勇者「冒険の書が完結しない」 4/7

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勇者「冒険の書が完結しない」をリメイクしました!
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勇者「よし覚えた。ちなみにこれ、何が?」

僧侶「あ、や、やっぱり分かりませんよね?」

勇者「まぁオレが知らない方が都合がいいけどな」

僧侶「そ、それでいいんです!」

勇者「で、戦士。あとはお前だけだが」 僧侶「えっ終わり……」

戦士「んーこれしか思いつかなかった!」

勇者「あまり凝ったのは期待してないが見せてみろ」

勇者「……。お前これは誰の言葉だ?」

戦士「親父の遺言だ! 俺と親父しか知らんはずだ!」

勇者「そうか……それならそうと事前に言ってくれりゃよかったのに」

戦士「膳立てはいらねえ! 自分の実力じゃねーとな!」

勇者「そうか。お前はバカだけど、いいバカだな」 戦士「あんっ!?」

勇者「約束の30万ゴールドだ。これ全部お前のな」

戦士「ほほーい! こんだけありゃ当分暮らしには困らねぇ!」

賢者「それで勇者様、今後どうするのですか」

勇者「考える。もしまた巻き戻しが起こってしまった場合を想定して」

賢者「もし起こらなければ?」

勇者「……そのときも考えなくちゃならない」

勇者「さすがに一生ここに住む訳にもいかないし、かといって城に戻るのもはばかられるし」

賢者「私は別にここに骨をうずめても構いませんが。賢者の隠遁生活など珍しくないですから」

僧侶「わ、私も……皆さんが残るなら、私も残ります!」

勇者「ありがとう。まあでも、とりあえず一日ぐらい様子をみてからの話だな」

勇者(何事も起こらなければ、それで冒険の書は暫定的ながら攻略成功だ)

勇者(正解は魔王討伐後の王への謁見を回避することだった、ということになる)

勇者(……けれど、どうもそんなことで決着がつくとは思えないんだよな)

戦士「あ!? ここから出してもらえないんじゃーこんな大金意味ねーじゃん!」

戦士「意味ねーじゃんっ!!」 勇者「うるさい静かにしろ」

賢者「勇者さん、一つ提案があります」

勇者「なんだ?」

賢者「その前に確かめておきたいのですが、今回巻き戻しが起こらなかったとして」

賢者「勇者さんはこれからここで暮らしていくことに抵抗はないのですか?」

僧侶「!」

戦士「そうだよ! なんで救世主ご一行がこんなヘンピなトコでひっそり暮らさないといけないんだよ!」

賢者「どうなのですか勇者さん」

勇者「そうだなぁ。オレはこれから先、平和な時間が過ごせればそれで満足だよ」

勇者「そりゃーオレだって帰るべき場所はあるよ? でも、時間を巻き戻される方が嫌なんだよな」

勇者「おかげで魔王との戦いはずいぶん楽になったけど、全部パァになるってのに慣れた訳じゃない」

勇者「なにより『今この場で』語りあっているみんなと別れるのが辛いよ。だから現状が保てるなら、それでいいんだ」

僧侶「勇者様っ……!」

戦士「勇者……お前……もう一回説明してくれ! いいこと言ったんだろうが、よく分からんかった……!」

賢者「分かりました。提案というのは大したことではありません」

賢者「その冒険の書、いっそのこと焼き払ってはいかがでしょうか?」 勇者「!」

賢者「冒険の書が巻き戻しのカギというなら、今その根源を断ってしまえばいいのでは?」

賢者「勇者さんは今後再び、時間の巻き戻しが起こる可能性を危惧しているようにみえますが」

賢者「その憂いも冒険の書がいつまでも手元にあるせいかもしれません」

勇者「なるほど……」

賢者「もちろん、冒険の書を抹消することも巻き戻しの引き金だった、などの危険はないとは言い切れませんが」

賢者「少なくとも『今』の冒険の書は、各地の王の反応から分かるように効力を失っています」

賢者「よってさしたる影響はないと私は思います。それは無意味の裏返しですが、試してみる価値はあるかと」

勇者「冒険の書の……抹消。その発想には至れなかったな」

勇者「オレは冒険の書を完結させることばかり考えていたが、こいつはもともと完結し得ない物なのかもしれないな……」

僧侶「勇者様!」

勇者「どうした?」

僧侶「そろそろご飯にしませんか? この島、身体にいい薬草がたくさん生えているんですよっ」

戦士「腹減った! 魚獲ってきた! 食う!」

勇者「ああ……頼む!」

ゆうしゃは メラを となえた! ▼

ぼうけんのしょは あとかたもなくもえつきた! ▼

勇者「……何も起こらないな」

賢者「はい。これでループ問題が解決したかどうかは分かりませんが」

僧侶「みなさん出来ましたっ」

勇者「おおっ早いな」

戦士「魚! 焼いた! みんなで食う!」

賢者「先ほど島の周りを軽く調べてみましたが、この気候が続けばしばらくは生活に困らないですね」

僧侶「じゃあこれから皆さんは、そっそのっ……家族ですねっ」

勇者「家族……そういえば賢者も僧侶も孤児だったな」

僧侶「はいっ、だから私、嬉しくてっ」 賢者「家族。遠い言葉です」

戦士「家族!? はっ、俺は今まで一体何を! かあちゃん……」

勇者(……ここで生活していくのに先行きの不安もなさそうだ)

勇者(……本当にこれで終わりなのか……?)

――

【王の間】

王「ふむ……勇者一行はいまだ帰らぬか……」

兵士「予定の式典はいかがしましょう?」

王「いたしかたない、敢行せよ。後日勇者が報告に参じた暁に、改めて式を執り行えばよい」

兵士「はっ! では……」

王「うむ。皆のもの!」

王「この度は勇者の活躍によりついに魔王は打ち倒され、害悪な魔物なき平和な世が訪れた!」

王「もはや魔王の歴史は終わった! 人の子の勝利に祝福せよ! 勇者を称えよ!」

王「そうじゃ、この大役を果たした勇者を称えよ! そしてその記憶を末代まで刻み続けるがよい!」

ワー ワー ワー 勇者バンザーイ ワー ワー ワー

そして でんせつが はじまった!

THE END

王「よくぞ もどった!」

王「ではゆくがよい! ゆうしゃよ!」

勇者「……。……みんな……」

勇者(……直接王様との関わりがなくても、強制的に巻き戻されるのか。結局一日ももたなかった……)

戦士「前から思ってたけど、わざわざ王様の前で冒険の書に記録するのになんの意味があんのかねー」

戦士「だってそうだろ? そんなもん俺らで勝手に書けばいいじゃん」

勇者「それでは意味がないんだ」 戦士「ああ?」

勇者「役目を与えられた者が記録しなければ、冒険の書は機能しない」

僧侶「えっ? 勇者様?」

賢者「……王様が、何者かに役目を与えられているというのですか」

勇者「ああ。そしてオレ達にも役目が与えられている。それを果たしてしまうと、どうあがいても物語は終わってしまう」

戦士「おい勇者! もっと分かりやすく教えてくれ10文字くらいで!」

勇者「まずはやどにむかおう」 戦士「お前そりゃぴったり10文字だけども!」

勇者(燃やしたはずの冒険の書が手元にある。過去の冒険の書なんだから、考えてみれば当然か)

勇者(さて、そろそろ打つ手に窮してきたな……)

――

【宿屋】

勇者「てっとり早く話そう。実はオレはもう、三度も魔王撃破を経験している」

戦士「は?」 僧侶「えっ?」 賢者「なんですって」

勇者「そしてさきほど王様の前で記録した瞬間をスタート地点として」

勇者「魔王撃破後の(おそらく)王の祝典をゴール地点に時間が巻き戻されるという、ループ状態に遭っている」

勇者「元凶はこの冒険の書だ。このループを脱出するには――」

戦士「ちょちょちょちょっと待て! 完全に意味が分からん!」

僧侶「そ、そうですよっ、勇者様が何を言ってるのか私にはさっぱり……」

賢者「言っていることは理解できますが、話の見通しがありません。根拠となる材料を」

勇者「あ、ああそうだった。すまない、いつの間にか焦っていたみたいだ」

勇者「まずはオレの言っていることを信用してくれ。そのための『呪文』は用意してある」

戦士「呪文ん?」

勇者「ああ。未来のみんながオレに教えてくれた合言葉だ」

勇者「一人ひとり違うから……これから一人ずつ別室にきてくれ。プライバシーは守ろう」

【別室】

勇者「まずは賢者、お前からだ」

賢者「未来の私が、勇者さんに妙なことを吹き込むほど切羽詰ってなければいいのですが」

勇者「さすがに状況の飲み込みが早いな。だがお前の『呪文』はとびきり妙だぞ」

賢者「どうぞ」

勇者「よし言うぞ……『赤メダパニ青メダパニュ黄ミェダパニュ』」

勇者「すまん間違えたもう一回。『赤メダパニ青メダアパニ黄メダパン』」

勇者「『赤メダパニ青メダパヌ黄メダパム』。『赤メダパニ青メダパニュキメーダパニ』あーくそ!」

賢者「なるほど」

勇者「な、何笑ってんだ! お前からもらったメモは『できるだけ早く』なんて注釈までついてたんだぞ!」

賢者「失礼しました。勇者さんがすでに魔王を倒したという話、確かに信じましょう」

勇者「ど、どういうことなんだ?」

賢者「勇者さんが早口言葉が大の苦手であることを知っている人間も、そう多くはないということです」

賢者「それに普段は凛々しい勇者さんのおちゃめな一面も独り占めできましたし私は満足です」

勇者「な、なんだって? 早すぎてよく聞き取れなかったもう一回」 賢者「では次は僧侶さんを呼んできますね」

【別室】

僧侶「あ、あのう勇者様。わ、私はどうすれば……」

勇者「『全部で100回』」

僧侶「!!」

勇者「という言葉に心当たりはあるか?」

僧侶「ど、どうしてそれを……正確には96回ですけど……」

勇者「いや。これは未来の僧侶から教えてもらった言葉で、意味までは教えてくれなかったんだが」

僧侶「あ、ああそうなんですねっ。ま、まさか勇者さんも一緒に数えていたのかと思ってびっくりしました!」

勇者「何を?」

僧侶「えっ? ほ、本当に大したことじゃないんですよっ。勇者様のことは信じますので今のは忘れてください」

勇者「気になるからできたら教えて欲しい」

僧侶「ダ、ダメです! そ、その、恥ずかしい……ですから……」

勇者「恥ずかしい96回? ??」

僧侶「ちっ違いますっ! 違いますよっ!! 神に誓ってそういうコトじゃないです!!」

勇者「はあ。もう面倒くさいからいいや」

【別室】

戦士「おい勇者! 早く魔王を倒しに行こうぜ!」

勇者「いいか。お前だけかしこさが2ケタあるのか不安だからよーく聞け」

勇者「オレはお前の親父の遺言を知っている。なぜなら未来のお前に聞いたからだ」

戦士「未来の俺……?」

勇者「『魔王に初めて傷を与える男になれ!』」

戦士「お……おおお!」

戦士「おおおおおおお! なんでお前がそれを知っているんだ!?」

勇者「お前に教えてもらったからだ。いいな、これからオレの言うことは全て信じろ。そして」

勇者「大人しくしていてくれ。事態は深刻だ。くれぐれも邪魔をしないよーに」

戦士「そんなわけに行くか! 魔王を倒さねーとお袋に合わせる顔がねーよ!」

勇者「……お前30万ゴールドもありゃ暮らしに困らないって、お袋のか?」

戦士「な、なんだそりゃ? そりゃそんだけの金がありゃラクできるだろうけどな!」

勇者「そうか。……待ってろ。すぐにその生活、叶えてやるからな」

戦士「あたりめーだ!」

――

勇者「――というわけなんだ」

賢者「時の保存書……」

僧侶「そんな……いくら頑張っても時間が巻き戻されるなんて……」

戦士「やっぱり理解不能だったぜ!」

勇者「巻き戻しの条件は一つ。オレたちが魔王を倒すこと」

勇者「いや、たぶん正確には違うな。俺たちがこの物語の、役目を終えることだ」

僧侶「物語? なんだかロマンチックですね」

賢者「王の時も少し話しましたが、その役目を与えているものというのは何者なのでしょうか?」

勇者「分からない。分からないが――オレたちの概念を遥かに超越した存在だ」

僧侶「……神……でしょうか?」

勇者「さあな。けれど、僧侶が崇拝しているような存在とは別のものだと思う」

勇者「支配者……いや……創造主……?」

勇者「とにかくそれが定めた縛りがある限り、このループから抜け出すことはできない」

戦士「Zzz」

勇者「前回は巻き戻しが起こる直前に、冒険の書をメラで燃やした。だが」

勇者「この通り効果はなかった。だから今回はこの冒険の書を」

勇者「『魔王を倒す前』に燃やそうと思うんだが、どう思う? 賢者」

賢者「そうですね……時の保存書としての効力は残っているとはいえ、やはり同じ結果になると思います」

賢者「いくらこの時点で冒険の書を抹消しても、過去の記録がある以上は巻き戻しの呪縛は解けないでしょう」

勇者「オレもそう思う。だから今回は、そこからさらに一歩進めてみようと思う」

賢者「といいますと?」

勇者「その前にまず、もう一度冒険の書に記録をしよう」

僧侶「またお城に戻るんですか?」

勇者「ああ。今まで単に機会がなかったが、みんなの信用を得た『今』を記録すれば、今後同じことをする手間が省けるからな」

賢者「――しかしながら、勇者さん視点でしか本質を理解できないセリフですね。我々には未知の領域です」

僧侶「そ、そうです。私たちはまだ、魔王に会ったことすらないんですよ?」

勇者「大丈夫、なんとかなる。それにしてもこのギャップにも大分慣れてきたな」

勇者「よし起きろ戦士。もう一度城に行くぞ。ほら!」

戦士「ぶあっくしょおおおい!」 勇者「いいからもう」

【王の間】

王「――そなたらの たびのせいかを この ぼうけんのしょに きろくしても よいかな?」

勇者「はい」

王「……」

王「しかと きろくしたぞよ」

王「どうじゃ? また すぐに たびだつ つもりか?」

勇者「いいえ」

王「では しばし やすむがよい! また あおう! ゆうしゃよ!」

勇者「お休みなさいませ」

勇者「これでよし。宿屋で一晩明かして明日魔王を倒すぞ」

戦士「え? 終わり? 何しにきたの!?」

賢者「やはり当事者でなければ、意味のある行為には見えませんが」

僧侶「勇者様のすることにきっと間違いはありませんよっ」

勇者(だといいんだけどな……)

【宿屋】

ゆうしゃは メラを となえた! ▼

ぼうけんのしょは あとかたもなくもえつきた! ▼

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