勇者へ
だから言いましたね。
なんであなたはそう簡単に人に心を許しちゃうのですか。
そんなのだから皆勘違いしてそうあなたに付きまとうのです。
あなたが惚れたその娘はそこんところの竜族の王の娘なんです。
竜の王から私にどうすればいいのかって陳情書が飛んできました。
私は出来るだけ娘を説得して戻ってくるようにしてくださいって言っておきましたから、勇者もその娘にうまく言って帰らせてください。
勇者「そういうわけだから竜娘ちゃん、家に帰ってくれない」
竜娘「ヤダ」
魔王使い「ちょっと、勇者から離れなさいよ」
僧侶「そ、そうです。いつまでそう抱きついているつもりですか」
竜娘「かーー」
戦士「うわっ、こいつ火吹きやがった!」
勇者へ
あなたという勇者は……
魔王ともあろう私が自らあなたの揉め事を解決してあげなければならないのですか?
そんなんじゃいつまで経っても私の居る所まで辿りつけないじゃないですか。
助けてあげるのは今回だけですから、
ちゃんと私が居る場所まで来てください。
魔王より
竜娘「モウ、カエル」ガタガタブルブル
勇者「そ、そうなんだ…(なんか震えてるけど大丈夫かな)」
勇者「またここに来たら会えるよね」
竜娘「! うん!絶対来てね!♪」
戦士「(絶対こねー)」
僧侶「(帰ってくる時は別の道を)」
魔法使い「(私が勇者を守らないと…)」
勇者「なんとか王さまっていつも手紙送ってるけど、いつになったら会えるのかな」
勇者「この前竜娘ちゃんと居た時にもボクが知らない間に来てたみたいだけど」
勇者「ここの近くに居るのかな」
勇者「手紙だっていつもボクが寝てる間に来るし」
勇者「よし、今度は寝ないで手紙を持ってくる人に聞いてみよう」
夜
魔法使い「……すー」
勇者「(魔法使いちゃんは寝ちゃったし)」
勇者「(後は誰が手紙を持ってくるか待つだけだね)」
勇者「(手紙、王さまが持ってくるわけじゃないだろうし、誰か使いの人が持ってくるのかな)」
勇者「(なんとか王さまに言いたいこととかたくさんあるのに)」
勇者「(いつもありがとうとも言いたいし、いつになったら会えるのかも聞きたいし、いつも厳しく言うけどやっぱりボクのために言ってくれて嬉しいとも伝えたいし)」
勇者「(どこの王さまなのかだけでもわかったら、ボクからも王さまに手紙送られるかな)」
勇者「(ボク漢字とかはちょっと苦手だけど)」
勇者「(手紙送る人、来ないなー)」
勇者「(もうどんどん眠くなって来た)」
勇者「(でも、ここまで待ったのにここで寝ちゃうと……)」
朝
勇者「……う…ん?」
勇者「はっ!寝ちゃった!」
勇者「手紙は…?」
勇者「…あれ?来てない」
魔法使い「ちょっと、あんた、最近夜なにやってるのよ」
勇者「(あれから3日ぐらい待ったけど手紙来なかった。なんでだろう)」
魔法使い「ちょっと、聞いてんの?」
勇者「ふえ?な、何?」
魔法使い「…もうダメね。僧侶、今夜こいつと一緒の布団で寝なさいよ。もう見てられない」
僧侶「はい、喜んで!」ガタッ
戦士「ちょっと、そんなのなら私が…」
僧侶「私が引き受けたのになんで戦士さんが出てくるのですか?」
戦士「ぐぬぬ……!」
勇者「…眠い」フアー
勇者へ
最近私の後を探ろうとしてましたね?
そんなことで寝不足になるなんてあなたはたまに本当に馬鹿なことをします。
そう焦らずとも時が来れば私に逢えますから、
あなたは今やるべきことをしっかりやってください。
そう、今あなたがやるべきことは、まず睡眠補充と、
後は、もう少し真面目に人の話に返事をすることです。
魔王より
勇者「僧侶さん」
僧侶「はい、なんでしょうか、勇者さま」
勇者「……」
僧侶「勇者さま?」
勇者「ううん、やっぱなんでもない」
僧侶「…良くはわかりませんが、困ったことがあったら私に教えてください。いつでも相談に乗りますから」
勇者「ありがとう、僧侶さん、でも、ほんとなんでもない。別に大したことじゃなかった」
勇者「(人に手紙見せると怒られるかな)」
勇者へ
あなたが勇者になって随分長い年月が経ちましたね。
あなたは最初の時とあまり変わらない気がします。
相変わらず優しくて周りの視線に鈍くて、それでも皆に愛される子です。
それに比べて私はこの城に閉じ込められて外に出ることも出来ずに、
ただただ勇者を待っているばかり。
早くこういう手紙ではなく、あなたを直接見れる日が来ればいいのですが…
失礼、少し愚痴ってしまいました。
明日に着く村なのですが……(ry
勇者「……王さま?」
勇者へ
旅をはじめるばかりのあなたが失敗した時、私はそれでもまだ大丈夫だって言いましたね。
でも、今回ばかりは私からもあなたを叱らせて頂きます。
トロールを相手する時には少しでも気が緩んではいけないものです。
少しの放心が命取り。
戦士さんがうまく対応してくれてなければ、あなたの失策のせいでパーティーに死人が出ていたかもしれません。
今回のあなたの情けない行動には本当に失望しました。
そんなんじゃあ、私は……
勇者「……ごめんなさい」
勇者「だって…不安なんだもん」
勇者「最近なんとか王さまの手紙が変に変わって…」
勇者「なんとか王さま、なんだかとっても不安そうで、ボクまで……」
僧侶「最近勇者さまの調子がおかしいです」
戦士「この前トロールと戦ってる時だってな。なんかいつもより動きが鈍かったよ」
魔法使い「あいつが間抜け面するのはいつものことだけど、最近と来たらもう最悪よ。一体何があったの?」
戦士「そういえば、勇者って良く手紙もらうよな」
僧侶「そうですね。どこに行っても、勇者さまに手紙が送られてきますね」
魔法使い「見ようとしても絶対見せてくれないしな」
僧侶「もしかして、その手紙が原因で……?」
戦士「試してみる価値はあるな。これからもこんな調子だと旅にも支障出るし」
僧侶「勇者さま」
勇者「あ、僧侶さん」
僧侶「…」
勇者「ごめんね、皆心配してるよね」
僧侶「…はい」
勇者「ごめん…ボクなんか最近全然ダメダメだね」
僧侶「勇者さま、以前私に相談いいかけていたことがありましたね」
僧侶「最近勇者さまが元気がないのと、それが何か関係してるのでしょうか」
勇者「…うん」
僧侶「どのようなことか、私が聞いても宜しいでしょうか」
勇者「…」
僧侶「ダメ、でしょうか」
勇者「…ううん、ダメじゃないよ」
勇者「コレ以上皆に迷惑かけたくないし」
勇者「王さまだって、ボクがこうしてるの見たらきっとまた怒るだろうし」
僧侶「これが、勇者さまが今までもらってきた手紙たちですか」
戦士「すごい量だな、全部持ってたのか?」
勇者「なんか捨てるのって勿体ないかなぁって思って」
魔法使い「……もしかして、王さまって女の人なの?」
僧侶、戦士「!」ガタッ
勇者「ぼ、ボクも分からないけど…」
魔法使い「まぁ、取り敢えず最初から読んでみましょう」
僧侶「勇者へ
はじめまして、
今回あなたが勇者に選ばれたことを、とても嬉しく思います」
戦士「ちなみにこれいつから来たんだ?」
勇者「えっと、皆と会う一週間前。ほぼ勇者に選ばれた直後だった」
僧侶「これから私の所まで辿り着く道のりは険しいものでしょう。
ですが、私そんな試練を乗り越えて強くなったあなたに会うことをここで待ってばかりでは居られませんでしたので、こうして手紙を送ります」
僧侶「……」
魔法使い「…なんかおかしくない」
僧侶「と、取り敢えず全部読んでみましょう」
僧侶「これからあなたここに着くまで手紙を送りながらあなたの成長を手伝うつもりです。
お手を煩わせるようで申し訳ないですが、これも勇者のためになるものだと思って軽く思わないでほしいと思う所存です。
では、以後また連絡します」
僧侶「魔王(まおう)より 」
三人「え?」
勇者「え?」
勇者「あ、その漢字って『ま』って読むんだ」
勇者「すごい偶然だね」ニパー
勇者「いや、どう見ても偶然じゃないでしょ!」
魔法使い「ちょっとどういうこと?なんで魔王から手紙が来てるの?」
僧侶「勇者さま、この手紙たちを、旅を始めてからずっともらいつづけたのですか?」
勇者「そうだよ」
勇者「ボクが辛い時に励ましてくれたり」
勇者「頑張った時褒めてくれたりしたの」
勇者「毎日この王さまの手紙を読むのが一番楽しみだった♪」
三人「……」
勇者「でも、最近なんかどんどん内容が変になったの」
勇者「王さま、なんか元気なさそうな言い方してて」
勇者「いつもならもっと強そうな書き方するのに」
勇者「最近は全然弱々しくて、何かあるのかなぁと思ったら…」
勇者「なんか元気が出なくて……」
戦士「……まさか知らない所にこんな伏兵があったとはな」
僧侶「完敗です」
魔法使い「私ほどの女が、なんて失態を…」
勇者「ふえ?」