勇者「旅に出る前に言っておきたいことがある」 5/6

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―――魔王の城

魔王「……」

スライム「魔王様、どうかしたの?」

子猫「にゃ?」

スライム「なんか、ここ最近へんでさぁ。天井を見上げては溜息ついて、ときどきベッドの中で足をバタバタさせてるんだよ」

子猫「にゃぁ……」

スライム「ホントだよね。元気ないよね、あの一件以降。外にも出なくなちゃったし」

子猫「うにゃぁ」

スライム「どうしたんだろうねぇ」

魔王「はぁ……」

子猫「にゃーん?」

魔王「なんだ?」

子猫「にゃあ♪」

魔王「ふふ……くすぐったいぞ……指を舐めるな……ふう」

子猫「にゃぁ……」

―――夜営

勇者「ここら辺は魔物が凶暴だ。だから見張りをしようと思う!」

武道家「……」

僧侶「……」

賢者「……」

勇者「じゃあ、俺に任せてみんは寝てくれ」

武道家「わかった……僧侶」

僧侶「は、はい?」

武道家「あれ、持ってきて」

僧侶「あ、はい」

勇者「妹の夜は兄が守る!!―――あれ?なんか、身動きがとれませんよ?」

武道家「簀巻きの状態で見張っててくれ」

勇者「えぇぇ!?!?お姉ちゃん!!これはないよ!!俺のゴールデンタイムを奪う気!?」

武道家「見張りだろ!!!ゴールデンタイムってなんだよ!?!」

賢者「おやすみなさい」

勇者「しくしく……お姉ちゃんの馬鹿……これは、賢者との親睦を深めるためにだなぁ……」

賢者「……親睦ってなんです?」

勇者「わぁ!?―――賢者か。おしっこ?」

賢者「最低ですね」

勇者「え……あ、そっか。ごめん」

賢者「……はぁ。隣、いいですか?」

勇者「え、うん」

賢者「……」

勇者「どうかしたのか?寝た方がいいぞ?」

賢者「……お、お、にい、ちゃんに見張りを任せてたら……おちおち寝てられません」

勇者「え?」

賢者「……」

勇者「もう一回、言って?」

賢者「意味がないです」

勇者「いいじゃんいいじゃん!もう一回!アンコール!アンコール!!」

賢者「おちおち寝てられません」

勇者「その前!」

賢者「……お、おにいちゃん……」

勇者「ふん!!!!」

賢者「わ!自力で縄を!?」

勇者「やっぱり、お前は一番かわいいよぉほほほほほ!!!」

賢者「うざい」

勇者「そんなこというなよぉ!」

賢者「離れて」

勇者「やだぁー賢者ーいい匂いだぁ♪」

賢者「……やっぱり、様子なんて見に来るんじゃなかった」

勇者「でへへへへへへ」

賢者「もう……うっとうしいなぁ」

勇者「でも、嫌がってないな!これは合意とみてよろしいですか!?」

賢者「……しらない」

勇者「は!?―――ふう、お姉ちゃんはいないか」

賢者「もう。いい加減にして」

勇者「―――賢者」

賢者「な……なにをいきなりそんなハンサムな声で……」

勇者「俺……賢者のそういうところ、大好きだ。もちろん、前みたいに無邪気なほうも素敵だったけど」

賢者「あ、の……顔、ちかいから……」

勇者「妹のファーストキスは……兄のもの、だろ?」

賢者「おにい、ちゃん……やめて……」

勇者「んー……」

賢者「ちょ……だ、め……だって……もっと、ちゃんと、したところで……」

武道家「―――踵落とし!!!!!」

勇者「ぷっぺぇぇん!?!!??」

武道家「―――ったく。お前は発情期の犬か!?」

賢者「あ……ふぅ……」

武道家「まったく……遊び人でも賢者でも一緒なのか……つまんねぇなぁ」

―――魔王の城

魔王「この写真は……アイツ……勇者だったのか……よし!決めたぞ!!!」

スライム「どうかしたんですか?」

子猫「にゃあぁ?」

魔王「悩んでいても仕方がない。我が出向く!!」

スライム「おお!!今度はどこの街を!?」

魔王「街ではない」

スライム「は?」

魔王「最近、勇者一行が我の同胞を痛めつけているらしいではないか」

スライム「ああ、確か……その新聞記事に出てる人ですね。男前ですよね」

魔王「あ、そうだな―――いやいや、そんなことはどうでもいい。私は勇者を殺す!!」

子猫「にゃぁ?」

魔王「これ以上、好きにはさせんぞ。勇者め!!ふはははははは!!!」

猫「にゃぁぁ!」

魔王「お前も行くか?―――よし、行くぞ!!人間の希望を潰せば、我に仇名すものはいなくなるだろう……ふふふ!!」

―――街

魔王「くそ……人間どもめ……のうのうと……」

魔王「貴様らが我にした仕打ちは忘れんぞ……」

魔王「それにしても勇者はどこだ?」

魔王「うーん……(キョロキョロ……」

住民「どうしたの?迷子?」

魔王「な!?」

住民「あ。猫……飼い主でも探してるの?」

魔王「汚らわしい!!近付くでないわ!!殺されたいのか!?」

住民「なにを失礼な。俺は親切で……」

魔王「人間の施しなど受けぬ!!―――消されたくなければ、どこかにいけ!!」

住民「なんだ……この子?」

勇者「―――そこまでだ」

住民「いっ!?何しやがる!?腕をはな、いででで!?!」

勇者「こんな女の子に何をした?」

魔王「お、おまえ……!!」

子猫「にゃぁ……」

住民「なにもしてない!!何もしてないって!!」

勇者「本当か?」

住民「声をかけただけで―――」

勇者「声をかけただと!?十分、犯罪だ!!このロリコンやろう!俺が成敗してくれる!!」

武道家「やめろ!!!」

勇者「ぐっぱぁぁ!!!」

僧侶「あー!兄さん!!」

賢者「ロリコンがロリコンに説教とは、世も末」

住民「ひぃぃぃ!!」

魔王「あ、待たぬか!!」

武道家「まて」

魔王「む……」

僧侶「あなた……魔王ですよね?」

―――喫茶店

店員「いらっしゃいませ。何名様ですか?」

武道家「五名です」

店員「奥のテーブル席にどうぞ」

僧侶「どうも」

賢者「……」

勇者「クンクン……」

魔王「なんだ?うっとうしい」

勇者「いやぁ。やっぱり可愛い子の匂いは最高だなぁ」

魔王「貴様……我を愚弄しておるのか?」

勇者「まさか。愛でてるにきまってるだろぉ!頬ずり頬ずり!」

魔王「うわ!やめえい!!気色悪い!!!」

武道家「―――生き恥を晒すんじゃねえ!!!!」

賢者「ロリコンには死を……メラゾーマ」

勇者「ひんぎゃぁああああああ!!!!!」

勇者「おぉぉぉ……」

僧侶「兄さん……もうあまり変なことはしない方が……」

勇者「僧侶だけだな……優しい妹は……うぅ……その魅惑のユートピアで俺を癒してくれぇぇぇ!!」

僧侶「あぁん!だから、胸に顔を……!!」

魔王「イオ」

勇者「ぶぎゃ!?」

賢者「イオラ」

勇者「ぶちょ!?」

武道家「さてと、ゴミ掃除が済んだところで……魔王、こんな街中でなにやってた?また、街を滅ぼそうとしてたのか?」

魔王「ふん。そんな気はなかったが、この街の人間どもを見ていると腸が煮えくりかえってきたわ!!」

僧侶「あの……どうしてそんなに人間を憎むんですか?」

魔王「人間は魔物以上に凶悪で野卑な生き物だ……死んで当然であろう!!」

賢者「すごい恨み……」

勇者「おぉ……いてぇ……なにかあったのか?」

魔王「……言いたくもないわ!!」

勇者「―――ダメだ。言いなさい!!」

魔王「貴様!!我に指図するか!!」

僧侶「兄さん!!」

勇者「言え。魔王……何があった?」

魔王「それは……」

勇者「俺は不思議で仕方がないんだ」

魔王「なにがだ?」

勇者「君が人間を滅ぼすだの、殺すだの、そうして無理をしているのが」

魔王「無理などしておらん!!我は……!!」

勇者「じゃあ、その腕の中で寝ている猫はなんだ?」

魔王「え……?」

子猫「うにゃぁ……すー……」

魔王「これは……」

勇者「こんなにも油断しきった猫は中々見れない……君が本当に優しくないとね?」

魔王「お……おぉ?!や、ややさしい、だと!?」

武道家「なんか言いだしたぞ」

賢者「変態」

僧侶「まあまあ」

勇者「どうしても話したくないか?」

魔王「う、うむ……」

勇者「そうか。なら無理には聞かない。でも、これだけは言っておこう」

魔王「なんだ……」

勇者「お前は……美しい」

魔王「なぁぁぁぁああああああ!!?!??」

武道家「……!!」

賢者「……!!」

僧侶「お二人とも!!ちょっと、押さえてください!!兄さんなりの説得だと思いますから!!」

勇者「君の怒りは、その美貌を霞ませる。どうか、もっと微笑んでほしい」

魔王「お、おい……手を握るでない……やめろ……」

勇者「人間を好きになれとはいわない……だけど、君が見たのはほんの一部でしかないはずだ」

魔王「一部だと……?」

勇者「ああ。この世の中には影も光もある。それを見ずしてどうして怨む?」

魔王「うむ……しかし、お前達も我らのことが憎いのであろう?」

勇者「そうだな。君のしたことは到底見過ごすわけにはいかない」

魔王「ふん……やはりな……お前らは口だけだ!!」

勇者「違う!!」

魔王「!?」

勇者「俺は君たちのことをちゃんと見ている。だからこうして、剣ではなく、言葉を交わしているじゃないか!!」

魔王「う、む……顔がちかいぞ」

勇者「魔物の影があの凄惨な事件としたら……君の可憐さは正しく光だ」

魔王「な、なんと……!?」

武道家「……」

賢者「……」

僧侶「あの!あの!姉さん!拳を納めてください!賢者さんも手を兄さんに翳しちゃダメですよ!!」

勇者「だから……君も俺達の光を知って欲しいんだ」

魔王「だ、だか……我はもう人間を信じることはできん……」

勇者「ニヤァ」

魔王「なんだ?顔がにやけているぞ?」

勇者「おっとっと……すまない。君があまりにも眩しくて」

賢者「イオナズ―――」

僧侶「マホトーン!!」

賢者「!?!?」

武道家「いいかげんに―――」

僧侶「ルカニ!ルカニ!!!―――てえい!!!」

武道家「ぐはぁああ!!?」

魔王「勇者……」

勇者「魔王……少しだけ世界を見てみないか?俺達と共に」

魔王「どういうことだ?」

勇者「世界を知ればきっと魔王も人間のことが少しだけわかるはずだ。―――だから、ダーマ神殿にいこう」

魔王「よくわからんが……分かった。お前がそこまでいうのなら、少しだけ付き合ってやろう……少しだけだぞ!」

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