僧侶「…ふわあ、温か~い…気持ちいいなあ…髪も洗おうっと…」ジャブジャブ
僧侶「………」ムニィ
僧侶「………うん、ちゃんとあるもんねっ!洗濯板じゃないです!盗賊さんのバカバカ!!」
僧侶「………ぐすん」
スライム「ピキー!」ガサガサッ
僧侶「きゃ!ス、スライム!?」
スライム「ピキキー」ドボン
スライム「ピ~ピキピッキ~♪」プカプカ
僧侶「…あははっ、そっかあ、スライムさんもお風呂が好きなんだね」
僧侶「………」
スライム「ピキ~」プカプカ
僧侶「………」キュッ
スライム「ピキ!?」
僧侶「………これくらい大きくて柔らかかったらなあ……ぐすん」
スライム「ピキ~♪」デレデレ
・・・
盗賊「………」ザブザブ
盗賊「………」
衛兵「どうだ?傷の方は」
盗賊「ああ…完全とは言えないが、痛みが和らぐ。すまねェ、流れた血で湯を汚しちまった…」
衛兵「構わないよ。温泉は地下から湧き出て、土へと流れていくからな。時間を置けば、血も一緒にどこかへ流れていく」
衛兵「私としては、暫くの湯治を勧めたいが…どうしても行くのか?」
盗賊「ああ。こうしている間にも、勇者はどんどん先へ行っちまうからな…」
衛兵「そうか…オアシスの街には教会もある、そこへ無事に辿り着くよう祈ろう」
盗賊「祈りなんざいらねェよ。そんなもんで腹は膨れねーからな。それよか、無事に帰った時の山の幸料理だ。それを約束してくれた方が断然やる気が出るね」
衛兵「…ハハハ。わかったよ、必ず用意するからさ。気をつけて行くんだぞ?」
盗賊「へいへい。まあいざとなったら、あのクソアマを餌にしてトンズラするからいいんだが」
衛兵「………」
衛兵「君は素直じゃないな」
盗賊「っあ!?」
衛兵「なんでもない。さあ、私は見張りに戻るから。君は時間の許す限り浸かっていなさい」
盗賊「ちょっ!待ちやがれテメー!!何か聞き捨てならない事言っただろ!おいっ!!待てコラ!!」
盗賊「………チッ!!クソが!腹立つな、次にクソアマが寝たら鼻に小石詰めてやろう、そうしよう…」
僧侶「温泉すっごく気持ち良かったですぅ~!また来ましょうね、盗賊さんっ」ホカホカ
スライム「ピキー!」ホカホカ
盗賊「………おい、クソアマ。なんだ、その魔物」
僧侶「あ、一緒に温泉に浸かったんです、温泉友達ですよ、ねースライムさん!」
スライム「ピー、キ!」
盗賊「どうでもいいが、山に帰してやれよ。連れてはいけないからな」
僧侶「うう…そうですよねえ……また一緒に温泉入ろうね、スライムさん…」
スライム「ピッキキー」ガサガサ
衛兵「あのスライムは私達の村にもよく遊びに来るんだ、いいスライムだよ」
僧侶「へぇ~、そうなんですかあ…!だから人間に慣れていたんですね…」
衛兵「村でも人気者さ。……さあ、麓についたぞ。私が送れるのはここまでだ、村の警備に戻らねばならないからな…」
僧侶「送ってくださって、ありがとうございました…温泉も、気持ち良かった、です…!」
衛兵「この先を真っ直ぐ行けば、砂漠へ出るだろう。砂漠の中央に見える巨木を目指しなさい、それがオアシス、そして砂漠の国の目印だからね」
盗賊「何から何まで、すまねェな。世話になった」
衛兵「砂漠の昼は暑く、夜は芯まで冷える。フードをしっかり被って陽射しを避け、水が尽きる前にオアシスに行くんだ。気をつけるんだよ」
僧侶「ありがとうございました、ありがとうございました!行ってきますぅ~」
僧侶「衛兵さん、とっても親切な方でしたねえ…優しいし、強いし……素敵な人でした…」
盗賊「………」
僧侶「砂漠って、私、見たことないです。盗賊さんは、見たことありますか?」
盗賊「うるせえな、黙って歩けよクソアマ。あとマントを掴むな、邪魔だ」
僧侶「…盗賊さん、いっつもご機嫌斜めだけど……今とくに、怒ってませんか…?」
盗賊「うるせえっつってんだ!!黙ってろよ、クソアマ!!」
僧侶「あうう……」
~砂漠の入口~
馬屋「はいはい、いらっしゃい!砂漠を渡るには砂馬が一番!歩いて行ったら即ミイラ化だよ、悪いことは言わない、砂馬に乗って行きな!」
盗賊「おい、ちょっと聞きたい事があるんだが…ここに勇者が来なかったか?」
馬屋「勇者様?なんでまた」
僧侶「私達、勇者様の仲間で……勇者様と、合流しなくちゃならないんです…今、追いかけている最中、で」
馬屋「へえ~。いや、勇者様なら来たよ。砂馬を借りて砂漠の国に渡ったはずさ。うちの砂馬は利口だからね、砂漠の国に人を届けたら、ちゃんと自分で帰ってくるんだ」
馬屋「ほら、そこにいる二頭がそうさ」
僧侶「え?二頭?」
盗賊「勇者は一人じゃないのか?」
馬屋「ああ、2人組だったよ。一人が勇者様で、もう一人がその仲間だって。あれは魔法使い…さん、かな?若い男…いや、少年と、それから若い女の人だったね」
僧侶「思えば、私達…勇者様のこと、なんにも知りませんでしたね…」
盗賊「ああ、こりゃいい情報を得たな。そうか、勇者は魔法使いと一緒にいるのか…それから若い男女。似顔絵でもありゃ最高だが、まあ、これで少し探しやすくなった」
馬屋「あんた達、本当に勇者様の仲間なの?…まあいいか、で?砂馬借りる?借りない?」
盗賊「その砂馬とやらに乗れば早く砂漠の国につけるのか?」
馬屋「早いだけじゃなく、徒歩より断然安心だよ!砂漠の魔物は狂暴だからね、しかも装甲の硬いヤツばかりだから。砂馬はおとなしく優しいけど、逃げ足はどんな馬よりもとびきり早いんだ!」
盗賊「…料金はいくらだ?」
馬屋「一頭でこの値段だね」
盗賊「……ギリギリ一頭借りられるくらいだな…おい、クソアマ。俺は砂馬に乗るから、テメーは歩け」
僧侶「えええ!?むむ無理ですう!!死んじゃいますよう~!!」
馬屋「なんなら、一番体の大きな砂馬を貸してあげるよ。お嬢さんは小柄だし、その砂馬なら2人乗れるだろうから」
盗賊「いいのか?」
馬屋「ああ。うちの砂馬がどれだけ立派かと見せられれば、客足に繋がるからね。宣伝も兼ねているってことで、サービスしよう!」
僧侶「あ、ありがとうございます…!良かったぁ…こんな、熱い砂の上を歩いたら…、すぐに干からびちゃいそうだし…」
馬屋「ただ、忠告しておくよ、お客さん。今の砂漠の国はなんだかキナ臭い話を抱えていてね。下手すると余所者は捕まって牢屋に入れられてしまうから、気をつけて!」
盗賊「はあぁ?…俺なんか特にヤバいじゃねーか…一体何が起きているんだ」
馬屋「噂だけど、近々戦争が起きるんじゃないかって話なんだよね。砂漠のオアシスも年々水が少なくなっているから…領土拡大っていうのかな」
僧侶「そんな…魔王がいるって時に、なんで人間同士で、争わなきゃならないんでしょうか…」
馬屋「遠くの恐怖より、目先の問題だよ。オアシスが枯れてしまったら、孤立している砂漠の国はあっという間に壊滅だからね…」
馬屋「せめてオアシスが枯れずに済むなら、戦争も起きないだろうけどねえ…苦渋の決断ってやつだろう」
盗賊「…頭の痛くなる話は苦手だ。なんにせよ、砂漠の国には行かなきゃならねえ。ほらよ、馬の代金だ。借りていくぜ」
馬屋「ああ、はい!まいどあり!気をつけて、いい旅を!」
盗賊「…砂漠の国を助けたい、なんて言い出すなよ、クソアマ。流石にこの案件はどうしようもならねえからな」
僧侶「ううう……どうにかならないのでしょうか…」
~砂漠~
盗賊「……っ、ふう…話に聞いた以上だ…暑すぎる…馬を借りて正解だな、こんなところ、ノコノコ歩いていたらマジに干からびるぜ」
僧侶「せっかく温泉に入ったのにぃ…汗でベタベタだし、砂ぼこりで髪もバサバサです~…」
盗賊「まだ汗が出るならいい方だ、水分が枯れてない証拠だしな。ほら、クソアマ。しっかり水飲んでおけ」
僧侶「あ…ありがとう、ございます……」ゴクゴク
僧侶「(盗賊さんとひとつの水筒を飲みっこするの、やっぱり恥ずかしいな…でも、お水ももうこれだけ、だし……うう、背中もぴったり、盗賊さんの体にくっついてるし……暑さ以外で茹で上がりそうです…!)」
僧侶「……と、盗賊さん、は…お水、ちゃんと飲んでますか…?」
盗賊「飲んでいる。つーか前を向いていろ、バランス崩れんだろうが」
盗賊「……ッ!!?」ズパッ
魔物「シャアアァァッ!!」ドバァッ
僧侶「きゃー!?砂漠の中から、でっかい虫みたいなのがー!!」
盗賊「魔物か!チッ、引っ掻かれた…おいっクソアマ!しっかり捕まっていろよ、振り落とされても助けねーからな!!」バシィ
砂馬「ブヒィィンン!」
僧侶「きゃー!?きゃー!!ゆっ揺れる、あわわ、落ちちゃうぅ~!!」
魔物「キシャアアア!!」
盗賊「このッ!!」ガキィン!
盗賊「ッ痛…!マジに硬ェな、剣じゃダメージ全然与えられん」
魔物「キシャアアアァァ!!」スパパパァッ
盗賊「ぐぅ、う…ッ!!こりゃ、風の魔法かっ!?」
僧侶「とっ盗賊さん!盗賊さんが!やだ!やだ!!い、今の魔法でズタズタに!!」
盗賊「前を向いていろ、クソアマ!!バランス崩れんだよ!!」
盗賊「硬いわ、魔法を使うわ…凶悪って騒ぎじゃねーよ…!!逃げられるのか、これ」
魔物「シャシャシャァア!!」
僧侶「やだやだ!追いかけてきますぅ~!!」
盗賊「チッ!しつけぇな!!おい、クソアマ!手綱握っていろ、あいつに痛い目見せてやる」
僧侶「えええ!?むむむむむ無理!無理ですよう、あわわわわ~!!」
盗賊「握っているだけでいいんだよっ、落ち着けクソアマ!!」
盗賊「うらぁぁああ!!」ザンッ
魔物「ギギィィィィ!!!」
僧侶「や!やった!尻尾が、落ちちゃい、ましたよっ!?」
盗賊「ふんっ、関節部分は比較的柔らかかったな。弱点はそこか。もう追ってくるんじゃねえ!今度は尻尾だけじゃ済ませねーぞ!!」
魔物「ギァ~!ギシャアア!!」
盗賊「…よし、逃げていったな…やれやれ、肝が冷えたぜ……」
盗賊「はぁ…はぁ……(しかし……腕の出血毒に合わせて、魔法裂傷…流石に血を出しすぎだ……)」
僧侶「と、盗賊さん……っ、大丈夫?大丈夫ですか?」オロオロ
盗賊「(………クソアマ)」
盗賊「…前を向いていろっつったろ。テメーは本当に言うことを聞かねーなぁ……うぜえんだよ、ボケ」
僧侶「でも、だって、だって!盗賊さん、血が……血が、出てますよう…ま、また、私を庇って……なんで、なんでですかあ…」グスグス
盗賊「だから、うるせえんだよ、静かにしていろ…。かすり傷だ、薬草塗るから平気だ。……ほら、衛兵の言っていた巨木だぜ…ここが、砂漠の国…オアシスを守る街、か……」
僧侶「ほ、本当だ!ありがとう、お馬さん……いっぱい走ってくれてありがとう!街に入ったらすぐ手当てしましょうね!ねっ!」
盗賊「……いや……どうなるかな、これ…門、閉まってんじゃねーか……」
門番1「止まれぇい!!この先は誰であろうと通すわけにはいかぬ!!引き返せ!!」
僧侶「そんな!おっお願いします!街に入れてください、怪我人がいるんですっ」
門番2「ならぬ!!これは砂漠の国の王直々の命令!街に入りたくば通行許可証を提示せよ!!」
僧侶「そんなの、持ってないです…!なんで、なんで入れてくれないんですか…!」
門番1「戦争の準備故に、民達の安全を確保する為の封鎖よ。砂漠の民ならまだしも、余所者を入れるわけにはいかぬ!」
門番2「速やかに立ち去れ!抵抗するならば投獄致す!立ち去れ、立ち去れ!!」
僧侶「お願いします、お願い……!!街に入れて…盗賊さんが怪我をしているの、お願いぃ…!」
盗賊「……いい、クソアマ…もういい、行こう…」
僧侶「盗賊さん!でもっ!!」
盗賊「あの雰囲気、泣き落としなんか効かねーよ…例えここで人が行き倒れていようとも、絶対に門を開けないって、強ぇ意思……時間の無駄だ」
僧侶「でも、もう薬草が……盗賊さんの傷が」
盗賊「ここで食いついて、捕まっても仕方ねえ…勇者は、中に入れたのか……?いや、それももう、今はいいか…早く、次の街に…行けば……」
僧侶「ううう……うううっ!ごめんなさい、ごめんなさい…わ、私、が……私が、落ちこぼれじゃなくって…ま、魔法……使えていたらっ盗賊さん、助けられたのに…」グスグス
盗賊「………」
盗賊「………」ナデ ナデ
僧侶「…っ、盗賊さん……?」
盗賊「そのうち使えるようにならぁ」
盗賊「いくらお前でも…使えねークソアマでも……そのうち、回復魔法だろうが、なんだろうが。使えるようになるさ…その時まで、ツケといてやる……」
僧侶「でも!使いたいのは今なんですよう!!今使えなきゃ意味ないです…!ごめんなさい、ごめんなさい…!!」
盗賊「…うるせえなー、泣くんじゃねーよ、鬱陶しい。かすり傷だっつってんだろ…」
盗賊「どーってこたーねんだよ、こんなの……大したこと、ねんだ………よ…」フラッ
ドサッ!
僧侶「盗賊さん!?盗賊さん、盗賊さん!しっかりしてぇ!!」バッ
盗賊「………」
僧侶「盗賊さん!お願い、しっかりして!!起きてください、また馬に乗って、街に……行かなきゃ、薬草、買って…傷治せば……!!」
僧侶「盗賊さぁぁん……!」
魔物「フシャアアァ!!」
僧侶「あ…っ?そ、んな…魔物……!」
魔物「ギィィィ……」
僧侶「か…数が多い……わ、私だけじゃ無理…!」
盗賊「………」
僧侶「……う、ううん…無理じゃ、ないです!盗賊さんを守るの…!」グッ
僧侶「盗賊さんを守って、次の街に行って…盗賊さんを治すの、勇者様と合流しなきゃ……盗賊さんと一緒に!」
魔物「シャアアアア!!」バシッ
僧侶「痛ッ!!……くない、痛くない!!盗賊さんはもっと痛かった!私、守られてばっかりだ…私だって、私だって!!」カッキン!
魔物「シシャシャ……」
僧侶「っ硬い……、そ、うだ、関節だ…メイスじゃダメだ、盗賊さん、剣借りますね…!」
魔物「ッシャアアァーッッ!!」
僧侶「うわあああああ!!!」ブンッ
?「氷柱魔法!!」バキィン!
魔物「ギャアアア!!」ザクザクザク
僧侶「えっ!?」
?「喰らえ!!」
魔物「ギシャー!!」ドスドスッ
僧侶「か、関節に的確に弓矢を……だ、誰?」
男妖精「なんだ?人間がいる」
女妖精「こんなところで何をしている。街から随分離れているぞ、こっちは行き止まりだ、去れ、人間」
僧侶「エルフ…妖精?なんで砂漠に……?」
男妖精「去れ、人間」
僧侶「あの!お願いします、助けてください!怪我人がいるんです、お願いします!!」
男妖精「怪我人…?」
女妖精「……魔法裂傷は真新しいが…何だ、こいつ。こんなにも酷い毒の傷は久し振りに見たな」
男妖精「我々から奪った魔法文明を発達させたのではないのか?人間は。毒消し草を何故使わなかったのか」
女妖精「衰弱が激しい。近いうちに死ぬな、こいつ」
僧侶「そんな…!お願い、お願いお願い!!お願いしますっ助けてください!なんでもするから!!助けて!」
男妖精「知るか。我々は人間を憎んでいる。助ける義理はない」
僧侶「そんなあ……!!」