勇者「冒険の書が完結しない」 2/7

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勇者「冒険の書が完結しない」をリメイクしました!
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【魔王城城門】

戦士「おーっし城だ! 入城だ!」

僧侶「禍々しい魔力が溢れています……皆さん気を付けてくださいね」

勇者「……」

賢者「どうですか勇者さん」

勇者「とりあえず間違いなく、この門には既視感がある」

賢者「では例の可能性は」

勇者「まだ分からないさ。よし、乗り込むぞ」

戦士「門は任せろ! オラオラ開けこの!」

魔物『ガーッ!!』

戦士「どうわっ! いきなり魔物の群れぐはっ」

勇者「右のヤツを殴れ! 僧侶は回復! 賢者は補助を!」

僧侶「ゆ、勇者様の絵とぜんぜん違う! ぜんぜん違います!」

勇者「いや……似てる!」

賢者「僧侶さん回復早く!」

【魔王城内】

――

勇者「……やはり……」

賢者「勇者さんが書いたものとほとんど同じでしたね。地図は」

戦士「マジかよ! やるじゃねーか勇者!」

僧侶「ということはやっぱり、勇者様は本当に一度魔王を倒しているのですね!」

勇者「ああ、そうらしい。……」

賢者「次の小部屋の宝物庫で、探索はいったん終了ですね」

戦士「おー山ほど宝箱あるじゃねーか! どら!」

賢者「あ待ってくださいその宝箱は」

たからばこは ミミックだった!

ミミックは ザキをとなえた!

せんしは しんでしまった! ▼

勇者「あーもう余計なことだけ再現しやがって!」

僧侶「い、今生き返らせます!」

勇者「いい! 先に片付けるぞ!」

――

勇者「……この扉の向こうが、魔王の間だ」

戦士「まおうのま……ふっ!」

僧侶「す、凄まじく強大な魔力を感じます……」

賢者「でも勇者さん、今回は」

勇者「分かってる。魔王め、そこで大人しくしてろよ」

ゆうしゃは リレミトをとなえた! ▼

戦士「で。どうすんだ」

勇者「とりあえず宿屋に泊まろう。魔王は明日倒す」

僧侶「明日……」

賢者「ところで勇者さん、確かめたいこととは結局なんだったのでしょうか」

勇者「ああ、忘れていたわけじゃないけど、先にそっちの用を済ませておくか」

戦士「用って?」

勇者「『冒険の書』だ。王のところへ行くぞ」

【王の間】

――

王「――そなたらの たびのせいかを この ぼうけんのしょに きろくしても よいかな?」

勇者「はい」

王「……」

王「しかと きろくしたぞよ」

王「どうじゃ? また すぐに たびだつ つもりか?」

勇者「はい」

王「では ゆくがよい! ゆうしゃよ!」

戦士「前から思ってたけど、わざわざ王様の前でコレ記録するのになんの意味があんのかねえ!」

勇者「えっ?」

戦士「だってそうだろ? そんなもん俺らで勝手に書けばいーじゃん!」

僧侶「儀礼的な様式美ですよっ。今までだって欠かさずやってきたことでしょう?」

賢者「まぁ無骨で大ざっぱな戦士さんには縁遠い話ですが」 戦士「なにおう!」

勇者「…………」

【宿屋】

勇者「――明日は魔王との決戦だ。このあとはしっかり休んでくれ」

戦士「分かったおやすみ!」

勇者「あっ、待……たなくていいや戦士だけは。おやすみ」

賢者「妥当な判断です。では本題に入りますが」

賢者「結局今日の一連の行動はなんだったのですか? 私には分かりかねましたが」

勇者「それは……これまた突飛な話になるけど。冒険の書だ」

僧侶「冒険の書? どういうことでしょうか?」

勇者「仕掛けはよく分からないが、おそらくこの冒険の書は」

勇者「オレが体験した時間の巻き戻しに関係している」

賢者「どうしてそう思うのですか?」

勇者「明確な根拠は二つ。前の記憶では、魔王を倒したあと冒険の書が一度も更新されなかったこと。と、」

勇者「自分が巻き戻しによって送られた時間が、最後に冒険の書を記録した瞬間だったことだ」

僧侶「そ、そうなんですか?」

勇者「ああ。偶然にしてはできすぎだと思ってな」

賢者「冒険の書とはそれほど大層な代物なんでしょうか? 単なる日記帳みたいな認識でしたが」

勇者「オレも最初は同じだったさ。だけど気になりだしたら止まらなくなってな」

僧侶「か、仮に時間の巻き戻しに関わりがあるとしたら……その冒険の書の正体は……」

勇者「それまでの時間を刻み、その時点を巻き戻しの着地点にするという、とんでもない代物だ」

勇者「名づけるなら、賢者なら何て呼ぶ?」

賢者「……時の……保存書。でしょうか」

僧侶「時の保存書? 今まで当たり前のように使ってきたそれが、ですか?」

勇者「ああ。時間を保存するアイテム。そう考えると一番しっくりくるんだ」

賢者「……その仮説が正しいとして、最後に時間を保存したのはつい先刻になりますね」

勇者「そう。魔王城攻略後、魔王討伐前。ここだ。真の決戦前夜だ」

賢者「ようやく私にも、勇者さんが確かめたいことの意味が分かりました。もし本当に冒険の書がカギならば」

賢者「これからさき再び巻き戻しが発生した場合、その巻き戻される時点は」

賢者「最初に勇者さんが記憶の食い違いを自覚したという時点よりも、後とということになるというわけですね」

僧侶「ええっと……は、はい、なんとか分かりました?」

勇者「僧侶でこうなら戦士は頭爆発してるな」

僧侶「で、でも勇者様」

勇者「ん?」

僧侶「『時の保存書』が本物なら……魔王を倒した後にでも、記録を残せばいいだけじゃないですか?」

賢者「もっともな意見ですね。その時点その時点をこまめに刻めば、巻き戻されるリスクも少なくなります」

勇者「……それは……」

僧侶「な、何か不都合があるのでしょうか?」

勇者「……よく憶えていないけど、それは無理だった気がする」

賢者「何がですか?」

勇者「魔王を倒した後は、記録の保存は無理だ。なぜなら……」

勇者「なぜなら……。……すまない、思い出せない。前の記憶では、何かが起こったんだ」

僧侶「な、何かとは何でしょう?」

勇者「それが思い出せない。何か……オレにとって、とても恐ろしいものだったような気がする……」

賢者「どうも不確定要素が多いですね」

賢者「この際だからはっきり言いますと、私はまだ勇者さんの話を信じ切れていません」

僧侶「ちょ、ちょっと賢者さん?」

賢者「興味深いと思って付き合ってきましたが、いくらなんでも荒唐無稽に過ぎます」

賢者「全てが真実だとして、魔王討伐後に記録すればいいだけの部分でどうしてお茶を濁すのですか」

賢者「そもそも魔王城の構造や出没モンスターの件は、あらかじめ知る方法がないとは言いきれませんし」

僧侶「賢者さん!」

勇者「いや当然だ。オレ以外にとってははじめから理解のしようがない話だからな」

勇者「むしろ鵜呑みにされるのも不安だったところだ。賢者みたいな批判的思考は逆に欠けてはならないと思う」

僧侶「えっええっ」

勇者「ただ賢者、これだけは信じてくれ」

勇者「オレの行動理念は、世界中の人々はもちろん、この場の仲間全員にも」

勇者「満足に平和な日々を送らせること。にある。それ以外の無意味な行動は一切していないつもりだ」

賢者「……その割には、モンスター闘技場では馬鹿みたいに手に汗にぎっていましたけどね」

僧侶「ぱ、ぱふぱふのお姉さんに一人でついていったりもしました!」

勇者「い、いやその話はもう! だからあれは!」

賢者「……」

勇者「こら賢者いま笑ったな!」

賢者「とにかく時の保存書が機能するのは、魔王討伐前のみという前提で考えるべきですか」

勇者「あ、ああ。そういうことだな。いいのか? 信用して」

賢者「実は少しゆさぶってみただけなんです。申し訳ありません」

賢者「もとより勇者さんがどう答えようとも、私は平和な世が訪れるその日まで貴方に従う所存です」

勇者「賢者。ありがとう」

僧侶「わ、私もですよっ!」

勇者「ああ、僧侶もありがとう」

僧侶「は、はいっ。あ、い、いえっ」

賢者「では話を戻しますが、明日はどうするつもりなのですか」

勇者「まずは魔王を倒してからいろいろ試す」

賢者「わかりました」

僧侶「あ、あの勇者様、私たちは魔王と戦うのは初めてなんですけど、その」

勇者「大丈夫。一度は勝った全く同じ相手と、もう一戦交えるだけだ」

勇者「明日の魔王戦はいつもと同じように命令させてくれればいい。今のオレ達なら勝てるからな。大丈夫だ」

僧侶「は、はいっ!」

――

勇者「おはようみんな、準備はいいか」

僧侶「大丈夫です!」

賢者「いつでも」

戦士「待てちょっと筋肉痛が」

勇者「よしいざ出陣だ」

ゆうしゃは ルーラをとなえた! ▼

【魔王城】

勇者「今回は魔王を倒すつもりで乗り込むけど、みんな無理だけはしないでくれ」

賢者「といっても一度ガサをいれたダンジョンなど恐るるに足りませんが」

僧侶「神よ、どうか我らにご加護を……」

戦士「うーん肩だ。あと腰も少し……」

勇者「よし、みんな行くぞ!」

勇者(しかし本命が魔王討伐後に控えてるとなると、どうもこれ前座気分が拭えないな)

【魔王の間・扉】

賢者「さしたる消耗もなしにここまで来れましたね」

僧侶「勇者様のおかげですねっ」

勇者「みんなのお陰だよ。それじゃ開けるぞ」

賢者「どうぞ」 僧侶「えっちょっ、ちょっと」 戦士「おいちょっと待て!」

勇者「なんだ? ああそうか、みんなはこの先は初めてだったな」

僧侶「そ、そうですね。心の準備がまだ……」

戦士「さすがに最終決戦だからな! 気合入れなおすぜ!」

賢者「しかし勇者さんは一度倒してるのですよね? 気楽に構えていいと思いますが」

勇者「さすが賢者は違うな」

僧侶「わ、私はもう大丈夫です!」

戦士「俺もなぜか筋肉痛完治したぜ!」

勇者「よしそれじゃ開けるぞ。念のため言っておくが一度開けたらもう引き返せないからな」

戦士「おいなんだそりゃ聞いてね」

勇者「もう開けた」

【魔王の間】

魔王『ゆうしゃよ。よくぞここまできた……』

勇者「魔王!」

僧侶「ま、魔王……なんて膨大な魔力……」

戦士「こいつが魔王か! なんか勇者の書いた絵にニュアンスが似てるな!」

賢者「印象付けされているとどうも緊張感に欠けますね」

魔王『おまえのながいたびも ここでおわりだ。わがまりょくによって ほろびるがよい!』

勇者「やはり一字一句変わらないのか」

僧侶「き、きます!」

戦士「魔王おおうううおおおお!!」

戦士のこうげき! まおうに××のダメージを あたえた! ▼

勇者「また勝手に始めやがった! 僧侶はフバーハ、賢者はバイキルトを!」

僧侶「は、はいっ」

賢者「次の形態が控えてます。体力魔力ともに温存しながら戦いましょう」

勇者「いくぞ! お前をいま一度打ち倒し、今度こそ平和な日々を手に入れてやる!」

――

勇者「これがとどめだ!」

ゆうしゃの こうげき!

まおうに ××のダメージを あたえた!

まおうを たおした!! ▼

真魔王『ぐおおおっ。おのれにんげんどもめ』

真魔王『だが このからだくちようとも わがたましいはえいえんにふめつ。ぐふっ』

勇者「……」

僧侶「……終わったのですね。私たち、本当にやりとげたんですね!」

戦士「っしゃあああ! これで世界が救われたぜ!!」

賢者「さすがに呆気なかったとは言いませんが、絶妙な物足りなさでしたね」

僧侶「勇者様がひとつも無駄な指示を出さなかったおかげです!」

戦士「っしゃあああ勇者最高! ってどうした勇者! もっと喜べよ!!」

勇者「あ、ああ、すまない。でもオレからしてみればここからが正念場だからな」

賢者「時間との戦いというわけですか」

勇者「ああ。そこが決着しない限り、今のこの瞬間もすべて無駄になってしまうからな」

ゆうしゃは ルーラをとなえた! ▼

僧侶「? こ、ここは隣国の城?」

戦士「おい勇者どこ行くんだよ! 俺たちの城はここじゃないだろ!」

勇者「分かってる。だがいま優先すべきは、冒険の書――いや、時の保存書だ」

勇者「前回は確か、まっすぐ自分たちの王のもとへ向かった。もちろん魔王を倒したことの報告も兼ねてだが」

勇者「あの時のオレは、王と話して新たな記録を刻もうとしていたはずだ。だがそれが叶っていない」

勇者「最後に途切れた記憶もあわせて考えると、いまオレたちの王に会いに行くのはまずい気がする」

賢者「それで別の王のもとで冒険の書を更新するというわけですね」

勇者「ああ」

戦士「ちぇーなんでえ! カッコよくガイセンする気満々だったのに!」

僧侶「そうですよっ、魔王を倒したんですよ? もう何も憂いはないはずじゃないですか」

勇者「すまないな。まだ戦いは終わってないんだ。それどころかもしかすると」

勇者「魔王とは比べ物にならないほどの強大な敵を相手にしているのかもしれない」

勇者「だが安心してくれ。必ず勝つ。そしてみんなで平和な日々を過ごそう」

【隣国の王の間】

隣国の王「そなたこそ まことのゆうしゃよ!」

勇者「ありがとうございます。あのところで、冒険の書の記録をしたいのですが」

隣国の王「冒険の書……? はて、それは?」

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