勇者「旅に出る前に言っておきたいことがある」 4/6

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勇者「いや、真剣にと言っても。あんな可愛い子が子猫を抱いてるんだから、緊張感なんて出ないし」

遊び人「あは♪かわいいねー、拾ったのー?」

魔王「近付くな!!―――メラゾーマ!!!」

遊び人「え―――ぎぃああああああ!!!!!!!」

僧侶「ああ!?!」

勇者「遊び人!!!!」

魔王「汚らわしい人間どもめ……塵も残さんぞ……!!」

遊び人「ぁ……う……い、た……ぃ……」

勇者「遊び人!!遊び人!!!」

僧侶「今、治療を!!」

魔王「させんぞ!!―――マヒャド!!」

勇者「な―――はがぁあぁぁぁああ!?!?!?」

僧侶「兄さん!!!」

武道家「てめえ!!!いい加減にしやがれ!!!」

魔王「ふん!!!」

武道家「な……!?こんな華奢なやつに……私の蹴りが止められた!?」

魔王「死ね……!!―――イオナズン!!」

武道家「ぶ―――あぁあああぎぁあああぁあ!!!!!!」

僧侶「あ……あ……」

魔王「残るは貴様だけだ……」

子猫「にゃあ」

魔王「あ、おい。どこにいく!?」

勇者「ぐ……あ、そび……にん……」

遊び人「お、にい……ちゃ……い、たい……よぉ……」

武道家「から、だが……あつい……」

子猫「にゃぁん♪」

僧侶「ね、ねこが……兄さんのところ、に……?」

勇者「あ……?なんだ?」

子猫「にゃあにゃあ」

魔王「おい。どうしたというのだ?この者がどうかしたのか?」

子猫「にゃあ♪」

勇者「あ、はは……かわいぃ……猫だ、な」

魔王「……」

勇者「……これが、ほしいの、か?」

魔王「それは……!?」

僧侶「あめ、だま?」

猫「にゃああ♪」

魔王「我と同じものを……」

猫「……(クンクン」

勇者「……」

魔王「貴様……この者の考えが分かるのか?」

勇者「どうだろ……でも、君のことは……わかる」

魔王「なに?」

勇者「君は……優しい」

魔王「……!?」

勇者「猫は……優しいやつにしか懐かないから……だか、ら……君は、やさ、しい……」

魔王「貴様……その手には乗らんぞ。人間はそうやって甘言し、惑わせ、そして奪う。狡猾な生き物だ」

僧侶「あ……やめて!!」

魔王「……そのまま死ね」

勇者「……きみみたいな……かわいい、こに……みとってもらえ、るなら……うれ、しい……ようなきが、する」

魔王「―――お前!!!この状況が分かっているのか!!!!」

武道家「……ろ、りこん……が……うぅ……」

勇者「……あ、でも……殺す、ときは「お兄ちゃん、死んで」って……いってくれる?」

魔王「は、はぁ!?」

僧侶「兄さん!?」

勇者「妹に、ころされるって……いいよね」

僧侶「よくないですよ!!!」

子猫「うなんな」

魔王「くぅぅぅぅぅ!?!?」

魔物「魔王様!!街は完全に陥落いたしました!!人間は全て排除しました!!」

魔物「お?これも人間か……よし」

遊び人「あ……」

魔王「もうよい!!引き上げだ!!」

魔物「え?良いんですか?」

魔王「構わん!!この者たちは街の人間ではないようだ。だから構わん!!」

魔物「わかりました……。―――よし!引き上げだ!!」

魔王「命拾いしたな……。さらばだ」

僧侶「た、たすかった……」

勇者「あ……治療をたのむ……」

僧侶「あ、すいません!いますぐ!!」

勇者「いや、俺は最後でいい。遊び人とお姉ちゃんから先に……」

僧侶「兄さん……わかりました!!」

武道家「しぬ……やべえ」

遊び人「きゃう……」

僧侶「ベホマ!!」

勇者「―――はぁ……」

勇者「可愛かったなぁ……」

勇者「でも、あの強さ……普通じゃない」

勇者「多彩な呪文も使ってたし……魔物も率いてた」

勇者「あれが……魔王か」

勇者「絶対……妹にしたい」

勇者「そのためには……もっと力が必要だ……力が……」

―――魔王の城

魔王「くそ!!くそ!!」

スライム「魔王さま!?落ち着いてください!?」

魔王「なぜだ!!何故、我はあそこで人間を見逃した!?我は……人間を根絶やしにするために赴いたのだぞ!?」

スライム「魔王さま……」

魔王「くそ!!くそ!!!―――なんだ、この苦しさは!!」

魔王「ふぅ……息が苦しい……胃の中に鉛でも入れられたようだ……」

―――君は……優しい

魔王「優しいってなんだ!?我は魔王ぞ!?人間に優しいなどど……!!」

―――きみみたいな……かわいい子に

魔王「可愛いってなんだ!?我は魔王だ!!そんな偶像を褒めるような言葉で罵ったつもりかぁぁ!!!」

スライム「きゃぁぁぁ!!!魔王様がご乱心ですぅぅぅ!!」

子猫「にゃー!!」

魔王「はぁ……はぁ……馬鹿にしよって……」

魔王「今度、会ったときは必ず息の根をとめてやる……くそ!!」

―――翌日 街

武道家「ちっ……生存者はなしか」

遊び人「悲しいね……」

僧侶「愛しき者たちよ……その御心を鎮め、天へと―――」

勇者「……」

武道家「どうしたんだ?いつになく真剣な顔で」

勇者「お姉ちゃん……俺たちは弱い」

武道家「え……?」

勇者「このままじゃ、いつか殺される」

武道家「あ、ああ……(なんだ?こいつ、こんなかっこいい表情もできるのかよ……)」

勇者「なにより。俺自身が弱い。これじゃあ、妹もお姉ちゃんも守れない」

遊び人「お兄ちゃん……」

武道家「お前……」

勇者「だから、力を付けよう」

僧侶「……ふう。行くんですね?―――ダーマ神殿へ」

―――ダーマ神殿

神官「では……職業を選べ」

勇者「ここではどんな職業にでもなれるんですよね?」

神官「そうだが?」

勇者「なるほどね……よしよし……遊び人!!」

遊び人「はぁーい」

神官「遊び人か……」

武道家「やっぱり……賢者か?」

僧侶「それが一番の戦力アップになりますからね」

勇者「遊び人……これから賢者として生きていってほしいんだ」

遊び人「お兄ちゃんがそういうなら……私、賢者にでもなるよ」

勇者「ありがとう……デュフフ……(これで魔王妹化計画に一歩前進だ)」

武道家「なんか企んでないか?」

僧侶「まさか……どんなことを?」

武道家「いや、わかんねえけど……鼻の下伸びてるし」

神官「―――では、これから遊び人は賢者として生きていくがよい」

賢者「はい」

武道家「おぉ!?なんか雰囲気ががらっと変わったぞ?」

僧侶「そうですね。子供っぽさが一気に無くなった気がします」

勇者「今の気分はどうだ?」

賢者「いえ。とくに」

勇者「そうか……」

賢者「では、いきましょう」

勇者「あ、あれ?賢者?」

賢者「はい?」

勇者「ほら、向こうにソフトクリームあるけど?」

賢者「それが何か?」

勇者「いや……食べないの?」

賢者「結構です」

武道家(……おし。―――いやいや!なにがおしだよ!?私、疲れてんのか?)

―――街道

魔物「ぎゃぴるっぴぃぃぃ!!!!」

賢者「イオラ!!」

魔物「ぎゅるるるるる!?!?」

勇者「賢者、危ない!今たすけ―――」

賢者「メラミ!!!」

魔物「ぐおぁおぁお!??」

勇者「あ……」

賢者「終わりです」

僧侶「すごいです!」

賢者「いえ。この程度、造作もありません」

武道家「ほらほら、もう妹離れしろ」

勇者「うぅ……おねーちゃん!!」

武道家「よしよし」

賢者「……ふん」

―――夜営

武道家「ふんふーん♪」

僧侶「……なんだか姉さんがご機嫌ですね。今日のお料理当番は私なのに、代わって欲しいなんて……」

勇者「そうか?」

僧侶「ええ」

勇者「それより……僧侶」

僧侶「は、はい?なんで手を握るんですか?」

勇者「もう僧侶だけなんだ」

僧侶「なにがでしょう?」

勇者「こう……分かりやすい妹は」

僧侶「意味がわかりません」

勇者「かわいいってことだよ!!―――あぶぶぶ!!!」

僧侶「あん!ちょっと、兄さん!?胸に顔を埋めるのはやめてって、いつも―――」

勇者「でへへへへへ!!妹のくせにけしからんおっぱいをしているほうが悪いんだ!」

僧侶「ちょ……もう……」

武道家「おらぁぁ!!!またかこらぁぁぁ!!!!」

勇者「へべべぇぇ!?!?」

僧侶「はぁ……」

武道家「ったく。油断も隙もあったもんじゃねえな。ほら、できたぞ」

僧侶「わぁ……クリームシチューですか」

武道家「このへんは肌寒いからな。温まろうぜ」

僧侶「はい」

勇者「ぐぞ……いつも俺ばっかりが……酷い目に……」

賢者「……」

勇者「お……?」

賢者「もう私には近付かないでください」

勇者「は?」

賢者「……」

勇者「え……賢者?あのー」

賢者「近付かないでください」

勇者「はぁ……」

賢者「……ズズ……」

武道家「勇者、おかわりいるかぁー♪」

勇者「え……うん」

僧侶「どうかしたんですか?」

勇者「いや……なんか賢者に嫌われてるみたいで……なにかしたかなぁって」

武道家「そりゃ、お前が僧侶に変なことをしたからじゃないのか?」

勇者「ええ?!なんかした!?ねえねえ、僧侶、俺、なんかしたぁ!?」

僧侶「いえ……」

武道家「妹にセクハラしてたじゃねーか!!!!」

勇者「ばかやろう!!他人同士ならセクハラでも、兄妹ならスキンシップだろうがよぉ!?あぁ!?」

僧侶「兄さん……」

武道家「―――砕け散れ!!!ゲス弟がぁぁぁ!!!」

勇者「あっちぃぃぃぃ!!!シチューをぶっかけないでぇぇ!!!」

賢者「……馬鹿」

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