戦士「よろしく頼むぜ、勇者さんよ」
僧侶「よ、よろしくお願いします!」
魔法「全力で力になりましょう」
勇者「ガハハハ! 若い女子ばかりで目の保養になるわい!」ズゥゥン
僧侶「えっ」
戦士「……なんだこのおっさん」
魔法「巨漢だわ……縦にも横にも」
戦士「なんか寝取る側のオヤジキャラが来たぞ、おい」ヒソヒソ
魔法「そうね……私もこのような方が来るとは」
勇者「ガハハハ! 聞こえておるぞ。そもそも汝らは相手がおるのか」
戦士「……」
僧侶「……」
魔法「私は魔法一筋、戦士は剣一筋、僧侶はずっと教会暮らしだったかしら」
勇者「なんじゃつまらん奴らじゃのぅ。若いくせに寂しい奴らめ」フゥ
戦士「あぁ?! 手前はどうなんだよ! 年幾つだよ、結婚してんのかよ!」
戦士「どう見たってあたしらとダブルスコアじゃねーか!」
勇者「我にはそんな俗事など気にもせんからなぁ」ガハハ
戦士「気にしないじゃなくて、諦めているだけだろう!!」
勇者「これでもちょっとした領主であるぞ。その気であれば相手などいくらでもいるわ」
勇者「して、貴様らは我が名乗らねば自己紹介もせぬのか」
戦士「ぐあぁ超上から目線!!」
魔法「見た目の強さも貫禄も向こうが上。ましてや目上の者なんだ、こちらからするのが礼儀だろう」
勇者「ゴハッ! そこの女子は道理が分かっているではないか」
戦士「っち! あたしは戦士だ。この国においてあたしに剣で勝てる奴はいねー。属性は炎で攻撃特化だ」
僧侶「わ、私は僧侶です。今まで教会に務めていまして、戦力は乏しく攻撃魔法も不得手ですが回復と支援なら……属性は光です」
魔法「私は魔法使い。この国で雇われています。支援と攻撃は得意でエレメンタルは風」
勇者「そうかそうかぁ」
勇者「我は知っての通り勇者だ。生まれ持つエレメンタルは土だ」ガハハ
戦士「つ、土……」
勇者「そう眉に皺を寄せるでない。土のエレメンタルとは母なる大地の恩恵」
勇者「汝らには土の力の偉大さを見せてくれよう」ガハハハハ
僧侶「あの……差し支えないようでしたら、勇者様の属性における得意とされる分野をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
勇者「我は攻撃と回復よぉ。守りを固められはするが、それだけでは支援を得意とするとは言えんなぁ」
魔法「あら……土のエレメンタルは攻撃と支援を主体とするものでは?」
勇者「古い話よ。全てエレメンタルは三つの要素を持ち得ておる」
勇者「得意とする要素はあれど攻撃不可はないし、回復不可もありえんよ。多少の優位性はあれど、主体という事は無い」
戦士「あたしは回復とかできないけどな。あ、筋力なら上げられるな」
勇者「そこは個人差であろうなぁ」
勇者「国の推薦とは言え、そのような貧弱な装備で切り抜けられるのかのぅ」
戦士「これでもこの国の最高級の装備なんだが」
僧侶「勇者様の装備は凄い物々しいですよね」
魔法「とてつもなく巨大な大斧ですね……」
勇者「ガハハハ! 破壊者の斧と呼ばれ、砂漠の奥地に奉られるものよぉ」
戦士「砂漠ぅ? どうやって手に入れたんだ?」
勇者「我が治めていた領地は砂漠。少し前に領主を弟に任命して単身奥地に向かっただけの事よ」
僧侶「た、単身……」
魔法「こんな大男が砂漠を闊歩しているのを見たら、魔物も裸足で逃げ出すわね」
勇者「汝らは旅支度はもう済んでおるのか?」
戦士「一通りの物資が援助されているし、荷物もまとまっているぞ」
勇者「なんじゃ支援物資があるのか。資金援助だけだろうと思うて揃えてきてしまったではないか」
魔法「その大荷物はそういう……」
僧侶「これ、どうするのですか?」
勇者「運べぬ量でもあるまい。我が持っていくとするかのぅ」ズゥン
戦士「大人数人分の大きさを軽々と……」
魔物の群れが現れた!
魔物A「ガルルっ」
戦士「初戦闘っつても実戦経験が無いのは僧侶くらいか?」
僧侶「あ、あれが魔物……」
魔法「この前衛二人がいる限り、私達は焦る必要が無いのよ?」
勇者「そもそもこの程度、瞬く間に終わるというものよぉ」ズォッ
魔物B「ガウッ! ガウッ!」
勇者「ほぅれ。吼えていないで避けてみぃ」ブォッ
魔物ABC「」ボボボンッ
戦士「い、一撃でミンチ」
魔法「武器もさることながら凄い力ね」
勇者「ガハハハ! これでも荒くれの多い砂漠の領主よ。この程度できんでどうする」
僧侶「お、弟さんもですか?」
勇者「あやつらは我より小さいものよ。最も戦士よりも背丈も体格もがっしりしとるがなぁ」
戦士「それでも十分でけぇからな」
魔法「勇者が物凄い規格外なだけよね」
僧侶「……もしかして私要らない子?」
戦士「現時点じゃあたしら三人共じゃね」
勇者「なぁに。我とて全能ではない。いずれ汝らの力が必要となる時はいくらでもあろう」ズシーンズシーン
魔法「……説得力皆無ね」
勇者「んむぅ? まぁた犬っころの魔物かぁ」ブォン
戦士「現れる魔物を無造作にミンチにしていく……」
僧侶「勇者様強すぎです」
戦士「これで属性の力も強かったら……」
勇者「これでもそこ等の奴らには負ける事は無いぞぉ」
勇者「なんなら軽ぅく見ておくかぁ?」
僧侶「よ、よろしければ是非」
魔法「私からも是非ともお願いしたいわ」
勇者「よかろうよかろう、あの大岩を見ているが良い」ガハハハ
勇者「ほぅれ」ズガァン
戦士「……槍のような岩が隆起した」
僧侶「岩が粉々に……」
魔法「3mはあるわね……」
勇者「やはり力加減が難しいのぉ」
勇者「とは言え、この様な所で全力でやる訳にもいかんからなぁ」ガハハハ
戦士「これで加減してんのかよ……」
魔法「私達、本当に不必要ね」
僧侶「えっと……私達は国に戻ったほうがいいのでしょうか?」
勇者「何を言うておる。遠距離攻撃に長けた風や水のエレメンタルを持つ者が現れたら我では勝てぬのだぞ」
僧侶「そうなのですか?」
勇者「なんじゃ。汝は各エレメンタルの特性を知らぬのか」
魔法「土のエレメンタルは見向きもされないのよね……」
勇者「土とは大地、岩石、砂の力を持つエレメンタルよ」
勇者「風と合わされば砂塵となりて形あるものを崩す風化の力を得る」
魔法「風との親和性が高いのよね」
勇者「岩石は堅き守りを形成し、大地は命を育む力を蓄え……そして奥深くに眠る地殻の力をも引き出す」
戦士「土について全く知らなかったがこう聞くとすげー力を持っているんだな」
勇者「しかし本質は形あるものの力だからな。浸食の力を持つ風や水には滅法弱いのだ」
僧侶「親和性があるのにですか……」
戦士「魔法使い、属性で勇者に勝てるか?」
魔法「これだけ強い相手だとどうしようもないわね」
魔法「エレメンタルの優劣の差を埋めても余る力量だもの……十人私がいても勝てる気がしないわ」
僧侶「本当に私達要らないですね」
勇者「魔法使いの例えは飽くまで我が攻撃できた時の事よ。魔法使いに先制を取られたら数人と必要あるまい」
戦士「守りを固められるんじゃねーのかよ」
勇者「魔法使いの力量次第ではあるものの、一撃で守りを崩され二人目以降は直撃するであろうな」
戦士「あたしら一度も戦わずに町に着いたな」
勇者「しばらくすれば連中も組織的に攻撃してくるやもしれんなぁ」
勇者「ともすれば、我の手が回らない部分は汝らに委ねざるをえまい」
魔法「魔王軍……」
勇者「なんじゃ汝らは何も聞いておらんのか」
僧侶「え……魔王と戦うのでは?」
勇者「魔王なんぞ我のご先祖様、初代勇者がとうに滅ぼしたわ」
勇者「蘇るなどふざけた話などありはしまい」
勇者「どこぞの狂信者が邪神を降ろそうとしておるのだ」
勇者「魔王を以上の災厄となる、という話だ。それを阻止するのが我らの役目よぉ」
戦士「……あの王様、とんでもない勅命を。だけど魔物はいるんだぞ? どうなってやがる」
勇者「儀式がそれだけ進行しているのだろうよぉ。時空の裂け目より邪神の力は漏れ出し、影響を受けておるのであろう」
魔法「まだ降ろされていないのであれば、乗り込んで儀式を滅茶苦茶にしてしまえばいいだけかしら」
勇者「なんじゃ軍隊が動いている事さえも知らぬのか」
僧侶「何時の間にそんな……」
勇者「最早儀式は止められん。が、儀式完了直後に降臨するわけではないようだ」
勇者「そこから幾ばくかの時間を有する。軍隊は儀式の遅延を狙ったものよ」
勇者「我は大まかな儀式の内容を聞いておる」
勇者「目的地までに道中で邪神降臨を阻止する手段を探し出し、実行せよというのが本任務であるのだ」
戦士「無茶振りもいいところじゃねーか……」
勇者「ゴハッ! 確かにな。だが各国でも身近な初代勇者の血を引く者が派遣されているであろう」
勇者「汝らは宿でも取って休むがいい」ズシズシ
戦士「お前はどうするんだよ」
勇者「我が寝泊りできる施設があるはずもなかろう」ズゥゥゥン
魔法「ああ……そういう」
僧侶「そんな……それでは勇者様があまりにも」
勇者「汝……この国が砂漠からどれほど距離があると思うておる」
戦士「今更な訳か」
魔法「けれども……国王はどうしてそんな離れた所にいる貴方に勅命を?」
勇者「大方、有力な者達は既に他国に取られたのであろう」
勇者「下手をすれば勇者の血筋による精鋭の先発隊がおるやもしれんなぁ」ガハハハ
戦士「え、じゃあうちの王様は何を考えてんだ?」
勇者「何もしなかった、では後の世でどうなるかは明白。その程度であろうなぁ」
勇者「勇者の血筋としては知名度が低い我が呼ばれたのだ。あやつとて期待はしておるまい」ガハハハ
戦士「……あれ、どう思う?」
魔法「私はついて行ったほ方が楽しめると思うわ」
僧侶「た、楽しむって……」
魔法「とても悪人には見えないし、あれだけの力を持つ人はそうそういないわ」
魔法「確かに私だってこの召集に今更感があって諦めていたわ」
魔法「でもあの人なら……他の勇者達を出し抜くことが出来るかもしれないわ」ニタァ
戦士「お前は欲で目が眩んでやがるな」
魔法「より良い研究環境を得られるとあればね」
僧侶「わ、私はどうも……」
戦士「あたしだってそうさ。あれが何を考えているか分からない」
戦士「むしろ魔法使いの逆さ。あれだけ力があって辺境の領主に収まっておきながら、この召集に応じた事が不気味だ」
戦士「とんでもないことを企んでいるんじゃないのか」
魔法「さあ、私には分からないわ」
戦士「お前なぁ」
魔法「もし本当に危険人物だとして、彼から逃げ出すとしてもタイミングを計らずには成功はしないわ」
魔法「彼のエレメンタルは都市鎮圧型とも言える領域よ。自らの害になると判断したら……」
僧侶「周辺全てを巻き込んで……」
戦士「っち……とんでもねー貧乏くじだぜ」
魔法「飽くまで悪人であると仮定した場合の話よ」
魔法「最も人らしい悪人であればだけどもね」
僧侶「どういう事ですか?」
魔法「力を貪欲に欲するとか強い者を倒すというのが願望だとしたら」
戦士「っ! 邪神降臨に手を貸す、か?」
魔法「悪い方に悪い方にと考えればね」
翌朝
戦士「そういえば合流場所決めてねーけどどうするんだ?」
魔法「え、必要かしら?」
僧侶「……あ」..シーンズシーン
勇者「やぁっときおったか。遅すぎて欠伸がでるわぁ」ズシ
戦士「なるほど……確かに不要だな」
魔法「これだけでかいと建物でもないかぎり隠れる事はないもの」
勇者「なぁにをしておるか。物資も買い足す必要もあるまい。とっとと行くぞ」
戦士「なあ、この旅は先ず情報集めなんだよな。何処に向かうつもりなんだ?」
勇者「この先にある魔法に長けた国がある」
僧侶「そこで情報収集するのですね!」
勇者「邪神に関する情報があると思うてか。その近くにある山岳地帯に賢者の塔がある」
魔法「眉唾の噂ではないのですか?」
勇者「いいやぁ塔も賢者達も実在しておる。うち一人は我と旧知の間柄だからなぁ」ガハハハ
僧侶「聞いたことあります?」
戦士「ねーな」
魔法「それぐらい信憑性の無い話なのよ」
賢者「おお、久しぶりじゃあないか」
勇者「ガハハハハ! 二十年ぶりぐらいかぁ?」
戦士「にじゅ……」
僧侶「私……生まれていませんね」
魔法「どれだけ会っていないのよ」
勇者「あー? こやつが賢者の塔に行き賢者になると行ってから会っておらんなぁ」
戦士「どうやってここの位置を?」
賢者「私は魔法を駆使ししてここまで辿り着きました。彼には数度手紙を飛ばした際に伝えたのですよ」
魔法「……なるほど魔法で手紙を飛ばしたのね」
勇者「そういう事よぉ。まさかあんな事ができるようになるとは思っとらんかったわぁ」ガハハ
僧侶「でも数度程度なのですか……」
賢者「研究に熱が入ってしまって私が送らなくなりました」
賢者「それにしても随分とまあ華のあるメンバーだ。君も邪神降臨阻止の為に動いているのかい?」
勇者「勅命ゆえになぁ」ガハハ
賢者「ま、君が旅立つという知らせが入った時はこうなると思っていたよ」
勇者「汝と最後に連絡を取り合ったのは三年前のはずだったがぁ?」
賢者「おいおい、私はもう賢者だよ。ここにいながら君の行動ぐらい確認する事はできるさ」
勇者「ゴハッ! 随分と立派になったではないか」
賢者「君こそじゃないか」
戦士「すげー会話だ」
魔法「全くね」
賢者「立ち話もなんだし、と言いたいがそうもいかないな」
勇者「ふんっ。今に始まる事でもないわ」ズゥン
賢者「ふふ、だが私は列記とした賢者なのだよ」パチン
戦士「景色が……!」
魔法「屋内? 転移魔法?」
勇者「ゴハッ。また随分ととんでもない魔法を編み出しおって」
僧侶「どういう事ですか?」
勇者「実在しない場所、全く別の空間を生み出しおった。亜空間を生成したと言うべきかぁ」
賢者「流石というべきか。よく分かったね」
戦士「そ、そんな事ができるのか……」