魔王「世にも恐ろしい兵器を手に入れた」 3/4

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姫「……」

魔王(……)

魔王(……そうか)

魔王(こいつの国を滅ぼす算段だったな……)

魔王(結局ペースを乱され、ろくに整っていないが……)

魔王(丁度静かになったし、今一度考えてみるか)

魔王(さてどうするか。こんな馬鹿げたガラクタと変な女を掴まされたのだから、一夜にして焼き払われても文句は言えんはずだよな)

魔王(うむ。胸が躍るな。やはりこれこそが私の本業だ)

魔王(何故私がこんな女と共に、無為な時間を過ごさねばならなかったのかと)

姫「……ぐすん」

魔王「!?」

魔王(い、いやいや……何を怯えているんだ私は)

魔王(いや違う……!怯えてなどいない!!)

魔王(これはあれだ、面倒の予感に辟易しているだけだ)

魔王(よし。無視だ無視。そもそも私はこれから大量の人間を葬り去ろうとしているのだ)

魔王(こんな女一人泣かせたくらい何も)

姫「ぐすん」

魔王「……」

魔王「お……おい」

姫「……」

魔王「その……何だ」

姫「……」

魔王「先程は少々言い過」

姫「ぐすん……やっぱり」

魔王「……?」

姫「やっぱり何度読んでも泣ける、名作ですわ……ぐすん」

魔王「おい待て何をしているお前」

姫「結局眠れずに……漫画を少々」

魔王「これだけ大量の書物をどこからどうやって持ち出した……!?」

姫「淑女の嗜みです」

魔王「意味が分からない……」

姫「あ、何か仰っていらしたようですけど。何かご用ですか?」

魔王「もう……何もかもがどうでもいい」

姫「まあ!とうとうこたつ中毒者としての心構えが出来ていらしたのですね!」

魔王「……それでいい」

姫「?」

姫「何だか元気がないご様子ですが……どうかなさったのですか?」

魔王「むしろお前がどうした……先程までへそを曲げていたというのに……」

姫「名作の力は偉大なのです。機嫌が直ったついで、貴方にもオススメしてみましょう」

魔王「結構だ」

姫「面白いですのに……全四十三巻ですよ」

魔王「だからいらんと」

姫「未だに誰も読んでいる方に巡り合えませんが、一人感想会などを催す程に大好きな」

魔王「……今度読む」

魔王「しかし……しかしだ」

姫「何ですか?」

魔王「お前は、私がこたつ無しでは生きていけない体になると言っていたな」

姫「現にそうではありませんか」

魔王「……まあ、昨日から自堕落な生活をしていることは事実だが」

姫「ほらご覧なさいな」

姫「こたつに打ち勝つ事など、誰であろうと不可能なのです!」

魔王「しかし、だ」

姫「まだ何か反論がございまして?」

魔王「お前が推しているのは『自堕落な生活』であって」

姫「ええ」

魔王「『こたつ』自身ではないと思うのだが」

姫「そ」

姫「そんなことはありません!」

魔王「お前、本当はこたつ中毒なのではなく、単なる怠け者なのでは?」

姫「違います!私は……私は本心からこたつを愛しております!」

魔王「とは言えお前が推すのはゲームや蜜柑。こたつとセットでなくとも構わないような物ばかりで」

姫「蜜柑は温かいこたつに入ってこそ美味しくなるのです!凍えていては手がかじかんでゲームなどまともに出来るはずがありません!」

魔王「しかしなあ……」

姫「そうまで仰るのでしたらいいでしょう!これから貴方にこたつの魅力を隅々まで伝授して差し上げましょう!」

魔王「あー……いや別に、そうした無駄な熱意はいらんのだが」

姫「遠慮なさる事はありません!今日からあなたもこたつマスターです!」

魔王「マスターしてもな……まあいい。暇潰しに付き合ってやろう」

姫「そう言うと思いました!貴方は何だかんだと口では否定しながらも、体はこたつを求め」

魔王「もうその件は聞き飽きた」

姫「では一つ……ねこを用意して頂きましょうか」

魔王「猫……?」

姫「はい。ねこです。も、もうそれはそれは可愛らしいねこを一匹用意して」

魔王「どうするんだ?」

姫「こたつに入れるのです!」

魔王「……焼いて食……何をする叩くな。やめろ」

姫「この!この!悪魔!謝りなさい!ねこさんに!」

魔王「ならば……ねこをこたつに入れてどうするんだ」

姫「ねこはこたつの中で丸くなるのです」

魔王「……は?」

姫「これは我が王家に代々語り継がれる伝説なのです!」

魔王「今更だが、お前の家系は平和ボケにも程が無いか?」

姫「何の事だかさっぱり分かりません!」

姫「ですが私も実際に見た事はないのです……」

魔王「見たところで何も得られる所は無いと思うのだが」

姫「そんなことはありません!ねこが丸くなるんですよ!?あのねこがですよ!?」

魔王「少しまともな言語を操ってくれるか。主述をしっかりと」

姫「これは良い機会!今こそ伝説を再現する時なのです!」

魔王「まあ、いいんだがな……」

姫「さあ、行くのです!」

魔王「魔王使いの荒い奴め……しかし、待て」

姫「な、何故です。付き合うと仰ったのに」

魔王「そうは言ったが、部屋を出るのが面倒だ」

姫「貴方が出たくないのは部屋ではなく、こたつでしょう!?いい加減認めたらどうですか!?」

魔王「まあ待てまあ待て。別に猫など逃げるものでは」

姫「逃げますよ!撫でたり抱いたりしようとしたら、すぐ逃げるんですよねこは!」

魔王「実体験か……」

魔王「分かった分かった……少し待っていろ」

姫「はい!ねこ、お願いしますね!」

魔王「しかし猫か。生け捕りは面倒臭いな」

姫「ちゃ、ちゃんと生かして連れて来て下さいよね!?」

魔王「善処する。では、大人しくしていろよ」

姫「はい!はい!それはもう!」

魔王「で、連れて来たのだが」

姫「……何ですか」

魔王「猫を見つけるよりも手早いかと思い、配下の猫科獣人を一匹」

姫「ねこじゃありません!可愛くないです!クーリングオフです!」

魔王「お前は本当にずけずけと……ああ、気にしなくていいからな、こいつはこういう女で」

姫「ねこが来ると思ったから、急いで蜜柑の皮を片付けましたのに……」

魔王「まあ、とりあえず、この中に入って丸まってくれるか。そうしたらこの女も満足するようなので」

姫「満足しません……意地でも……」

魔王「猫に変わりはないだろう。さあ入ってくれ」

姫「……」

魔王「……」

姫「……も、もういいですよ。狭くて辛いのは分かりましたから」

魔王「こちらも無理なことを言って、すまなかった……」

姫「何故連れてくる前に気付かなかったのですか……あの方ではこたつで丸くなるのは物理的に無理だと」

魔王「いや、頑張ればギリギリでいけるサイズかと」

姫「あの方ずーっと謝ってから帰りましたね……悪いのはこちらですのに」

魔王「まあ、下らないことに付き合わせたんだ。後で何か褒美でもやろう」

姫「うう……無意味に良心が痛むだけで終わりました」

姫「いいです……ねこは今度でいいです」

魔王「諦めるまではいかないのだな」

姫「人間前だけを向いて進まねばなりませんからね!次です!」

魔王「……今度は何を連れて来いと。犬か?」

姫「ふふん。伝説では、いぬは雪の日に庭を駆けるのですよ」

魔王「お前の家の伝説とは一体」

姫「今度はですね!鍋です!」

魔王「……鍋?」

姫「はい!こたつに入って鍋をつつく!これぞこたつの醍醐味なのです!」

魔王「鍋か……」

姫「まあこれも未だ実証検分していない伝説なのですが!」

魔王「お前は本当、そればかりだな」

姫「だってだって……そもそも鍋とはどのようなお料理なのかも存じ上げませんし」

魔王「奇遇だな。私も聞いた事の無い料理だ」

姫「お料理用のお鍋を使うのでしょうか?」

魔王「使ってどうするのだろうか……」

姫「食材を煮るに決まっているじゃないですか」

魔王「味付けは?」

姫「……うーん」

魔王「で、手下に『鍋』の用意を命じたのだが」

姫「……こんなお料理だったのですね」

魔王「うむ。紫色のだし汁に、蛍光緑や桃色の食材が実によく栄えているな」

姫「美味しそうな匂いがするだけに、余計に恐ろしいです……」

魔王「しかし鍋を食うと言ったのはお前だろう。覚悟を決めろ」

姫「うう……分かりました。こたつで死ぬなら本望です!」

魔王「流石に毒は盛られていないと思うが」

姫「小鉢に盛って……おだしを入れて……」

魔王「……何の肉だろう、これは」

姫「ふ、不安を煽らないでください!貴方の用意は出来ましたか!?」

魔王「ああ」

姫「それでは……頂きます!」

魔王「さて食うか」

姫「……おいしいです」

魔王「案外いけるな」

姫「……」

魔王「……」

姫「……あったまりますねえ」

魔王「そうだな」

姫「やはりこたつは偉大なのです」

魔王「鍋の功績が大きいと思うのだが?」

姫「しかし考えても見て下さい。もしこたつではなく、普通の食堂でお鍋を食べていたら」

魔王「……こたつの方がいいかもな」

姫「ええ、その通りです」

姫「鍋を食べるには、これくらいの狭さが一番です。あんなに広いテーブルでは、鍋にお箸が届きませんもの」

魔王「こたつのためにある料理なのかもしれんな、これは」

姫「しかしこたつ単体でも十分に楽しめる!どうです、そろそろこたつの魅力を認めますか?」

魔王「さあな」

姫「くうう……これがいわゆるツンデレというやつなのでしょうか」

魔王「私がいつデレたのか、言ってみろ」

姫「さてとーお鍋もすっかり綺麗になったところで!」

魔王「何だ?」

姫「〆にうどんを煮たり、ご飯を入れて雑炊にするのが作法なのだそうです」

魔王「それもまた伝説か?」

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