勇者「魔王ぶっ殺す!」魔王「ぶっころす!」 2/4

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次の朝

犬娘「……」

犬娘「ゆ、ゆうべは……おたのしみだったの……」もじもじ

勇者「は?」

犬娘「……」ちらちら

犬娘「……ね、ねごとで、『いぬむすめ! いぬむすめ!』と、あんなにはげしく……」ぱたぱたぱた

勇者「……!」

犬娘「わ、わたしはなんかいはらまされたのだ?」ぽ

勇者「ぁ……が……!」かぁ~

魔王「……くぅ~ん……ゆうしゃ……」

勇者「う、うるさい! は、ははははははらますってなんだ!」

勇者「俺はただ、お前が……犬娘が粗相して叱る夢を見ただけだ! は、はらますとか……意味がわからん!」

勇者「お、お前なんかと……お前なんかと……!」

だきっ

勇者「……!」

魔王「えへへ♪」

魔王「ゆうしゃ……」

がぶ

勇者「おわっ!? い、痛ってえええええ……!?」

魔王「むー! むー!(いぬむすめじゃない! いぬむすめじゃない! なんどいったらわかるんだ!)」

―――

勇者「……」

魔王「……」

勇者「……ここもか……(ひどいな……)」

勇者「前の町は建物がギリギリの形で残ってたけど……ここまで破壊しつくされてるとは……」

勇者「魔王……!」ギリ

魔王「ゆ、ゆうしゃ、ゆうしゃ……きょうは、きょうはどこでねるのだ?」

勇者「ぶっ殺してやる! くそ魔王!!」

魔王「……!!」びくっ

勇者「……はあ、はあ……くそ!(また誰とも会えない……!)」

魔王「……」

勇者「……今日は……今日も野宿だ……」

魔王「……わ、わたしはすきだぞのじゅく、ゆうしゃといっしょにのじゅくすきだぞ!」

勇者「……」

勇者「……(ふう……犬娘は気楽でいいよな……)」

魔王「……」しゅん

勇者「もう少し歩こう……次の町までたどり着けなくても、どのみち野宿には変わりないしね……」

魔王「う、うん……!」

勇者「……」

魔王「……」

勇者「……」てくてく

魔王「……」てくてく

魔王(ごめんなさい、ゆうしゃ……)

ごめんなさい――

――――――

――――

――

先代魔王「……寝たか?」

家来「……はい、泣き疲れたのでございましょう……今はぐっすりと寝ておられます」

先代魔王「……そうか」

家来「……あの、大王様……」

先代魔王「……何だ」

家来「……差し出がましいとは思うのですが……少し早かったのでは……ないかと」

先代魔王「……」

先代魔王「爺、お前があいつに読んで聞かせてやってた『話』では、勇者は……魔王をちゃんと倒していたのか?」

家来「……はい、申し訳ございません……」

先代魔王「いや、いい。それでいいのだ……勇者は世界を救うもの……魔王を倒すものでなくてはならん」

先代魔王「……で? あいつはその『話』の、どの登場人物に己を投影していたのだ?」

家来「……はい、お嬢様……いえ、魔王様は……常に勇者の傍らにはべり、自ら勇者の剣と、盾になり……」

家来「……う、うぅ……そ、それはそれは楽しい冒険を……されているようでした」ぽろぽろ

先代魔王「そうか……」

家来「……」ぽろぽろ

先代魔王「……時間がないのだ、ついさっき入った報告だが……『嘆きの森』周辺の村や町が壊滅したそうだ」

家来「……!」

先代魔王「あそこは我ら魔族も住む地域……それが人間、家畜ともども、すべての生物が息絶えたと……」

先代魔王「その範囲は徐々に狭まってきておる……」

先代魔王「……夢で見た『啓示』通りだ……」

家来「では、やはり……ここ数ヶ月、世界で起きている現象は……」

先代魔王「……」こくり

家来「なぜ……このような残酷なことを……」

先代魔王 「争うからだ」

先代魔王 「我らは……人間は……争いすぎたのだ、人間など……同じ種族同士で争うとも聞く」

家来「……」

先代魔王 「時間がないのだ……『啓示』にはこう続く……」

先代魔王 「『勇者が魔王を貫くとき、全ては許されるだろう』……と」

家来「……そ、その『魔王』とは……」

先代魔王 「魔王の『系譜の儀式』は終えた、今は……あやつよ」

先代魔王 「……できれば代わってやりたいのだが……ワシには、ワシにはもう時間が……う!? うぅ……!?」

家来「だ、大王様!!」

>>82 魔王「→先代魔王

バタン!

魔族「た、大変です! 大王様!!」

家来「ばかもの! 今、大王様は……!」

魔族「お、おじょう……魔王さまが、城をお出になられました!!」

先代魔王「!?」

家来「……な! ば、ばかもん貴様ら!! 目付け役の魔族はどうした!!」

魔族「そ、それが全員、魔法で……魔王様の魔法で眠らされております!」

魔族「残ったものの話によれば、な、なんでも『勇者に逢いに行く』と……」

家来「……!」

先代魔王「……はぁ……はぁ……」ぜえぜえ

家来「だ、大王様! すぐに追っ手を! 魔王様を保護しなくては!」

先代魔王「……」ぜえ、ぜえ

先代魔王「……放っておけ」

家来「……! し、しかし……」

先代魔王「遅かれ早かれ……あやつは勇者と逢う運命、『啓示』にすがるなら……その時は早いほうがいい」

先代魔王「なに、あいつのことなら心配いらん、あいつをどうこうできる者などこの世にはおらん……勇者を除いてな……」

先代魔王「救ってもらうのだ……この世界を……我々魔族も愛してやまないこの世界を……」

先代魔王(ふふ、皮肉なものだ……敵である筈の勇者に『世界を救ってもらう』だの……)

家来「大王様……本当にそれで宜しいのでしょうか……」ぶるぶる

先代魔王「いうな」

(ワシも……魔族として、父として、心からそれを願ってはおらん、願わくば……)

『神』の慈悲を……!!

――――――

――――

――

ぱち ぱち ぱち ぱち

魔王「……ん……(あれ、あったかい……)」

魔王「……ゆうしゃ?」がば

勇者「なんだ、起きちゃったか」

魔王「あ……(ちゃんといる……)」

ぱち ぱち ぱち ぱち

魔王「……ずっとおきててくれたのか?」

勇者「……まあね、火を絶やしたらモンスターに狙われちゃうから」

魔王「……くぅ~ん……やさしいのだな、ゆうしゃ……」ぱたぱた

勇者「……なあ、犬娘……俺ずっと考えてたんだけど……」

魔王「?」

勇者「このまま旅を続けてても、誰にも会わない……というより会えない気がしてきたんだけど……」

魔王「……」

勇者「……どうすればいいとおもう?」

勇者「誰にも会えなきゃ、どこに何があるのかも……魔王の城でさえどこにあるのかわからない」

勇者「あてのない旅……このまま旅を続けてていいのかな……って」

ぱち ぱち ぼっ ぱち

魔王「……」

魔王「……ゆうしゃは、ゆうしゃはそんなこといわない……」

魔王「わたしはしってるのだ、ゆうしゃは、ゆうしゃはどんなときもよわねをはかない」

魔王「せかいをすくう……まおうをぶっころす、このせかいのえいゆうなのだ!」

勇者「……!」

魔王「だ、だから……だからこのままたび……いっしょにたびを……つづけたい」

魔王「わ、わたしは……ずっと、ずっとゆうしゃのそばにいたい……」

魔王「きゅ、きゅ~ん……ゆうしゃ、ゆうしゃ、ずっとそばに……そばにいたいのだ」パタパタ

魔王「だから……!」

勇者「魔王ぶっ殺す!!」

魔王「……!」

勇者「……こんな感じでガンガン気持ちを高めることにするか」

魔王「……う、うん! うん!」ぱあああ

魔王「まおうぶっころす! ……えへへ♪」

勇者「……さて、犬娘はもう寝なよ、明日はまたたくさん歩くことになりそうだからね」

勇者「……次の町まで、どれくらいかな……(そもそも無事なのか……?)」

魔王「ゆうしゃ、ゆうしゃ」くいくい

勇者「? なんだ、さっさと寝ないと……」

がぶ

(いぬむすめっていうな!!!)

(あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……!!!??)

ぱち ぱち ぱち ぱち

勇者(いっしょにいたい……か……)ちら

魔王「……すぅ……すぅ……」

勇者「う……」どき

勇者「……! (ふ、不覚にも『また』ドキッとしてしまった……!)」

勇者(い、犬娘があんなこというから! 見た目は、可愛い女の子なのに!!)

魔王「……すぅ……すぅ……」

勇者「女の子と二人きりで旅か……」

勇者(何故だろう、このまま……俺もこのままでいい気がして……)

ぱち ぼっ

勇者(!? な、何を思ってるんだ俺は……! さっき犬娘と気合を入れたばっかりじゃないか!)

勇者(他の旅の仲間も探して、魔王の情報を集めつつ、いろんな洞窟や森を冒険するんだ)

勇者(今の状況に浸ってる場合じゃないぞ、しっかりしろ勇者!)

勇者「……」

勇者「うん、また明日から頑張らなきゃ……」

勇者(もうすぐ明け方か……火はもつよな、俺も……少し寝よ)

勇者(おやすみ、犬娘……)なでなで

魔王「……くふぅん……すぅ……すぅ……」

勇者「……」

勇者「……」

(ゆうしゃのてのかんしょく、なでなでしてくれるてのかんしょく……)

(ゆうしゃのにおい……)

ぴく

魔王「……!」ぱちっ

魔王「……」

魔王(ま、また……う、うぅ……)

魔王「うぅうぅうう、うううう……」がるるるる

魔王(は、はやく、はやくはなれなきゃ……ゆうしゃからはなれなきゃ!)

だっ!!

魔王「……はぁっ……はぁっ……」たったったったっ

魔王「……うぅ、ううう……うー!!」がる、がるるるるる

魔王(また……まただ……もうこれはいやなのに、もういやなのに……!!)

魔王「う、うう……おっ……」

魔王「あ、あお~~~~~~~~~~~~ん!!!!」

――――――

――――

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