魔王「世にも恐ろしい兵器を手に入れた」 4/4

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姫「はい!ちなみに雑炊がかなりの美味だとか」

魔王「ふむ」

姫「どうかなさいまして?」

魔王「私は米より、麺類派だ」

姫「…………じゃーんけーん!」

魔王「ほれ」

姫「うう……お雑炊……」

魔王「ぐちぐち言うな。負けたのはお前だろう」

姫「そうですけどー……うどんも美味しいですけどもー」

魔王「なら文句はないだろう」

姫「……ずるずる」

魔王「……明日また、鍋を作らせる」

姫「!」

魔王「明日の〆は譲ってやろう」

姫「わ、わ、ありがとうございます!」

魔王「ふん……たかだか下らぬ貢物の分際で、生かされただけでなくこうして気にかけて貰える事、光栄に思えよ」

姫「はい!貴方ってやっぱり良い方なのですねえ」

魔王「……嫌味のつもりだったのだが」

姫「はー……お腹いっぱいです」

魔王「良かったな」

姫「しかし……まだなのです」

魔王「は?」

姫「まだこたつの魅力伝授・食べ物部門は終わっていません!」

魔王「……まだ食わせる気か」

姫「別腹ものですから大丈夫ですよー」

魔王「……持って来させたぞ」

姫「わーいアイスです!」

魔王「暖房器具活用しつつ冷たい物を食すとは……何とも背徳的だな」

姫「これぞ贅沢というものです。あ、あら?」

魔王「どうした」

姫「一つしかありませんよ、アイス」

魔王「何かと思えば。私は満腹で、いらんからな」

姫「えー……伝授できないじゃないですか」

魔王「また次の機会にな」

姫「貴方は次に、次に、ばっかりです。曖昧です」

魔王「何とでも言え」

姫「そういう殿方は、きっとモテませんよ」

魔王「よし、黙って食え」

姫「うー……残り半分……」

魔王「どうした」

姫「ちょっと……辛くなってきました」

魔王「ほらな。少し時間を置いてから食うべきだったのだ」

姫「残り……食べて下さいませんか?」

魔王「お前は魔王に、残飯を押し付ける気か」

魔王「残せばいいだろう、そんなもの」

姫「勿体無いじゃないですか」

魔王「知るか。第一、お前が何の計画も無」

姫「よし、まずは一口」

魔王「……何をした」

姫「得意げに口を開いている所を狙って、食べさせました!」

魔王「もういい分かった。全て寄越せ。食ってやるから」

姫「あ、あら。いきなり従順になりましたね」

魔王「頭が……」

姫「もう、一気に召し上がるからですよ」

魔王「うるさい元凶め……」

姫「変な方。まあいいでしょう。これよりこたつの魅力伝授、最終奥義へと移行します!」

魔王「まだ……あるのか」

姫「あからさまに嫌そうな顔をしないで下さい!」

魔王「やれやれ……で、今度は何だ……」

姫「まだ横になっちゃ駄目です!食べてすぐ寝ると牛になるんですよ!?」

魔王「既にそれらしき角は持ち合わせている。魔王だからな。なので問題はない」

姫「問題しかありません!起きて下さい!」

魔王「その、奥義の内容を聞いてから、起きるかどうか決めてやる」

姫「くっ……いいでしょう!聞いて驚かないでくださいね!」

魔王「分かった分かった。で、何だ」

姫「人間座椅子です!」

魔王「…………で?」

姫「ふっふっふ!やはり素直に起きましたね!目論見通りです!」

魔王「……その、人間座椅子とは一体何だ?」

姫「こう、こたつに座った人を、座椅子にしてこたつに入るという」

魔王「ああ……」

姫「別名“こたつがかり”とも言うらしい伝説の」

魔王「よし分かったもう黙れ。何も言うな」

姫「?」

姫「もしかして、貴方……伝説の“こたつがかり”が何かご存知なのですか!?」

魔王「偶然にも……と言うよりもそれは伝説でも何でもなく」

姫「ならば話は早いですね!早速実践して」

魔王「それ以上言ってみろ……!二度とこたつに入れてやらんぞ……!」

姫「わ、私がいなければこたつは付かないのに……」

姫「うう……奥義が封じられてしまいました……」

魔王「分かったらもう伝授など諦めて、先程の漫画でも」

姫「こうなったらプチ奥義です!」

魔王「まだあるのか」

姫「舐めないで頂きたいですね!こたつマスターは伊達ではありませんよ!」

魔王「出来ればもう勘弁して頂きたいのだが。全力を賭して」

姫「今度はこれですよー!」

魔王「……」

姫「それにポータブルDVDプレイヤー!」

魔王「……」

姫「一緒に見ましょう!」

魔王「……」

魔王「まあ、それなら……いいだろう」

姫「ありがとうございます!よいしょっと」

魔王「待て」

姫「待ちます!」

魔王「どうして私の隣に入ろうとする?」

姫「一つの面に二人いないと、一緒に見れませんよ?」

魔王「……仕方ないな。ほれ」

姫「おじゃましまーす」

魔王「で、何を見るんだ。かったるい恋愛ものだなど抜かしたら、今すぐ寝てやるからな」

姫「そういうのは一人でも見れますから……二人でないと見れないものです!」

魔王「ほう……で、ジャンルは?」

姫「血肉まみれのホラー映画です!」

魔王「……なあ、お前」

姫「はい?」

魔王「目の前の者が魑魅魍魎の類の大ボスだと、知っているよな?」

姫「知っていますよ?」

姫「ううう……怖いです怖いです」

魔王「……」

姫「だ、駄目です!そっちは絶対一人で行っちゃ駄目です!」

魔王「……騒ぐな」

姫「ああー!『すぐ戻る』だなんてそんなこと言っちゃ……きゃー!!」

魔王「腕に……しがみつくな」

姫「こ、怖かったです……」

魔王「私も恐ろしかった」

姫「ま、魔王を震え上がらせるとは……やはり凄い映画でしたのね」

魔王「ああうん。それでいい。もう夜も遅い。寝ろ」

姫「え」

姫「あれを見て眠れるわけないじゃないですか……夢に出てきたらどうするのですか!」

魔王「お前、昨夜どこで寝た」

姫「ここですよ?」

魔王「誰がいた」

姫「貴方がゲームしていました」

魔王「で、今夜は怖くて眠れないと」

姫「はい!」

魔王「はあ……分かった」

姫「は、はい?」

魔王「眠気の限界まで付き合ってやる」

姫「あ、ありがとうございます!じゃあ、また映画でも見ましょうか」

魔王「ああ……もう少しまともな映画を頼む」

姫「ではファンタジー映画でも見ましょう!魔王が勇者に倒されるような王道物!」

魔王「悪意が無いのがこれまた酷い」

半月後――

姫「うー……」

魔王「何だ?」

姫「じゃーんけーん」

魔王「ほれ」

姫「か……代わりにお花を詰みに行って下さいませ」

魔王「だから、それは無理な話だと何度言えば」

姫「……使えない魔王です」

魔王「こういう面で使えても困るだろう」

姫「そういえば最近、お城が静かになりましたねえ」

魔王「ああ」

姫「どうしてでしょうか?私が来た頃は、もっと魔物さん達が騒がしくしていたはずですのに」

魔王「以前、お前が猫を連れて来いと言っただろう」

姫「はい。あの獣人さんには悪い事をしました……」

魔王「あいつのせいだ。静かなのは」

姫「?」

魔王「あいつはこの部屋で見たこたつを、えらく気に入ってしまったようでな」

姫「はい」

魔王「独自に開発を行い、大量生産までこなしてしまったらしい」

姫「ということは……今やこのお城は」

魔王「私達並の、こたつ中毒者まみれとなってしまった……」

魔王「しかし私はまだ屈さぬ……今はまだこのような体たらくだが、いずれ春の訪れと共に人間共を恐怖に陥れ……」

姫「春と共に目覚めるだなんて、平和な存在ですねえ」

魔王「くっ……まだ大丈夫だ。私はまだまともだ……貴様とは違う」

姫「そう仰るのでしたら……5Vメタモンは渡しませんよ?」

魔王「もう駄目で良い」

姫「よろしいでしょう」

魔王「まあしかし、今から春に行うべき悪事を考えておくのもいいだろう」

姫「でも、あんまり長引くような悪い事だと、次の冬にこたつでだらだら出来ませんよ?」

魔王「む……それはかなり死活問題だな」

姫「お手軽簡単な悪事と言えば……あ」

魔王「何か名案でも?」

姫「魔王様……」

魔王「何だ」

姫「魔王様はご存知ないのですね。我が国にはもう一つ、宝があるのです」

魔王「な……それは一体」

姫「暑い夏を少し快適に、だらだら過ごすためだけに使われ、その指し示す方向を人々が追い求めると言う……」

魔王「……名は?」

姫「"せんぷうき"……と申します」

魔王「よし分かった。次はそれを要求しよう」

姫「あ、その際は一つお願いが」

魔王「?」

姫「私には嫁いだ姉さま達がおりますが……彼女らの身はどうか要求しないで下さいね」

魔王「……お前がいれば他に何も必要ないだろう」

姫「……はい!」

【完】

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