鍛冶師「人里離れた所でひっそりと暮らしてる」 1/3

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天の日 晴

ここ最近天候が悪かったが、これでようやく畑仕事ができる。

最近は依頼が少なく、収入が心許無いがのんびりとやれるのはいい事だ。

だが、空に陰りがあるし今日のうちにある程度収穫しておかないと、また雨の中で収穫しなくてはならなくなる。

冥の日 曇

すっかり忘れていたが、そろそろ鉱山に住み着いているコボルト達が鉱石を持ってくる時期だった。

つるはしだのなんだのと物々交換しているが在庫が少ない。

今日明日は徹夜になるやもしれん。

火の日 晴

三日間、作るに作り続けた。

逆に作り過ぎた。あって困るもんでもないが、正直幅を取るから困る。

久々に罠に動物がかかった。

今日は兎肉のスープだ。

風の日 晴

今日の取引はまずまずだった。

新しい採掘場が見つかったらしく、更に大量のつるはし等の注文が入った。

かなりの材料が蓄えられるかと思うといてもたってもいられない。嬉々として金槌を振るう。

珍しい金属もあったし何を作るか……それとも大事に取っておこうか。いかん、興奮してきた。

沌の日 雨

追加の注文も作り終え、コボルト達との物々交換も無事終わった。

にしても雨の所為で冷える。奥に仕舞った冬服を引っ張り出し、少し着込んでおく。

大量の材料を仕入れた事だし、今日は倉庫の整理をした。

しっかりと整理したら元々あると推定していた材料が、1.2倍に膨れ上がった。

在庫管理が杜撰過ぎたようだ。今後は帳簿でもつけようものか。

天の日 雨時々曇

あいも変わらず天候不順が続く。依頼も無く畑仕事も無く、雨音をBGMに読書に耽る。

そんな雨の中、わざわざ貴族様が依頼を持ってきた。

金ならいくらでも払うから最高の刀を作って欲しいと言い出した。金持ちの道楽か。

仕方が無いので追い返した。良質の砂鉄なんぞこの大陸で探すとなったらどれだけ時間がかかるか。

それでも食い下がらないから塩の塊を投げつけジパングに行けと言ってやった。

にしてもあんな塊になっているとは。ちゃんと対策をしておくべきだったか。

冥の日 曇

そろそろ食料の買い足しが必要になってきた。

この調子なら明日は晴れるだろう。

明日は山を降りるとするか。

現地販売の準備、それと刃物研ぎの準備をして早めに就寝する事とする。

地の日 晴

下山するにはもってこいの天気となった。

のはいいが、麓あたりで山賊と鉢合わせした。

そこらへんを魔物が闊歩している時代だというのに逞しいものだ。

有無を言わず襲い掛かってきたので返り討ちにしてやった。

臨時収入だ。肉でも買うか。

水の日 晴

町で卸す商品の売れ行きも刃物研ぎの仕事もあまりだった。

臨時収入と合わせても通常の収入程度にしかならない……なんてこった。

食料品を買い込み、家に戻る途中で旅人が山で迷っていた。

何でも自分に依頼をしに来たらしいが場所が分からなくなったそうだ。

仕方が無いのでその場で内容を聞く事にした。ふざけた依頼だったら町に送り返そう。

と思ったら材料を持ち込んでの製造依頼だった。久しぶりにまともな依頼だったからその場で材料を受け取った。

報酬もいいし明日はまた町まで届けに行く事にした。

火の日 曇

気合を入れただけあって、依頼のクレイモアは中々良い出来となった。

早朝、町に下りようと下山している途中、旅人が先日と同じあたりで迷っていた。

何をやっているのやらと思ったら、自分が依頼を受けてくれると思っていなかったらしく、

町まで運ぶと言われても、いてもたってもいられなかったのだと言う。

アホな依頼が多いから断っているだけで、まともな依頼は全て引き受けているのだがなあ。

大方、馬鹿貴族どもが勝手な事を流布しているのだろう。が、食っていくには問題無い程度に依頼はくるからどうでもいいが。

風の日 雨

今日は朝から雨が降り続く。

これは長雨になるかもしれない。

しばらくは暇になりそうだし、武具図鑑でも読み漁るとするか。

沌の日 大雨

雨脚が半端ない。

一度、この家も流された経緯からしっかり対策しているが、それでも今回はどうなるか分からん。

というよりも今回もダメかも分からんね。

流された時の為に必要な道具はまとめて、見つけ易いように細工を施した。

天の日 晴

明け方とんでもない音がした。どっかで土砂崩れが起こったようだ。

思いの他早くに晴れてくれたものの、やはりというべきか被害は甚大だった。

材料類に関する被害ほ無かったものの畑は全滅だ。

ここしばらく順調だったゆえに惜しい。

最もまた一からとは言え、だいぶ知識も経験も積んできているし、復興もそう難しくは無いだろう。

今日は一日畑仕事。水気たっぷりの野菜が食べたい。

冥の日 晴時々曇

鍛治関連で唯一の被害。薪が全滅。

という訳で今日は周囲の散策にでかけた。が、当然ながら薪に使えそうな木々は得られなかった。

薪を貯蔵している倉庫の改良が必要そうだ。

途中、山の主様を見かけた。ここに住み始めた当初、主様は巨大な猪だったが今は角が立派な牡鹿のようだ。

何時見てもこの威圧感というか神々しいというか、そんなオーラの前ではただただひれ伏すばかり。

そこへ魔物の集団が現れた。主様を狙っているのかと剣を抜く。よりも早く主様の角が魔物を薙ぎ払った。

主様ぱねぇ。流石、山の安定を司る存在だ。

天の日 曇

真面目な依頼だが、恐ろしくキチガイな依頼が入ってしまった。そしてそれを受けた自分もキチガイだ。

大量の石を持って兵士や傭兵、そして神官らしき男がやってきた。

その石を使ってできるだけ大きな剣を作って欲しいと言われた。見たことの無い石だしどうしたものかと悩む。

石の出所を聞けばなんと隕鉄だという。よくもこれだけの量を集めた物だ。頭がおかしい。

だが壮大な話だ。隕鉄は天からの恵みとして信仰があったりする事を考えると、この量で作った大剣はさぞ偶像崇拝にもってこいだろう。

ああ、だから神官っぽいのもいたのか。

だが問題はこれが全部材料になりえないだろうという点だ。

冥の日 晴

今日は朝から資料探し。

こいつでクリスでも作れって事だったら簡単だったろうに。

一通り手持ちの資料の中から隕鉄に関する情報かき集めて読み耽る。

期間を長めにもらって正解だ。というかこれを一人で造るのか。こういう時、国の鍛治ギルドや町の工房を羨ましく思う。

リンが多く含有している隕鉄は、鍛造そのものが出来ないようなものだとされる。

まずはこれを調べないとだ。

地の日 晴

莫大な報酬だったとは言え、あんな仕事二度と引き受けるものか。

一週間以上の時間を費やしなんとか作れたのは長めのブロードソード。いやバスタードソードといったところか。

遥か古代から隕鉄が使われている事もあってか、クリスは邪を払うものとしてタリスマンとしての役割も持っている。

こいつならどんな邪も払えるだろう。というか切り払えるだろう。

もっとも教会かどっかに奉納されるのだろうから、振るわれる事は無いのだろうが。

ふと思い出したかのように畑を見ると荒れ放題だった。

しばらくは農作業だ。

水の日 快晴

絶好の土弄り日和。いやちょっと暑かったか。

クワを振るっているとコボルト達がやってきた。

どうしたのかと聞くと、新しい採掘場に鉱石の精霊が現れて奮闘中だという。

精霊と言っても全身が特定の鉱石で出来ているゴーレムの様なもの。何より恐ろしく硬く力強い厄介な奴だ。

自分の出番か、とハルバートを担ごうとしたらミスリル銀のゴーレムだと言うから、茶を淹れてやりながら頑張れと伝えた。

銅と鉄まで戦えるが、それ以上の相手となる一撃で圧死するから絶対に戦いたくない。

というかミスリル銀のゴーレムとか随分と大物だな。

火の日 曇時々晴

畑の整地、水引完了。意外と早く終わったからまた山の中に入っていった。

あれから雨も降ってないお陰で乾いた薪が拾えた。いやはや助かるものだ。

土砂崩れで荒れたとは言え、多くの新芽が芽吹いている。

今日も主様は忙しそうだ。

水の日 晴

町に下りて野菜の苗や種を買い漁る。

ついでに刃物研ぎをしてみたら、今回は盛況だった。タイミングがずれていたのか。

帰り道に高価そうな鎧を着た男と出会った。勇者様だという。

魔王討伐の為にも剣を作って欲しいとの事だ。

材料も持ち込みでミスリル銀だった。しかし要望はフルサイズの両手剣だと言う。

流石にこれでは足らない。ふと、コボルト達の事を思い出し、紹介状がてら一筆手紙を書いて渡す。

討伐に成功したら精霊から取れるミスリル銀を分けてもらう、という内容だ。

初めは危険だし冗談がてら倒して貰ってきたら造る、と言ったら極々普通に了解された。

勇者をやるだけあって強いのかもしれない。

火の日 晴

一晩泊まった勇者様は早朝、コボルト達の所へ向かっていった。

送ろうかとも思ったが、地図を見てルートを把握していたので余計な心配のようだ。

だが夜になっても帰ってこない。

大丈夫なのだろうか? まさか精霊に? それとも行く途中か戻る途中に道を外れて遭難?

不安ばかり募るが既に日は沈み、細い弓なりの月明かりでは心許無い。

明日、早朝に勇者様を探しに行こう。

風の日 晴

早朝、一先ずコボルトの群れに向かった。

もしかしたら援軍が来た事で、一度体勢を建て直し総攻撃の準備をしているのかもしれない。という淡い期待があった。

コボルト達の集落に辿り着き見た物とは!

しっちゃかめっちゃかな宴会後と酔い潰れて寝ているコボルト達と勇者様だった。

心配して損をした。仕方が無いので起こすのも悪いし、全員に毛布をかけて帰った。

勇者様は日暮れになって戻ってきた。しかも結構大量のミスリル銀を抱えて。

コボルト達はかなり苦戦していたようだ。

沌の日 晴

今日、明日を使って剣を造る事にした。

勇者様は暇だから山の中へと入っていく。聞けば元々山育ちらしい。

色々と心配するだけ無駄だったようだ。

最高の剣にするべく、一心不乱に金槌を振るう。気付けば日が暮れつつある。

勇者様はというと日が沈むか沈まないかという頃に、現地で作った魚篭に魚を入れて帰ってきた。

ここから沢まで結構距離があったはずだしどうやって道をと聞けば、立派な角を持つ鹿の後をついていったと言う。

思わず狩られなくて良かった、と呟いたら山の主殿かどうかぐらい分かる、と言われてしまった。そりゃそうだ。

他に討伐するものも無く、今晩は勇者様とゆっくりと談笑しながら食事についた。

あまり多くの土地を回った事の無い自分にとっては、滅多に無い良い機会であった。

とりわけ金属製品を特産とする工業都市の話は非常に興味深かった。暇を見て技術を学びに行くのもいいかもしれない。

天の日 晴

日暮れあたりになって、ようやく剣が完成した。

ミスリル銀を打つと心臓が打ち震えるような高揚感を覚える。が、加工が大変で一振り造るだけでも時間がかかる。

自分が持ちうる力を全て出し切った、そんな満足感と気だるさが体中から溢れ出る。これと同じ出来をと言われても、当分はできないだろう。

勇者様は勇者様で鞘から引き抜いて刀身を見つめ……次に行動するまで数分の間動く事が無かった。

そして涙目でこれは最早芸術品だ。この世に二本とない名剣だ。本当に、ありがとう、と深々と頭を下げられてしまった。

本音を言えば多少は争い事があった方が金にはなる。が、自分達人類の命運を背負う勇者様のお力になれた事、満足していただけた事はとても誇りに思う。

と言ったら、君は裏がないな、と人懐っこそうな笑顔を向けた。

何とも人望が厚そうな人だ。自分とは真逆のタイプなのだろう。しかし自分自身、彼と話すと気持ちが良い。これが出来た人間の為せる事か。

冥の日 晴

勇者様は重ね重ね礼を言いつつ、日の出と共に旅立っていった。

願わくば彼の旅路に無事に終わらん事を。

しばらくは依頼が無い限り金槌を振るうのはよそう。休息は必要だ。

という訳で倉庫の改良の為、材料を集めに山に入っていく。最近気付いたが、ここも山中だ。

とは言っても、文字通り家の周りは自分の庭になっている所為で、この先の山を山の中だと思ってしまう。山の主様に罰を与えられそうな考えだ。

土砂崩れのお陰で近場で良い石がごろごろと採れる。

なんか幸先いいな。わくわくしてきた。新しい小屋でも造るか。今のところ使い道ないけど。

地の日 曇

なんかコボルト達が土産を持ってやってきた。よっぽど勇者様の援軍が嬉しかったようだ。

丁度来たのが生産職を担う奴らで、倉庫の改装を手伝い始めた。

なんで技術持ってる奴はどうしてこうも物作りが大好きなのか。自分もだが。

以外に早く倉庫の大改造が終わってしまった。倉庫のLvが5ぐらいあがった感じだろうか。

しばらくは鍛治以外の物作りしていると話したら、目聡く積まれた木材について聞かれた。

意味も無く小屋を造るつもりだと答えたら、他の連中も呼んでとっとと作っちまおうぜ、とか言い出した。

こいつら自分達の仕事はいいのか、と思ったら、更に新しい採掘場が見つかり、今は内部調査の為、非戦闘員の立ち入りを禁止しているらしい。

水の日 晴

小屋……というか小さい家ができた。本当に小さい家。

何だろう、一人用の小さい安い宿みたいな。作っている時は特に考えていなかったが、これ本当にどうしよう。

物作り会は夜に自分と六匹のコボルトで鍋をつついてお開きになった。

倉庫改造と小屋の案を一週間くらいかけてやろうと思っていたがどうしようか……。

明日は山を歩くか。

火の日 晴時々曇

軽く土いじりをして山に散歩。

土砂崩れの爪痕は今尚残るが、だいぶ青々として活気を取り戻しつつある。いい事だ。

上へ上へと進み、崩れた地点よりも上へと登ると良い山菜が群生している箇所に出る。

必要な分だけ採り上流の湖へ。二時間ほど粘ったが釣れたのは一匹だった。

戻ってくる頃には日が暮れていた。たまにはこんなスローライフもいいものだ。

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