勇者「旅に出る前に言っておきたいことがある」 1/6

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―――ルイーダ

武道家(女)「お?」

僧侶(女)「なんでしょうか?」

遊び人(女)「はぇ?」

勇者(男)「これから長い間旅をするんだ。関係を悪くしたくないだろ?」

武道家「まあ、うん」

勇者「仲間内でルールを決めよう」

僧侶「ルールですか」

遊び人「えー?めんどーだなぁ」

勇者「規則は大事だからな」

僧侶「そうですね。集団生活をする以上、ある程度の線引きはあってもいいかと」

武道家「それでどんな規則をつくるわけ?」

勇者「―――まず一つ目だ。みんなは俺のことを義理の兄だと思うこと」

武道家&僧侶&遊び人(なにいってるんだ、この人?)

勇者「二つ目。俺を呼ぶときはお兄ちゃん」

武道家「あの、もしもし?」

勇者「まあ聞け。批判はあとで聞くから」

僧侶「……」

遊び人「ねえねえ、あの人、頭おかしいんじゃない?」

僧侶「うん」

勇者「三つ目。お兄ちゃんの言うことは絶対」

武道家「命令を聞けってことか?」

勇者「そうだ」

僧侶「……」

遊び人「ねえねえ。王様に報告しなくていいの?」

僧侶「そうですね……なんか変な勇者様に当たってしまったようです」

勇者「おいおい、なんだその目は。何が不満なんだ?」

武道家「いや……初めから変なんだけど」

勇者「え?なにが?」

僧侶「どうして兄と呼ばせたいんですか?」

勇者「俺は一人っ子で、いつも兄弟が欲しいと思っていた」

遊び人「うんうん」

勇者「兄弟や姉妹と一緒に買い物したり家で遊んだり、時にはお風呂も一緒に入ると聞いた」

武道家「まあ……そうだなぁ」

勇者「武道家には兄弟がいるのか?」

武道家「弟が一人いるけど……」

僧侶「私には姉が二人」

遊び人「私にはお兄ちゃんがいるよー」

勇者「そうか……なら、俺の気持ちなどわからないだろ……」

武道家「どうだろう……」

勇者「俺だって!!!妹とお風呂に入ったりしたいんだ!!!」

僧侶「……この人……ダメだ」

勇者「俺だって妹と買い物したり部屋で遊んだりしたいんだ!!」

武道家「わかったから、落ち着けって!!」

遊び人「帰りたい……」

僧侶「そうだね」

勇者「くそ……馬鹿にしやがって……魔王を倒すより俺にとっては大切なことなんだ……」

武道家「泣くなよ?!」

勇者「妹が……欲しいです……うぅ……」

僧侶(なんだか憐れ……)

遊び人「ねえねえ、勇者さん」

勇者「ん?」

遊び人「勇者さんは何歳なの?」

勇者「16歳だけど?」

遊び人「そっか、なら大丈夫だね。私、14歳だからー!」

勇者「なに!?14歳でバニーガール姿とか……気は確かか!?」

遊び人「え……でも、これユニホームだし……」

勇者「……転職しろ……バニー姿の妹なんていらん」

遊び人「ふぇ!?」

僧侶「勇者様!!」

勇者「……僧侶は?」

僧侶「え……?」

勇者「年齢だ」

僧侶「……えと……」

勇者「言いなさい」

僧侶「……15……です」

勇者「よし」

僧侶(何がよしなんだか……)

勇者「武道家は?」

武道家「私?」

勇者「何歳だ?」

武道家「18歳だけど……」

勇者「そうか……武道家はお姉ちゃんになるんだな」

武道家「おいおい、お姉ちゃんて呼ぶ気か?」

勇者「じゃあ、姉貴?」

武道家「あ……いや」

勇者「ねえねえ?」

武道家「気持ち悪い」

勇者「ねえやん……違うな……姉さん?」

武道家「好きにしろ……」

勇者「じゃあ、よろしく。お姉ちゃん」

武道家「うぇ……」

僧侶「はぁ……」

遊び人「あの……勇者さん?」

勇者「……」

遊び人「―――お兄ちゃん?」

勇者「なんだ?」

遊び人「私、転職しないとダメ?」

勇者「ダーマ神殿というところで転職ができるらしい。そこへ行ったら転職しような?」

遊び人「う、うん……」

僧侶「さて、規則はこれで全部ですか?」

勇者「まて。野宿のときのルールも決めよう」

武道家「野宿?」

勇者「そうだよ、お姉ちゃん?」

武道家「ぐ……」

勇者「男が俺だけという特殊な状況だから、色々と……困るだろ?」

遊び人「なにがぁ?」

僧侶「あの……言わんとすることは分かりますが……わざわざルールとして定めなくても……」

武道家「そうだ。空気を読めばいいだろ」

勇者「俺は女性のことを全く知らないんだ!!!」

僧侶「ひぃ?!」

勇者「失言して嫌われたくないんだよ!!もう独りは嫌なんだ!!」

武道家「いや……何があったんだよ?」

勇者「……俺は勇者の息子として周囲の期待を受けてきた。それは誰にも理解してもらえない重圧だった」

僧侶「はぁ」

勇者「分かるか!?5歳のときから「お前は魔王を倒すんだ」と言われ続けてきた俺の気持ちが!?」

遊び人「お兄ちゃん……大変だったんだね」

勇者「ありがとう……そう、大変だったんだ」

武道家「それで?」

勇者「大人たちからの受ける期待に対して、同年代たちの目は冷ややかだった」

僧侶「それは、どうしてです?」

勇者「嫉妬だ」

武道家「嫉妬?」

勇者「大人から持て囃される俺という存在は疎ましかったんだろう」

僧侶「それは……ありえそうですね」

勇者「次第に誰も遊んでくれなくなり……俺は独りぼっちになっていったんだ」

遊び人「ぐす……おにいちゃん……かわいそう……」

勇者「大人たちからの重圧。同世代からの疎外。俺は自然と心を閉じた」

武道家「そうか……」

僧侶「なるほど」

遊び人「おにいちゃん……」

勇者「そんな毎日を過ごす中で、俺はふと思った。―――兄弟や姉妹がいれば、こんなことはなかったはずだと」

僧侶「というと?」

勇者「家族でありながら近い年齢……そしてなにより、俺の心を深く理解してくれる存在だろ?」

武道家「悩み事とかは……まあ、よく聞いてたな」

勇者「流石はお姉ちゃん」

武道家「なんか……それ、ちょっとキモ―――」

僧侶「し!」

勇者「だから、俺は将来仲間を得たとき、妹を作ろうと思ったんだ!!」

武道家「兄や弟はいらないのか?」

勇者「16歳にもなって女の子と話したことがなかったから……その……それに妹がいいかなって」

僧侶「……」

遊び人「―――お兄ちゃん!!」

勇者「おいおい、なにを急に抱きついて……」

遊び人「辛かったんでしょ?苦しかったんでしょ?私がお兄ちゃんをいっぱい、慰めてあげるね?」

勇者「お前……」

遊び人「お兄ちゃん……お兄ちゃんはもう、一人じゃないからね?」

勇者「ああ……嬉しいよ」

僧侶「……」

武道家「……」

勇者「……(チラッ」

僧侶(なんかアイコンタクトを……)

武道家「―――あーもう、私は甘えたがりの弟なんていらないぞ?」

勇者「お姉ちゃん……」

武道家「ちゃんと強くなれ。そしたら姉でいてやってもいいから」

勇者「わかった……俺、強くなるよ!!―――お姉ちゃんのために!!」

遊び人「おにいちゃん、かっこいいー♪」

僧侶「……」

勇者「……(チラッチラッ」

僧侶「分かりました!!―――ただし、呼びかたは兄さんで良いですね?」

勇者「なんで?」

僧侶「お、おにいちゃんは……その……なんかむずがゆいというか……」

勇者「分かった。僧侶の好きな呼び方でいいから」

僧侶「で、では……兄さん。そろそろ出発しましょうか」

勇者「まて。野宿でのルールは……」

武道家「それは私はきっちり教えてやる。ルールにすんな。はずかしい」

勇者「そうか……お姉ちゃんがそういうなら」

遊び人「ねえねえ、僧侶お姉ちゃん」

僧侶「は、はい?」

遊び人「野宿でのルールってなに?」

僧侶「それは……これから嫌でも分かりますから」

遊び人「ふーん」

―――魔王の城

魔物「報告します!!南西の街は完全に陥落。そこに住む人間たちも既に降伏しております!!」

魔王「うむ……分かった下がってよいぞ」

魔物「ははー!」

魔王「ふむ……これで5つ目か……」

魔王「順調に進んでおるな……」

魔王「―――しかし、なんだこの虚無感は?」

魔王「人間どもを追い詰めてもまるで達成感が得られない……」

魔王「どういうことなのだ……」

魔王「―――ふ、いかんな。魔王の我がこんなことでは」

魔王「スライムよ!!」

スライム「はぁーい!」

魔王「我は城を離れる。人間どもの生活を観察してくるぞ」

スライム「わかりました!影武者はお任せください!」

魔王「うむ!では、行ってくるぞ!!ふははははは!!」

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