勇者「俺は勇者様の影武者ですから」 3/4

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<魔王の部屋>

魔王「フハハハハハハ……!」

魔王「勇者よ、よくぞここまでたどり着いた」

魔王「さすがはかつてワシを倒した勇者の血を引きし者、といったところか」

勇者「…………」

戦士「──そうだ! コイツは勇者の血を引く男なんだ!」

勇者「!」

戦士「お前なんか敵じゃねえぜ!」

魔法使い「そうだ! 今こそ伝説を再現してやる!」

僧侶「覚悟なさい、魔王!」

魔王「威勢のいい人間どもだ……あの死闘を思い出す。よかろう、来い!」

勇者「行くぞ、魔王っ!」

勇者「はああああっ!」ダッ

戦士「うおりゃあっ!」ダッ

ガキンッ! ギィンッ! ギンッ!

勇者「くっ……!?」

戦士「なんだ、あのマントは!? 全然剣が効かねえ!」

魔王「フハハハハ、勇者よ! この程度か!? 期待外れもいいところだな!」

ズオアアアアッ!

強烈な衝撃波で、勇者と戦士が吹き飛ばされる。

勇者「うぐっ……!」ドサッ

戦士「ぐあああっ!」ズダンッ

僧侶「すぐ回復します!」

魔法使い「喰らえっ!」

ボワァッ!

魔王「笑止!」バシュッ

戦士「ちっ……魔法も手で弾かれちまうか!」

魔法使い「いや……ちょっと待って」ボソッ

魔法使い「なんで剣も通じないあのマントがあるのに、ボクの魔法は手で弾いたんだろ」

戦士「そういや……たしかに」

僧侶「なるほど……もしかしてあのマントは魔法に弱いのかもしれませんね」

魔法使い「弱いとはいかなくとも、効くってことはまちがいなさそうだ」

魔法使い「だったら──」

魔法使い「ボクの魔力をありったけ、全てブチ込んでやれば、マントを破れるかも!」

勇者「分かった、君が魔力を解放するまでの時間、俺たちで稼ぐっ!」

勇者「行くぞっ!」ダッ

戦士「おうっ!」ダッ

魔王「バカめ、キサマらの剣など通用せんわっ!」

ガンッ! ガギンッ! ギィンッ! ゴッ! ガァンッ!

勇者「まだだっ!」

戦士「うおりゃあっ!」

ギンッ! ゴッ! バギンッ! ガキッ! ギィンッ!

魔王「無駄だというのが分からぬか!」

バキィッ!

勇者「がっ……!」ドサッ

魔王「今トドメをくれてやる!」

ビィッ!

魔王の指から光線が放たれる。

ドシュッ!

戦士「ぐおっ……!」

勇者「戦士!」

戦士「へっ……こういう時お前をかばうのが……俺の仕事だろ?」ドサッ

魔王「つまらぬマネを……次こそ勇者を──」バッ

魔法使い「残念、今度はこっちの番だ!」

魔法使いが両手に集めた全魔力を、魔王めがけて叩き込む。

ズドォォンッ!

魔王「しまった、ワシのマントが……!」ボロッ…

魔法使い「へへ、ざまあ……みろ……」ガクッ

僧侶「決めて下さいっ!」

勇者「うおおおりゃあああああっ!!!」

魔王「おのれぇぇぇっ!!!」

ザ ン ッ

勇者(や、やった……!)

魔王「ぐ、は……!」

魔王「このワシが……やられる、とは……!」

魔王「さす、がは……勇者の血を引きし者……」

魔王「……といいたいが」

魔王「この剣閃……キサマ、かつての勇者の子孫ではないな?」

勇者「……ああ」

勇者「俺は勇者じゃない」

勇者「俺は……勇者様の影武者だからな」

魔王「やはり、な……」

魔王「だが……キサマもまた、紛れもなき勇者、よ……」

魔王「こ、のワシを……倒したの……だからな……」

ついに勇者の手によって、魔王は再び消滅した──

戦士「や、やった……!」

戦士「俺たち、やったんだ!」

戦士「俺たち、ついに魔王を倒したんだ!」

魔法使い「うん、ボクたちの勝ちさ!」

魔法使い「それにしても、さすがは勇者さんだ」

魔法使い「あの恐るべき魔王を、まさに一刀両断しちゃったんだからね」

僧侶「あらあら、皆さん」

僧侶「回復しないうちにあまりはしゃぐと、傷が開いてしまいますよ」フフッ

僧侶「でも……この一年余りの旅が、これでようやく終わりを告げたのですね……」

勇者「みんな!」

勇者「魔王を打倒できたのは、紛れもなくみんなのおかげだ!」

戦士「なにいってんだ、お前のおかげだよ」

魔法使い「勇者さんの勇気があったから、ボクらはここまで戦えたんだ!」

僧侶「本当にお疲れ様でした……」

勇者「ありがとう……!」

勇者「これで勇者様もお喜びになるだろう!」

勇者「さあみんな、報告のために外のテントに戻ろう!」

戦士「……ああ」

魔法使い「そうだね……」

僧侶「戻りましょうか……」

<テント>

真勇者「ついにやったか、ボンクラども!」

真勇者「もっともお前らがもっとしっかりしてれば」

真勇者「こんな長い旅にならずに済んだだろうがな」

真勇者「わざわざこんな地の果てまでついてきた俺に、大いに感謝しろよ!」

勇者「本当にありがとうございました、勇者様」

戦士「…………」

魔法使い「…………」

僧侶「…………」

真勇者「さて、と」

真勇者「貧民トリオ、お前たちには最後の仕事が残っていたよな」

真勇者「この影武者──ニセ勇者をお前らの手で殺せ」

真勇者「コイツを生かしておくと、自分が魔王を倒したと吹聴する恐れがある」

真勇者「この世に勇者は二人もいらないからな」

真勇者「旅立つ前に説明したが、コイツを殺すまでがお前ら三人の仕事だ」

真勇者「コイツをこの場で殺せば、お前たちには約束の報酬を与えてやろう!」

真勇者「一生遊んで暮らせるほどの金をな!」

戦士「…………」

魔法使い「…………」

僧侶「…………」

真勇者「さあ、やれ!」

勇者「なるほど、これがあなたの計画だったというわけですか……!」

真勇者「そういうことだ」ニヤッ

戦士「断る」

魔法使い「同じく」

僧侶「私もです」

真勇者「な、なんだと!?」

真勇者「俺に逆らったら、魔王討伐の恩賞を得られなくなるだけでは済まんぞ!」

真勇者「お前らの家族、いや故郷ごと俺の一族でもって叩き潰すぞ!」

戦士「……関係ねえよ」

戦士「たしかに俺たち三人は“魔王を倒し、その後影武者を殺す”までを条件に」

戦士「金を受け取り、パーティに加わっちまった……!」

戦士「だがよ……この一年、一緒に必死に戦ってきたコイツを」

戦士「テントでぬくぬくしてたてめえのために殺すなんて」

戦士「できるわけねえだろうがっ!!!」

魔法使い「それに幸いなことに、勇者様と影武者の彼は瓜二つ」

魔法使い「ここであなたを殺して、あなたの死体を影武者として提出しても」

魔法使い「あなたの一族にもきっと分からないでしょう」

僧侶「申し訳ありませんが、私たちはあなたではなく」

僧侶「影武者の勇者さんこそが勇者として認められるべきだと思っています」

僧侶「子供の頃からあなたの影武者として育てられてきた勇者さんなら」

僧侶「今後あなたになり代わることもたやすいでしょうから」

真勇者「そ、そんな……!」

真勇者「この貧民どもがぁっ……! 俺を裏切る気か……!」

勇者「勇者様」

勇者「あなたの計画は完璧だった。ですが、失敗に終わります!」

真勇者「ひっ……!」

戦士「そういうことだ」チャキッ

戦士「あばよ、勇者の血を引くニセ勇者様よぉっ!」

ブオンッ!

勇者「やめろっ!!!」

戦士「!?」ピタッ

真勇者「!?」

戦士「な、なんで止めるんだよ!」

戦士「このクソヤロウの計画が失敗に終わるっていったのは、お前だろ?」

勇者「ああ、そうだ。計画は失敗に終わる」

戦士「……どういう意味だよ」

勇者「つまり、勇者様の計画は──」

勇者「本来ここで俺を殺す予定になっていたお前たち三人が」

勇者「契約を破って勇者様を殺すよう仕向けること、だったからだ」

戦士「は!?」

魔法使い「なっ……!?」

僧侶「え……」

勇者「……そうでしょう、勇者様?」

真勇者「なにをバカなこといってやがる!」

真勇者「そんなもん、ただの自殺じゃねえか!」

真勇者「俺の目的は影武者であるお前を殺し、唯一無二の勇者になることだ!」

勇者「そう、それこそがあなたの一族の計画だった」

勇者「しかし、あなたは一族に抗うため、この三人が自分を殺すよう仕向けた!」

魔法使い「なにいってるんだよ!」

魔法使い「この本物の勇者様ははっきりいって最低の人間だ」

魔法使い「一年間一緒に旅してきて、いい人だなんて思ったことは一度もなかった!」

魔法使い「そんな人が、なんで自分が死ぬような計画を……」

勇者「簡単な話だ」

勇者「最低な人間を演じなければ、君たち三人は勇者様を裏切れないからだ」

勇者「もし勇者様が旅の途中、俺や君たちにわずかでも情をかけていたら」

勇者「君たちは勇者様を裏切れなくなってしまっただろう」

勇者「仮に裏切ったとしても──」

勇者「勇者様を裏切ったことによる罪悪感は、多大なものになっていただろうからね」

僧侶「で、ですが……」

僧侶「この人が私たちのイメージのような悪い人間ではない、という」

僧侶「証拠はあるんですか?」

勇者「ある」

勇者「勇者様、いつも身につけてるその豪華な鎧……今すぐ脱いで下さい」

真勇者「……断る」

真勇者「なんで、お前らなんぞに高貴なる俺の肉体を──」

勇者「じゃあ俺がムリヤリ脱がします」ガチャガチャ…

真勇者「や、やめろぉぉぉっ!」

すると──

戦士「なっ……!?」

魔法使い「ウソだ……!」

僧侶「これは……」

真勇者の首から下は、無傷と呼べる箇所がないほどのありさまだった。

真勇者「くっ……!」

戦士「なんでだ……」

戦士「なんでだよ!? アンタ、人知れずだれかと戦ってたってのか!?」

勇者「いや、そうじゃない」

勇者「勇者様……」

勇者「あなたがいつも俺に、どう戦ったか詳しく話すよういっていたのは」

勇者「俺が負った傷を、自分の体にも同じようにつけるためだったんでしょう?」

真勇者「…………」

僧侶(私が本物の勇者様を回復したことは一度もない……)

僧侶「これほど多くの傷、魔法で回復もせずに放置していたら」

僧侶「今やまともに体を動かすことすら困難のはずでは──」ハッ

僧侶「ま、まさか……」

僧侶「旅が進むにつれて、あまり動かなくなったり、顔色を悪くされていたのは……!」

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