勇者「今日で丁度十年か……」 2/2

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「それじゃあ失礼しますね」

店主「おう、旦那さんによろしく伝えておいてくれ」

「はい♪」カラン

店主「……おい、行ったぞ」

勇魔「」ドンヨリ

店主「あー……」

勇者「ふ、ふふ……だが今日はまー君にもこの絶望を与えてやれた」

魔王「くそ……酷い。現実とは酷い」

店主「お前らさっきからテンション高いな」

勇者「全くまー君はNTR属性があるんだからー」

魔王「無い! そんなもの、断じて無いぞ!」

店主「テンションたけーなー」

魔王「そうだ、そろそろ他の皆の……」カランカラン

女衛兵「休みとは珍しいな、何かあったのか?」

女剣士「お、勇者いんじゃん。何やってんの?」

女槍兵「あれ……隣に居る人って」

女魔法使い「まー君? うそっ! マジで!?」

勇者「うがあぁ向こうからきやがった」

女衛兵「おお……一段と美青年になって」

女剣士「うわぁっ! すっごい角! まー君ってやっぱ魔族だったんだ!」

女槍兵「で、でも魔族でも……その、まー君は大好きだよ?」

女魔法「というか余裕でいけるよね。まー君、あたしと付き合わないっ?」

魔王「え、ええ、と……み、皆も変わりないようで何よりだよ」

勇者「」シーン

店主「そう腐るな腐るな」

店主「お前らもそういうのはいいが、どんどん勇者の心が離れていくぞ」

女剣士「別に構わないしー」

女槍兵「あ、あたしなんかより素敵な人ができると……」ゴニョゴニョ

女魔法「勇者とかどうでもいいしー☆」

勇者「」シーン

魔王「ゆ、ゆーちゃん……なんて逆風の最中に」

女衛兵「うーん、私はまあ好きだから嫌われるのは嫌だな」

勇者「でもお前彼氏いんじゃん……」

女衛兵「は? 何を言っているんだ。今まで出来た試しがないのだぞ」

勇者「だってよく年下っぽい子と手繋いでるじゃんか!」

女衛兵「年下……ああ、それは弟だ」

勇者「……。え?! チャンスあったって事か!? くそっ!」

魔王「え? 喜ばないのかい?」

店主「そういやお前、隣町の子と上手くいきそうだったんだっけか?」

剣槍魔「」ガタッ

店主「全く、お前らも幼馴染だからって悠長にし過ぎなんだよ」

勇者「何言ってんだおっさん、少なくともそっちの三人はフラグが存在していないぞ」

店主「いやいやぁ、こいつ等以外とそうでもないんだぞ」ニタニタ

女剣士「は、はん、おっさんもとうとうボケ始めたかねぇ」

女槍兵「あ、あたし達は別にそんな事、無いし……」

女魔法「ゆ、勇者とか眼中にないしー」

魔王「なんだ、モテモテじゃないか」

勇者「いやだってこいつ等からチョコ貰った事無いし。くれって言ったら、何でお前にって暴言吐かれて唾吐きかけられたぞ」

魔王「あれー?」

勇者「なんだろう俺、疑心暗鬼に陥りそう」

魔王「ゆーちゃん落ち着いて!」

勇者「女怖い……もう魔族側に渡ってまー君ちで暮らす」ガタガタ

男剣士「よー! こっちに勇者がいるって聞いて駆けつけたぜ!」バーン

女剣士「空気読めないのが来た……」

女魔法「マジ帰れよ」

男剣士「大所帯だな! まあいいや! 勇者! 隣町の例の子、普通に彼氏いたぜ! ラブラブな所見ちまったよ!」

勇者「」

女衛兵「火に油をっ」

店主「大延焼だな、こりゃ」

勇者「もう何も信じられない」ガタガタ

女衛兵「私もか? 私は今まで好意的に接してきたのだがなぁ」

女衛兵「そうかぁ……私では君に応えられなかったぁ」

勇者「女衛兵、毎日俺に味噌汁作ってくれ」キリッ

女衛兵「私も仕事を続けたいからそれはできないが、まずは付き合うところからでよければ」ニコリ

勇者「女衛兵!」ヒシッ

女衛兵「ふふ、嬉しいよ勇者。……っふ」チラッニタッ

剣槍魔「」ガタッ

女剣士「勇者ー、そいつ結構腹黒なんだぞー」ダラダラ

女槍兵「勇者君……可哀想……」ダラダラ

女魔法「あーあー……ババ引いちゃったー」ダラダラ

勇者「……」

勇者(脳内発言力 女衛兵(信頼)>>>女槍兵(普通)>>||>>剣、魔(サディズム))

勇者「女衛兵っ」ヒシ

女衛兵(彼の事が好きなのに、なんであの子ら普段からあんな態度を取るんだろうか)アマノジャク?

魔王(蚊帳の外だけどゆー君に救いがあるようだしいいか)

男剣士(なんかこの面子の前で暴露しちゃいけなかった気がするがまあいいか! 幸せにな、勇者!)シュタッ

女衛兵「ところで勇者。君と結ばれたのは非常に嬉しいが、まー君の状況を教えて欲しいのだが」マオウ?

勇者「おっと、悪かったな。まー君とは十年前に何時も遊んでいた場所でまた会おうって約束してこれこれしかじか」

魔王「かくかくうまうまという訳で、今こうしてここにいるのだよ」

女衛兵「何とも気の毒な話だな」

店主「まー治って欲しいが、こっち側でそう有効手段が見つかるかねー」

勇者「ま、とにかく山に行ってみてだよな」

魔王「だね」

女剣士(あ、あたし達の入るスペースがない!)

女槍兵(ど、どうしよう、会話に入れない……)

女魔法(おのれぇ女衛兵、一人抜け駆けなんて)グヌヌ

勇者「にしても皆が揃った所為で時間が空いたな」

魔王「あっ、剣のお師匠様の所に挨拶に行きたいな」

勇者「残念、あの人は王都の兵士に剣術指南で一年前からいないんだ」

魔王「本当に残念だなぁ……」

勇者「というかさ、俺はこれからどうしたらいい訳?」

魔王「ゆーちゃんはどうしたいんだい?」

勇者「俺はー……どうしたいんかなー」

女陣営(完全に二人の世界だっ)

店主「まーガキん頃の様子を考えりゃあこうなるわな。お前らももう帰れよ」

二時間後

勇者「じゃあ俺はその線で王様に謁見してみるわ」

魔王「こっちもそちらと協力して魔物駆逐に乗り出せる準備をしておこう」

店主「お前ら随分本格的な話をしているな」

勇者「そりゃあな。相手がまー君なら戦うとかねーし。かと言って、それじゃあ俺が無職になっちまうし」

魔王「こちらとしても、人間と手を組んで魔物の駆逐が行えるなら越した事はないからね」

店主「つーかあいつらってどうやって増えてんだ? 俺らは魔王の魔力でぽこぽこ増えているもんだと思っていたが」

魔王「正確には地中にある瘴気溜りが原因ですね。それが地上に漏れ出した際、周囲の動植物が魔物化するのです」

勇者「え、なに? じゃあどうあっても魔物そのものが消滅する事はないのか?」

魔王「瘴気そのものを消し去る手段を見つけないことにはね」

勇者「あー懐かしいなぁ」

魔王「昔はよくこうして二人で布団並べたねー」ハハ

勇者「で一階から俺の親父とまー君の親父さんが酒盛りする声が聞こえるんだよなー」

魔王「そういえばゆーちゃんのご家族は?」

勇者「師匠と一緒に王都行っちまった。あの熊みたいな親父が王様の親衛隊だってよ。笑っちまうぜ」

勇者「母さんはその付き添い。全くよー勇者の使命を全部俺に放り投げたんだぜー信じられねーよ」

魔王「はは、らしいと言えばらしいじゃないか」

魔王「まあ……うちも似たようなものか」ハハ

勇者「そうなのか?」

魔王「母上はずっと父上の看病をしているからな」

翌日

勇者「……」ザックザック

魔王「……ふう……ふう」ザックザック

魔王「ちょっと、休憩にしないかい?」ザックザック

勇者「何言っているんだ? 温泉で一泊でもしていきたいのか?」

勇者「親父さんが苦しんでいるんだろ? とっとと行くぞ」

勇者「というかまー君、体力……」

魔王「わ、私は魔法型なんだ! 君みたいな肉体派じゃないんだぞ!」

カポーン

勇者「ふう……」

魔王「身に沁みる……」

勇者「良い所だろう」

魔王「初めて来るなぁ。私がいた頃にもあったのだろうか?」

勇者「あの時は廃れていたからなぁ。7,8年前くらいに温泉が話題になってさ」

勇者「観光資源としてここを整備したんだってさ」

魔王「なら道も整備してほしいのだけどなぁ……」

勇者「あれくらい、女魔法使いですら登ってこれるぞ」

魔王「え……」

勇者「いやー良い湯だったなぁ」ザックザック

魔王「そうだね。それに疲れもバッチリ取れたよ」ザックザック

勇者「……」ザックザック

魔王「……」ザックザック

勇者「……」ピタ

魔王「……」ピタ

勇者「お、温泉!」ダダ

魔王「汲み忘れた!」ダダ

……数ヵ月後

店主「~♪ ~♪」フキフキ

勇者「おっちゃんただいま!」バン

店主「お、帰ってきたなゆー坊。国王との謁見はどうだった?」

勇者「ちょうどまー君とこの使者も来ててすんなりいった!」

店主「おお、そりゃ良かったな」

勇者「手紙! 手紙! 手紙! 俺の所に来た手紙預かってるって聞いた! まー君のだろー!!」バンバンバン

店主「カウンターを叩くんじゃねえようるせぇなぁ。手紙なんぞ逃げてきゃしねーよ」ゴソゴソ

店主「ほらよ、俺も中見てないから見せろよ」スッ

勇者「お、おお! 親父さん治ったってよ!!」

店主「おお?! お、マジだな! 良かったじゃねーか」

勇者「いやー流石万能水だぜ」

店主「瘴気ノロを撃退か。あっちの国にでも輸出したら売れたりしてなー」

勇者「というかあの話じゃ向こうは海産物食わないっしょ。お、追記?」

P.S. レア風味ハンバーグなるものを食した後、食中毒と思しき症状が発症。

未だ治らず、感染力も非常に低いが父上の腹痛と血便が止まらない。助けて。

店勇「だから加熱しろーー!!」

勇者「今日で丁度十年か……」 完

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