隊長「とうとう追い詰めたぞ、観念しろ」
盗賊団ボス「ちくしょう……!」
隊長「お前らの仲間のほとんどは、俺たち王国警備隊が捕えた。
もう逃げ場はない。痛い目にあいたくなきゃ、大人しく捕まることだ」
盗賊団ボス「ぐっ……!」
盗賊団ボス(この場さえなんとか逃げ切れば……!)チラッ
ボスは自分を囲む警備隊の面々を見渡した。
隊長、戦士、老剣士、新米剣士、そして──
盗賊団ボス(ん、一人だけ女がいるじゃねぇか! よし、こいつを人質に──)ダッ
女剣士「あら、私をご指名?」
隊長(残念……そいつはハズレだ)
盗賊団ボス「おらっ!」ブンッ
女剣士「遅いって」ガッ
盗賊団ボス「うぎゃっ!」ドサッ
女剣士の剣の柄での一撃で、盗賊団のボスは気絶した。
女剣士「あらら、だらしない」
隊長「さすがだな、女剣士」
女剣士「ありがと」
まもなく別動隊を率いていた副隊長が駆けつけてきた。
副隊長「手下どもに少し逃げられちまったが、こっちもあらかた片付いたぜ。
俺たちの勝利だ!」
『王国警備隊』は、国内の治安を守るために組織された治安維持部隊である。
少数の腕自慢で構成されており、王命がないと動けない軍隊に比べて迅速な行動ができ、
小回りが利くという利点がある。
警備隊詰め所──
副隊長「あのズル賢いボスさえ捕えりゃ、もうあの盗賊団は終わりだ。
さ、今夜は祝杯といこうぜ!」
ワァァァァァッ!
戦士「いやぁ、めでたいめでたい」
新米剣士「今日はボクも活躍できてよかったです。だから給料上げて下さい」
老剣士「ほっほっほ。ワシ、ちょっと小便に行ってこようかの」
女剣士(そろそろ帰らないとマズイな……)
女剣士「ごめん。私、用があるから帰るね」
副隊長「なんだよ、つれねえなあ」
隊長「まぁいいだろ。女剣士、今日は助かったよ。ありがとう」
女剣士「どういたしまして。またね!」
副隊長「隊長、アイツはいったいなんなんだ?」
副隊長「半年前、突然警備隊に参加したいってやって来て……。
風のウワサじゃ、他国から来たらしいが……」
隊長「さぁな」
隊長「たしかに謎は多いが、腕はたしかだ。女剣士に助けられたことも多い。
素性を明かしたくないんなら、深く追求するつもりはないよ」
新米剣士「隊長、もしかして女剣士に惚れてます?」
戦士「多少気が強いが、いい女ではあるからな」
隊長「バカいうな、誰が……」
副隊長「ないない。だって、こいつは姫様にぞっこんだからな、ギャハハハッ!」
隊長「うるさいっ!」
城近くの森──
女剣士「誰もいないよね……」キョロキョロ
女剣士「隠してあるドレスに着替えて……」ゴソゴソ
女剣士「化粧して……」コソコソ
女剣士「………」ガサゴソ
姫「よし、完璧!」
姫「さて、お城に戻ろうっと」
城門──
番兵「あっ、姫様! どちらへお出かけになられてたんですか?」
姫「ちょっとお花を摘みに出かけていたの」
番兵「そうだったのですか。しかし、くれぐれも気をつけて下さいね。
我々兵士や警備隊の目を盗んで、どこに悪党が潜んでいるか分かりませんから」
姫「ええ、心配してくれてありがとう。あなたも体を壊さないようにね」
番兵「は、はいっ!」
城内 謁見の間──
姫「お父様、大臣、ただいま戻りました」
大臣「お帰りなさいませ、姫様」
国王「……また警備隊に参加してきたのか」
姫「えぇ、もちろん私の正体はバレてないから安心して」
国王「まったく、すぐバレると思ったんだがなぁ……。
まさか、こんな二重生活が半年も続くとは思ってもみなかった」
姫「もうあれから半年になるのね」
~ 半年前 ~
国王「ええい、ダメだといったらダメだ!」
姫「お父様の分からず屋!」
国王「分かっていないのはお前だ! お前はワシの娘で、姫なんだぞ!?
守られるべき立場の人間が、王国警備隊に入ってどうするというんだ!」
姫「あらやだ。お父様は私の剣の腕をご存じないのかしら?
たしか10歳の時に、お父様を負かしてしまったような……」
国王「うっ、うるさい! ワシは文武両道とはいかなかったんだ!」
姫「それに、私もお父様の娘としてそろそろ国の現状をこの目で見たいのよ」
国王「う、う~む……」
大臣「陛下、よろしいのではないですか? なにせ──」
国王「大臣、お前は黙っていろ!」
国王「……分かった。いいだろう」
姫「ホント!?」
国王「ただし条件をつけさせてもらう」
姫「条件?」
国王「うむ。まず、警備隊には姫としてではなく、一剣士として参加するのだ」
国王「もしも王家の人間が警備隊に入っているなどと知られたら、
かえって犯罪を招くことにもなりかねんからな」
国王「そして、お前の正体がワシと大臣以外に知られたら、すぐに警備隊を去ること。
──どうだ?」
姫「姫ときどき女剣士、というわけね?」
姫「分かったわ。その条件でやらせてもらいます」
~ 現代 ~
国王「う~む、しかしなぜバレないのだ?
多少化粧をしているとはいえ、顔は全く同じなはずなのに……」
姫「服や口調を変えれば、案外他人になりきるのはたやすいわよ。お父様」
国王「分かった、分かった」
国王「ワシはお前が無事に警備隊の仕事をこなせているのなら、何もいうことはない」
国王「これからも体に気をつけて職務に励むのだぞ」
姫「はい、ありがとうございます。お父様」
国王「──ところで姫よ」
姫「なに?」
国王「お前まさか、警備隊で男ができていたりしないだろうな?」
姫「何をいってるのよ。あるわけないでしょう、そんなこと」
国王「ならばいい。お前に相応しい結婚相手はワシが選ぶのだからな」
姫「………」
その後も姫は警備隊で活躍を続けた。
~
隊長「ようやくカタがついたな。大丈夫か?」
女剣士「うん、平気。でも今日の強盗団はけっこう手強かったね」
~
副隊長「さっきは助かったぜ。もう少しで後ろからバッサリやられてた」
女剣士「気にしないでよ。私たち、仲間なんだし」
~
新米剣士「う~ん、強い……! ボク、もう休んでいいですか……」ハァハァ
老剣士「ワシは年寄りなんじゃから、もっと手加減してくれても……」ヒィヒィ
戦士「ちくしょお~!」ゼェゼェ
女剣士「──ったく、だらしないなぁ。さぁ、剣の稽古を続けるよ!」
こうしているうちに、年に一度の城下町での祭りが近づいてきた。
隊長「今度、城下町で祭りがあるだろ?」
女剣士「あるね」
隊長「あそこで俺たち警備隊が、表彰されることになったんだ。
国王陛下や姫様からお褒めの言葉を頂けるらしい」
女剣士「へぇ~すごいじゃない!」
隊長「……で、表彰式には俺と副隊長で出るつもりでいるんだが、
お前にも出てもらいたいんだ」
隊長「この半年余りで、俺たちはお前に何度も助けられた。
それにみんなと一緒に祭りを楽しむのも悪くないだろ? どうだ?」
女剣士「………」
女剣士「ごめん、その日は用事があって……」
隊長「……そうか」
隊長「まぁ用事があるんなら仕方ない。表彰式には俺たちだけで出るよ」
女剣士「悪いね、せっかく私らが評価されたっていうのに」
隊長「気にするな。なにも表彰されるために戦ってきたわけじゃないしな」
女剣士(まぁ私が表彰するんだから、出られるわけがないんだけど……。
せめて、この人が大好きな“姫”として精一杯褒めてあげよう)
祭りの日になった。
城下町のあちこちに露店が並び、人々は年に一度の大騒ぎを堪能していた。
戦士「祭り最高!」ガツガツ
副隊長「さっきから食いすぎだよ、お前は……」
新米剣士「ボク、ダンスに参加してきます!」ダッ
副隊長「アイツ、ダンスなんか踊れたのか……生意気な」
老剣士「おっ、あっちに可愛い子がおるぞい」ダッ
副隊長「ちょっと爺さん、どこ行くんだよ!」
副隊長「まったくアイツらときたら……。
俺たちが警備も兼ねて祭りに来てるってこと覚えてるのか?」
隊長「浮かれてはいるが、職務を忘れるヤツらじゃない。大丈夫だろう……多分」
副隊長「ところで女剣士は?」
隊長「用事があるから今日は来られないらしい」
副隊長「用事ィ? よほどのことじゃなきゃ、表彰式を優先させないか?
ただでさえ一年に一度の祭りなんだぜ?」
隊長「仕方ないだろ。人には人の事情があるんだ」
副隊長「お前の本命は姫様だからな」
隊長「バカ」
祭りも佳境に差しかかり、城下町の広場にて表彰式が始まった。
司会「ではこれより、日頃から国の安全を守るために戦っておられる
王国警備隊の方々の功績を称え、表彰式を行います」
司会「隊を率いておられる隊長さんと副隊長さん、どうぞ!」
歓声が上がる。
隊長「………」カチンコチン
副隊長(隊長、緊張しすぎだろ……大丈夫か?)
司会「ではお二方、一言ずつお願いします」
副隊長「じゃあまず俺から……」
副隊長「このような機会に、日頃の活動を評価されるということは非常に嬉しいです」
副隊長「しかし、警備隊の仕事にゴールというものはありません。
今回の表彰を一つの区切りとして、今後も隊の仕事に全力で取り組みます。
ありがとうございました」
パチパチパチパチ……
隊長(どうしよう。俺が話そうとしてたことをほとんどいわれた……)
司会「隊長さん、どうぞ」
隊長「は、はい」
隊長「え、えぇと……これからも、みんなと一緒に頑張りますっ!」
パチパチ…… クスクス……
隊長(最悪だ……穴があったら入りたい)
副隊長(隊長……。剣の腕は一流だが、こういうことはからっきしだな……)
司会「国王陛下から、金一封の贈呈です」
国王「日頃より、我が国の治安維持のために働いてくれてありがとう。
これからも頑張ってくれたまえ」
隊長「光栄です。ありがとうございます」
パチパチパチパチ……