剣士「大丈夫かい、アンタ」女剣士「なぜ助けたのです?」 2/5

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武器庫──

バタンッ!

ならず者「た、大変ですっ!」

ならず者「今回の二人組……つ、強すぎます!」

ならず者「もうすでに30人のうち、20人以上が……」

槍使い「はぁ? マジかよ!?」

赤目「おやおや、だらしないですねぇ……」

首領「なかなか優秀な野良犬のようだな」

首領「だがいくら強かろうとしょせんは野良犬、駆除される定めにある」チラッ

槍使い「たしか男女のコンビだよな? 女は俺がもらうぜ」スクッ

槍使い「一度女の肉にコイツを突き刺してみたかったんだ」

赤目「では私はもう一人を相手しましょう」スクッ

赤目「どんな猛者をも一撃で死に至らしめる、この剣でね」

剣士「ふぅ~……団体さんは片付いたな」

女剣士「倒した人数は私が17、あなたは13、私の方がやや上ですね」

剣士「ぐっ……」

剣士「アンタのが剣が速いんだから、当然だろ」

剣士「ところで、一応全員生かしてるか?」

女剣士「とりあえずは」

剣士「そろそろ手強いのが出てくる頃合い──」

槍使い「おうおう、よくもやってくれたな! 次は俺たちが相手だ!」

赤目「この剣の威力、試させてもらいますよ」

剣士「……やっぱな」

女剣士「この二人がリーダー格のようですね」

槍使い「そっちの女、俺のタイプのツラしてやがるぜ」ヒヒッ

槍使い「コイツを、てめえの柔らかそうな肉に刺したらどうなるかなぁ~?」ブオンッ

剣士(なんだ、あのデカイ槍は……)

剣士(しかも先端の刃、刺すってより“刺しえぐる”って感じだな)

剣士(あんなもんで刺されたら、もし助かっても一生傷は回復しねえだろう)

剣士「オイ、ヤツとは俺がやる。アンタはあの真っ赤な目をしたのを頼む」

女剣士「槍使いは、私がやります」

剣士「だが、腕力のある俺の方が、あのデカイ槍には相性がいいし──」

女剣士「私がやります」

剣士「わ、分かった、分かった」

剣士「んじゃ、そっちの赤い目の野郎は俺が相手してやるよ」

赤目「相手……になればいいですがねぇ」

槍使い「オラオラァッ!」

ブオンッ! ビュウンッ!

槍使い「女! てめえの細腕じゃよォ、俺の槍を受けたら剣ごとぶっ飛んじまうぜ!」

ビュバッ! ブウンッ!

女剣士(口だけではない……)

女剣士(懐に斬り込むには、一工夫いりますね)

赤目「では、参りますかねぇ」

ヒュッ……!

ガキンッ!

赤目「ほう、私の初太刀を受け止めるとはなかなか……」

剣士「そっちこそな、ちょっとヒヤッとさせられた」

剣士「──ん!?」

グジュグジュ……

剣士(な、なんだ……!? 俺の剣が……黒く……!?)

剣士「毒剣か!」

赤目「おや、博識ですね。野良犬には気づかれまいと侮っていましたよ」

剣士「博識といっても剣限定、だけどな」

剣士(特殊な製法で刃に毒を染み込ませ)

剣士(たとえ敗れても、一太刀浴びせてれば勝者を半月後には死に至らしめるという)

剣士(いや……俺の剣の腐食具合から見て、そんな生易しい毒じゃねえな)

剣士(ほんの切り傷でももらったら、一時間と持たず死ぬだろう)

剣士(あっちのえげつない槍といい……ったく、とんでもねえ依頼人だな)

赤目「おやおや……冷たそうな汗をかいていますね」

赤目「理解できたからでしょう? この剣に少しでも斬られれば、死ぬと!」

シュバァッ!

ブオンッ! ビュバッ! ボッ!

槍使い「すばしっこいなァ、オイ!」

女剣士「あなたが遅いだけですよ」

槍使い「まともに突きを当てるのは、難しそうだ」

槍使い「だったらァ!」ブンッ

ドスッ!

女剣士(槍を地面に?)

槍使い「このえぐるような刃は、こんな使い方もできるんだぜ!?」

ドバァッ……!

女剣士(槍で土を巻き上げ──視界をっ!)

槍使い「オラァッ!」ギュルッ

ドゴォッ!

女剣士「ぐぁ……っ!」ゲホッ

槍使い「い~い声で鳴くじゃねえか! 次は柄じゃなく、刃をぶち込んでやるぜ!」

槍使い「オラ、もう一丁!」

ドスッ! ドバァッ……!

女剣士(たしかに私では、土を掘り返し目くらましにするような技は不可能……)

女剣士「ですが」

女剣士「舞い上がった土であれば、私にも利用できます」

バシッ!

槍使い(土を弾いた!?)

パサッ……

槍使い「あぐぁっ、目に! このアマァ!」

ブオンッ! ブウンッ! ブァオンッ!

女剣士「そんな大きい槍を、がむしゃらに振り回すものではありませんね」

女剣士「懐ががら空きです」ダッ

ザシィッ!

槍使い「うごぉぉ……っ!」ドザァッ

赤目「どうしました、避けるだけでは勝てませんよ?」ヒュバッ

赤目「もっとも、受けてしまっても勝てませんがねぇ……」ヒュンッ

剣士「毒剣……あまりに非人道的なため、現在では製造・流通が禁止されている」

赤目「おやぁ? 劣勢になったとたん相手の得物を非難とは、情けない」

剣士「だが、闇に葬られた理由がもうひとつ」

赤目「は?」

剣士「そいつは扱いが難しい、諸刃どころじゃねえ剣だってこった!」シュッ

ガッ!

赤目(私の持ち手に──蹴り!?)

サクッ

剣士「あ~あ、剣が頬をかすめちまったな」

赤目「ひっ! ──ど、ど、毒がァ! わわわわわっ!?」

赤目「よ、よ、よくもぉぉぉ!」

剣士「んなもんに頼ったお前が悪いんだ、諦めろ」

赤目「くっ!」ジャラジャラ…

剣士(錠剤……解毒剤か……!? えらく準備がいいな……)

赤目(これを飲めば──)ゴクン

赤目「ふぅ……あいにくでしたねぇ、さぁ勝負はここから──」

ガツンッ!

赤目「!?」ドサッ

剣士「戦闘中にお薬……ま、隙だらけだわな」

赤目「あが、が……」ピクピク

ザッ……!

剣士&女剣士「!」

首領「これまで幾人もの野良犬が挑戦してきたが」

首領「この二人をのしてみせたのは、キサマらが初めてだ」

首領「さすがは歴戦のコンビといったところか」

剣士「歴戦ってわけでもないがな……昨日知り合ったばかりだしよ」

女剣士「ようやく親玉のお出ましですか」

首領「だが、男の方は自慢の剣を毒でだいぶ腐らされ──」

首領「女の方は槍使いから手痛い一撃をもらっている」

首領「計画に支障はない」

首領「この俺が二人まとめて片付けてやる」

首領「俺の武器はこれだ」ズンッ

剣士「巨大ハンマーか」

剣士(ハンマーの頭部に、刃が二つついてるのが気になる……)

剣士(アレにも、なにか仕掛けがあるのかもしれねえな)

剣士「オイ、アイツは俺が相手する」

女剣士「いえ、私がやります」

剣士「まあ聞け」

剣士「あのハンマー、絶対になんらかのカラクリがある」

剣士「もし初見で避けられないようなカラクリだった場合──」

剣士「性質を見抜ける可能性は、俺よりもアンタのが高いだろう」

剣士「ここはまず俺にやらせろ。もしやられたら次は頼む」

女剣士「分かりました」

女剣士「…………」

女剣士「気をつけて下さいね」

剣士「おう」

首領「はああああっ!」

ブオォンッ! ブウゥンッ!

剣士(あんなでかいハンマーを軽々と……やるな。剣じゃとても受けられねえ)

剣士(だが斬り込むスキがないわけじゃねえ!)ダッ

首領「…………」ニヤ

シュバッ!

剣士「──つっ!」

剣士「なんだ!? ハンマーについてる刃が動いた!?」

首領「そのとおり」

首領「コイツは……俺が振るうだけでなく、自分で攻撃する機能もあるのだ」

剣士「自分で攻撃する武器……!?」

首領「さあ続きだ!」

ブオォンッ! ブウゥンッ!

ブオォンッ!

剣士(かわす!)サッ

ザシッ!

剣士「……ぐっ」

首領「これで傷五つ」

首領「俺のハンマーはかわせても、ハンマーの刃まではかわしきれないようだな」

剣士(くっ、なんでだ……なんであの刃をかわせない!?)

首領「そして六つ目!」ブオッ

ザシュッ!

剣士(しまった──足を!)

首領「これでもう素早く動けまい……まずは一人!」

女剣士「はあっ!」シュッ

首領「ぬっ!」ブオッ

ザシュッ!

「も、う……や、だ……」

女剣士「ぐっ……!」ドサッ

女剣士(今一瞬聞こえたのは……まさか)ググッ…

首領「助けに入ったのはいいが、代償は大きかったな。その傷、かなり深いと見た」

女剣士「えぇ……私としたことがうかつでした」ヨロ…

剣士「すまねぇ、大丈夫か!」

女剣士「大丈夫です……そしておかげで……あのハンマーの秘密が分かりました」

剣士「!」

首領「ほう……?」

女剣士「そのハンマーの中には……子供がいますね?」

剣士「え……?」

首領「正解だ」

首領「このハンマーの巨大な頭部の中には、孤児が一人仕込まれている」

首領「子供とはいえ、ヒト一人を振り回すわけだから並大抵の腕力では扱えぬ」

首領「この二つの刃は、中にいる子供の両腕と連動していてな」

首領「ハンマーの頭部をかわし体勢を崩した敵を、子供が切りつけるという仕組みだ」

首領「素人の攻撃というのは予測がつかず、意外によけにくいという性質も持つしな」

首領「一日一回食事を与えるだけで、回避困難のハンマーを維持できるというわけだ」

首領「仮に戦闘で中の子供が故障しても、代わりなどいくらでもいるしな」ニィッ

剣士「…………」

剣士「ふざけんじゃ」

剣士「ねええええっ!!!」ダッ

首領(やはりな……こういう類の話で怒る男だと予測していた!)

ブワオォンッ!

バキャアンッ!

剣士「ぐっ!」

首領(惜しい……だが剣を砕いた! 次は頭を潰してやる!)

女剣士「──私の剣を!」ブンッ

剣士「……サンキュー!」パシッ

首領「なにい!?」

剣士「お前らはもちろん、あの商人にも心底ムカついたが──」

剣士「まずは依頼を果たす……!」

ズバンッ!

ボトッ……

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