姫「姫ときどき女剣士、というわけね?」 2/4

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司会「続いて、姫様からお言葉を頂戴したく存じます」

姫「はい」

隊長(ひ、姫様が……こんなに近くに……。香水のいい匂いがする……)ドキドキ

姫「………」ジーッ

隊長(まじまじと俺の顔を……どうしたんだ?)

姫「………」ジーッ

姫(ニヤニヤして顔真っ赤にしちゃって……。

私の前じゃ、いっつも仏頂面のくせに……いや今も私の前だけどさ)ジーッ

姫(なんか悔しいな……)ジーッ

隊長「ひ、姫……?」

姫(ほら、私はいつもアンタと会ってる女剣士よ。

いくらなんでもこれだけ目が合えば、さすがに気づくでしょ?)ジーッ

隊長「ひ、姫、どうなさいましたか? 私の顔に何かついてますか……?」

姫(気づかない、か……)

姫「失礼しました。私としたことが、あなたに見とれてしまいましたわ……。

いつも国のために働いて下さってありがとうございます」

隊長「いっ、いえっ! 姫のためならたとえ火の中、水の中、ドブの中っ!」

クスクス…… ハハハ……

副隊長(なんかもう、俺まで恥ずかしいよ……)

姫「今後とも王国のために頑張って下さいね」ニコッ

隊長「は、は、はいっ!」

姫「日頃から国を守って下さってる手を、少しさわらせて下さる?」ギュッ

隊長「ひ、姫様っ!? いけません、私の手など──」

姫「やはり剣を日頃から握っているからでしょうか。たくましい手ですわね」ギュッ

(ほら、私だって剣士の手をしてるから、気づくでしょ?)

隊長「ひ、ひ、ひ……」

隊長「姫ぇ……」ドサッ

「うわぁっ!?」 「失神したぞ!」 「どんだけ純情なんだ……」

ハハハ…… ワイワイ……

副隊長(恥ずかしい……)

姫「………」

こうして祭りは幕を閉じた。

翌日──

警備隊詰め所は祭りの話題で持ちきりだった。

戦士「昨日は楽しかったな!」

老剣士「いっぱい姉ちゃんのケツをさわれたわい」

新米剣士「ボクなんか踊りすぎで、筋肉痛ですよ。

ところで、隊長がとんだハプニングをやらかしたそうですね」

副隊長「なんか俺まで恥ずかしかったよ。

いくら姫に手を握られたからって倒れるか? フツー」

ハッハッハ……

隊長「はぁ……(しばらくネタにされるんだろうな)」

女剣士「おはよう!」

隊長「おう、おはよう」

女剣士「昨夜はお楽しみだったみたいね!」

隊長「ま、まぁな……(なんか機嫌悪いな、コイツ)」

女剣士「お祭り、私も行きたかったなぁ。うらやましいね、ホント!」

隊長「用事があるっていったのは、お前だろ。イライラするなよ」

女剣士「そうだね、ごめん!」

隊長(なんかイヤなことでもあったのか……?)

女剣士「新米剣士から聞いたけど、

お姫様に手を握られて、失神したんだって? なっさけない!」

隊長「うるさい」

女剣士「もっと女に慣れないとダメだって。ほら、私も握ってあげる」ギュッ

隊長「ん……」

女剣士(憧れの姫の手と、全く同じでしょう!? 気づいてよ!)

隊長「やはりお前はいい手指をしてるな。柔軟でしなやかで、剣士向きの手だよ」

女剣士「……なんで私相手だと失神しないわけ?」

隊長「そりゃあ、姫様とお前じゃ全然──」

バチンッ!

女剣士「どうせ私は姫に比べてガサツで女らしくないよ、ふんっ!」

隊長(いってぇ……)ヒリヒリ…

副隊長「よう」

隊長「ん?」

副隊長「女剣士とケンカしたんだって?」

隊長「ああ。手を握ってきたから、いい手だって褒めてやったらビンタされた」

副隊長「なんだそりゃ?」

隊長「俺がなんだそりゃ、だよ。褒めてやったのに……」

副隊長(女剣士のヤツ、もしかして隊長のことが好きなんじゃなかろうか。

だが、隊長は姫様が好きなんだよなぁ……)

副隊長(下手に首突っ込んで面倒みるのもイヤだし、放っておこう……)

隊長と女剣士がケンカしたという話は、瞬く間に隊内に広まった。

戦士「隊長、女剣士にビンタされたんだって? いったい何をやらかしたんだ?」

隊長「別に何も……」

新米剣士「姫に手を握られて失神して、次の日には女剣士さんからビンタですか。

隊長って、もしかして女難の相なんじゃないですか?」

老剣士「ほっほっほ、大変じゃのう。ワシの女運を分けてやりたいくらいじゃよ」

隊長(とほほ……)

しかし、不器用な二人はこの騒動でできた溝を解消することができなかった。

三日後、警備隊は荒野で山賊の一味を相手にしていた。

隊長「女剣士、そっちには伏兵がいるかもしれない。あまり突っ込むな!」

女剣士「ふん」

女剣士「だれがアンタのいうことなんか──」ダッ

バッ

山賊「おらぁっ!」ブオンッ

女剣士「あっ(しまっ──)」

ズバッ!

山賊「うげぇっ……!」ドサッ

隊長「………」チャキッ

間一髪のところで、隊長の剣が女剣士を救った。

女剣士(隊長がいなかったら……やられてたかもしれない……)

仲間たちが駆けつけてきた。

副隊長「おい、大丈夫か!?」

戦士「やっぱり伏兵がいたか……山賊のくせに知恵が回りやがる」

老剣士「ムチャしおって!」

新米剣士「よかった、怪我はないようですね」

隊長「………」

女剣士「ご、ごめ──」

バシッ!

隊長は女剣士に平手打ちをした。

隊長「何をやっている」

女剣士「………!」

隊長「素性を明かしたくないのはいい。俺が気に食わないのもいい。

だが、任務中に俺の指示に逆らうことだけは許さん」

隊長「一人が勝手な行動を取ることで、お前だけじゃない。

みんなの命が危険にさらされることになるんだ」

隊長「そして俺たちが死ねば、最終的に被害を被るのは町の人々だ」

隊長「もしそれが分からないんなら──」

隊長「今すぐこの警備隊から出ていけっ!」

副隊長(誰かをこんなに強く叱りつける隊長を見るのは初めてだな……)

女剣士「……分かってないのは」

女剣士「分かってくれないのは、アンタじゃないっ!」

女剣士「うぅっ……」ダッ

女剣士は走り去ってしまった。

副隊長「あっ! どこ行くんだ!」

隊長「山賊はもう掃討した。走りまわっても危険はないだろう」

副隊長「いやいや、追いかけなくていいのかよ!」

隊長「……俺は間違ったことはいってない」

副隊長「そりゃま、そうだけどさぁ……」

隊長「これでアイツが隊を辞めるなら、それまでの女だったということだ……」

それから姫は、女剣士として王国警備隊に出向かなくなった。

国王「姫よ、王国警備隊に行かなくなったそうだな。まさか正体がバレたのか?」

姫「いえ……そうではないけれど……」

国王「まぁワシとしては、一安心だ。

元々ワシはお前が警備隊に入るのに反対していたからな」

国王「だが同時に失望してもいる」

国王「ワシの前であれだけの啖呵を切って警備隊に入ったのに、

中途半端で放棄してしまったのだからな」

姫「………」

姫「お父様には関係ないでしょ」スッ

姫の部屋──

姫「何をやっているのかしら、私」

姫「いつも会っている女剣士(わたし)より、

滅多に会わない姫(わたし)に目を向けているあの人に嫉妬して」

姫「勝手に苛立って、警備隊の雰囲気を悪くして」

姫「命令違反までしてしまう始末……」

姫「………」

姫「バカだ……」グスッ

警備隊詰め所──

ワイワイ…… ガヤガヤ……

新米剣士「女剣士さん、来なくなっちゃいましたね……もう二週間ですよ」

老剣士「ま、いずれまた来るじゃろうて。ほっほっほ」

戦士「爺さんはのんきでいいよな。女剣士の抜けた穴はけっこうでかいぞ」

副隊長「俺らは女剣士の住んでる場所すら知らないんだ。今はただ待つしかねぇな。

ま、アイツに限って他国のスパイだったってオチはないと思うが」

隊長「………」

隊長(もう……来てくれないのか……)

それからしばらくして、町に不穏な噂が流れ始めた。

少し前に王国警備隊に壊滅させられた盗賊団の残党が、

牢獄にいるボスの奪還を目論んでいるというのである。

彼らが警備隊に恨みを抱いているのは明白だ。

姫(警備隊のみんな……大丈夫かなぁ)

姫(ちょっと様子を見に行くくらい……いいよね)

姫(遠くから眺めるだけなら……)

姫は城下町までやって来て、ふと気づいた。

姫(あ、しまった)

姫(女剣士になるの、忘れてた……)

姫(森で変装してこないと──)

すると──

町民「あのぉ……あなた、姫様ですよね?」

姫「え、えぇ」

町民「や、やっぱり本人だ! なぜお一人でこんなところを……?」

姫「え、えぇと……ちょっとお忍びでお散歩をね」

町民「………」

町民「姫様……私についてきて頂けないでしょうか……?」

姫「いえ、私は──」

町民「ついてきて下さい……!」ギラッ

町民の手には包丁が握られていた。切っ先は震えていた。

姫「………」

姫(殺気はないし、まちがいなくただの脅しね。刺す気ゼロ。

取り押さえることもできるけど、姫の格好でムチャはできないし……仕方ない)

姫「こ、怖い……! わ、分かりました……ついていきます……」ガタガタ

町民(す、すいません……姫様……!)

姫は城下町から少し離れたところにある、廃屋に連れて来られた。

町民「では、姫様は二階の部屋にいて下さい」

姫「わ、分かったわ……」

バタン

姫(え~と、これってもしかして私捕まっちゃった?)

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