女王「…ありがとうございます、勇者」
女王「あなたのおかげで、ここしばらくで一番元気つけられた気がします」
女王「最初の私は、ただあなたが魔王を倒してくれればそれで良いと思っていました」
女王「なのにあなたは、国の人々の心や私の心も潤わせてくれた」
女王「あなたは本当の勇者です」
勇者「…女王さま」
女王「なんですか、勇者」
勇者「ボクはしばらく城に戻らないようと思います」
女王「…はて?」
勇者「魔物たちを倒しながら、随分力をつけました」
勇者「これから、魔王を倒しに行こうと思います」
勇者「そして、魔王を倒し、女王さまの娘、姫さまを助けてきます」
勇者「女王さま」
女王「なんですか、勇者?」
勇者「もしボクが無事魔王を倒して、姫さまを連れてここに戻ってきたら」
勇者「その御礼として、一つだけ、ボクのお願いを聞いてください」
女王「……」
女王「…分かりました」
女王「あなたが魔王を倒してくれるのなら、あなたはこの国の恩人」
女王「それ相応のお礼をしましょう」
勇者「……」
女王「今日はお城で泊まって、明日から出発してください」
女王「シェフは故郷に帰らせたので、私が直々お料理を振る舞うようになると思いますが、まずくても我慢して頂けると嬉しいです」
勇者「…はい!」
女王「フフッ では、今日はいつもより少し力を入れてみましょう」
女王「姫以外の人に料理を振舞ったことなんてないのですよ」
勇者「期待してます」
女王「ええ」
勇者「女王さまのお料理、美味しかったな」
勇者「ボク野菜嫌いなのに、野菜ばかりの料理あんなに美味しく食べたのって初めてかも」
??「…っ……うぅっ…」シクシク
勇者「…あれ?」
??「…め……姫……」
勇者「この声って…(もしかして、女王さま?)」
部屋の中
女王「姫…あなたに失ったもう何年経つのでしょうか」
女王「私は…私はダメな母です」
女王「娘のあなたも守れなかった私が」
女王「国の人々を守ることなんてできるはずもありません」
女王「でも、あなたを失った悲しみを忘れるために、もっともっと国政に励みました」
女王「勇者は私を優しい王だと言いますが、実は全部あなたを失った悲しみを忘れるための口実でしかないのですよ」
女王「姫のことをもう諦めようと思っていました」
女王「なのに…今度なら、あの勇者ならやってくれるかもしれないと期待してしまうのです」
女王「姫……私のかわいい姫……」
外
勇者「……」
翌朝
勇者「では女王さま、必ず戻ってきます」
女王「…お願いします、勇者」
女王「一国の王としても、一人の母親としても」
女王「あなたが帰って来ることを待っています」
勇者「はい!お任せ下さい!」
勇者「(貴女のために…必ず!)」
魔王城
魔王「また来たか。人間の勇者よ」
勇者「」
魔王「ここまで俺の多くの部下たちを倒してきたその力、賞賛に値するだろ」
魔王「余の下僕となれ」
勇者「」
魔王「さすればこの世の半分をお会えに与えよう」
勇者「御託は要らないよ」ズシャッ
魔王「うぬっ!」
勇者「この世の半分だって?」
勇者「この世の全てをボクにやると言っても、ボクはお前を倒すよ」
魔王「…くくっ、そうか。さすが勇者。この世一番の偽善者よ」
勇者「違う」
勇者「偽善なんかじゃない」
勇者「お前がこの世の全てが欲しくて魔王になったみたいに」
勇者「ボクもボクが欲しいもののためにお前を倒すんだよ」
勇者「この世の全て…?」
勇者「そんなの、ボクが望むものに比べればちっぽけなものだよ」
勇者「さあ、ボクの前に倒れてよ、魔王」
勇者「ボクはお前を倒して、姫さまを連れて帰るよ」
魔王「…ぅ…ば…かな…余が…余が負けるだと?たかが人間に…!」
勇者「…はぁ……はぁ…」
勇者「これで、終わりだよ」
魔王「…何故だ」
魔王「何故余が負けるんだ!」
魔王「一体何が人間ごときの貴様をそんなに強くした」
魔王「伝説の武器を持ってるわけでもない、封印の呪文を使ったわけでもない」
魔王「余の手で潰した他の弱っちい勇者と何も変わらない貴様に、何故余が負けなければならない」
勇者「……言ったでしょ、望むものが違うって」
魔王「…一体、この世の全てよりも貴様が望むものが何だというのだ」
勇者「………(ボソッ)」
魔王「!」
魔王「……ははははは!!!」
魔王「面白い、実に愉快だ!こんなに面白い勇者は初めてだ!」
勇者「……これで終わりだよ」
魔王「くっ……」
魔王「勇者、せいぜい足掻くが良い」
魔王「確かにその愚かな人間、その望みが叶うはずがない」
魔王「余が負けることも無理じゃないというわけだ」ハハハハハハ
勇者「……」スシャッ
姫「……」
がちゃ
姫「!」
勇者「…姫さま?」
姫「…まさか」
勇者「女王さまの命を受けてここまで来ました」
勇者「魔王は既に倒されました。姫さまは自由です」
姫「……!」
姫「勇者さま…!!」ダキッ
勇者「!」
姫「勇者さま、本当にありがとうございます」
姫「私を助けるために命を賭けて魔王と戦ってくださって…」
姫「私は……」
勇者「…姫さま」
姫「あ、ごめんなさい」
姫「つい、嬉しくて」
勇者「…さあ、戻りましょう」
勇者「女王さまが、姫さまの帰還をお待ちしています」
姫「…はい」
王都の街
>>勇者さまだ
>>勇者さまが魔王を倒して姫さまを連れて戻ってきた!
>>勇者ばんざーい!!
勇者「……」
姫「私が居ない間随分と変わってしまいましたね」
姫「皆どれほど苦労をしたものか…」
勇者「…一番苦労をしたのは、女王さまです」
女王「姫!!」
姫「!お母様!」
女王「姫!」ダキッ
姫「お母様……お母様…」
姫「どうなさったのですか、こんな姿になって……」
姫「これじゃあ王族だなんて誰も判りませんよ」
女王「そんなことはどうでもいいのです」
女王「姫……私の可愛い姫」
姫「…お母様……」
勇者「………」
>>勇者ばんざーい!
>>勇者を讃えろ!
>>勇者万歳!!
城
女王「勇者、本当にありがとうございます」
女王「これで、この国は平和を取り戻しました」
女王「魔物たちによって破壊された村たちも、少しずつ元の姿を取り戻すでしょう」
女王「この国の人々が皆、あなたの名を讃え、永遠に記憶するはずです」
勇者「…ボクはただ、一度の戦いを勝っただけです」
勇者「だけdも女王さまは今まで一人で長い戦いをしてきました」
勇者「ボクは何も失っていませんが、女王さまはこの戦いの中で全てを失いました」
勇者「本当に讃えられるべき人は、女王さまです」
姫「お母様、形式的な話はもういいでしょう」
姫「今日は嬉しい日です」
姫「この国の皆が、この日をどれだけ待ち受けていたか知りません」
姫「この日を祝って、パーティをしたら如何でしょうか」
女王「そうですね。いい考えです、姫」
女王「王都の人々にお祝いの準備を手伝ってもらいましょう」
女王「今日は民たちと一緒にこのうれしい日を祝うのです」
パーティ
>>勇者さまばんざーい!
>>キャーユウシャサマー
女王「皆さん、今日は皆が待ちに待った戦争の終わりの日です」
女王「私たちは魔王との戦いで見事に勝ったのです」
女王「そして、勇者さまが居てくれなければこの勝利もなかったでしょう」
女王「今日この日を、勇者さまの讃える記念日として、国の祝日にしようと思います」
女王「勇者万歳」
勇者ばんざーい!!
勇者「……」
勇者「皆さん、ボクが離したいことがあります」
>>勇者さまが話すぞ
>>静かにしろ
勇者「…ここに居る皆がこの日をどれだけ待ち受けたか、想像することも難しいでしょう」
勇者「魔物たちとの戦いで家族や、故郷を失った人たちもここには居るだろうと思います」
勇者「そんな人たちにとっては、この日が忘れられない日になると思います」
勇者「でも、この中で誰よりもこの日を待ち受けていた人を言えと言ったら」
勇者「ボクは迷うことなくそれが女王さまだと確言します」
女王「…!」
勇者「ボクを讃えたその声も、ボクに与えられるその名誉も」
勇者「ボクは全て女王さまに捧げようと思います」
勇者「女王さまはこの中で誰よりも皆のことを想ってくれた人です」
勇者「女王さまのその心がなければ、ボクが魔王に勝つこともなかったと思います」
勇者「皆、女王さまに拍手をお願いします」
>>パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ
>>女王さまばんざーい!!
>>(国名)ばんざーい!!
女王「……勇者……」
勇者「…」
三日間のお祝いの後
城
女王「勇者、あなたがこの国にしてくれたこと。私にしてくれたこと」
女王「本当に、この国全てをあなたにあげても足りないものです」
姫「……」
勇者「……」
女王「あなたが旅立つ前に、私に戻ってきたら一つだけ願いを叶えて欲しいといっていましたね」
女王「でもその前に…それと別で私からあなたにお礼したいと思って…」
女王「姫と相談しました」
姫「……///////」
女王「勇者、姫と結婚して、この国継いで頂けますか」
勇者「!!」
勇者「………」
勇者「…女王さま」
女王「遠慮することはありません」
女王「あなたはこの国の恩人、私の恩人でもあります」
女王「私の気持ちを受け取ってください」
勇者「……」
勇者「……恐れながら女王さま、姫さま」
勇者「ボクが他に望むことがあります」
勇者「そして、それ以外には何も要りません」
姫「…!」
女王「…では、あなたが望むものが何か、それを言ってもらえますか」
勇者「……女王さま」
勇者「ボクは女王さまがこの国に尽くす姿を見ました」
勇者「女王さまがどれだけ自分を責めても、国の人々がどれだけ女王さまを罵っても」
勇者「ボクには女王さまのその苦労と、その必死さが分かりました」
勇者「だから、ボクもそんな女王さまに負けずと頑張って、やっと魔王と倒せたのです」
勇者「全ては、女王さまにこの気持ちを伝えるためです」
勇者「女王さま、本当にボクがこの国に、貴女にしたことがこの国全部を合わせたものより大きいものだとしたら」
勇者「…ボクと結婚してください」