スライム「魔王さまが姫をさらってきた?」 2/5

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次の日

ガチャ

スライム「おじゃましまーす」

姫「いらっしゃい」

スライム「アメちょうだい」

姫「はいどうぞ」

スライム「わーい!」

スライム「おいしい」モゴモゴ

姫「良かったわね」

スライム「なんのお話する?」

姫「そうねえ」

姫(脱出のために必要な情報……となると)

姫「魔王のことについて聞きたいわ。どんな奴なの?」

スライム「つよくてかっこいい!」

姫「いや、そうじゃなくて」

スライム「あと背がたかい! うらやましい!」

姫「えっと」

スライム「でもお顔がこわいよね」

姫「……そうね」

姫(あまり有益な情報は期待できないそうにない、か……)

姫「他には?」

スライム「かっこよくてつよい!」

姫「それもう言ったわよ」

スライム「あれ?」

姫「……」

スライム「……えへへ」

姫「……ハァ」

スライム「ごめんね?」

姫「いえ、別にいいけれど。魔王が強くて格好いいというのはどうかしらね」

スライム「?」

姫「あれは卑怯者だわ」

スライム「悪口?」ムッ

姫「事実よ。わたしを誘拐した手口を思い出す限り、少なくとも格好いいとは思えないわね」

スライム「さらった方法?」

姫「あなたは魔王がどうやってわたしをさらったと思ってるの?」

スライム「ええと。まっすぐすすんで、人間たちをけちらしけちらし!」

姫「もしそうだったなら、まだ魔王らしいんでしょうけど」

スライム「……ちがうの?」

姫「ええ」

姫「魔王は老婆に化けてたわ」

スライム「おばあさんに?」

姫「ええ。遠方の名のある占い師だと嘘をついてパパに謁見を求めたのよ」

スライム「ふうん?」

姫「パパは大の占い好きだからころっとだまされてね。魔王を城に招き入れてしまったの」

スライム「……」

姫「でも、魔王の汚い手口はそれにとどまらなかった」

スライム「え?」

姫「城に入った魔王は次にわたしの友達を人質に取ったわ」

姫「その友達は大人も顔負けに強かったけれど。でも不意を突かれてはひとたまりもない」

スライム「じゃ、じゃあ」

姫「わたしはその友達にひどいことをしてほしくなかったから。魔王の取引に応じてここまで連れられて来たの」

スライム「そんな……」

姫「分かった?」

スライム「……」

姫「あなたは信じたくないでしょうけれど」

スライム「……」プルプル

姫「?」

スライム「嘘だ!」

姫「っ!」ビクッ

スライム「魔王さまはかっこいいんだ! そんなずるいなことしないもん!」

姫「……」

スライム「出まかせだよ。そうだ、姫ちゃんがウソついてるんだ!」

姫「嘘じゃないわ」

スライム「信じるもんか!」

姫「……」

スライム「うう……わーん!」

バタン

姫「しまった。泣かせちゃったわね……」

……

スライム「……」

コウモリ「お。どうしたんだよお前、こんなところで。そうじの仕事はもう終わったのか?」

スライム「……」グス

コウモリ「え?」

スライム「ねえ。魔王さまはかっこよくてつよいよね?」

コウモリ「あ? そりゃ当たり前だろ!」

スライム「うん……でも姫ちゃんがね」

コウモリ「……姫?」

スライム「あ」

姫「もうあの子からの情報は見込めないかしらね……」

ドンドン!

姫「窓? 何かしら」

ガチャ

「うらっしゃあああぁぁぁいッ!」

姫「え?」

ドンガラガッシャーンッ!

姫「いたた……なんなのよぉ」

「お前か! オレのダチに変なこと吹き込みやがったのは!」

姫「……蝙蝠?」

コウモリ「おう! お前が姫だな!?」

――コウモリにそうぐうした!

姫「ええと。確かにわたしが姫だけど」

コウモリ「まずは土下座」

姫「は?」

コウモリ「それから魔王さまへの謝罪を述べること!」

姫「……あなたもしかしてスライムの友達?」

コウモリ「ペッ!」

姫「おっと」サッ

姫(……間違いないわね。あの子、話しちゃったのか)

コンコン

「側近です。すごい音がしましたが、大丈夫ですか?」

姫「何でもないわ! さっさと消えなさい!」

「……わかりました」

コウモリ「……」

姫「……行ったわね」

コウモリ「オレを突きださないのか?」

姫「突きだしてほしいの?」

コウモリ「……フン! そんなことより早く土下座しろィ!」

姫「お断りよ」

コウモリ「んだと!?」

姫「だって謝る理由がないもの」

コウモリ「この小娘が!」

姫「そういうあなたも、声を聞く限りじゃまだまだ子供のようだけど?」

コウモリ「ムッ!」

コウモリ「うっせえうっせえ! オレはガキなんかじゃねえやい!」

姫「はいはい。ちょっとこっち来なさい」

コウモリ「誰が行くか――ってうお!?」

姫「はい捕まえた」

コウモリ「放せ!」バタバタ

姫「暴れると怪我が広がるわよ」

コウモリ「!」

姫「さっき飛び込んできたときにやっちゃったのね。翼の皮に傷がついちゃってる」

コウモリ「そんなの別にいだだっ!」

姫「はい、これで大丈夫」

コウモリ「……」

姫「あとこれ飴ちゃんね」

コウモリ「ムグ!」

姫「そしたらまた明日、スライムと一緒にいらっしゃい」

コウモリ「あ、待てよ!」

姫「じゃあね」

ポイ! バタン!

コウモリ「っとと。ちくしょう。あの女め!」パタパタ

コウモリ(しかし。思ってたよりなんというか)

コウモリ「! いやいや! とにかく明日だ。明日もう一度リベンジだ!」

コウモリ「……」

コウモリ「アメ、おいしいな」

翌日

姫「ごめんなさい」

スライム・コウモリ「え?」

スライム「やっぱりウソだったの?」

コウモリ「ほれ見ろ!」

姫「違うわよ。嘘はついてないわ」

スライム「え? じゃあなんで謝るの?」

姫「なんて言ったらいいのかしら。あなたたちにいやな思いをさせちゃったから、ってとこね」

コウモリ「……?」

姫(純心な子供たちの気持ちを傷つけるのは、さすがに良心が痛むもの)

スライム「なんだかよく分からないけど……謝ってくれるならもういいよ!」

コウモリ「あ、お前! だまされてるぞ多分!」

姫「いえ騙しては、ないけど」

コウモリ「だってこいつ、魔王さまを馬鹿にしたことにはかわんねーし!」

スライム「でも姫ちゃんはウソついてないよ。きっと」

コウモリ「証拠はあるのかよ」

スライム「ないけど。ぼくだってあたまがすっきりすればウソかちがうかぐらいわかるよ」

コウモリ「でもよ!」

姫「あなたはキーキーやかましいわね。男らしくないわよ?」

コウモリ「うっせブス!」

姫「……」ピキ!

スライム「……落ちついた?」

姫「思う存分暴れたらなんだかすっきりしたわ」

コウモリ(うう、翼の傷が……)

姫「ごめんなさいね。手加減できなくて」

コウモリ「オレのほうが手加減してたし!」

姫「あーはいはい。もうそれでいいわよ」

スライム「ふふ」

姫・コウモリ「?」

スライム「姫ちゃん、なんだか重しがとれた顔してる」

姫「……」

スライム「さらわれてきて心細かったんだよね」

コウモリ「……」

スライム「ぼくたちでよければ、これからも話し相手になるよ」

姫「……ふふ」

姫(まさか、モンスターに気を使われるなんてね)

コウモリ「何笑ってんだ気持ちわりい」

姫「……」ツネリ

コウモリ「あいだだだっ!」

姫「はい、飴ちゃん」

スライム「まいどー!」

コウモリ「あ。オレにもよこせ!」

数日後

スライム「今日はコウモリ君は来られないんだ」

姫「そう。うるさいのがいなくてせいせいするわ」

スライム「でも姫ちゃんちょっと残念そう」

姫「そんなことないわよ」

スライム「ふふ」

姫「今日は何か聞かせてもらえる?」

スライム「うん。北の森のオオカミ王の話」

姫「楽しみね。聞かせて」

スライム「んーとね」

姫「! 誰か来るわ。隠れて」

スライム「わわ!」

ガチャ

魔王「ご機嫌いかがかな、姫」

姫「愚問ね。ここに来てからわたしの機嫌がいいことがあると思って?」

魔王「はは。それは失礼した」

姫「分かったらさっさと消えて。目障りよ」

魔王「しかし……最近の姫は心なしか上機嫌に見える」

姫「あら、魔界に目の医者はいないのかしら」

魔王「我の目はこの上なく冴えわたっておるよ……出てこいスライム」

スライム「!?」ビク!

姫「っ!」

スライム(あわわ……)

魔王「……二度言わせる気か?」

スライム「ご、ごめんなさい! すぐに出ますっ」

魔王「……ふふ」

スライム「……」オドオド

姫(なんとなくまずい、わね……)

魔王「お前は一体ここで何をしていたんだ、スライム?」

スライム「え、ええと……」

姫「……わたしが側近に頼んで、話し相手を用意してもらったのよ」

魔王「ほう……なるほど。側近が」

姫(すぐバレるでしょうけれど、この子が逃げるだけの時間は稼げるはず……)

魔王「ふうむ」カツカツ

姫「近付かないで!」

魔王「スライムがどうなってもいいのか?」ボソ

姫「っ!」

魔王「ふふ」ガシ

姫「つっ! 放しなさ――んむ!」

スライム「あっ……!」

魔王「――ん」

姫「……っ」

魔王「美味なる唇であった」

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