国王「行け勇者よ! 仲間と共に使命を果たすのだ!」 2/3

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賢者「空間の広さには限界があるし、使いどころはあまり無いだろうけどね」

勇者「完全に汝のプライベートルームだなぁ。相変わらず置いてある書物の種類も変わらん」ズシィ

賢者「そりゃあね」

勇者「我が座れる椅子があるとはなぁ。エレメンタルも上達しているようだのぅ」ガハハ

僧侶「石造りの椅子……賢者さんも土の?」

賢者「砂漠っ子なので」

勇者「で、ここまで招いておいて情報が無いわけであるまい」

賢者「そりゃあね。まずはこれが邪神降臨の儀式の内容だ」ピラ

戦士「もうそこまで分かってんのか……すげぇな」

僧侶「生贄千人?!」

魔法「まさか儀式が行われる、という情報は……」

賢者「彼ら自身でリークしたんだろうね」

勇者「各国の兵士が生贄か。小賢しいやつらよのぉ」ガハハ

賢者「今更軍隊を下がらした所で手遅れの数が捧げられているだろう」

勇者「で、我はどうすればいい?」

賢者「おや、まずは君がどうしたいのかを聞かせてくれないと答えようがないなぁ」

戦士「!」

勇者「ふん、世界を守るだの英雄だのに興味はなーい」

勇者「だがその国には中々珍しい得物があると聞く。踏み入る大義名分には十分だ」

勇者「それを試す場にもなろうよぉ」ガハハハハ

魔法「ま、まさか……」

賢者「やっぱり降臨した邪神を討つ気だね」

僧侶「む、無茶です!」

僧侶「魔王を上回る災厄と言われているのですよ?!」

勇者「ガハハハハ! だからこそ討つのだ! 我は名誉も金も地位も何も要らぬ!」

勇者「ただ我が力を示したいのだ! そして我が力がどこまで通用するのかを見たいのだ!」

勇者「邪神? だからどうしたぁ! 魔王は世界を終わらす者と恐れられていたのだぞぉ!」

勇者「ただの災厄如き払えぬようで、初代勇者は越えられーん!!」

戦士「……やっぱただの戦闘狂じゃねえか」

勇者「ガハハハ! 褒め言葉と取っておこう!」

賢者「今分かっているのは、生贄が千人に達した時儀式は完了」

賢者「次の朝日を持って邪神は降臨する」

戦士「朝日と共にかよ……どんな邪神だ」

魔法「それよりも猶予がほぼ一日も無いだなんて」

勇者「して、捧げられた生贄の数はどのくらいになっておるのだ?」

賢者「まだ二百人程度だね。今からでも邪神降臨には間に合うだろう」

賢者「で、私が持っているカードで降臨を阻止する手段は無い」

戦士「……マジかよ」

魔法「例え勇者に殺されようと阻止さえできれば、と思っていたのに」

勇者「おいおい汝は我をなんだと思っておる」フゥー

賢者「あるのは件の得物の位置と邪神の弱体化。それと抜け道含めた詳細な地図ぐらいだ」

勇者「得物と地図だけで十分だなぁ」

魔法(弱体化の法を私達に教えてください)ヒソ

勇者「つまらん事はさせんぞぉ」ガッシ

戦士「くそ……駄目なのか」

賢者「本当に勝算が無いのなら私が隠密で弱体化させるさ」

僧侶「勝算があるというのですか?」

勇者「あぁ~? だぁから我を何だと思っておる」

勇者「我が斧で刈り取れん命など無いわぁ!」ガハハハ

賢者「君が負けるとは思わないが気をつけていってくれ」

勇者「ガハハハ! どれだけ杞憂な事か!」

勇者「もっとも我が慢心した事など一度も無いがなぁ」ブォン

僧侶「ゆ、勇者さん!」

賢者「私は君が警戒を解いた所を一度も見た事が無いが……逆に安心したよ」ブォォ

戦士「本当かぁ?」

賢者「殺気を放っていないから、信じられないのも無理はないね」

賢者「ただ……君達が後ろから斬りかかったとしてもまず勝てないよ。私にしても瞬殺されるだろうさ」

……

勇者「さぁて……ここから目的の国までは十日ほどか」

戦士「結構近いな……てか軍隊との戦闘をどう切り抜けるつもりなんだ?」

勇者「んぁー? 剣ばかりで脳みそが足らん奴だなぁ」

勇者「なぁんの為に周辺の地図を得たと思うておる」

魔法「地下にでも道があるのかしら?」

勇者「噂はされていたが……あやつも流石よ、しっかりと探し出しておるとはなぁ」

イケメン「なんだ……この醜い大男は?」

勇者「あぁ~? この細長い紙の束はなんだぁ?」

戦士「ちょ、勇者。町中で喧嘩腰は止めてくれ」

イケメン「これが勇者? 笑わせてくれる」

魔法「ある意味では勇者の品格よ」

僧侶「ある意味ですね」

勇者「我は初代勇者の血を引き○○国より賜っておるぞぉ」

イケ「これで勇者か……世も末だな」

イケ「正統なる勇者の末裔であるこの俺からしてみれば、目も当てられん醜悪な奴だ」

僧侶「正統な……勇者の末裔」ゴクリ

魔法「……こっちもある意味で確かに勇者らしいわね」

イケ「当然だろう、エレメンタルとて初代勇者と同様に代々雷を受け継いでいるのだ」

勇者「ガハハハハ! まさかそれが正統な理由だとでも?」

魔法「不十分な理由なのかしら?」

戦士「代々、だなんてそうそうないだろ」

勇者「汝らはおつむが足らんのぉ」フゥ

勇者「……○○×家の小倅かぁ」

イケ「だったらなんだ」

勇者「やれやれ、エレメンタルが雷だから正統ぅ? 阿呆らしくて呆れるわ」

勇者「確かに両親のエレメンタルを受け継ぎやすくはあるが、全ての者に全てのエレメンタルの要素がある」

勇者「次の世代が両親祖父母と関係の無いエレメンタルである事など珍しくもないわ」

勇者「それに周囲の土地の環境も影響する。こんなもの初代勇者の時からの話よ」

勇者「何より、○○×家はそうなるように動いておるきらいがあるからなぁ」

魔法「まさか……それって」

勇者「ゴハッ! その通り間引いているのだよ」

イケ「馬鹿なっ俺は第一子だぞ!」

勇者「だぁれがそれを保障する?」

勇者「汝の家系をよぉく見てみるがよい。両親も祖父母も雷ではないのかぁ?」

イケ「だったらなんだと言う!」

勇者「何故、伴侶までもが雷のエレメンタルなのかを考えてみろぃ」

勇者「まあ良い……正統かどうかなど我には興味がないからな」

勇者「でぇ? 正統なる勇者様が一人でなぁにをしておるか?」

イケ「……」

戦士「別の国で勅命を受けているとかか?」

イケ「……」

勇者「何処の国であろうと勅命など受けてはおらんさ」フゥ

僧侶「どういう事ですか?」

勇者「○○×家は繁栄し過ぎているのだよ」

勇者「こやつに命をかける勅命を授けた所で、それに見合う報酬が支払える国がないのだ」

勇者「哀れだな。汝の言うとおり正統であったとしても、何処の国からも頼られない勇者だ」ガハハハ

イケ「黙れ」

勇者「どぉした? 多くの初代勇者の血を引く者が勅命を受けて旅発っているぞぉ? 醜いと言ったこの我でさえなぁ」ガハハハハ

イケ「黙れぇ!」

戦士「勇者、それ以上は止めろ」

魔法「それほどの立場の相手であれば尚更問題は起こせないわ」

僧侶「そ、そうです……私達は争う為にいるのではないのですよ」

勇者「そうだなぁ……たぁだの勇者を構っている時間はなかったなぁ」

イケ「……決闘だ」

戦士「え?」

イケ「これほどの侮辱を受けて尚、引き下がっては○○×家の名を汚す事になる」

イケ「エレメンタルでの決闘だ」

……

戦士「おいおい、マジでやんのかよ!」

勇者「ガハハハハ! 我が負けるとでも思うてか!」

魔法「逆よ! 殺したら大問題よ!」

勇者「汝らは何かにつけて杞憂をするものだ。もっと楽に生きるが良い」フゥ

僧侶「あ、あんな凄い力を見せられて落ち着いてなどいられません」

イケ「両者、一切武器をしようしない……エレメンタルのみで戦闘を行う。いいな」

勇者「そぉら始まるぞ。汝らは散れ散れ。踏み潰すぞぉ」シッシッ

戦士「リアルにそうなりそうでこえぇ」

イケ「食らえ……雷撃!!」カッドォォン

「ゴギャアアアア!」

戦士「……お、おいおい大丈夫かあれ」

魔法「なんて強力な……」

僧侶「勇者……様」

イケ「……この程度終わると思うな」バチバチィ

...ォォォン

魔法「これは……」

戦士「砂埃が酷すぎて何も……」

僧侶「そんな……こんな事って」

イケ「口ほどにも無い。所詮は……っ!」ボワァ

勇者「ガハハハハ! 所詮はなんだぁ?!」ドズドズドズ

魔法「無傷……!?」

イケ「なっ、ならばこれで!」バチバチ

戦士「ら、雷球をあんな連続で!」

魔法「雷のエレメンタルで形を保つのは難しいのに……」

勇者「ゴハハハハッ! 効かんなぁ~!」ドドドド

僧侶「正面から受けて尚無傷だなんて……」

戦士「どうなってやがんだ?」

魔法「土は一部のエレメンタルに対して強力な堅さを誇る。その一部が雷だけども……それ以上に勇者の能力が高いのよ」

僧侶「あれが土の障壁……あの猛攻でさえ無傷だなんて」

勇者「どぉしたぁ? もう目の前まで来てしまったぞぉ?」ドズドズ

イケ「ぐ……くそ」

戦士「あれ、この流れやばくないか」

魔法「だ、大丈夫……きっとそれくらいの分別はできるはず」

イケ「なんでだ……なんでこんな……」

勇者「っはぁーー。自分に勝てない者はおらん、とでも思うていたかぁ?」

勇者「どぅれ。もう一つお前の自尊心を砕いておいてやるか。あそこの平地を見ておけ」

イケ「な、なにをするt」ッドオオオォォォォン

勇者「ゴハハハハハ! 少し勢いが過ぎてしもうたわ!」ォォォォン

戦士「ごほっげほっ……なんつー砂埃」

僧侶「こほ、こほ。何か、振ってきたような」

魔法「砂埃が晴れる……なにあの岩石」

イケ「……そこらの宿屋よりでかい」

勇者「どうだぁ? まぁだ決闘とやらをしたいかぁ?」

イケ「」プルプル

勇者「我はもう行くが汝はどうする?」

イケ「え……?」

勇者「来たければ来るが良い」

戦士「勇者がおかしくなった件」

勇者「汝は相変わらずな事よ」フゥ

勇者「雷のエレメンタルがいればこれで基本、全てのエレメンタルに対応できるというもの」

勇者「もっとも、邪神とやらはエレメンタルそのものは強くないようだがなぁ」

イケ「……ちょっと待て、降臨を阻止しにいくんじゃないのか?」

魔法「あ、この人の旅は地雷なので来ないほうがいいですよ」

勇者「やれやれ、それでも尚ついてくるか」ズシーンズシーン

イケ「当然だ……ここまでやられておめおめと引き下がれはしない」ガチャガチャ

僧侶「……凄い図ですね」

戦士「どう見ても勇者がお付きの戦士かなんかだろ」

魔法「でも一番強いのよねぇ……」

勇者「さぁてとっとと進むぞぉ」ガハハハ

……

勇者「ここが邪神を降臨させようとしている国かぁ?」

僧侶「そんなに北国という訳でもないのに雪が舞っていますね……」

勇者「儀式が進むと雪が降りだし、儀式完了と共に止むそうだ」

戦士「賢者情報だとしても具体的過ぎじゃないか」

勇者「これほどの邪神は初めてにせよ、こういった者の降臨は今までにあったようだなぁ」

魔法「その話は少し聞いた事があるわ……けれども詳細ははっきりと分かっていないのに。私も賢者の塔に行こうかしら」

イケ「平然と話しているがお前ら賢者の塔に行ったのか……実在するんだな」

勇者「我は得物を取ってくるが汝らはどうする?」

魔法「こんな物騒な所で待つなんてできないわ」

僧侶「ど、同感です」

イケ「邪神に対抗できる武器があるのか?」

戦士「ただ単に凄い武器ってだけだろうな」

イケ「……え、マジで?」

勇者「さぁ往くぞぉ」ガハハハ

イケ「あれが斧を振るうたびにスプラッター……しばらく肉食えねーわ」

勇者「ガハハハ! 見よこのどす黒い輝き!」

戦士「前の斧より物騒だな……」

勇者「死神の斧というものらしいなぁ」ブォンブォン

勇者「さぁて……邪神が降ってくるのを待つとするかぁ」

僧侶「その間、ずっと野営でしょうか?」

魔法「普通に宿に泊まれそうよ」

魔法「蟻一匹入れない防衛線を張っている分、中に居る人間には警戒をしていないみたいだわ」

僧侶「なんて快適な生活なのでしょうか」

戦士「どんだけ中にいる人間に警戒心が無いのやら」

勇者「それだけ守りがしっかりとしておるのだ。でなくては連合軍の猛攻など耐えられるわけがなかろう」

イケ「なあ……まさか邪神降臨までここにいる気か?」

勇者「あぁ~? 当然ではないかぁ。でなくてはわざわざこんな所におらんわ」

魔法「まあ……普通に買物もできるし特別不便はないわね」

僧侶「それでは私達はそろそろ宿に……」

戦士「お、おい……雪が!」

イケ「止んだ……儀式が……」

魔法「……遂に明日の夜明けに」ゴクリ

勇者「……」フルフル

僧侶「勇者様……?」

勇者「ガハハハハ! やぁっとかぁぁ! 待ちくたびれたぞぉ!」ズガズガ

勇者「汝らは夜明けの二時間前に起きろ。準備さえ済めば帰ろうと構わんわ!」ガハハハハ

戦士「準備……あたしらの力が必要? ないない」

僧侶「実際、ここまで来るのに勇者様一人で十分でしたからね」

魔法「……恐らく彼の考えは私達のエレメンタルの障壁を張る事ね」

イケ「ああ……そういう事か」

戦士「いくらなんでもあたしらだけじゃ足らなくないか?」

魔法「火、光、風、雷、土……確かにもう少し欲しいところはあるけれども」

魔法「ほぼあらゆる攻撃に対抗できるようになるわ」

イケ「若干壁が薄い箇所もあるが、これだけ貼れるとなると相当強固なものになるだろうな」

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