇者「少しくらい語らせてくれよ」

九尾の狐「……そうじゃな。その若造のおかげで、今回は何とかなった」

九尾の狐「互いと話し合い、互いを知り合う。……こんな発想ができるのは、二つの世を渡り歩く勇者だけじゃろうしな」

―魔王城、門前―

勇者「それじゃあな」

九尾の狐「ありがとう、勇者。なに、龍人の支持はとても高い。龍人が戦争は止めると言えば、皆首を縦に振るじゃろう」

龍人「……皆には、申し訳ないことをした」

龍人「特に、戦争に参加させるだけさせた我がドラゴン軍には、謝っても謝りきれない……」

九尾の狐「その通りじゃ。まったく、誠心誠意謝るのじゃぞ」

―過去・魔王城、王室―

パタパタ

九尾の狐『む、……勇者。ということは、魔王様は負けたのか』

勇者『すまなかったな。催眠魔法なんかかけて』

九尾の狐『やれやれ、まぁた生き残ってしまったのう』

九尾の狐『それにしても、魔王様はどこじゃ。どこにもお姿が見当たらないが』

勇者『……すまないな。跡形もなく消し去ってしまったよ』

九尾の狐『そうか、そうか』フリフリ

勇者『……?』

勇者「……な、なあ、九尾」

九尾の狐「なんじゃ?」

勇者「お前は、恨んでないのか? 俺が魔王を倒したこと」

九尾の狐「……ふふふ。やれやれ、せっかく言わぬようにしてきたのに」

勇者「?」

九尾の狐「お主と魔王様が共に暮らしていることなど、私はとっくに気付いておる」

勇者「はぁっ!?」

勇者「お、おいおい。それってどういう」

九尾の狐「おぉっと、そろそろ行かねば。じゃあの、勇者♪」タタタ

勇者「……おい」

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