姫「姫ときどき女剣士、というわけね?」 4/4

1 2 3 4

ウオオォォォォ……!

王国警備隊が近づくと、女剣士のいうとおり残党たちが中から飛び出してきた。

副隊長「ホントに飛び出してきやがった!

バカかアイツら、姫を人質にした意味がねえじゃねえか」

隊長「まぁ、こっちとしては好都合だ。存分に暴れてやれ!」

戦士「ふん、ヤツら全員ひっ捕えてやる!」ザッ

新米剣士「ボクも手柄を立ててやりますよ!」スッ

老剣士「ワシもやるぞい!」ジャキン

副隊長「あ、爺さんはあんま無理すんなよ」チャキッ

隊長「今度こそ、一人も逃がすな!」

剣を構える隊長と女剣士。

隊長「こうしてお前と戦うのも、久しぶりだな。……戻ってきてくれたんだな」

女剣士「だってアンタ、私がいないとダメじゃない」

隊長「……そうだな、その通りだ。お前が戻ってきてくれて、本当に嬉しいよ」

女剣士「えっ……」ドキッ

隊長「おしゃべりはここまでだ。来たぞ!」

女剣士「うんっ!」

王国警備隊と盗賊団残党の戦いは、あっけなく決着がついた。

むろん、警備隊の圧勝である。

廃屋──

部屋に捕らわれていた姫を、隊長が助けにやって来た。

隊長「姫、ご無事ですかっ!」

姫「ハァハァ……えぇ、無事よ。ありがとうございます……」

(よかった、変装が間に合った……)

隊長(息が乱れている……よほど怖かったのだろう……)

隊長「そうですか……よかった……!

ところでこっちに女剣士が来ませんでしたか?

さっきまで一緒に戦ってたのですが、いなくなってしまって」

姫「さぁ、私は存じ上げませんわ」

隊長「そ、そうですか(なにを考えてるんだ、アイツは……)」

姫「………」

姫「……ところで、少しお話しよろしいですか?」

隊長「は、はいっ!」

姫「私……」

姫「以前からあなたをお慕い申しておりました」

隊長「ひ、姫様!?」

姫「私、ぜひあなたと男女のお付き合いをしたいのですが……」

隊長「………」

姫(私は、卑怯だ)

姫(本当は同僚である女剣士としていうべきなのに、

確実にいい返事をしてもらえる姫として、この人に想いを伝えた……)

隊長「姫様……」

隊長「今のお話、お受けすることはできません……!」

姫(え!?)

隊長「私とあなたとでは身分がちがいすぎる……。

いえ、これを理由にするのは逃げであり、姫様にも失礼ですね」

隊長「私には……別に好きな女性がいるのです……!」

姫(えぇ!?)

隊長「ですから、あなたとお付き合いすることは──」

姫(姫が一番好きだと思っていたのに……ウ、ウソよ……。

こ、こんなバカなことが……これは夢……悪夢……まぼろし……)

姫「ゆめ……まぼろし……」クラッ

隊長「姫様っ!?」

盗賊団にさらわれた恐怖で体調を崩した(と判断された)姫は、

隊長の手で無事城まで運ばれた。

城内 謁見の間──

国王「ハァハァ……。姫、こんなに心配をかけよって!」

大臣「あなたにもしものことがあったら我々は──!」

姫「ごめんなさい……」

姫「今日は疲れたから、もう休ませてもらうわね」スタスタ

大臣「あっ、姫様!」

大臣「う~む、少し姫様のご様子がおかしいですな。

よほどショッキングな出来事があったのでしょう」

国王「………」

姫の部屋──

姫「何をやっているのかしら、私」

姫「隊長は姫(わたし)が一番好きだと勝手に思い込んで、

あまりにも唐突な告白をして」

姫「あげく隊長には他に好きな人がいただなんて……」

姫「隊長の心も知らず、一人で舞い上がって……」

姫「バカだ……」グスッ

翌日、警備隊詰め所に女剣士がやって来た。

女剣士「あ~……おはよ」

副隊長「どうしたい。世界の終わりみたいな顔しやがって。

昨日も大活躍だったくせによ」

女剣士「世界はともかく、恋は終わったよ」

副隊長「なんだそりゃ?」

隊長「お、女剣士、今日も来てくれたか」

女剣士「なぁ~……にぃ~……?」

隊長「(どうしたんだ、いったい)ちょっと来てくれないか。話があるんだ」

女剣士「はいはい」

女剣士「話ってなに?」

隊長「………」

女剣士「どしたの?」

隊長「………」

女剣士「早くしてよ。ちょっと今日、町民の家に行かないといけないから」イライラ

隊長「………」ゴホン

隊長「俺は……お前が好きだ」

女剣士「ふうん」

女剣士「………」

女剣士「えぇっ!?」

隊長「これが、お前に対する俺の気持ちだ……!」

女剣士「ちょっと待って! アンタはお姫様が好きだったんじゃないの!?

手を握られただけで失神するぐらいに!」

隊長「ひ、姫様はあくまで臣民としてお慕いしているだけであって……。

忠誠を誓う身として、どうしても緊張してしまうんだ……」

女剣士「え、じゃあ、昨日私に言った別にいる好きな女性って私のことだったの!?」

隊長「……そうだ」

隊長「ん? ──な、なんだ今の!?」

女剣士「あっ……」

隊長(そ、そういえば……)ジーッ

隊長(そういえば今まで気づきもしなかったが……似ている!)

隊長「ま、まさか……お前、まさか……!」

女剣士「わ、私……ずっと昔からあなたをお慕い申しておりました」

隊長「あ……あ……」

隊長(姫様が女剣士で、女剣士が姫様で、姫様が女剣士で、女剣士が姫様で……)

隊長「なにがなんだか………」ドサッ

女剣士「ああっ、また失神した!」

女剣士(姫の自分への想いを断ち切った手前、

自分の想いにもケジメを──と頑張ったんだろうけど……)

女剣士「んもう、情けないんだから!」

隊長は目を覚ましそうもなかったので、女剣士は予定通り町民夫妻の家に向かった。

そして姫から話を聞いたということにして、全ての事情を話させた。

町民に薬を売っていた医者はやはり詐欺師であり、警備隊の手によって逮捕された。

騙し取っていた金も、どうにか取り返すことができた。

なお、まともな医者に診てもらったところ、子供はいたって健康体であった。

また、事情があったとはいえ姫を連れ去って身代金を得ようとした町民夫婦を、

女剣士は警備隊員として厳しく叱った。

こうして悩める町民一家の件は瞬く間に解決してしまった。

夜になった。女剣士と隊長は二人きりで話をした。

隊長「──そうだったのですか……。一人で二役をこなしてこられたのですね」

女剣士「あ、敬語はやめて。なんかやりづらいから」

隊長「分かりました、じゃない、分かった」

女剣士「……で、ホントは秘密がバレたら警備隊を辞めなきゃいけないんだけど、

私、もうちょっとここにいたい」

女剣士「いいよね?」

隊長「もちろん。俺たちには、お前の力が必要だ。俺も今後は協力しよう」

女剣士「姫と警備隊の隊長かぁ……。ま、何とかしてみせようよ」

隊長「ああ、俺たちならきっと──」

そして、二人を物陰からのぞく一人の男がいた。

老剣士「ほっほっほ……」

城内 謁見の間──

大臣「お帰りなさいませ」

老剣士「ほっほっほ、今日はなかなかいいものが見られたわい」

老剣士「おっとこの格好のままじゃ具合が悪いのう」

老剣士「付けヒゲを取って……」ベリリッ

老剣士「シワを伸ばして……」ムニムニ

老剣士「着替えて……」ガサゴソ

国王「よし、完璧だ」

大臣「陛下、いつもながらみごとな変装ですな」

大臣「ところで、何を見たのですか?」

国王「王国警備隊の隊長が女剣士、つまり姫に想いを伝えたのだ。

いやぁ~長かった! まったく奥手なヤツらだ」

大臣「ほぉ」

国王「姫も正体をバラし、いよいよ本格的な交際がスタートといったところか。

これでようやく面白くなってきたわ」

大臣「陛下は二人をどうなさるおつもりですか?」

国王「老剣士としては“早く結婚するのじゃ”と二人をけしかけ、

国王としては“姫に相応しい相手はワシが決める”と突っぱねるつもりだ」

大臣「………」

国王「頭の固い国王に対し、あの二人がどう立ち向かうか……。

フフフ、想像しただけでワクワクが止まらんよ。なぁ、大臣?」

大臣「陛下、一言よろしいですか?」

国王「なんだ?」

大臣「あなた、性格悪すぎです」

国王「フッ、一ついいことを教えておこう、大臣。

性格が多少ひねくれてるくらいでないと、一国の君主など務まらんよ」

国王「あの二人も国を任せるには、まだまだ頼りないところがある。

もう少ししたたかなところが欲しい」

大臣「陛下がおっしゃると、妙な説得力がありますな」

大臣「姫が、姫ときどき女剣士、ということであれば、

陛下はさしずめ、国王ときどき老剣士ということですな」

国王「うむ」

国王「だが、姫などワシに比べたらまだまだひよっ子同然!」

国王「なぜなら、ワシはもうこの二重生活を五年も続けているからな。

アイツはたかだか半年余り、まだまだこれからだ」

国王「むろん、ワシがこんなことができるのも

大臣を始めとした優秀な臣下がおるおかげだ!」

国王「ハーッハッハッハッハ……」

大臣「もっとも警備隊への貢献度は、姫様の方が遥かに上ですけどね」

国王「うっ、うるさい! ワシは文武両道とはいかなかったんだ!」

大臣「ふふっ……」

大臣(やれやれ、姫様も私も、陛下にはまったく敵わんな……)

警備隊詰め所──

女剣士と隊長の仲はみんなが知るところになっていた。

ただし、警備隊で女剣士の正体を知るのは隊長(と老剣士)のみであるが。

副隊長「いやぁ~隊長は姫一筋だと思ってたが、まさかねぇ……」

戦士「俺もだ。意外だったな」

新米剣士「でもよかったですね。隊長と姫様だと正直いって叶わぬ恋ですが、

お二人の仲を妨げる要素はなにもありませんから」

女剣士(それがいっぱいあるんだけどね)

老剣士「こうなったら、早いところ女剣士の親御さんのところに挨拶に行くのじゃな。

なぁに、交際を反対されたらぶん殴ってやればよい」

隊長「いや、そういうのはまだ先の話だ(国王陛下を殴れるわけがない)」

女剣士「うん、まだまだ先!」

老剣士(クックック、楽しみに待っているぞ)ニヤッ

女剣士「さぁて、今日もはりきって出動しよう!」

隊長「行くか!」

女剣士「ねぇ」

隊長「なんだ?」

女剣士「今度、姫の格好でデートしてあげよっか」ボソ…

隊長「………」ドサッ

「いきなり隊長が倒れたぞ!」 「敵の攻撃か!?」 「しっかりして下さい!」

女剣士「はぁ~……(こりゃあ先が思いやられるわ……)」

姫ときどき女剣士と警備隊長のゴールは、まだまだ遠くにあるようだ。

~おわり~

1 2 3 4