勇者「俺は勇者様の影武者ですから」 2/4

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<テント>

真勇者「……さてと、今日の戦いについて話してもらおうか」

勇者「はい」

勇者「まず、草原にてトロルの一団と遭遇し──」

勇者「トロルのこん棒で頭部に手痛い一撃を受けてしまいました」

真勇者「おいお~い」

真勇者「そんな話したら、俺の女性ファンが悲鳴上げちゃうだろ」

真勇者「キャ~、勇者様の美しいお顔が~! ってさ」

真勇者「他はいいけど、なるべくカオには攻撃喰らうなよな」

勇者「すみません」

真勇者「──ったく、ホントお前はどんくさいな……」

真勇者「あ~……しゃべったらノド渇いちまった」

真勇者「オイ魔法使い、そこの水筒取ってくれよ」

魔法使い「あなたの方が近いじゃないですか、それぐらい自分で──」

真勇者「ん、俺に意見するのか?」

真勇者「いっとくが仮に魔王を倒せたとしても、俺の一族への報告次第じゃ」

真勇者「お前らを英雄どころか罪人にだってできるんだぜ?」

魔法使い「わ、分かりましたよ」ス…

真勇者「俺がいったらちゃっちゃと動け! グズが!」パシッ

真勇者「ただの水じゃものたりねぇな、酒が飲みてえなぁ……」ゴクゴク

僧侶(飲み水だって手に入れるのは大変なのに……)

戦士(人をアゴで使いやがって……)

戦士(コイツ、このところますます調子に乗ってきたな……)

真勇者「まぁ~た不満そうなツラしてるのがいるな」

真勇者「お前らみたいなのは無駄に体力があるからいいんだろうが」

真勇者「俺みたいな高貴な血筋の身で、こんな旅を続けるのはけっこう大変なんだぜ?」

真勇者「あちこち肩が凝ったりしてよぉ~」コキッ コキッ

僧侶「…………」

僧侶「なんだったら、肩でもお揉みしましょうか?」ス…

真勇者「さわるんじゃねえ、クソビッチが!」

バシッ!

僧侶「あっ!」

真勇者「お前みたいな庶民が、俺に触れられると思ってんのか!?」

真勇者「いっとくが玉の輿なんか期待すんなよ、俺は女の好みにはうるさいからな」

僧侶「うぅ……」

真勇者「ん、もうこんな時間か……そろそろ自分のテントに戻るとするか」

真勇者「じゃあな」ガサゴソ…

戦士「……行ったか」

戦士「ケッ、あのクソヤロウにムカつかねえ日がねえよ!」

戦士「戦いもしねえくせに、口は偉そうだし、鎧だけは豪勢だしよ」

戦士「ま、アイツのおかげで影武者の勇者のために頑張ろうって気にはなるがな」

魔法使い「あのぉ~……勇者さん」

魔法使い「あなたはあの人に口答えはおろか」

魔法使い「ボクたちだけになっても、愚痴一つこぼさないけど……」

魔法使い「あんな人に手柄を全て取られて、悔しくはないのかい?」

勇者「全然」

勇者「俺は勇者様の影武者だから」

勇者「俺は勇者様の影として戦い、世界を平和にすることができればそれでいいんだ」

魔法使い「そ、そうかい……」

魔法使い「君がそれでいいなら、いいんだけど、さ」

魔法使い(これだけ理不尽な目にあっても、こんなこといえるなんて……)

魔法使い(ものすごい忠誠心だ)

魔法使い(まさしく彼こそが真の勇者様だよ)

魔法使い(勇者の血を引く本物の勇者は、勇者どころか人間としてもどこかおかしいし)

戦士(だが、今の世は家柄や血筋をとことん大事にすっからな……)

戦士(どうあがこうが、この勇者は影武者以上の存在にはなれねえんだ)

僧侶(この人がどんなに頑張ろうと、明るい未来は待ち受けていない)

僧侶(本当にかわいそうな人ですわ……)

勇者「……ん、みんな、考え込んでしまってどうしたんだ?」

勇者「いよいよ魔族の領地に近づいてきたし、明日も激戦が予想される」

勇者「余計なことは考えずにゆっくり休もう」

僧侶「え、ええ、そうですね……」

魔法使い「う、うん分かってるよ。休息も戦いっていうしね」

戦士「明日も……頑張ろうな!」

勇者「うん、おやすみ!」

<闇の大地>

戦士「ここが魔王軍の領地、か」

戦士「こんな見晴らしのいい場所でも、あちこちからヤバイ気配がするぜ」

僧侶「えぇ、魔の瘴気もこれまで以上に濃くなっています」

僧侶「気温は普通なのに、細かい震えが止まりませんわ」

魔法使い「魔族もこれまで以上に強くなるんだろうなぁ」

魔法使い「魔力切れを起こさないよう、魔法をうまく使っていかないと」

勇者「だけど、それだけ勝利も近いってことだ」

勇者「あそこにそびえ立つ魔王城……」

勇者「俺たちが、あの中にいる魔王を倒せば人類の勝利だ!」

<テント>

真勇者「う、うぅ……」ガタガタ

真勇者「こんな土地に留まるのはまっぴらごめんだ」

真勇者「さっさと魔王をブッ倒してこい!」

魔法使い「ムチャをいわないで下さい」

魔法使い「闇の大地では、魔の瘴気のせいで魔族が数段パワーアップしてるんです」

魔法使い「いや、むしろ本来の力を発揮できるというのが正しいでしょう」

真勇者「うるさい、俺に口答えするなっ!」

魔法使い「……すみません」

真勇者「もういい、テントに戻る」スクッ

真勇者「さっさと魔王を倒す手はずを整えろ、グズども!」ガサゴソ…

勇者「はい!」

戦士「ふん、ざまあねえぜ」

戦士「ろくすっぽ戦ってない身じゃ、ここの瘴気はこたえるんだろうよ」

僧侶「えぇ、なんだか顔色も悪くなっていましたし」

僧侶「不謹慎ですが、少しいい気味だと思ってしまいました」

魔法使い「こんな時までボクらに悪態をつける根性は、さすがってとこだけどね」

魔法使い「ま、しばらくは大人しくなるだろうさ。闇の大地さまさまだ」

勇者「だけど勇者様のいうとおり、敵地でグズグズしてると勝率はどんどん下がる」

勇者「多少危険は増すが、明日からは進撃スピードを上げていこう!」

戦士「おう!」

魔法使い「了解!」

僧侶「はい!」

勇者パーティの戦いは、加速度的に過酷さを増していく。

戦士「なんだ、あのデカイのは!?」

勇者「ドラゴンだっ! 火を吹いてくるぞ、気をつけろっ!」

僧侶「すぐ毒を治療しますね!」パァァ…

勇者「あ、ありがとう……!」ヨロッ…

魔法使い「くそっ、なんで通用しないんだよ!」

勇者「あの怪物には魔法が通じないみたいだ! 無駄撃ちはよせっ!」

戦士「くそったれ! 剣が通じねえ!」

勇者「敵の硬さが尋常じゃないからな……連撃でなく一撃で勝負するんだ!」

僧侶「ハァ、ハァ、ハァ……」ガクッ

勇者「回復呪文の唱えすぎか! みんな、なるべく傷を負わないよう戦ってくれ!」

魔法使い「しまった……魔力切れか……!」

勇者「ここは引き受ける! 一度下がって魔力を回復するんだ!」

<テント>

勇者「ただいま戻りました」ヨロッ…

真勇者「おう、ご苦労」

真勇者「さてと、今日の戦いについて聞かせてもらおうか」

勇者「はい」

僧侶「勇者様、ちょっと待って下さい!」

僧侶「今日は本当に激戦で……勇者さんは本当に疲れてて……」

戦士「休ませてやって下さい!」

魔法使い「ボクからも、お願いします!」

真勇者「…………」

真勇者「ダメだ」

魔法使い「なんでですか!?」

真勇者「いいか、貧民トリオ」

真勇者「俺はお前らよりコイツとの付き合いは長い」

真勇者「俺がガキの頃に、コイツは影武者として拾われ、育てられてきたんだからな」

真勇者「だから分かるんだよ」

真勇者「まだしゃべる元気ぐらい、残ってるよなぁ?」ニヤッ

勇者「はい、問題ありません」

戦士「そりゃアンタにいわれたら、断れねえからだろうが!」

真勇者「なんだその口の聞き方は」ギロッ

真勇者「俺がその気になれば、お前や実家に残された家族、落ちぶれさせるどころか」

真勇者「最上級の凶悪犯にだって仕立て上げられるんだぞ?」

戦士「い、いや……それだけは……」

勇者「……以上が今日の戦いの内容です」

真勇者「まったく魔族如きに手こずりやがって」

真勇者「まあいい、これで俺の“魔王討伐記”はますます充実する」

真勇者「リアリティ溢れる俺の物語に、感動する民衆が目に見えるようだ」

真勇者「さてと、それじゃ俺は自分のテントに戻るとしよう」

真勇者「じゃあな」ガサゴソ…

戦士「……くそっ!」

戦士「なんもしてねえくせに、偉そうに!」

戦士「いっつも超安全なテントで引きこもってる分際でよぉ!」

魔法使い「彼の場合、脅しが脅しじゃないからね」

魔法使い「にしても、今日は本当にひどかった。もう少しでボクが殴りかかってたよ」

僧侶「勇者さんもたまにはちゃんと断らないと……」

勇者「いや、いいんだよ」

勇者「俺は勇者様の影武者だから」

戦士「影武者、影武者ってよぉ!」

戦士「お前には自分の意志ってもんがねえのかよ!」

勇者「あるさ」

勇者「君たちがそれぞれ望みがあって、このパーティに加わったように」

勇者「俺が望むのは勇者様の影として、魔王を倒すことだけ」

勇者「本当にそれだけなんだ」

戦士「くっ……!」

戦士(すげぇ……すげぇよ、コイツ!)

僧侶(この人こそ、本当に勇者として称えられるべき人ですわ!)

魔法使い(勇者さんがいなきゃ、ボクらはここまで来れたかどうか……)

そしてついに、来るべき日が訪れる。

<テント>

勇者「勇者様、明日いよいよ魔王城に突入します」

真勇者「お、やっとか」ゴロン…

真勇者「ようやく俺が魔王討伐の栄誉を勝ち取る時がきたか」

勇者「はい」

勇者「必ずや影武者として、魔王を倒してみせます!」

真勇者「よしよし、気合が入っているな」

真勇者「貧民トリオ。お前たち三人も、最後まできっちり仕事をこなせよ?」ニヤッ

戦士「はい……」

魔法使い「分かりました……」

僧侶「そうします……」

<魔王城>

ザンッ ズシャアッ!

門番「ギヤァエエェェ……」ドサァッ

戦士「ったく、門番ですらこのタフネスかよ……イヤになるぜ」

僧侶「いざ扉を前にすると、緊張しますね……」

魔法使い「うん、ここに入ったらもう後戻りはできない」

勇者「だけど大丈夫!」

勇者「ここまで来れた俺たちなら、必ず魔王を討ち取れる!」

勇者「行くぞっ!」

戦士「おうっ!」

魔法使い「了解っ!」

僧侶「はいっ!」

ギィィィィ…… バタン……!

戦士「トドメだぁっ!」

ズバァッ!

大悪魔「ギャアアアアアッ!」ボシュゥゥ…

勇者「よくやってくれた!」

僧侶「回復しました!」

勇者「ありがとう! ──うおおおおっ!」

ドシュッ!

闇騎士「ぐふっ……この吾輩を倒すとは……さすがは勇者……」ドサッ

魔法使い「魔力では劣っても、実戦経験なら負けない!」バッ

ズオアアアッ!

側近「ぐおおおおっ! 私が、魔法で敗れるとは……無念……!」ガクッ

勇者(ついに側近を倒した……残るは魔王だけだ!)

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