勇者「魔王ぶっ殺す!」魔王「ぶっころす!」 3/4

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先代魔王「む……今の声は……」ぴく

家来「はい、お嬢様でございます」

先代魔王「またか……この頃回数が増えてきたようだが……」

家来「お嬢様も多感なお年頃ですので……」

先代魔王「『年頃』……ふふ、爺よ、アレの意味を解った上でそう言っておるのだな?」にや

家来「あ……ち、父上様の前で……こ、これは失礼しました」あせあせ

先代魔王「ふふ……よい、よい。あれの母もそうであったわ……」

家来「……(お后さま……)」

先代魔王「アレはな、ストレスなのだ……それも性的な欲求による……」

先代魔王「簡単に言ってしまえば『性欲の発散』よ、ただのな……父として複雑ではあるが……」

家来「……」

先代魔王「后も昔は大変だったぞ、ひどいときは毎日だ」にや

家来「……」

家来「……おほん。となれば、お年を召されるごとに『アレ』がなくなる……というわけなのですね?」

先代魔王「……后のことか? いや、后のアレがなくなったのは年をとったからではない」

家来「では……」

先代魔王「契ったからだ、人間で言うところの……『女にしてやった』からなくなったのよ」にやにや

家来「……ご、ごほん。し、失礼しました……」

先代魔王「おるのかの……あやつの相手は」

家来「……! ま、まだ早うございます!」

家来「そ、それに、お嬢様にふさわしい相手ともなるとそれなりの者でなければ!」

家来「……爺は未だそのような者の噂を聞いたことがございません」

先代魔王「そうか、そうか、ならばあやつの相手は爺に見つけて貰うとしようかの」くっくっ

先代魔王「あやつもいつかは誇り高き『魔王』の名を継ぐもの……伴侶ごとき己で見つけて貰いたいがな」

先代魔王「『英雄色を好む』と言うんだそうだ、先代勇者がそう言っておった」

先代魔王「ワシも若いころは先代勇者と女の奪い合いをしたことがある」

家来「ほう、それではその時奪い合いになられたのが今のお后さまで……?」

先代魔王「いや、負けた。……負けたから今の后を伴侶にしたのだ」くっくっ

家来「……」

先代魔王「あやつは……先代勇者は今頃どうしておるのかの……」

家来「……(良く似ていらっしゃる……魔王様……)」

家来(勇者のお話をされるときの眼……お嬢様そっくりでございますよ……)

――――――

――――

――

勇者「……今のは……犬娘の声か?」

勇者「……」

勇者「……そういえばあいつ、いつも寝てるとき途中でどこかに出歩いてるみたいだよな」

勇者「用を足すのにどこかへ行ってるものだと思ってたけど、今の声はなんだ……?」

勇者「……」

勇者「……様子を見てくるか(あっちの方角からしたよな、声……)」

勇者「……」がさがさ

勇者「……(まさに獣道だな……草が鬱陶しい、あいつこんなところで何やってるんだ?)」

勇者「……」がさがさ

勇者「……」がさがs

勇者「!? こ、これは……!!」

勇者「……町?」

勇者「こ、こんな場所に町があったなんて……! 気が付かなかったぞ……」

勇者(あれだけ草木に囲われてたんだ、見えなくても不思議じゃないな……)

勇者「……でも、やっぱりここも破壊されたあとみたいだな」

勇者(人もいないか……ん? 人? ……あ、そうだ犬娘!!)

勇者(犬娘はどこに……)

ズーーーーーーーン!! ズズズズズズ……!!

勇者「!? ……な、なんだ!?」

チュドーーーーーーン!! ズズズズズズ……!!

勇者「あの建物の向こうか、誰か……いるのか?」だっ

タッタッタッタッ

勇者(犬娘……? いや、もしかして他の人かもしれない……!)

勇者(人……犬娘以外で初めて会う人……!)どきどき

勇者(頼む……! 誰か、人間がいてくれ……!!)

バッ

……!!

魔王「ウー! ウウー!!」ブン

ズシーーーーーン ガラガラガラ……

魔王「ウウー!! ウウウウーーーーー!!!!」ブン

ッドーーーーーーン メキメキメキ……

魔王「ウー、コワレロ! ミンナコワレロ!!」

勇者「……」

勇者「……犬……娘……?」

魔王「ウウウ……?」ギロ

勇者「……!(い、犬娘なのか、本当に……?)」

魔王「ウウー、ウウウウ……」

勇者「お、おい……どうしたんだよ犬娘、それに……なんだよこの破壊のあとは……」

勇者「……犬娘が、全部やったのか……?」

魔王「ウウウー、イヌムスメッテイウナ……イヌムスメッテイウナ……!」

魔王「ワレハ……ウ、ウウ……ワレハ……」

魔王「イダイナルマゾクヲスベル……ウウウ、マ、マ……」

魔王「『マオウ』ナリ!! オ、ア……アオーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!」

先代魔王「大きな玩具よな……『町』ひとつを好きなだけ破壊できるのだから……」

家来「ですが必要です」

先代魔王「ふむ、まあよい……ちゃんと近隣諸国、周辺の自然などは無事なのであろうな」

家来「抜かりありません」

家来「『町』周辺には常に結界を張っており、また万が一に備えて『回復』を得意とする魔族を周辺に配置しておりますれば……」

先代魔王「『回復』か……あらゆる高等魔法を繰る我ら一族でも、『回復』の呪文だけは終ぞ一人も覚えることができなかったな」

先代魔王「その代わり『破壊』には長けておる、やはり……これも『魔王』の宿命かの」

ズズーーーーーーーン ズズズズズ……

家来「お嬢様におかれましてもそのようで……」

先代魔王「くっくっくっ……」

――――――

――――

――

先代魔王「……! ぐはっ、がああ……!!!?」ビチャ ビチャビチャ

家来「だ、大王様!!!」

先代魔王「ぐぅうぅ……! き、きたようだな……時間が」ぜえぜえ

家来「何故……なぜ大王様がこのように早く……!」

先代魔王「ぐぅ、ふ、ふふ……『神』からすれば『王』も『家来』もないのだ……」ぜえぜえ

先代魔王「この世に生を受けたものには等しく訪れる……もう、世界には時間がない……」

先代魔王「頼む……急いでくれ、勇者よ……はやく、はやく魔王を貫くのだ」

先代魔王「魔王を……!」

先代魔王「魔王を……娘を……!!」つー

先代魔王「頼む……」ぽた

先代魔王「頼む……娘を、イヴを……」ぽたぽた

先代魔王「殺さないでくれ!!!!」

先代魔王「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」

先代魔王「いかせるのではなかった!! やはりあのときいかすべきでは……!!!」

先代魔王「とめてくれ!! 頼む、爺!! 止めてくれ!! 止m……ぐはっ!!!」びちゃびちゃ

家来「大王様……!!」ぽたぽたぽた

先代魔王「頼む……げほっ、勇者を……ひゅーっ、む、娘を……魔王を……」

先代魔王「か……み、よ……」

先代魔王「と……め……」

先代魔王「……」

先代魔王「……」

家来「お疲れ様でした、大王様……」ぽた

家来「すぐに……すぐに爺もそちらへ参ります……」ぽたぽた

……なんだ、おまえは?

……くぅーん……

……人間? いや、でもこの耳と尻尾は……犬?

……どっからきたの……?

……きゅ、きゅん、きゅん♪ ばっ

うわ! なんだこいつ!

――――――

――――

――

勇者「いぬ……むすめ……え……?」

勇者「……『まおう』?」

勇者「な、何を言って……」

魔王「うぅうぅう……」がるるるるる

勇者「……!」ごくり

勇者(し、信じたくないけど、今、実際にこいつが……犬娘が町を破壊してるのを見た)

勇者(あんな……あんな強大な魔法が使えるなんて……! 魔王……?)

勇者(じゃ、じゃあ行く先々で町が壊れていたのも、全部こいつの仕業か!)

勇者「犬娘が……魔王だった……魔王……魔王……魔王……」

ほこりたかき『魔狼』、おおかみのおうさまなんだぞ!

勇者「……!」

勇者「魔王……!」ギリッ

魔王「ぐるぅうう、ううううう……」

勇者「ずっと騙してた訳か……!」

勇者「ずっと、一緒に旅をするフリをして……バカにしてたのか、俺を! 勇者を!!」

勇者「バカに! バカにして……!!」

ゆうしゃといっしょにねる……ねたいの

勇者「お、俺は……今まで……」

わ、わたしはなんかいはらまされたのだ? ぽ

勇者「今まで……ずっと今までしてきた旅が……」

だ、だから……だからこのままたび……いっしょにたびを……つづけたい

勇者「……続くと……ずっと続くって……そう思ってたのに(お前には言えなかったけど…)」

わ、わたしは……ずっと、ずっとゆうしゃのそばにいたい……

勇者「俺も……俺もお前とずっと……」ぎゅ~っ

まおうぶっころす! ……えへへ♪

勇者「……魔王の癖に、よく言えたもんだ」

魔王「ウウウウう……コワス……」

勇者(あの森ではお前の言葉に励まされたよ……覚えているか……魔王)

魔王「グルルルッル、ウウウウウウウ……コ、コロス……!!!」

勇者「……」チャキン

ゆうしゃは、ゆうしゃはどんなときもよわねをはかない

勇者「……いくぞ、魔王」カチャ

せかいをすくう……まおうをぶっころす、このせかいのえいゆうなのだ!

魔王「ウウウウウウウウウウウ!!!!!!!」

勇者「う、うおおおおおおおおおおおお!!」ダダダダダ

勇者「魔王!! ぶっ殺してやる!!!」

パキーーーーーーーーン

カラン カラン ……

魔王「う、ううう……ううううう」ぐるるるる

勇者「……」

勇者「……なんてね」

勇者「……」

勇者「殺せるわけないだろ、やっぱり……」

勇者「これ、一度も店で変えなかった……故郷の木で作った剣だから……」

勇者「……ていうか、そもそもモンスター一匹も倒したことないから経験値……ゼロだし」

勇者「魔王に挑むのは早すぎちゃったか……」ニコ

魔王「ウウ……! うう、うううう……ユ、ユウシャ……」すっ

勇者「うんうん、流石に降参です。またイチからやり直すよ」

魔王「ユ、ユウシャ……ユウシャ……」キュインキュイン……

勇者「こんな駄目な勇者で悪かったな……魔王、がっかりしたろ……犬娘……」

勇者(イチからなんて……そんなことあるわけないんだけどさ……)

勇者(勇者はどんだけ強くなっても……もう、きっと……魔王を倒すことはできない)

勇者(俺の……たった一人の……たった一人『だった』仲間……)

勇者「うん、この冒険は……最高だったなあ!!!」

魔王「……シネ!!!」

ボッ

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