勇者「冒険の書が完結しない」をリメイクしました!
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勇者「これです。あなたにも記録して頂いたおぼえがあるのですが」
隣国の王「なんの話であろうか? ワシは知らんぞ?」
勇者「えっ? ですからこれです! お忘れになったのですか?」
隣国の王「ふむ、見せてみよ。……ううむ、やはり見覚えがないな」
勇者「そんなはずは」
隣国の王「この……冒険の足跡が刻まれた日記帳が、どうしたというのだ?」
勇者「日記帳? 日記帳ですって? まさか――」
勇者(まさか冒険の書本来の効力が失われて、本当にただの日記帳になってしまったのか!?)
僧侶「勇者様、おかえりなさい! どうでしたか? 用事は済みましたかっ?」
勇者「……まだだ。ルーラをとなえる。こうなったらアテは全部回るからな」
――
賢者「結局どこもダメでしたか」
勇者「……念のため、形だけでも記録の手順を演じてもらったが、間違いなく効果はないだろう」
勇者「分かるんだ。いつもの手ごたえというか感触というか、そういうのでな」
賢者「他に記録してもらえる場所は残っていませんが、これは八方塞がりですか?」
勇者「どうもそうらしい。……だが、一応他の方法も考えてみて」
戦士「おい、いい加減にしろ!」
勇者「!」
戦士「なんだって魔王を倒したってのにあちこち道草しなきゃなんねーんだよ!」
戦士「打ち倒す魔物はもういないんだろ! いま、平和ってやつなんだろ!」
戦士「こんなおあずけ状態、ガマンできねーぜ! とっとと帰って、王様からたんまりご褒美もらっちゃおうぜ!」
僧侶「……わ、私も戦士さんに賛成です。勇者様、顔に疲れが出てます……早く帰りましょう?」
賢者「みなさん、勇者さんはただ」
勇者「いや、いい。冒険の書が機能しないんじゃ、もうほとんどお手上げ状態だしな」
勇者「帰ろう。……言うとおり、もう疲れたしな……」
ゆうしゃは ルーラを となえた! ▼
【城下町】
戦士「よっしゃー帰ってきたぜ俺らの本拠地! テンション上がってきた!」
僧侶「早く王様に挨拶を済ませて、ゆっくり休みましょうね、勇者様」
勇者「ああ……。……」
町人A「あっ勇者様だ! 勇者様がやっと帰ってきたぞ!」
町人B「あまりに帰りが遅いから、王様は本人なしで勇者様を称えるところだったんですよ!」
町人C「無事に帰ってきてよかった! 勇者様ばんざい! 魔王を打ち倒した勇者様ばんざい!」
戦士「ほらみろ。主役がいないのに勝手に式を挙げられるところだったんだぜ!」
勇者「式を……勝手に……?」
賢者「また何か気がかりが?」
勇者「……ここに来なかったら、勝手に式を挙げられていた?」
僧侶「そ、そうですよ! そんなこと、納得いきませんよねっ」
戦士「ほらーとっとと城に行くぜー!」
勇者(……もしオレの予想が正しければ……魔王を倒した時点でもう……)
【城】
兵士「あなたこそ まことの ゆうしゃ!」
兵士「さあ おうさまが おまちかねですぞ!」
戦士「へへ、城の中も歓迎ムードだな!」
僧侶「平和になった実感がわいてきますね!」
勇者「……」
僧侶「勇者様……?」
勇者「あ。ああ、確かに平和だな。確かに、今この瞬間は平和だ……」
賢者「足取りが重いようですね」
勇者「そんなことは」
賢者「勇者さんの話では、このあと何か恐ろしいことが起こるとのことですが」
勇者「憶えていたか。ま、たぶん大丈夫さ! 今は……この一時をみんなで味わおう」
賢者「……はい。勇者さんがそう言うなら」
僧侶「……勇者様……」
兵士「さあ おうさまが おまちかねですぞ!」
【王の間】
王「ゆうしゃよ よくぞ だいまおうを たおした!」
王「こころから れいを いうぞ! そなたこそ まことの ゆうしゃ!」
王「そなたのことは えいえんに かたりつがれてゆくであろう!」
戦士「よっしゃー凱旋だー!」
賢者「……別に何かが起きる様子も……」
僧侶「あ、あの勇者様、勇者様はこれから、その」
勇者「待て」
勇者「みんな」
そして でんせつが はじまった!
・
・
・
THE END
王「よくぞ もどった!」
王「ではゆくがよい! ゆうしゃよ!」
勇者「……」
勇者「えっ?」
戦士「前から思ってたけど、わざわざ王様の前でコレ記録するのになんの意味があんのかねえ!」
戦士「だってそうだろ? そんなもん俺らで勝手に書けばいーじゃん!」
僧侶「儀礼的な様式美ですよっ。今までだって欠かさずやってきたことでしょう?」
賢者「まぁ無骨で大ざっぱな戦士さんには縁遠い話ですが」
戦士「なにおう!」
勇者「…………」
勇者「王様」
勇者「少しお話があるのですが」
――
【宿屋】
勇者(王は冒険の書の『記録方法だけ』をなぜか知っている。結局得られた情報はそれだけだった)
勇者(由来も仕組みも作用も知らないとなると……王様すらこの見えざる力の駒に過ぎないのだろうか……)
賢者「勇者さん、一体どうしたのですか?」
戦士「なんだって王様にあんな妙なことばっかり聞いたんだよ?」
僧侶「勇者様、疲れてるみたいです……」
勇者「ああ、すまない」
勇者「今から全部話す……」
――
賢者「冒険の書の正体が『時の保存書』……? 本当に私が名づけたのですか?」
僧侶「に、二回も魔王を倒しているなんて。間違いないのですか?」
勇者「オレ視点では証明された。もうみんな魔王城というダンジョンは攻略済みなんだろ?」
勇者「一番最初に巻き戻しが起こった時点から、時間が進んでいる。冒険の書の効力は決定的だ」
戦士「Zzz」
勇者「前回の魔王討伐で、いくつかの重大なヒントを得た」
勇者「まず魔王を倒してしまった後は、冒険の書はその時点以降は効力を失う。王様たちまで影響してな」
勇者「そして魔王討伐後にオレたちの王に謁見すると……時間が巻き戻されてしまう」
勇者「……は正しくないな。正確には、『始まってしまう』だ」
僧侶「な、何が始まってしまうのですか?」
勇者「分からない。分からないけど、『それ』が始まってしまうと、オレたちにはもうどうしようもない」
勇者「どうしようもないから、時間が巻き戻るしかない……という理屈が出来上がってる気がする」
賢者「言ってる意味がよく分かりませんが」
勇者「要するに『王への魔王討伐報告』が巻き戻しの引き金、って認識でいいと思う」
賢者「……でしたら魔王を倒した後、我々の王に会わなければいいだけの話ではないですか?」
僧侶「えっ!」 戦士「なんで!」
勇者「さすがに真っ先にそれは考えたけど……どうも上手くいかない気がする」
賢者「なぜですか?」
勇者「勘だ。はっきりした根拠はない。――だから今回は、実際にその線を検証してみるとする」
戦士「Zzz」
僧侶「ちょ、ちょっと待ってください」
勇者「ん?」
僧侶「なにもかも話が急すぎて……私と賢者さんと戦士さんは、まだ魔王に会ったことすらないんですよ?」
勇者「ああ、まだ絵に描いてなかったっけ? ちょっと待ってくれ」
賢者「いえ勇者さんの絵はもういいです。それより、私にも僧侶さんが言いたいことは分かります」
賢者「突拍子がなさすぎるのです。私たちはまだ、勇者さんの過ごしたという未来の時間を、一片も経験していません」
僧侶「そ、そうです。魔王を倒したあとの世界なんて、簡単には想像できないんですよう」
勇者「……そうか。そうだな」
僧侶「あっでもっ、決して勇者様を信じてないわけではっ!」
勇者「いや、オレの配慮不足だった。『ここまで』の流れで全部鵜呑みにしろってのも無理があるよな」
勇者「そもそも魔王城の構造や出没モンスターの件は、あらかじめ知る方法がないとは言いきれない。だろ、賢者」
賢者「えっ。まあ。はい」
勇者「だから今度は、より信用に足る情報を伝えようと思う。まぁ結局未来予知の形になるけどな」
僧侶「そ、それはっ!?」
勇者「な、なんでそこで乗り出すんだよ。ただの魔王のデータだよ」
勇者「これが魔王の体力だ。大体このくらいだ」
僧侶「戦士さんの通常攻撃で45~50回分……?」
勇者「そしてこれが魔王の攻撃力・防御力・素早さ」
賢者「この数値は?」
勇者「オレを基準の100として表してみた。魔王は大体そのくらいだ」
勇者「これが二回の魔王戦で、魔王が取った各行動の大体の回数」
僧侶「す、すごいっ」
勇者「見て分かる通り、形態が変わってからはブレス攻撃の頻度が高くなってるな」
勇者「だがその分、いてつく波動の割合が少なくなってる。真魔王戦は積極的に補助呪文を使うべきだ」
僧侶「さ、さすが勇者様ですっ! もう魔王は倒したも同然ですね!」
勇者「二回も倒したから分かるんだけどな」
賢者「……とても信じられませんが、全てがもしこの通りであれば、勇者さんの話を信じてもよさそうです」
勇者「明日証明されるさ」
勇者(それにしても毎回これ解説するの面倒だな。何か考えとくか)
戦士「Zzz」
――
勇者「おはようみんな、準備はいいか」
僧侶「ばっちりです!」
賢者「いいですとも」
戦士「待てちょっと風邪気味だ」
勇者「よしいざ出陣だ」
ゆうしゃは ルーラをとなえた! ▼
【魔王城城門】
勇者「よしちゃっちゃか行くぞ、すぐやるぞ」
賢者「昨晩のデータが真実であれば、魔王など恐るるに足りませんが」
僧侶「神よ、どうか我らにご加護を……」
戦士「うーん喉も腫れてる。あと鼻水も少し……」
勇者「よし、みんな行くぞ!」
勇者(しかし魔王を倒すという本来の目的が、すっかり冒険の書検証の手段になってしまったな)
――
勇者「これがとどめだ!」
ゆうしゃの こうげき!
まおうに ××のダメージを あたえた!
まおうを たおした!! ▼
真魔王『ぐおおおっ。おのれにんげんどもめ。だが このからだくちようとも』
勇者「わがたましいはえいえんにふめつ」
真魔王・勇者『ぐふっ」
僧侶「……終わったのですね。私たち、本当にやりとげたんですね!」
戦士「っしゃあああ! これで世界が救われたぜ!!」
賢者「さすがに呆気なかったですね」
僧侶「勇者様がひとつも無駄な指示を出さなかったおかげです!」
戦士「っしゃあああ勇者最高! ってどうした勇者! もっと喜べよ!!」
勇者「さすがに三度目ともなると達成感がないや」
賢者「ではこのあとは?」
勇者「ああ。みんなで逃避行といこうか」
――
【孤島の小屋】
戦士「だーかーらー! なんで城に戻んねんだよお!」
勇者「昨晩そういう話だったんだよ。爆睡していたお前が悪い」
戦士「だって俺ら、魔王倒した英雄なんだぜ? なんだってこんなコソコソ隠れる必要があんだよー!」
賢者「城に戻れば、『何か』が起こって時間が巻き戻ってしまう……信じられない話ですが」
賢者「勇者さんの魔王攻略データは驚くべき精度でした。もはや疑おうにも反論が用意できません」
僧侶「わ、私たちはしばらくここで暮らしていくのでしょうか? 誰にも見つからないようにしながら……」
勇者「そうなる。あるいはそれが正解なのかもしれない」
戦士「なんで!?」
勇者「だが、おそらく上手くいかない。きっと半日も経たず分かるさ。あいや、みんなは分からないか……」
賢者「勇者さんの勘だと、また巻き戻しが起こるのですね」
勇者「ああ。でもま、もし起こればまたヒントが増える、起こらなければ御の字。楽観的に考えてるさ」
戦士「俺だけでも解放してくれよおっ!」
勇者「ダメ。一人も城に戻らせない。今回はそういう実験だからな」
者「ところで時間のあるうちに、みんなにやって欲しいことがあるんだが」
戦士「ヤダ!」 勇者「めいれいさせろ!」 戦士「ヤダー!」
僧侶「や、やって欲しいことってなんでしょうか?」
勇者「ああ、実は巻き戻しが起こるたびに、逐一みんなの信用を得るのが面倒になってな」
勇者「それに今回は魔王の情報だったけど、それで確実な信用を得るためには実際に魔王と戦わないといけないだろう?」
勇者「おそらくこのループを解決するには、『魔王を倒す前』に何か行動するしかないと思うんだよな」
賢者「何が言いたいのですか?」
勇者「要するにてっとり早く信用を得られるような、みんなの『呪文』を教えて欲しいわけだ」
戦士「俺は死ぬまでMPないぞ!」
勇者「キーワードってことだ。今から、オレがそれを言えばすぐに信用してもらえるような『呪文』を紙に書いてくれ」
勇者「次に巻き戻しが起こったときに、それぞれにその呪文を言う。そうすれば冒険の書攻略がやりやすくなる」
僧侶「え、えっとつまり何を書けばいいのですか?」
勇者「極力自分しか知り得ないようなことだよ。何でもいい、秘密とか、思い出とか」
戦士「なんでお前にそんなこと教えなきゃいけないんだよ!」
勇者「教えてくれたらこの30万ゴールドはお前のものだ」 戦士「よしきた!」
勇者「ちなみに呪文を書いた紙は、当然ながら過去の時間に持ち込めないからな」
勇者「オレがその呪文を覚えるしかない。つーわけで書いたらオレのところまで持ってきてくれ」
僧侶「ええっ。い、いまここで確認するのですかっ?」
勇者「じゃないと間違えていたとき後々面倒になるしな」
僧侶「え、ええっと。ええっと……」
戦士「うがー思いつかねえ!」
賢者「できました」
僧侶「ええっ」
勇者「さすが賢者早い、どれどれ。……? これが呪文か?」
賢者「まぁ呪文です。多分過去の私は分かります」
勇者「はぁ。お前にとっては何か意味深いものなんだろうな」
賢者「ちゃんと今の私からのメッセージであることを伝えてくださいね」
勇者「分かった」
賢者「また、その呪文はできるだけ練習はしないでくださいね」
勇者「? 分かった。……うーんやっぱり分からん。賢者の考えることは」
僧侶「……ゆ、勇者様、できました!」
勇者「おし見せてみろ」
僧侶「は、はいっ」