魔王「世にも恐ろしい兵器を手に入れた」 2/4

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姫「むう……何がいけなかったのでしょうか。長年の一人四役人生ゲームで、シュミレーションは完璧でしたのに」

魔王「……」

姫「まあいいのです。私にはこれがありますから」

魔王「……どこから持ち出した。そのゲーム機」

姫「城からに決まっておりましょう。こたつと一緒に過ごすべく持参いたしました」

魔王「お前は一応人質とか、そのようなものだよな?」

姫「そうですね……はあ、明日をも知れぬ我が身が嘆かわしいことです……」

魔王「言いつつ電源を入れるな」

姫「良いではありませんか。何なら貴方もやりますか?はいどうぞ」

魔王「何故同じものを二台も所有しているんだ」

姫「こたつ中毒者の嗜みです。一人で通信する際に便利でしょう」

魔王「……お前、さては社会不適合者だろう」

姫「魔王に言われたくありません!」

魔王「とは言え私はこの手の物を触ったことがない」

姫「それは人生の八割方損をしていますわね。ではこのゲームなんて如何です?」

魔王「何だこれは」

姫「モンスターを集めて育てて、戦わせるゲームです」

魔王「ほう……それはそれは」

魔王「魔王のような仕事を行うものもあるのだな」

姫「興味を持って頂けたようで。説明書はこちらにございますので、試しに最初から初めてごらんになっては如何でしょう」

魔王「そうだな。丁度暇を持て余している所だった。いいだろう、やってやる」

姫「ではまあ、存分にお楽しみくださいませ」

魔王「ああ」

魔王「おい」

姫「はいはい何ですか……って、まだ始まってすらいないじゃないですか」

魔王「最初に、この三つの内から選べと言われたのだが……これ以外には選べないのか」

姫「無理ですね。早くどれかお選びくださいな」

魔王「しかしなあ……」

魔王「どれもこれも弱そうなんだが」

姫「何を仰るかと思えば。今はこんな可愛らしい容姿ですが、育てれば逞しい姿に変化し、良きパートナーとなってくれるのですよ?」

魔王「いやしかだな……こいつら、可愛いのか?」

姫「お黙りなさい!流石に私も最初見た時はちょっと言葉を失いましたけど!特にラッコは!」

姫「それでもじっくり見ていれば可愛い子達です。現にこの青いラッコ、今では私のお気に入りなのですよ」

魔王「解せぬ……こんな弱そうなモンスターを何故わざわざ育てねば……」

姫「魔王の仕事もも似たような物でしょう。魔物を見出し育て上げ、自身の望む軍団を作るという」

魔王「大袈裟な。たかだかゲームだろう、これは」

姫「たかだかゲームで出来ない事が、リアルで出来るはずがありませんよ」

魔王「……やってやる」

魔王「で、お前は最初、どれを選んだ」

姫「仰いましたでしょう。こちらの青いラッコです」

魔王「では……私はこちらでいこう」

姫「あら、炎タイプをお選びになるとは」

魔王「炎は水が弱いのだろう。説明書に書いてあった。お前よりも不利な状態から、私はこのゲームを華麗にクリアしてやろう」

姫「別にそういう難易度変化があるわけではないのですが……」

姫「……あら」

魔王「……」

姫「もうこんな時間です。すっかり夜中になってしまいました」

魔王「……」

姫「あの……私は今夜どこで寝ればいいのでしょうか?」

魔王「……」

姫「さ、流石にこたつで一夜を過ごすのはお行儀が悪いですし……それも魔王とはいえ殿方と……だなんて」

魔王「……」

姫「……あのー」

姫「……えいっ」

魔王「……足を蹴るな」

姫「もう、何度も呼びましたのよ。そんなに熱中なされるなんて」

魔王「こんな下らない物に、私が熱中しているわけがないだろう」

姫「充電器を繋ぎながら黙々とプレイなさっていながら何を……」

姫「でもおかしな話ですねえ」

魔王「何がだ」

姫「一人の時ではあんなに広かったこたつも、貴方がいるだけでこんなに狭くなるだなんて」

魔王「……いつも」

姫「はい?」

魔王「いつも一人だったのか?」

姫「はい」

姫「お父様ともお母様とも、お嫁に行かれたお姉様達とも。一緒にこたつに入ったことはありませんね」

魔王「……」

姫「でも、ちょっと足を伸ばせば真正面にいる方に届くのですね。こたつ中毒は長いのですが、今になってようやく発見しました。こたつには色々な発見がまだまだあるのです」

魔王「そうか……む」

姫「どうなされましたか?」

魔王「この……ポケルスとは何だろうか」

姫「……それは、クリアなさってからお調べ下さい」

魔王「?」

姫「で、私はどこで眠ればいいのでしょうか。もう夜も遅いですし」

魔王「ああ……一応部屋を用意しているが」

姫「では、とりあえず今夜はそこを使わせて頂きます」

魔王「勝手にしろ」

姫「それではお休みなさいませ。また明日」

魔王「ああ」

魔王「変な女だな……」

魔王「まあいい。私は早くこれをクリアしなければ」

魔王「……」

魔王「……」

魔王「……」

魔王「……む?」

姫「はあ……やはりこたつは素敵でした」

姫「住み慣れたお城ではないのが少し悔やまれますが……」

姫「ですがこたつさえあればどこでも都です」

姫「少々狭くなってしまいましたが、そんなことでこたつの魅力が減りませんでした。明日もこたつ天国です」

姫「やはりこたつこそ正義!こたつこそが世界を平和に導くのです!」

魔王「何の宗教だ」

姫「!?」

姫「な、な、な!何ですか急に!ノックも無しに淑女のお部屋に入らないでください!」

魔王「いや、お前が淑女かどうかは、大いに疑問が沸く所だが……」

姫「はっ……!まさかこれがいわゆる"よばい"というやつなのでしょうか!?」

魔王「そこまで飢えてはおらぬ故、安心しろ」

姫「どうだか!そう仰る方こそ怪しいのです!漫画で読みました!」

魔王「ええい喧しい……いいから来い」

姫「え、え?」

姫「な、何なのですか。部屋に連れ戻して」

魔王「見ろ」

姫「こたつがどうかなさいまして?」

魔王「お前が部屋を出て、急に冷めてしまった。どういうことだ」

姫「ああ、それは当然ですわ」

姫「これは王家に伝わる物。血統でなければ動かせないと、そう申し上げましたでしょうに」

魔王「……つまり、お前がいないと」

姫「こたつの温もりは幻の物となってしまいます」

魔王「よし分かった。命令だ」

姫「?」

魔王「一晩ここにいろ」

姫「ま……まあ!」

姫「つまり貴方もついにこたつが無ければ生きていけない体に!」

魔王「馬鹿を言え。夜も深まり更に冷えてきたのは確かだが、わざわざ他の暖房器具を用意するのが面倒なだけだ」

姫「口ではそう言ったところで、体は素直ということですね!これも漫画で読みました!」

魔王「黙れ」

姫「うう……ノリが悪いです」

姫「でも、流石に私も眠いのですけれど……」

魔王「ここで眠ればいいだろう」

姫「安らぎの地とはいえ、一国の姫が眠って良い場所ではないでしょう」

魔王「人質として魔王に捧げられたお前に、今更身分も何もないだろう」

姫「……それもそうですわね!」

魔王「何故今の台詞で活気が出る」

姫「ちょ、ちょっと憧れだったのですよね。こたつで眠ってしまうのって」

魔王「ならば好きなだけ惰眠を貪れ」

姫「望むところです!」

魔王「おい待て」

姫「はい?」

魔王「何故私から見て……側面に陣取る」

姫「こう、真っ直ぐに足を伸ばして眠るにはここが一番ではないですか」

魔王「ま、まあ確かにな……」

姫「それでは今度こそお休みなさいませ」

魔王「……休め」

姫「うふふ……今夜は一晩中こたつと一緒……ふふふ」

魔王「……」

姫「うう……」

魔王「起きたか。もう朝だぞ」

姫「か……体がだるいです。あちこち痛いです……」

魔王「一晩の寝所には適さぬか、こたつ」

姫「でも……暖かくて良かったですわ」

魔王「起き抜けに頬擦りする元気があれば大丈夫か」

姫「ふわーあ……おはようございます」

魔王「ああ」

姫「……一晩中やってらしたのですね」

魔王「当然だ。そろそろ終わりが見えて来たぞ」

姫「何が当然なのかよく分かりませんが……まあ、頑張って下さいまし」

魔王「おい、どこへ行く」

姫「お顔を洗ったり、歯を磨いたりと……朝の支度をしに。」

魔王「……朝食はここに用意させる。早く戻れ」

姫「……はいはい」

姫「ただいま戻りました」

魔王「ああ。ところで見ろ」

姫「まあ!」

魔王「これでクリアだ。どうだ。手際が良いだろう」

姫「凄いですこんな短時間で!初めて手を出した方の出来とは思えません!」

魔王「ふっ……当然だ」

姫「社会的にはどうかと思われますけどね」

魔王「お前がそれを……言うか」

魔王「しばらくこの手のものは十分だな」

姫「不眠不休でクリアなされたのですもの。当然です」

魔王「そうすると、再びやることが無くなってしまったのだが」

姫「大丈夫ですよ。あっても無くても変わりませんから」

魔王「どういう意味だ」

姫「こたつの魔の手に一度でも絡め取られてしまえば、本来の目的や仕事などはあっさり無に帰すのです」

魔王「恐らくそれらは無に帰してなどいない。見えない振りをしているだけだ」

魔王「しかし……ここに昨日初めて座った時は、何かを考えようとしていたような」

姫「考え事ですか?」

魔王「ああ……何と言うか、かなり大事な仕事についてだったような」

姫「お夕食のメニューについてとか……昨今の少子化問題についてとか!」

魔王「後半は何故私が悩まねばなぬのかと。むしろ邪魔な人間共が減るなら大歓迎だ」

姫「つまり……お年を召した女性が好みなのですね?」

魔王「会話を繋げる努力をしろ。全く違う」

姫「まあまあ、そうカリカリなさらないで下さい。無理に思い出そうとしてもきっと無駄ですよ」

魔王「お前にだけは言われたくはない……いや待て、確かお前絡みで何か考えようと」

姫「あ、この蜜柑特に甘いです。半分差し上げましょう。はい、あーん」

魔王「いるか……!!」

姫「……折角慰めて差し上げようと思いましたのに。あ、あら、如何なされましたの?突然こたつに泣きつくだなんて」

魔王「後一歩で思い出しそうだったのだ!それをお前が余計なことをするから……!」

姫「よ、余計なこととは何ですか!」

姫「折角気を利かせて食べさせて差し上げようと思いましたのに!」

魔王「それが余計なことだと言うんだ!」

姫「く……!もういいです!蜜柑、もうあげませんからね!」

魔王「いらんと言っているだろうが」

姫「昨日からあれだけ召しあがっておきながらよくもまあ……!」

魔王「全く……静かにしておけ」

姫「ふんだ……寝ます」

魔王「……勝手にしろ」

姫「……」

魔王「……」

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