―――宿屋
勇者「ふう……やっと帰ってこれたな」
戦士「にしても笑えるよな、あのトカゲ。最後に「まおうさまぁぁ!!」だってよ!!ぎゃはははは!!」
僧侶「死んだ方を笑うなんて不謹慎です。―――まあ、確かに面白かったですけど」
魔法使い「そういえば、ザオラルはまだ成功しないの?」
僧侶「結構、難しいんですよ?」
勇者「まあ、焦らずやれ。俺たちはもう億万長者だからな」
戦士「あの麻薬か……きひひ」
勇者「あと魔王の権力もある」
魔法使い「あはは、胸が高鳴りますね」
僧侶「そうですねえ」
勇者「とりあえず続きでもするか」
戦士「死体を犯すのは勘弁してくれよ」
勇者「ふん。ひとりだけ生かして―――」
魔王「―――ふん!!!」
勇者「―――ぐほ?!?」
戦士「なんだ!?勇者がふっとんだ!?」
勇者「ぐ……不意打ちとは……何のつもりだ?」
魔王「屋上に来い」
勇者「断ったら?」
魔王「構わん。この場を平地にする」
勇者「おもしれえ……」
魔王「待っているぞ」
僧侶「大丈夫ですか!?」
魔法使い「どういうこと?仲間じゃないの?」
勇者「ふん……とりあえず、屋上にいってくる」
戦士「一人で大丈夫か?」
勇者「万が一のときもある、お前らは近くにいろ。―――俺が合図をしたら一斉に仕掛けるぞ」
戦士「分かった!」
勇者(権力は諦めるか……でもな……金は掴むぞ……!!)
―――宿屋 屋上
勇者「おい、きてや―――な!?」
長「ぉ……ご……」
魔王「……ふん。脆いな。腹を一突きにしただけで、死ぬとは」
勇者「何をやってる?」
魔王「―――お前らがしたのと同じことだ」
勇者「は?」
魔王「ところで勇者よ。キラーマジンガに襲われていた村をしっているか?」
勇者「なに?」
魔王「―――そこの村長は自殺したそうだ。今朝の新聞に載っていた」
勇者「それがどうした?」
魔王「最後まで勇者のことを怨んでいたそうだ。遺書も勇者が憎いと紙を埋め付くように書かれていたそうだ」
勇者「ふん。そうか」
魔王「モシャス……」
勇者「!?」
魔王「……プリンが美味しい街があるのを知っているか?」
勇者「おい、何の話だ。話が見えないぞ」
魔王「そこは先日、スライムと人間の間でいざこざがあった。だが、ほどなくして和解し、スライムが街を警備することになった」
勇者「お……い……」
魔王「だが、そこのスライムたちは殺され、住民も殺された。第一発見者は、勇者」
勇者「……」
魔王「ここから西にいった山にドラゴンが二匹いてな」
勇者「おい。なんだ?全部、俺が悪いっていいたいのか?」
魔王「……」
勇者「そりゃ全部勘違いだ。確かにアンタが今言った村や街にはいった」
魔王「……」
勇者「村長さんの孫が事故で全身に火傷を負った。村長さんはそのときに気がふれちまったんだ」
魔王「そうなのか?」
勇者「ああ、そうだ。俺は関係ない」
魔王「ふむ」
勇者「スライムたちが警備してた街もそうだ。あれは向こうからいきなり襲ってきたんだ」
魔王「なんだと?」
勇者「で、俺がなんとかスライムたちをやっつけて街の中に入ってみると……みんな死んでた」
魔王「そうか……そうだったのか」
勇者「ああ……そうだ」
魔王「では、ドラゴンもか?」
勇者「なんだ、知ってるのか。あれは雷に打たれただけだ。事故だよ」
魔王「そうか……」
勇者「な、全部誤解だ。下らない疑心暗鬼は止そうぜ」
魔王「うむ……そうだな」
勇者「ほら、清き世界を目指すんだろ?」
魔王「―――では、直接当事者に聞いてみようか」
勇者「は?」
魔王「―――あの時、魔法使いに何と言われた?」
村長「……モシャスと」
勇者「お前は!?!」
魔王「お前の足取りを追ってみた結果だ。自殺した直後でよかった。ザオラルで息を吹き返した」
勇者「な……」
魔王「すまんな」
村長「いえ……」
魔王「次だ」
キングスライム「―――勇者」
町長「……こいつに殺されました」
勇者「ば、ばかな!?!確かに、ころ―――」
魔王「ころ?」
勇者「……!?」
魔王「全員を生き返らせるのは無理だった。ザオリクも万能ではないし、何より膨大な魔力を消費するのでな」
勇者「お前が……生き返らせたのかよ……」
魔王「うむ……さて、反論は?」
勇者「―――へ。ねえよ。お前ら!!もういい、やっちまえ!!!」
魔王「……」
勇者「―――なんだよ!!お前ら!!早く出てこい!!」
ドラゴン「このゴミのことか?」
戦士「ごほぉ……」
魔法使い「うぅ……」
僧侶「……」
手下「魔王様の背中を狙うなど馬鹿もいいとこです」
勇者「な!?」
魔王「よくもやってくれたな、勇者」
勇者「なんだよ……!?」
魔王「ここの長も正直に貴様が何を持ちかけたのか喋ってくれたぞ。もう貴様の言葉にはなんの重みもない」
勇者「この、やろぉ……!!」
魔王「―――ふん!!!」
勇者「ぷはあ!!!なんだ、この風圧!?―――うわぁぁぁぁ!!!」
魔王「よし、屋上から落ちたな。これでいい」
勇者「―――ぐ!?」
勇者「くそ……は!馬鹿なやつだ。屋上から叩き落としても逃げやすくなっただけだ」
勇者「ここは分が悪いな。早くにげ―――」
スライム「勇者……」
村人「だましたな……」
町人「屑野郎……」
勇者「な、なんだ!!お前ら!!!」
魔王「忘れたのか?お前が立ち寄った村や街の住人たちだ」
勇者「なに……!?」
魔王「全てを話したら100人も集まってくれた。感謝しろ、勇者」
勇者「はっ!普通の人間が集まったところでなんになる!俺は勇者だ!!」
魔王「それもそうだな……ふん!!」
勇者「あ……!?なんだ……体が……うごか、ない!?」
魔王「……」
勇者「おま、え……か?!な、にしや、がった!?」
村人「だましたな……だました」
スライム「許さない……許さない」
町人「絶対に許さない」
勇者「な、おい……やめろ……!!」
魔王「そのまま100人分の刃を体に刻め」
勇者「冗談、だろ?あ、おい……くそ……やめろ……死ぬ、だろ?」
魔王「命乞いか?」
勇者「おれは……なにも、まちがって、ない……」
魔王「……」
勇者「じぶんに、正直に……」
村人「―――ぁぁああああああ!!!!」
勇者「がぁあああああ!!!!いでぇぇぇぇええええ!!!!!」
魔王「足を刺されただけではないか。情けないぞ」
勇者「くそぉぉ!!!ぶっころしてやる!!!てめえら全員、ぶっころしてやる!!!」
町人「らぁ!!」
勇者「ぐぁあああああ!!!!!」
魔王「肩を穿たれただけだ。喚くな」
勇者「んだと……!?」
魔王「我の手下は胸を一突きにされたんだ。耐えろ、ゴミ屑」
勇者「てめぇぇ……!!―――あがぁああああ!!!!」
魔王「よし、急所以外の場所に隙間なく剣を突き立てていけ」
勇者「―――わぁああああああああ!!!!!!」
ドラゴン「ふん……あれが勇者か」
手下「民に命を削られている……ふふ、無様」
魔王「さてと……我も参加するか」
勇者「あぐぅぅうぅぅうぅぅう!!!!!ぢぐじょぉぉ!!!いでぇぇ!!!」
魔王「傷だらけだな、勇者」
勇者「てめえ……」
魔王「すぐに楽にはさせんぞ、外道」
勇者「……ぐ……」
魔王「勇者とは国民の英雄であるはず……何があった?」
勇者「……ころせ」
魔王「お前をここまで変えた出来事があったはずだ。答えろ」
勇者「は……人間は屑だ」
魔王「……」
勇者「魔物も屑だ」
魔王「どういうことだ?」
勇者「どっちも何かを殺さずには生きていけない……魔物は人間を……人間は魔物を……」
魔王「……」
勇者「お、れは……どっちの味方も、しねえ……俺が、正義だ……」
魔王「それが答えか」
勇者「死ね、偽善者が……」
魔王「……悲しい男だ。同情はせぬが、憐れんでやろう」
勇者「て、めえ……」
魔王「手足を噛みちぎれ」
ドラゴン「分かった」
手下「はい」
勇者「お、い……冗談だろ……やめろ……咥えるな!!!」
ドラゴン「せーの」
手下「ギィィィィィ!!!」
勇者「―――はぁああぎぃぃぃいいいいひいいぃぃぃいいいい!?!!?!?!」
魔王「ふん。手足が無くなって、すっきりしたな」
勇者「ああああおぉぉおおおお!?!!?!?!」
魔王「仲間も同じような姿になっている。一人ではないぞ?」
勇者「ぅぅぅううえぇえぇええぉぉお!?!?」
魔王「よし……これは戒めだ。もう二度とこのような勇者を生み出さぬようにしなければ」
手下「では、ここに並べておきますか」
魔王「うむ。この町のシンボルになってもらおう。―――この手足をもがれた勇者たちにな」
魔王「死ぬまで貴様は見世物だ。貴様の罪は消えない。そのことをしっかりと理解してもらう」
―――数ヵ月後 町 勇者広場
旅人A「ここがそうか」
旅人B「アレだな。史上最悪の勇者ってのは」
旅人A「すげえ……ホントに手足がなくて四人が台に並んでる……」
旅人B「あれが勇者のなれの果てとはねえ」
旅人A「怖い怖い。悪いことはできねえな」
旅人B「はは、全くだ」
勇者「みるな……みんじゃねえ……かす、ども……」
戦士「やめ……もう……やめてくれ……」
僧侶「ゆ、るし……て……て、あし……かえし、て……」
魔法使い「ご、めん……ころし、て、くだ……さい……」
旅人B「そういえば、また魔王様が戦争を止めたらしいな」
旅人A「ああ、聞いたぜ。すげえよな。もうさ、世界の王って感じだよな」
旅人B「おう。俺、一度でいいから魔王様のあってみてえよ」
―――魔王の城
魔王「ふう……疲れた」
手下「どうぞ、プリンです」
魔王「悪いな」
ドラゴン「少し働きすぎじゃないか?」
スライム「魔王様、体には気を付けてくださいね?」
魔王「だが、まだまだだ。世界から争いは無くならん」
手下「魔王様……それはもう……」
魔王「分かっている。魔族も人間も生きている限り争いは起こる。―――だが、我は頭が悪い。それがどうしても納得できん」
ドラゴン「もう休め」
魔王「うむ……少しだけ、休む……少しだけ……な」
スライム「お休みなさい」
魔王「う……む……」
手下「魔王様?」
魔王「……」
―――半年後
手下「貴女が……次世代の勇者さん?」
女勇者「はい。同盟を組むために、王国から馳せ参じました」
手下「……そうですか」
女勇者「魔王様の突然の訃報には全世界が悲しみに暮れ、そして偉大なお方を失ったことに気がついたのです」
手下「……」
女勇者「アナタが魔王の座を受け継いだと聞き、私は参りました。人間と魔族の懸け橋となりましょう」
手下「そうですね。もうこの世界には争いはいらない。今こそ過去の過ちを背負い、我らは手をつなぐべきなのかもしれません」
女勇者「はい。その通りです。私たちに戦う理由はない。共に悠久の平穏を実現させましょう」
手下「はい……共に歩んで行きましょう」
手下(魔王様が死して、ようやく魔王様の願いが成就されました)
手下(魔王様……これからの未来、我らがしっかりと守っていきます)
手下(見ていてください……!!)
女勇者&手下「「誓う!!亡き魔王のご意志の下、我らは永遠の平和を守ると!!」」
END