―――ルイーダ
武道家(女)「お?」
僧侶(女)「なんでしょうか?」
遊び人(女)「はぇ?」
勇者(男)「これから長い間旅をするんだ。関係を悪くしたくないだろ?」
武道家「まあ、うん」
勇者「仲間内でルールを決めよう」
僧侶「ルールですか」
遊び人「えー?めんどーだなぁ」
勇者「規則は大事だからな」
僧侶「そうですね。集団生活をする以上、ある程度の線引きはあってもいいかと」
武道家「それでどんな規則をつくるわけ?」
勇者「―――まず一つ目だ。みんなは俺のことを義理の兄だと思うこと」
武道家&僧侶&遊び人(なにいってるんだ、この人?)
勇者「二つ目。俺を呼ぶときはお兄ちゃん」
武道家「あの、もしもし?」
勇者「まあ聞け。批判はあとで聞くから」
僧侶「……」
遊び人「ねえねえ、あの人、頭おかしいんじゃない?」
僧侶「うん」
勇者「三つ目。お兄ちゃんの言うことは絶対」
武道家「命令を聞けってことか?」
勇者「そうだ」
僧侶「……」
遊び人「ねえねえ。王様に報告しなくていいの?」
僧侶「そうですね……なんか変な勇者様に当たってしまったようです」
勇者「おいおい、なんだその目は。何が不満なんだ?」
武道家「いや……初めから変なんだけど」
勇者「え?なにが?」
僧侶「どうして兄と呼ばせたいんですか?」
勇者「俺は一人っ子で、いつも兄弟が欲しいと思っていた」
遊び人「うんうん」
勇者「兄弟や姉妹と一緒に買い物したり家で遊んだり、時にはお風呂も一緒に入ると聞いた」
武道家「まあ……そうだなぁ」
勇者「武道家には兄弟がいるのか?」
武道家「弟が一人いるけど……」
僧侶「私には姉が二人」
遊び人「私にはお兄ちゃんがいるよー」
勇者「そうか……なら、俺の気持ちなどわからないだろ……」
武道家「どうだろう……」
勇者「俺だって!!!妹とお風呂に入ったりしたいんだ!!!」
僧侶「……この人……ダメだ」
勇者「俺だって妹と買い物したり部屋で遊んだりしたいんだ!!」
武道家「わかったから、落ち着けって!!」
遊び人「帰りたい……」
僧侶「そうだね」
勇者「くそ……馬鹿にしやがって……魔王を倒すより俺にとっては大切なことなんだ……」
武道家「泣くなよ?!」
勇者「妹が……欲しいです……うぅ……」
僧侶(なんだか憐れ……)
遊び人「ねえねえ、勇者さん」
勇者「ん?」
遊び人「勇者さんは何歳なの?」
勇者「16歳だけど?」
遊び人「そっか、なら大丈夫だね。私、14歳だからー!」
勇者「なに!?14歳でバニーガール姿とか……気は確かか!?」
遊び人「え……でも、これユニホームだし……」
勇者「……転職しろ……バニー姿の妹なんていらん」
遊び人「ふぇ!?」
僧侶「勇者様!!」
勇者「……僧侶は?」
僧侶「え……?」
勇者「年齢だ」
僧侶「……えと……」
勇者「言いなさい」
僧侶「……15……です」
勇者「よし」
僧侶(何がよしなんだか……)
勇者「武道家は?」
武道家「私?」
勇者「何歳だ?」
武道家「18歳だけど……」
勇者「そうか……武道家はお姉ちゃんになるんだな」
武道家「おいおい、お姉ちゃんて呼ぶ気か?」
勇者「じゃあ、姉貴?」
武道家「あ……いや」
勇者「ねえねえ?」
武道家「気持ち悪い」
勇者「ねえやん……違うな……姉さん?」
武道家「好きにしろ……」
勇者「じゃあ、よろしく。お姉ちゃん」
武道家「うぇ……」
僧侶「はぁ……」
遊び人「あの……勇者さん?」
勇者「……」
遊び人「―――お兄ちゃん?」
勇者「なんだ?」
遊び人「私、転職しないとダメ?」
勇者「ダーマ神殿というところで転職ができるらしい。そこへ行ったら転職しような?」
遊び人「う、うん……」
僧侶「さて、規則はこれで全部ですか?」
勇者「まて。野宿のときのルールも決めよう」
武道家「野宿?」
勇者「そうだよ、お姉ちゃん?」
武道家「ぐ……」
勇者「男が俺だけという特殊な状況だから、色々と……困るだろ?」
遊び人「なにがぁ?」
僧侶「あの……言わんとすることは分かりますが……わざわざルールとして定めなくても……」
武道家「そうだ。空気を読めばいいだろ」
勇者「俺は女性のことを全く知らないんだ!!!」
僧侶「ひぃ?!」
勇者「失言して嫌われたくないんだよ!!もう独りは嫌なんだ!!」
武道家「いや……何があったんだよ?」
勇者「……俺は勇者の息子として周囲の期待を受けてきた。それは誰にも理解してもらえない重圧だった」
僧侶「はぁ」
勇者「分かるか!?5歳のときから「お前は魔王を倒すんだ」と言われ続けてきた俺の気持ちが!?」
遊び人「お兄ちゃん……大変だったんだね」
勇者「ありがとう……そう、大変だったんだ」
武道家「それで?」
勇者「大人たちからの受ける期待に対して、同年代たちの目は冷ややかだった」
僧侶「それは、どうしてです?」
勇者「嫉妬だ」
武道家「嫉妬?」
勇者「大人から持て囃される俺という存在は疎ましかったんだろう」
僧侶「それは……ありえそうですね」
勇者「次第に誰も遊んでくれなくなり……俺は独りぼっちになっていったんだ」
遊び人「ぐす……おにいちゃん……かわいそう……」
勇者「大人たちからの重圧。同世代からの疎外。俺は自然と心を閉じた」
武道家「そうか……」
僧侶「なるほど」
遊び人「おにいちゃん……」
勇者「そんな毎日を過ごす中で、俺はふと思った。―――兄弟や姉妹がいれば、こんなことはなかったはずだと」
僧侶「というと?」
勇者「家族でありながら近い年齢……そしてなにより、俺の心を深く理解してくれる存在だろ?」
武道家「悩み事とかは……まあ、よく聞いてたな」
勇者「流石はお姉ちゃん」
武道家「なんか……それ、ちょっとキモ―――」
僧侶「し!」
勇者「だから、俺は将来仲間を得たとき、妹を作ろうと思ったんだ!!」
武道家「兄や弟はいらないのか?」
勇者「16歳にもなって女の子と話したことがなかったから……その……それに妹がいいかなって」
僧侶「……」
遊び人「―――お兄ちゃん!!」
勇者「おいおい、なにを急に抱きついて……」
遊び人「辛かったんでしょ?苦しかったんでしょ?私がお兄ちゃんをいっぱい、慰めてあげるね?」
勇者「お前……」
遊び人「お兄ちゃん……お兄ちゃんはもう、一人じゃないからね?」
勇者「ああ……嬉しいよ」
僧侶「……」
武道家「……」
勇者「……(チラッ」
僧侶(なんかアイコンタクトを……)
武道家「―――あーもう、私は甘えたがりの弟なんていらないぞ?」
勇者「お姉ちゃん……」
武道家「ちゃんと強くなれ。そしたら姉でいてやってもいいから」
勇者「わかった……俺、強くなるよ!!―――お姉ちゃんのために!!」
遊び人「おにいちゃん、かっこいいー♪」
僧侶「……」
勇者「……(チラッチラッ」
僧侶「分かりました!!―――ただし、呼びかたは兄さんで良いですね?」
勇者「なんで?」
僧侶「お、おにいちゃんは……その……なんかむずがゆいというか……」
勇者「分かった。僧侶の好きな呼び方でいいから」
僧侶「で、では……兄さん。そろそろ出発しましょうか」
勇者「まて。野宿でのルールは……」
武道家「それは私はきっちり教えてやる。ルールにすんな。はずかしい」
勇者「そうか……お姉ちゃんがそういうなら」
遊び人「ねえねえ、僧侶お姉ちゃん」
僧侶「は、はい?」
遊び人「野宿でのルールってなに?」
僧侶「それは……これから嫌でも分かりますから」
遊び人「ふーん」
―――魔王の城
魔物「報告します!!南西の街は完全に陥落。そこに住む人間たちも既に降伏しております!!」
魔王「うむ……分かった下がってよいぞ」
魔物「ははー!」
魔王「ふむ……これで5つ目か……」
魔王「順調に進んでおるな……」
魔王「―――しかし、なんだこの虚無感は?」
魔王「人間どもを追い詰めてもまるで達成感が得られない……」
魔王「どういうことなのだ……」
魔王「―――ふ、いかんな。魔王の我がこんなことでは」
魔王「スライムよ!!」
スライム「はぁーい!」
魔王「我は城を離れる。人間どもの生活を観察してくるぞ」
スライム「わかりました!影武者はお任せください!」
魔王「うむ!では、行ってくるぞ!!ふははははは!!」