魔王「……」
魔王「…つまらない」
側近「魔王さま、そろそろ政務を…」
魔王「うるさい!私に指図する気?!」メラゾーマ
側近「!魔王さま」
魔王「何よ!自分だけ楽しそうにしてて!」
魔王「…最初の所は面白そうな子でいいかなぁって思ったのに」
魔王「仲間を全部女の染め上げて」
魔王「三人とも落としたのでは足らずに」
魔王「竜族の姫まで弄んで」
魔王「そんなんでいつ私の所まで来るというのよ!」
魔王「もう良い!」
魔王「こんな勇者じゃなくても、他に強い奴らなんていくらでも居るわ」
魔王「もう手紙なんて送らない!」
魔王「あんたなんてここに来ないでいつまでも女たちと遊んでなさいよ!」
魔王「ばーか!」
魔王「ああ、寂しい…」
僧侶「魔王はいつも自分の城にばかり居ます」
僧侶「そこで勇者たちが来るのも待ち続けるのです」
戦士「でも、良く考えてみると、魔王も暇だよな。勇者が来るまでいつまでも待たなきゃいけないって」
僧侶「その間に勇者さまは色んなものを見て色んな所にいって、色んな人に会えます」
勇者「じゃあ、なんとか王さまがボクを嫌いになったのって、ボクが早く来ないからなの?」
魔法使い「ただの駄々こねでしょ。他の女と遊んでないで早く私の所に来なさいよって」
戦士「いや、ていうかなんで魔王が勇者にこんな手紙送るんだよ」
僧侶「それは…あれですね」
戦士「あれって?」
僧侶「仕様です」
戦士「…わけがわからん」
魔王「勇者っていいよね」
魔王「弱いくせに仲間と一緒に冒険とかはじめちゃってさ」
魔王「スライムもろくに倒せなかったくせに」
魔王「旅してる間にどんどん強くなって、魔王の所にまで来る」
魔王「でも、遅いのよ。あんたがここまで来るの」
魔王「あんたがあの数多い冒険の中で色んな思い出を作ってる間」
魔王「私はこの薄汚い城に座って」
魔王「あなたと勝つか負けるか、死ぬか生きるか、のただ一回の戦いをするだけ」
魔王「ぶっちゃけてね、私に凄く損してる気分なのよ」
魔王「あなたはその長い冒険の末に得るものもりもり沢山でしょ?」
魔王「でも私は最後にあなたに殺されるか、それともあなたのその大事な思い出たちをぶち壊すかのどっちしかやることがないのよ」
魔王「そんな私の気持ちなんて知りもしないで」
魔王「あっちこっちで女をキャッキャウフフしながら私に来る日はどんどん遠くなるし」
魔王「待ってあげるにも限度というものがあるでしょ?」
手紙の文の印象とだいぶ違うな。そこがいい
魔王「あなたはとても楽しく冒険してるみたいだけど」
魔王「それを見ているだけの私の気持ちは日々枯れていくのよ」
魔王「おかしいと思う?」
魔王「自分を倒しにくる奴を心から待ち受けてるのって」
魔王「だってそれだけなのよ」
魔王「あんたは他に大切なものなんていっぱいあるでしょうけど」
魔王「私には勇者しか居ないの」
魔王「勇者は役不足だったら途中で諦めたりも出来るし」
魔王「セーブしたままいつまでも冒険の書を終わらせないことも出来る」
魔王「自分好き勝手な終わり方しても誰一人も文句は言わないでしょうね」
魔王「だってそれが人間だもの」
魔王「でも私は」
魔王「そんなあなたに捨てられたまま」
魔王「いつまでもここで独りで居なきゃならないのよ」
魔王「…いっそここに来て私を倒してよ」
魔王「その方がすっきりするから」
魔王「放置プレイとか好きじゃないんだから…」
魔王「……せっかく色々苦労して手紙なんて送ったりもしたのに」
魔王「これでもう何回目勇者にフラれたのかしらね」
魔王「もういっそのこと待つのやめて私が攻めに行ってやろうかな」
魔王「……弱い勇者なんて相手しても何の意味もないし…」
魔王「今回はちょっと期待してたのに」
魔王「…朝か」
魔王「手紙送るの、忘れちゃった」
魔王「…もう良い。もう手紙なんて書かないもん」
魔王「どうせ面倒くさかったし」
魔王「礼儀正しく書こうとすっごく苦労したのに」
魔王「素出した方が良かったかな…」
魔王「あぁ、もうやめやめ」
魔王「あんなヘタレな勇者にもう期待しても無駄よ」
魔王「……あれ?なにこれ」
魔王「…手紙?」
魔王さまへ
はじめまして、勇者です。
魔王「…え?」
魔王「どういうこと?なんで勇者がここに手紙なんて送られたんだよ」
この手紙は魔王使いちゃんと僧侶さんに手伝ってもらって書いて、送ったものです。
魔法使いちゃんの話によると、魔王さまが私に手紙を送る時に使った魔法の術式を見つけて、それを逆方向に動かしたら
この手紙が魔王さまの元までうまく届くだろうって言ってました。
ボクは難しいことは良くわからないから
この手紙を魔王さまがちゃんと読んでくれることを祈るばかりです。
そして、この手紙が届いたのなら、魔王さまに絶対言いたいことがあります。
魔王さま、ここまでボクのことを助けてくれてありがとうございます。
魔王さまの手紙があったから、今のボクがここに居るのだと思っています。
魔王さまの助けがなかったら、弱いボクなんてもうとっくに勇者なんてやめていたかもしれません。
そんなボクを支えてくれたのは、毎日ごとくボクを励まして、叱ってくれた魔王さまの手紙でした。
だから、今度はボクが、魔王さまの力になってあげる番です。
ボクはいつか魔王さまと戦わなきゃいけないのに、魔王さまの力になりたいなんてちょっとおかしいと思います。
でも、それはきっとボクを助けてくれた魔王さまも同じだって思うから、
ボクはこう言うことを迷わないつもりです。
魔王さま、ボクは絶対に魔王さまを倒しに行きます。
だから、魔王さまも、ボクが途中で倒れたりしないように、ちゃんと助けてくださいね。
いつになるかまだ知りませんが、魔王さまを直接会える日が来ると、
その時はもしかすると、戦わずにもっと違う方法で解決できちゃうかもしれません。
正直な話、今まで手紙を送ってくれたのが魔王さまだって知って、ボクはとても嬉しかったです。
魔王さまは、きっとボクが人間のために倒さなければならない悪い魔王とかじゃないって思いました。
だから、魔王さまさえ良かったら魔王さまに会えたら、ボクは魔王さまを仲間に誘おうと思っています。
魔王を倒すための勇者一行ってわけではないけど、
この世界は勇者としてじゃなくても旅する場所は沢山あります。
魔王さまさえ良ければ、魔王さまとも一緒にそんな旅がしてみたいです。
その方が手紙だけでこう話し合ってるよりも、ずっとずっと楽しいだろうと思いますから。
書くことは本当に沢山なのに、もう書く紙がありません。
魔王さまからもらった手紙を全部集めたら、本当にたくさんでした。
僧侶さんはこう言ってました。
きっと魔王さまも、ボクに手紙を送ってる間楽しかったはずだって。
ボクは今この手紙を書いている間、とても嬉しくて言葉では言い切れません。
魔王さまもボクに手紙を書く時、こんな気分だっただろうと思います。
そして、もしそうだったら、
きっと魔王さまも、今ボクが考えていることと同じことを考えているだろうと思います。
早く強くなって、魔王さまに会いに行きます。
それまで、ずっと手紙、お願いします。
勇者より
魔王「…」
魔王「…何」
魔王「私あんな酷いこと言ったのに」
魔王「このなんとも思ってないかのような文体」
魔王「この勇者なんでこんなに馬鹿なの?」
魔王「なんでこんなに優しいの?」
魔王「……」
魔王「手紙、書こうか」
勇者へ
朝起きたらあなたからの手紙があって驚きました。
なんといいますか…
ありがとうございます。
きっと私は、
あなたの楽しい姿や、その笑顔を妬んでいたのだと思います。
こんな私のためにあんな優しい言葉を送ってくれるのは
この世できっと勇者あなた一人しか居ないでしょう。
だからこそ、私はあなたと出会うその日が待ち遠しいのです。
これからもあなたさえ良ければ、今までのように手紙を書いていこうと思います。
でも、その内容は以前のようなアドバイス的な内容ばかりではないと思います。
あなたにいつも言いましたよね。
あなたは自分自身のことをあまり良くわかってないみたいです。
己を知ることは全ての戦いの基本になります。
あなたの場合、自分が持っている武器が何かを知らないからこそそんなに強いのかもしれませんけどね。
それとあなたが言っていた一緒に旅をする申し出なのですが、
今はご丁寧に断っておきましょう。
あくまで私は魔王、あなたは勇者。
戦わなくてはならない運命なのです。
もっとも、
私は自分より弱い人に従うつもりはありませんので、
そんな平和ボケた話をするつもりでしたらまず魔王の私に勝ってからにしてください。
でも、やっぱり正解だったみたいです。
あなたに手紙を送ったことは。
少なくとも今は……早くあなたがここに辿り着いて欲しいばかりです。
そして、あなたに手紙を送りながらあなたを待つこの日々を、
もう少し楽しませていただきます。
ありがとうございます、勇者。
魔王より
勇者「……♪」
戦士「勇者の奴、嬉しそうだな」
僧侶「無理もありません。また魔王さんから手紙がくるようになったのですから…少し複雑ですが」
魔法使い「あの手紙書いてる奴、本当に私たちが倒しに行く魔王なのかな。別の奴がいたずらしてるんじゃないかな」
戦士「さあ、でもまぁ、勇者が喜んでるから、今はそれでいいんじゃね?」
僧侶「私もそう思います。少なくとも今は……」
勇者「あ、皆」
戦士「あ、こっち見た」
魔法使い「あれは絶対自慢するつもりだろうな」
勇者「ほら、みて」
勇者「また『魔王さま』から手紙が来たの♪」
終わり