勇者「倒しに来たぞ魔王!!」魔王「また来たのか…」 2/4

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勇者「いくら生き返るとは言ったって死ぬのは痛いだろ、死ぬ方も死なれる方も」

勇者「お前、俺が死んでも生き返るからって命を粗末にしたらどう思う」

戦士「そ、それは嫌だ…」

勇者「だろ? だからお前もそうやって命を粗末にすんな」

戦士「わ、わかった…。それで勇者、魔王はどこに? その女性は?」

勇者「え、あー、こいつはだなー、えーと」

魔王「ふむ……ちちんぷい!」

戦士「はや? ふわぁー…」バタン

勇者「お、おい! お前そんなファンシーな呪文で戦士に何を!?」

魔王「ちょっと催眠術の様なもんじゃ、すぐに目を覚ます」

戦士「ううーん」

勇者「戦士! 大丈夫か!」

戦士「魔王様、勇者様、なにか、御用ですか…」

勇者「え?」

魔王「わしは勇者と出かける! しばらくの間魔王代行を頼むぞ!」

戦士「仰せのままに…」

勇者「ええー!?」

魔王「さあいくぞ勇者!! 戦士よ、お前は今日から魔王じゃ!」

戦士「はい…」

勇者「ええー…」

――

魔王「軽い洗脳魔法じゃ、何事もなければひと月ほどで戻る」

勇者「ながっ、副作用とかないだろうな…」

魔王「まあ操られてる間の記憶が抜けるくらいじゃの」

勇者「それならまあ、いいのか…? てか代行なんかでいいのか?」

魔王「いつかちゃんとした手を打つ必要があるが、とりあえず今はな」

勇者「洗脳が切れるひと月の間になんとかしないとか」

魔王「そうじゃな、周りの魔族の目をごまかせるのも同じくらいの期間じゃろ」

勇者「ていうか戦士あんな簡単に洗脳にかかっていいのか…」

魔王「かけたわしも少し驚いておる」

魔王「洗脳魔法は魔力耐性が少しあるだけでかからない難解な魔法なんじゃが」

勇者「ああ、あいつ魔法体制0だからな…」

魔王「今時そんな人間が…よく旅に同行させたの」

勇者「そうは言ってもあいつ剣術はかなり強いんだよなー」

勇者「それに王様が選んでくれた仲間だしな」

魔王「ほう、王が」

勇者「ああ、僧侶も賢者も王様の紹介で出会った」

魔王「ずいぶん対応がいいんじゃな」

勇者「そりゃ国の代表で戦いに行くんだし」

魔王「そうじゃなー、その親身さは同じ王として見習っておこうかの」

勇者「さて、戦士が来たってことは他の奴も近くにいるのかな」

勇者「…いや、あいつらのことだ、ちゃんと王都で待ってるんだろうなあ」

【王都】

勇者「そんなわけで戻ってきたわけだが」

魔王「おー! ここが王都か! すごいのう! この賑わい!」

勇者「静かにしろ、あんま目立つと困るだろう」

魔王「そ、そうじゃな…おお!? あれはなんじゃ!」

勇者「はあ…。で、どうするんだこれから」

魔王「お? おお、そうじゃな、少し試したいことがある」

勇者「試したいこと?」

魔王「うむ、実は仮説があるのじゃ」

勇者「仮説?」

魔王「そうじゃ、それはあとで話す。まずは城の前まで行こう」

【城門前】

勇者「来たぞ」

魔王「なかなか立派な門じゃないか」

勇者「で、どうするんだ?」

魔王「ふむ、ここでは少し目につきすぎる、もう少し人目のつかない場所へっと」

勇者「路地裏なんかに連れ込んでどうするんだ」

魔王「ふむ、ここからなら城の門も見えるし良い位置だな」

勇者「うん、で?」

魔王「先に訊くが勇者、お主、死んだらどのくらいで生き返る?」

勇者「うーん、死んだときの日の傾きとそんなに変わらなかったからたぶん一刻も経たない」

勇者「普通の蘇生魔法も一瞬だしな、転送魔法も一瞬だろうし」

魔王「転送魔法の件はたぶん関係ないがの、まあそれを確かめるためにも」

魔王「勇者、わしがお前を殺すから生き返ったらすぐに城から出て来い、内密にな」

勇者「え、今何て?」

魔王「わしは門を見張る。じゃからお主は生き返ったらすぐ出てくるのじゃぞ」

勇者「ちょ、ちょっとま」

魔王「では、死んでくれ……ボソボソ」

勇者「ちょっとお前死の呪文をそんな耳元で囁くなこんな近くで何度も言われたr」カクン

魔王「お、おお、やっと死んだか、だいぶ魔力を消費したぞ…さすが勇者」

魔王「しかしこの近距離で何十回も唱えてこれか…さすがに破格じゃの…」

――

王「勇者よ、死んでしまうとは情けない」

勇者「お、俺は…そうか、死んだのか…あの野郎…」

勇者(…まあ死んだのなら仕方ない。言われた通りすぐに外に出るか…)

王「勇者よ――」

勇者「すみません王様俺はこれで!」

――

【城門前裏路地】

勇者「お待たせお前いきなり何しやがんだ」

魔王「…遅かったの」

勇者「あん? 日の傾きからしてやっぱ一刻も経ってないぞ」

魔王「丸一日待ったわ」

勇者「は?」

魔王「ふむ、これはもしかすると…」

勇者「おいどういうことだ――」

魔王「では次じゃ…通り雨が来るの」

勇者「え?」

魔王「また同じように頼むぞ…ボソボソ」

勇者「うわわお前またか本当にやめr」カクン

魔王「……さて、どうなるかな……」

――

王「勇者よ、死んでしまうとは情けない」

勇者「……またか」

王「勇者よ――」

勇者「王様、俺はこれで」

――

【城門前裏路地】

勇者「あれ? 雨降ってる、さっき降ってなかったのに」

勇者「しかも夜になってるぞ、どうなってる?」

魔王「……ようやく来たか」

勇者「ああ、魔王。……お前、どうしたんだその格好」

魔王「んん、ああ、少し汚れてしまったか…」

勇者「結構、疲れた顔してるな」

魔王「心身ともに疲れ取るよ…いかんせん待つのは辛いのう」

勇者「…今度はどのくらい待った」

魔王「二十日じゃ」

勇者「は?」

魔王「二十日、わしは待ったぞ」

勇者「二十日って…うそだろ?」

魔王「ほんとじゃよ…ふわぁ、ねむい、おなかすいた」

勇者「おい魔王…」

魔王「お金はもってないし、どこか宿に言って御馳走を、いやまず睡眠を」

勇者「二十日もずっとこの場所で?」

魔王「所用で少し移動したりもしたが、基本寝ずにここで門の監視をしておったよ」

勇者「寝ずにって」

魔王「わしが魔王じゃなければ不可能じゃったな」

勇者「うん? そういや俺の死体はどこだ?」

魔王「二体とも隠してある…とりあえず寝たい、詳しくはあとでも良いか?」

勇者「ああ、じゃあ宿屋に行くか…」

――

【宿屋部屋1・翌日】

魔王「ふぅ、良く寝た良く食べた!」

勇者「…グルメの口にあって良かったよ」

魔王「うむうむ、満足満足」

勇者「それで、教えてくれよ。二十日の謎、死体のこと」

魔王「そうじゃの、といってもわしもまだ事実しか観測しておらん」

勇者「それでいいさ、で二十日経ったってどういうことだ」

魔王「言葉の通りじゃ、二十日間お主は出てこんかった」

勇者「俺はお前に言われた通りすぐ外に出たぞ」

魔王「なるほど」

勇者「しかも出てみれば雨は降ってるし夜になってる」

魔王「それはお主が死んだ時夜だったのと、雨が降っていたからじゃろう」

勇者「どういうことだ」

魔王「まず、お主が二回目に死んだ際、わしはまずお主を眠らせた」

魔王「その後、雨が降り、わしは雨がやむ少し前にお主を殺した、夜のことじゃ」

魔王「最初の蘇生には丸一日かかった、何事もなければお主は翌日の夜出てくるはずじゃ」

魔王「じゃが、そうはならんかった」

勇者「なんでだよ」

魔王「たぶん、雨が降らなかったからじゃな」

勇者「雨が…?」

魔王「お主が死んだ状況と同じ状況で生き返らせる必要があったんじゃろ」

魔王「蘇生がすぐ行われていると錯覚させるために」

勇者「信じられない…、そんなの、すぐばれるだろ」

魔王「じゃが事実じゃ。確かにむちゃくちゃじゃの、日付の概念は覆せん」

魔王「おそらく、蘇生してすぐ旅に出る勇者くらいしか騙せん」

勇者「確かに、日付なんか気にしてなかったしな…」

魔王「そんなすぐ崩れかねない不和を抱えながらも、蘇生がすぐ行われてると錯覚させる必要があった」

勇者「なぜだ…」

魔王「んー、たぶん、蘇生の秘密を知られたくないから…じゃろう」

勇者「秘密って…ただ、精霊の加護を借りて魂を呼び戻してるんじゃ」

魔王「それだと、死体が残る説明がつかん」

勇者「そうだ、俺の死体は?」

魔王「氷結魔法で完全に氷漬けにした後、転移魔法で氷山のほら穴に隠しておる」

勇者「大掛かりだな…」

魔王「絶対に見つかってほしくないものじゃからの、それに腐らせたくもない」

魔王「検証したいことがあるからの」

勇者「検証?」

魔王「うむ、では行こうか……転移魔法」

【氷山の洞穴】

勇者「二体とも俺の死体だな」

魔王「同一人物の死体二つなどめったにお目にかかれんな」

勇者「めったどころじゃない」

勇者「で、どうするんだ?」

魔王「まずは氷結魔法を解いて…持ち物を調べる」ゴソゴソ

勇者「持ち物って言っても金くらいしか持ってないぞ」

魔王「それじゃよ、お主二人分のサイフの中身じゃ」

勇者「中身?」

魔王「お主が死んでも所持金は変わらんのじゃろ?」

勇者「え、あー、どうだろう、いちいちチェックしないし覚えてない」

魔王「……まあ、減ろうが増えようが死んでもお金は所持してるじゃろ」

勇者「まあな」

魔王「じゃが、死体は変わらずここにある、お金も持ったままじゃ」

勇者「そっか、死体が残ったままなら金を持ってるのはおかしいよな」

魔王「……ふむ、やはり同じ数だけ硬貨が残っておる、それも種類もぴったしじゃ」

勇者「これはつまり、蘇生の度に同じ金を持たされてるってことか」

魔王「そうなるの、服や武器は見ただけでわかるがこんな細かいところまで…」

魔王「どうやって数や状態を確認しておるのか……もしや危ないか?」

魔王「……いや、こうしてわしが蘇生の謎について調べられている以上は最悪の可能性はないか」

勇者「最悪の可能性?」

魔王「いやしかし罠か…? …確かめる必要があるな」

勇者「おい、魔王?」

魔王「よし、次じゃ」

勇者「は?」

魔王「今度は城に潜入するぞ」

勇者「え?」

魔王「その前にやることがあるがな」

【王都・僧侶の家】

僧侶「……勇者、もうひと月以上も連絡がない」

僧侶「わたしも、戦士のように行くべきかな…」

僧侶「勇者に何かあったらわたし…だってわたし勇者が――」

勇者「おいすー」

僧侶「きゃあああ勇者!? なぜここに! いえおかえりなさい!」

勇者「おちつけ僧侶」

僧侶「れれれれ冷静ですよわたしは!? 戻ってきたということは魔王を討ち取ったんですね!」

勇者「いや、実はまだ」

僧侶「え?」

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