女王「勇者、死んでしまうとは何事です」 4/4

1 2 3 4

女王「……え?」

姫「…え?」

勇者「この国が欲しいわけではありません」

勇者「ボクが欲しいのは、ただ女王さま、貴女だけです」

女王「……ぁ……」

姫「……っ!」

女王「!姫!」

大臣「勇者を捕えろ!」

女王「大臣!」

勇者「…っ」

女王「大臣、何をするのです!彼は国の英雄です。控えなさい!」

大臣「彼は女王さまと姫さまの面前の妄言を吐きました」

大臣「これは立派な王族への冒涜です」

女王「それは…」

大臣「それとも、まさか女王さまは彼の望みを聞いてあげるおつもりですか」

女王「………」

女王「……」

勇者「………」

女王「彼を地下の牢屋に入れておきなさい。以後の処遇は私自ら決めます。誰も牢に近づかないように」

大臣「…連れて行け」

勇者「……」

女王「…勇者……どうして…」

女王「……」コンコン

女王「姫、入りますよ?」

姫「………」

女王「…姫、大丈夫ですか」

姫「大丈夫じゃ…ありません」

姫「……勇者さまは」

女王「…大臣が捕えました。今牢屋に居ます」

姫「!」

女王「……ごめんなさい」

姫「お母様が謝ることでは…!」

女王「事前に気づいていなかった私が悪かったのです」

女王「あなたが居ない間彼のことを息子みたいに思っていました」

女王「実際にそれ程の年でしたし」

女王「それがまさか彼があんな風に思っていたとは思いもしませんでした」

姫「……」

姫「如何なさるのですか?」

女王「……彼を追放するしかありません」

姫「!国を救った英雄なのですよ?」

女王「王族を冒涜した罪は大きいものです」

女王「私一人が許すからと言って良いわけでもなく、王の威厳がかかった問題です」

姫「国の人々が黙っているはずがありません」

女王「他に方法がありません」

女王「……息子のような年の子です。年で言えば、あなたよりも下なのです」

女王「あなたに自分よりも年下のお義父さんが出来るのですよ?」

女王「そんな状況に耐えられるのですか」

姫「…それは………」

女王「……私だって、彼を殺したくはありません」

女王「…勇者と話をしてきます」

牢屋

勇者「……」

女王「…勇者」

勇者「!」

女王「苦しい所はありませんか」

勇者「体の方は、何の問題もありません」

女王「……」

女王「勇者」

女王「私は、あなたのその望みを叶えてあげることができません」

勇者「分かっていました」

女王「…え?」

勇者「女王さまがそう言うだろうって、分かっていました」

勇者「知っていても…伝えたかったです。ボクのこの気持を…」

勇者「あのまま姫さまと結婚したら、離れた場所ででも女王さまと一緒に居られたでしょう」

勇者「でもそれは、女王さまを騙して、姫さまを騙して、そして何よりもボク自身を騙すことなんです」

勇者「ボクはそんなことは出来ませんでした」

勇者「例えその場で殺されるとしても、ボクは女王さまにこの気持ちを伝えたかったです」

勇者「…ボクはどうなりますか」

女王「…まだ、あなたの処遇は決まっていません」

勇者「…女王さま、ボクのこの思いが叶われてはいけないものなら」

勇者「ボクが今言うこの願いを、聞いてください」

女王「…なんですか」

勇者「ボクはこの国を出ようと思います」

女王「…!」

勇者「女王さまから遠く離れた所で、色んな場所を旅したいです」

勇者「そして、そこで見たこと、聞いたことを、女王さまに伝えたいです」

勇者「ボクは国を回りながらあったことを女王さまに話した時、女王さまはとても美しく笑っていました」

勇者「ボクは、例えボクがその笑顔を見れないとしても、女王さまがずっとそんな笑顔をしていて欲しいです」

勇者「外の世界を回りながら、女王さまの顔から笑顔が浮かぶような話を伝えようと思います」

勇者「これが…ボクが今の女王さまに言える、唯一のお願いです」

女王「……勇者」

女王「…ごめんなさい…本当に……」

勇者「……笑ってください、女王さま」

勇者「ボクは女王さまの笑顔が見たくて、今まで頑張って来ました」

勇者「ボクの苦労を、無駄にしないでください」

女王「……ええ……」

女王「……分かりました…」

女王「…あなたの…その願い…女王の名に賭けて…必ず…」

勇者の追放は、追放という形ではなく、彼がそれを望んだという形で収まった。

勇者の旅は、多くの人々を驚かせた。

英雄である彼が居なくなることを悲しむ人も多かったものの、

結局勇者は旅立った。

そして、彼が言った通りに、城には私目当てに手紙が来るようになった。

一ヶ月に一通ずつ、ある時は一週間に一通、二ヶ月に一通。

内容は外の国の人々との出来事。彼らが生きる姿。

外の国でも幸せに過ごす民も、苦しんでいる民も居た。

私は彼の手紙を見ることで、彼の足跡を追った。

いつも嬉しいことばかりではなかった。ある時、とても非情な出来事に付いて聞いた時、

私はそんなことが私の国で起きないように精一杯頑張った。

でお、大体の場合、彼は約束通りに私に笑顔を与えてくれた。

そして、私は彼の手紙を見ながら長い時間を過ごした。

そうやって……私が王位を姫に与えた頃、彼の手紙は途切れた。

ある村

子供A「お婆さん、お菓子くーださい」

子供B「私も、私も

元女王「はい、はい、皆沢山あるから喧嘩しないでね」

>>こらーー!!

子供A「げっ、お母さん」

子供B「逃げよう!」

母「こらー!あんたたち、またお婆さんに迷惑かけて!」

元女王「いいんですよ」

母「申し訳ありません、女王さま。子供たちが…」

元女王「良いですって。それにもう女王ではありませんから」

元女王「隠居してもう数年…」

元女王「私なんかと違って、今の女王は良くやってくれているようです」

母「全て元女王さまのおかげです」

元女王「私は何もしていませんよ」

元女王「この平和を持ってきてくれた人は…もうこの国には居ませんから」

母「……」

元女王「と、私は少し失礼します」

母「あ、はい!」

元女王「……」

元女王「………」

元女王「勇者の、最後の手紙」

元女王「もう数年が経ちましたね」

『女王さまへ

ボクは今女王さまの国からずっと多い北の国に居ます。

ここでは、最近ある魔王が現れて人々を殺戮しているそうです

討伐隊が結成されましたが、悉く魔王にやられ、国はもう滅ぼされる寸前です

ボクはこの国を助けるためにこの国の魔王に挑もうと思います。

もしかすると、これが最後の手紙になるかもしれません。

どうか、ボクの命運を祈ってください

勇者より』

元女王「…勇者……」

元女王「あなたは今どこに居るのでしょうか」

元女王「魔王に負けて死んでしまったのですか?」

元女王「結局、それからどれだけ待ってもあなたの手紙は来なかった」

元女王「それと同時に、私は姫に王位を譲った」

元女王「……勇者」

元女王「もし未だにあなたが生きているとすれば……」

元女王「私はあの時と違う答えを出せるのでしょうか」

コンコン

元女王「?こんな時間に誰でしょう」

がちゃ

元女王「はい?」

??「すみません、突然ですが、ここで泊めて頂けないでしょうか」

??「宿屋も残った部屋がなくて、ある人がここに来たら部屋を分けてくれるだろうと言ってくれたので」

元女王「そうですか。どうぞお入りください」

男「ありがとうございます」

男「この国の人達は皆親切ですね」

元女王「おや、違う国から来たかしら」

男「元はここ生まれですが、幼い時に他の国に行ってまして……」

元女王「ここも色んなことがありましたからね」

元女王「でも、今は過去なんて皆忘れて、幸せに生きています」

元女王「そして、その幸せを人に分けてあげることも、またこの国の人達のいいところなのですよ」

男「…女王さまみたいにですね」

元女王「そうですね、女王さまのように……」

元女王「?」

男「ボクの顔を、お忘れですか、女王さま」

元女王「……勇者?」

勇者「…女王さま」

女王(元を省きます)「勇者……本当に…あなたなのですか?」

女王「帰ってきたのですか?」

勇者「はい、恥も知らず、帰って来ました」

女王「……立派になりましたね。とても、全然気付きませんでした」

勇者「女王さまも、相変わらず綺麗です」

女王「私なんて…もうお婆さん呼ばわりされてる身ですよ」

勇者「それでも、ボクの目には、女王さまは相変わらず綺麗なままです」

女王「……」

勇者「……女王さま」

女王「私を見にきてくれた?…と聞いたら自意識過剰なのでしょうか」

勇者「…いいえ、その通りです」

勇者「女王さまに会いに、ここまで来ました」

女王「……勇者」

女王「先に話してくれても良かったのに……」

勇者「びっくりさせたくて…黙っていました」

女王「何年も?」

勇者「……ケホッ」

女王「…勇者?」

勇者「……ケホッ!ケホッ!!」ベチャッ

女王「…!勇者?大丈夫ですか?」

女王「どこか悪いのですか?」

勇者「うっ……ぅぅ……」

女王「とりあえず横になって呼吸を整えてください」

女王「上着脱がしますよ」

勇者「ダメ……です」

女王「…!!」

女王「これって…なんですか、これは…」

女王「全身になにかの紋様ガ……」

勇者「…魔王の……のろいです」

女王「え?」

勇者「最後の…手紙に書いた魔王と戦った時…最後の一撃の前に魔王ののろいにかかってしまいました」

勇者「長い時間じりじりと痛みながら死んでいくように…と」

女王「そんな…!!浄化する方法は…」

勇者「…ありませんでした」

勇者「このまま、死ぬしかありませんでした」

女王「……!!」

勇者「でも、どうせ死ぬなら…せめて…」

勇者「愛する人を見ながら氏にたいと思いました」

女王「勇者…」

勇者「女王さま、ボク、今でも貴女のことが好きです」

勇者「もうとっくに死んでもおかしくない体だったんです」

勇者「辛くて、何度も自殺したくても」

勇者「あなたに会いたいという一念で、ここまで我慢してきました」

勇者「……ごめんなさい」

女王「なんで勇者が謝るの」

女王「全部、私が悪かったのに」

勇者「……ケホッ!ケホッ!」

女王「勇者!」

勇者「…もう良いです。最後に女王さまの顔が見たかったんです」

勇者「泣かせて…すみません」

女王「……」ジワッ

勇者「…まだ一つだけ」

勇者「…最後に一度だけで…思い残したことがありました」

女王「……」

勇者「女王さま…最後のお願いです」

女王「…言わなくて良いわ」

女王「わかってるから」

女王「…ちゅっ……んっ」

勇者「んっ…」

私は最初で最後に、勇者と唇を合わせた。

キスが終わった時、勇者はもう息をしていなかった。

私に会いたいという願いが、彼の限界を越えた体をここまで連れてきたのだった。

彼の葬礼が国で開かれ、姫と私を始めた彼を知っている全ての人々が彼の死を悲しんだ。

でも、その中で誰よりも彼の死を悲しんだのは、私自身。

私を助けてくれた勇者。

でも私には、彼を救う力がなかった。

いや、本当にそうだったのだろうか。

私は彼の望みに答えることができなかったのだろうか。

単に私の臆病さが、彼をこのように死なせたのだとしたら…

私は、結局無能な王だったのではないだろうか。

今もう一度私にチャンスが与えられるのであれば…

私は…どうしていただろうか。

女王「勇者……死んでしまうとは……なにごとです」

終わり

1 2 3 4