魔王「食材も苦労したぞ?、…かなりな」
勇者「…勇者やってたつもりが魔物になるとは…」
魔王「この暗黒の儀は門外不出だ、よかったな良い経験になっただろ」
勇者「…もうどうでもいい」
魔王「晴れてお前は魔物勇者だ、憎いね羨ましいぞ」
勇者「モルモットなだけでしょ…」
魔王「そこらの雑魚モノとはわけが違う魔物と勇者のハイブリットだからな、資質抜群だ」
勇者「私は戦闘マシーンですか!?」
魔王「?なぜ喜ばんのな?」
勇者「貴方とは絶対分かりあえる気がしない…もうどうでもいいけど」
魔王「そういうのな私はお前が好きだぞ」
勇者「さいですか…」
魔王「長く生きてると徐々に無感情になってしまうのだ、心が死んでしまうのだろうな」
勇者「その割には大人げなく喜んだりしませんか?」
魔王「久しぶりだからな、こんなに楽しいのは」
勇者「好き勝手言ってくれる…」
魔王「長く無駄話をしてしまったな、そろそろ続きを始めようか」
勇者「…勇者、か」
キングドラゴン「ごぉっ!?」
勇者「ふぅ…ふぅ…」
魔王「…これが人を捨てた力か、凄まじいな」
勇者「結構死にましたがね…はぁ、はぁ…」
魔王「いや、この段階でこれ程とは驚いたぞ」
勇者「そりゃどうも、こっちは勝手に人体改造されてるもんで」
魔王「そう膨れるな、素直に喜べ」
勇者「…微妙ですよ…」
魔王「今ので通算して10体か」
勇者「そうですね、それくらいかと」
魔王「どれどれ、どのくらいになったか私と手合わせするか」
勇者「また死ねと?」
魔王「いやお手並み拝見だ」
勇者「…ここで貴方に勝てば私は解放とか?」
魔王「勝てればな」
勇者「おらっ!!」ブンッ!!
魔王「ほぉ、力も大分ついたな」
勇者「ぐ…っ!!」ぐぐぐ…
魔王「力で捩じ伏せる気か?まだまだ私には及ばんぞ、ごり押しなど通じん」
勇者「なら…食らえっ!!」ぶおぉっ!!
魔王「魔法…しかも闇魔法か、お前得意だもんな」
勇者「くたばれっ!!」
魔王「だが魔王に闇魔法はないだろ…」
勇者「…っ!?」
魔王「はい止め」
勇者「…はぁ、はぁ」
魔王「んー、経験かな」
勇者「…え?」
魔王「力は急速についた、だが戦闘経験が少な過ぎるのが問題か」
勇者「もっと戦いの経験を積めと?」
魔王「うむ、となればもう少し弱い敵と戦える所へ行こうか」
勇者「え?」
魔王「もっと言えばお前と互角程の相手か」
魔王「お前心のうちでは蘇生してくれるから突っ込んでもいいかと思ってるだろ」
勇者「そんな訳ないじゃないですか…」
魔王「普通それでも痛みを恐れるものだが、お前魔物になったからそれも無くなったからな」
勇者「だからありえませんって」
魔王「ここの敵なら手っ取り早く強くなれるが経験を得るには不向きの様だ」
勇者「…」
魔王「お前と力が拮抗する相手が経験を得るに打ってつけだな」
勇者「蘇生回数を縛るとかは?」
魔王「縛ってどうするアホかお前」
魔王「時間が惜しい、早くお前には強くなってもらわれば困る」
勇者「…はぁ」
魔王「どれ、今のお前なら終盤に差し掛かるくらいの土地が丁度よいかな」
勇者「それってここから近いって意味ですか?」
魔王「そう遠くはない、行こうか」
~王国防衛拠点地~
魔王「はい到着」
勇者「ここは?」
魔王「田舎者め、ここは人間最後の砦だぞ」
勇者「最後?」
魔王「いかにも、ここは魔界から侵攻する魔物を食い止めるための要塞だ」
勇者「つまりここは魔界と人間界との間ですか?」
魔王「そう、向こうの人間界に霞んで城が見えるだろ?あれを守る為の防衛基地だ」
勇者「大分飛びましたね」
魔王「そうでもない、反対側にも私の城が霞んで見えるだろ?」
勇者「あ、ホントだ」
魔王「ここを破られたら人間界は強力な魔物で蹂躙され滅びる訳だから強大な要塞基地でないといかんのだ」
勇者「なるほど…」
魔王「…と社会勉強をしてる場合ではないな、お前にはここを侵攻する魔物を片っ端から皆殺しにしてもらおうか」
勇者「えぇ!?」
魔王「次から次へと湧いてくるからな、おまけにお前には丁度いい強さ…実践経験を積むのなら最高の戦場だろ」
勇者「魔王としての立場はいいんですか…」
魔王「雑魚が死のうと別に私はなんとも思わん、元々魔物は仲間意識も気薄なものだ」
勇者「ホント色んな意味で魔王ですね貴方…」
魔王「人間側にとってもここの防衛はありがたいから喜ばれるぞ」
勇者「別に勇者の自覚ないですから、興味無いんですけどね…」
魔王「似た者同士だな」
勇者「そうですねー…」
魔王「他人に無頓着、それでこそ勇者なのかもしれんな」
勇者「え?」
魔王「人々の救世主などと大層な言われようだが、実際はどうかとな」
勇者「時々訳分かんない事言いますね」
魔王「あ、ほら来たぞ」
魔王「あくまで私はサポート役だ、特に蘇生以外しない」
勇者「それいつもですよね!?」ぐぐぐ…っ!!
上級悪魔「ぐげー!!」
魔王「お、いい勝負だな」
勇者「そこうるさいですっ!!」ぐぐぐっ!
上級悪魔「がー!」
勇者「おりゃ…っ!!」
上級悪魔「ぐびゃっ!?」
魔王「短時間でよくもまぁここまで…」
勇者「ふぅ…ふぅ…」
魔王「血まみれだな、どっから見ても邪悪な風貌だな」
勇者「…さすがに疲れた…」
魔王「かなり連戦したしな、休憩も挟まずに」
勇者「いきなり戦場に投下されたこっちの身にもなってくださいよ…」
魔王「そうか?最後らへん無双してただろ、俺つえー的な」
勇者「もう剣もボロボロですよ…鎧も大分傷んだし…」
魔王「ふむ、では丁度いいか」
魔王「はい魔剣と魔王の鎧」
勇者「うわ出た」
魔王「そう言うな、今のお前なら装備できるから」
勇者「…着ければいいんでしょ」
魔王「うん、素直でよろしい」
勇者(!?…肌に吸いつくようだ…羽みたいに軽い)
魔王「どうだ着心地最高だろ」
勇者「…」
魔王「認められたって事だよ」
勇者「どういう意味ですか」
魔王「さぁ」
魔王「それは私からのプレゼントであり今からの試練の合図でもある」
勇者「ちょっと待て話g」
魔王「こんな要塞を前に魔王の姿で立ってるお前を人間達はどう見てる?」
勇者「…え」
魔王「どんどん兵士たちが集まってきたな、砲台もこちらを向いてるぞ」
勇者「ちょ、まさか」
魔王「では私は遠くで眺めているよ、死んでも蘇生をかけてやるから安心して戦うといい」
勇者「この悪魔…っ」
魔王「無抵抗を貫こうが説得させようが無駄だと思うぞ、では健闘を祈る」
しゅっ
勇者「…まじですか」
魔王「おー勇ましい戦いぶりだな」
魔王「遠くからでも爆炎と爆音が凄い」
魔王「見事な斬撃だな要塞が真っ二つ」
魔王「流石、自分の為に抜く剣は迷いがないな」
魔王「勇者が人間に仇をなすというのも滑稽だな」
勇者(どうしてこうなった…)
勇者(次から次へと…こいつら…)
勇者(私はただの村人だったはず)
勇者(なんでさっきから人間殺してんだ…?)
勇者(いやそもそも、いまだに勇者の自覚もないけども…)
勇者(あー、こいつらなんで向かってくんだよ…死ぬの怖くねーの?)
勇者(こうやって向かってくる奴にだって家や家族があるんだろうな…)
勇者(必死なんだろうな…)
勇者(なんで…あーこんな事してんだろ)
勇者(死にたくないから?…いや、死ねねーし)
勇者(だからと言って痛いのもやっぱり嫌だし…)
勇者(…これで何人目?もう200や300はそこらは斬ったかな…)
勇者(なんかもうさっきから手が勝手に動くもん)
勇者(これが経験って奴かな、体が覚える的な)
勇者(村人だった頃なら考えられない状況だなココ…)
勇者(死屍累々…人から魔物…これ全部俺の斬った奴らか)
勇者(人の死に無頓着になったのは多分俺が魔物になったから、なんだろうなぁ)
勇者(多分そうだ、きっとそうだろ…)
勇者「…私のせいじゃない」
魔王「お、迷いが消えたなー…」
魔王「剣の振りにためらいがない」
魔王「そうそう、懐かしいなー…」
魔王「お、今の上手い」
魔王「おー…すごいすごい」
魔王「ははは、嬉しそう」
魔王「さすが…」
魔王「…そろそろ、か」
・
・
・
魔王「見てたぞ」
勇者「…」
魔王「見事だったな」
勇者「…」
魔王「最後らへん、楽しかっただろ?」
勇者「…そんなわけないだろ」
魔王「嘘つけ、にやけてる所見てたぞ私」
勇者「違う」
魔王「…まぁいいけど」
勇者「…」
魔王「…どうした?」
勇者「どうやって農民の私を勇者と探り当てたんだ?」
魔王「魔王だからって言わなかったっけ?」
勇者「…」
魔王「さて…まずは、おめでとう」
勇者「…」
魔王「お前が新しい魔王だ」
勇者「…どーも」
魔王「あら、すんなり受け入れるんだ」
勇者「なんだかもうどうでもいい」
魔王「ははは」
魔王「正直こんなに早く強くなるなんて思わなかったな」
勇者「そうなのか?」
魔王「うむ、たった数日だ、たったそれだけでここまでとはな」
勇者「私はお前に育てられただけなんだがな…」
魔王「似た者同士だからよく理解できたのかもな」
勇者「で、私はどうすればいい…お前を倒せばそれで終わりか?」
魔王「やはり決戦の地は魔城に限るな…私は先に行く、お前は歩いてこい」
勇者「…?」
魔王「察しろよもうすぐ死ぬんだ、少しくらい私にも猶予が欲しい」
魔王「お前にだって残り短い人間の時間だ、楽しみたいだろ?」
勇者「…」
魔王「じゃあな」
しゅっ
・
・
・
~魔城~
魔王「早かったな」
勇者「別に寄り道する所もないし気もしなかったからな」
魔王「…」
勇者「いよいよ怖気ついたか?」
魔王「長く生きると物思いにふける事もあるんだよ」
勇者「…そうか」
魔王「…さて、そろそろ私の時間も終わりの様だ」
勇者「次は私が魔王…か」
魔王「…うむ、ではいくぞ」
勇者「…おつかれさん」
おわり