―――宿屋 屋上
勇者「面白い……お前らは魔物以上に落ちぶれてるわけだ!あははははは!!!これは傑作だ!!」
長「生きるためには金がいるのですよ。魔物を町から守るためにもね」
勇者「なるほど。良い考えだ。的を射ている」
長「ですから、もう……」
勇者(これは金のなる木を見つけたな……ふふん)
勇者「どこで栽培している?見せろ」
長「え……どうして……?!」
勇者「禁断の果実に手を出した人間に反論の余地はないだろ?」
長「わ、わかりました……ご案内します……」
―――麻薬栽培場
魔王「これは……間違いない……」
手下「人間は越えてはならない一線を……」
魔王「これしきのことで惑わされるな」
手下「え?」
魔王「我々と同じく、これは一部の人間がしでかしたことだ。全てが悪ではないことは先日の一件で知れている」
手下「確かに……申し訳ありません」
魔王「だが、今回はドラゴンの味方をせねばならんな」
手下「ですね……どうされますか?」
魔王「まずは長に会う。ここを破壊するだけでは何の意味もない。この薬草が流通しているのであれば、そのルートを根絶やしにせねば」
手下「そうですね。急ぎましょう!」
魔王「うむ」
勇者「―――まて」
魔王「む?」
勇者「誰だ?こんなところで何やってる?」
手下「貴様ら何者だ!」
魔王「まて。訊ねられたのは我らだ。―――我は魔族の王、魔王なり!!」
勇者「なんだと?」
長「ひぃぃ!?」
魔王「して、貴様は?」
勇者「勇者だ」
魔王「なんと……!?」
手下「あ、アナタが……これはご無礼を……!!」
勇者「魔王、ここがどこだかわかっているんだろうな?」
魔王「―――無論だ。禁忌の場所と言える」
勇者「じゃあ、どうしてここにいるんだ?―――薬草が目当てか?」
魔王「ふん。我を怒らせない方がよい。こんな悪魔の薬草に手を出すと思うか?」
勇者「なら、どうして?」
魔王「ルビスが魔族にも人間にも禁じた薬草だ。根絶やしにする。それが、我らの務めではないか、勇者よ」
勇者「……」
長「なんですと……!?」
魔王「これは鬼畜の所業だ。服用した者を内部から破壊する魔の植物。それを栽培するなどと万死に値する」
勇者「―――確かに」
長「な?!勇者様!?」
魔王「勇者ならばそういってくれると信じていたぞ」
勇者「勿論だ。こんなものこの世にあってはならない」
魔王「その通りだ!流石は英雄と謳われるだけのことはある!!」
勇者「俺はこの町でこの麻薬が精製されている情報を掴み、こうしてこの町の長を捕まえて、確認しに来たってわけだ」
魔王「なんと……!!!その炯眼にして聡明さ。勇者と呼ばれるだけのことはあるな」
勇者「魔王……俺はお前を倒そうと思い、旅をしてきた。しかし、お前には戦う意志がなさそうだな」
魔王「勇者と我が戦う理由などない。―――勇者よ、我と共に清き世界を築こうではないか」
勇者「本気か?」
魔王「勿論だ」
勇者「―――ふん。わかった。これから俺たちは同志だ」
勇者(これはとんでもなく馬鹿な魔王だ。ふふ、こいつの権力を利用しないわけにはいくまい……くくく)
魔王「ふふふ!!今宵は最高だ!!ついに勇者と我が手を取り合ったのだ!!!ふはははははは!!!!」
手下「はい!魔王様!!今日は記念日に致しましょう!!」
勇者「―――では、手初めにここの畑をどうにかしなければな」
魔王「うむ……では我が完膚なきまでに破壊してみせよう」
長「あ……」
勇者「まてまて、魔王。焦ってはいけない」
魔王「ん?どういうことだ?」
勇者「確かにここを残しておくだけで様々な人間に危害が及ぶだろう。だが、ここを破壊し、流通ルートを根絶しても何も変わらない」
魔王「なに?」
勇者「作る技術は既にこうして伝わってる時点で、根絶やしにはできないってことだ」
魔王「では……どうすればいい!?」
勇者「そうだな……ここは俺に任せてくれないか?」
魔王「勇者……いいのか?これは大変、難しい問題だぞ?」
勇者「ふん。俺には頼れる仲間が三人もいる。時間はかかるが、大丈夫だ。信じてくれ」
魔王「そうか……うむ。勇者がそこまでいうのなら任せるとしよう。我はその間に他の凶暴な魔物の討伐を行うことにする」
勇者「―――あ、待て」
魔王「なんだ?」
勇者「ここを襲うドラゴンがいるらしいな」
魔王「うむ。だが、彼は―――」
勇者「どこにいるんだ?」
魔王「ここから西にいった山だが?」
勇者「そうか」
魔王「何かあるのか?」
勇者「いや。そいつも俺達と同じ考えなんだろう?」
魔王「おお……そうか。ドラゴンとも話し合いの場を持つというのか……」
手下「それでは私がご案内いたします」
勇者「そうか。では、仲間を集めてくる。しばし待ってくれ」
手下「はい」
魔王「では、我は一足先に戻るとしよう。勇者に無礼があってはならんぞ?」
手下「はい。承知しております。魔王様も魔物討伐、がんばってください」
魔王「うむ。今日は気分が良い!!」
魔王「奮発してあの街のプリンを大量に買って帰るとしようではないか!!!!」
魔王「ふはははははははは!!!!!」
魔王「ルーラ!!!!」
長「勇者様……大丈夫なのですか?」
勇者「ふん。あんな馬鹿な魔王、利用してやればいい」
長「しかし……」
勇者「お前にも甘い蜜を舐めさせてやる……折角の金のなる木だ。誰にも破壊させはしない」
長「というと?」
勇者「ドラゴン、邪魔なんだろ?」
長「え、ええ」
勇者「俺たちが殺してきてやるよ」
長「おお!まことですか!?」
勇者「勿論……ふふ……これで俺たちは莫大な権力と金を手に入れたんだ……」
勇者「ふふふ……あーっはっはっはっは!!!」
勇者「またせたな」
手下「いえいえ。では、背中にお乗りください」
勇者「悪いな」
戦士「大丈夫なのか?」
僧侶「……魔物ですしね」
勇者「大丈夫。もう俺たちは同志だ」
手下「ええ。その通り。勇者様と魔王様が手を組んだのです。もう、世界は安泰。人間も魔物も平和に暮らしていけるのです」
勇者「ああ。最初の一歩目として麻薬の根絶を目指すってわけだ」
戦士「なるほど」
魔法使い「素敵……勇者様♪」
手下「では、みなさん。どうぞ!」
僧侶「はい、失礼します」
手下「では飛びます!しっかり掴まっていてください!!」
勇者「ああ!いくぞ!!!」
手下「おおお!!!」
―――ドラゴンの山 頂上
ドラゴン「―――む?」
手下「到着です」
勇者「アンタがドラゴンか」
ドラゴン「貴様……勇者か?」
勇者「その通り」
手下「聞いてください。勇者様は貴方とお話がしたいと」
ドラゴン「話?」
勇者「あの町で栽培されている薬草のことだ」
ドラゴン「ほう」
手下「勇者様は貴方と協力して―――」
勇者「もう、あそこには手を出すな」
手下「え?」
ドラゴン「なるほど……その腐った目は正直だな」
勇者「だろ?―――ここでくたばれ、魔物ども」
―――街
魔王「な……なんだ……これは……?!」
魔王「おい!貴様!!何が―――ダメか……殆どが屍だ……」
魔王「キングスライムまでやられている……しかし、この傷は……剣によるものと……」
魔王「微かに魔力を感じる。呪文で焼かれたか」
魔王「だがスライムだけではなく住民までもとは……」
魔王「スライムと人間たちの斬られ方はほぼ同じ……同一人物とみていいだろう」
魔王「そして。これだけの数を殺すには一人では不可能……複数だな。三人か四人といったところか」
魔王「―――だれかぁぁ!!!だれかいないか!!!!」
魔王「くそ……やはり、もう」
スライム「きゅぴぃ……」
魔王「むむ!?スライムか!!!」
スライム「ま、まおう……さま……うぇぇぇん!!!」
魔王「よしよし。心細かっただろう。ここで何をしていた?」
スライム「み、みんなの……ぐす……おはか、つくって……うぅ……でも、ひとりじゃぁ……できなくてぇ……うぇぇん!!」
魔王「泣くな。お前は立派だ。我は魔族の王として、お前を誇らしく思うぞ」
スライム「うぇぇ……まおうさまぁ……」
魔王「して、何があった?話せるか?」
スライム「それが……勇者がいきなり街にきて……キングさんを殺して……」
魔王「なに!?」
スライム「キングさん、死ぬまで人間を守って……それで勇者は守られていた人間まで……」
魔王「よく無事だったな。どこかに隠れていたのか?」
スライム「あの地下室で作業してたんです……」
魔王「なるほど……確かにあそこなら見つけられにくいか」
スライム「うぅぅ……」
魔王「―――これは勇者に問い詰めねばならん」
魔王「スライムよ、今からお前を我の城に飛ばす。弔いは我に任せろ」
スライム「はい……ごめんなさい」
魔王「勇者……何があったのだ……!?」
―――ドラゴンの山 頂上
手下「がはぁ!?」
勇者「そっちは?」
戦士「終わったぜ」
ドラゴン「くそ……が……」
勇者「さて、お前達には事故死してもらうか」
手下「ゆ、うしゃ……き、さま……」
魔法使い「雷に打たれて死ぬのが一番いいんじゃないですか?」
僧侶「うんうん、ありそう。飛んでるし」
勇者「俺たちを庇って死んだ。美談じゃないか。なあ?」
手下「く……じごく、におちろ……くそ、やろう……!」
勇者「てめえが堕ちろ。―――ギガデイン!!!」
手下「がぃ――――」
ドラゴン「はぁ……はぁ……ぐぁ!?」
戦士「心臓一突きでバイバイだ!ひひひ!!」
―――町
魔王「勇者!!!勇者はどこだ!!!」
魔王「まだあの山から戻ってないのか?!」
魔王「宿屋にいくか」
―――宿屋
魔王「邪魔をする」
店主「うわぁぁぁぁ!!」
魔王「勇者の部屋はどこだ!」
店主「二階の全室です!!!」
魔王「―――ほう。はぶりがいいな」
店主「ち、ちがいます……長が……勇者一行は無料にしろって……」
魔王「長が……?」
店主「それで……全室を貸し切りにして……」
魔王「あの二人……手を組んでいたのか?」
魔王「二階か……」
―――宿屋 二階
魔王「―――ダメか……もう息がない」
魔王「殆どが焼かれているか、何かに刺されて死んでいる」
魔王「にしてもこの術式は……ザオラルか……」
魔王「死者蘇生の呪文など……人間には到底不可能だと言うのに」
魔王「ん?」
少女「あ……ぉ……」
魔王「む!?おい!しっかりしろ!!」
少女「あ……」
魔王「今、治療してやろう。―――ベホマ」
少女「う……あ……」
魔王「話せるか?」
少女「は、い……」
魔王「何がここで行われていた?」
少女「それが―――」