スライム「魔王さまが姫をさらってきた?」 1/5

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コウモリ「らしいぜ。オレの仲間たちの間じゃその話でもちきりだ」

スライム「本当なの?」

コウモリ「姫を見たやつもいるって。城のどこかに閉じ込めたとか」

スライム「すっごいなあ!」

コウモリ「だよな! さすがは魔王さまだ」

スライム「どうやってさらってきたんだろう」

コウモリ「そりゃあ正面から乗りこんで人間たちをけちらしけちらし、だろ」

スライム「かぁっこいい!」

コウモリ「まったくだぜ!」

スライム「姫ってどんなやつかな」

コウモリ「えらい人間だからな。きっとこわくていやなやつだ」

スライム「そうだね、こわくていやなやつだ!」

コウモリ「お前、今日もお城でそうじの仕事だろ。もし見かけたらつばかけてやれ」

スライム「がんばる!」

コウモリ「それじゃあオレはいくぜ」

スライム「じゃあね!」

魔王城

魔王「ふふ……部屋の居心地はどうかね、姫?」

姫「……」

魔王「そう睨むでない。凛々しい表情もまた似合ってはいるがな」カツ……

姫「近付かないで! 舌を噛み切るわよ!」

魔王「……くくっ。これは困った」

姫「わたしを一人にしなさい。これは命令よ」

魔王「おやおや。まだオヒメサマ気分が抜けないと見える」

姫「二度言わせる気? 出てって」

魔王「ふふ。ははは……まあゆっくりしてくれたまえ」ギィ……

姫「……」

……バタン

……

スライム「ふうふう……おそうじは大変大変」ゴシゴシ

「どけ! 邪魔だ!」

スライム「うわあ!」ポヨン!

スライム「……らんぼうだなあ」

「こら休むな!」

スライム「ご、ごめんなさい!」ゴシゴシ!

「ここが終わったら次はあっちだ!」

スライム「はーいっ」

姫「"開け"」ポゥ……

カチッ!

姫「開錠成功ね。魔法の勉強が無駄にならずに済んだわ」

姫「……」

姫(問題は。この扉の向こうに誰かいるかどうか、だけど)

姫「こればっかりは覚悟するしかないわね」

姫「……」スー ハー

姫「ん」ギィ……

スライム「あれ?」

姫「……」

――スライムにそうぐうした!

姫「っ……!」

ガシ! ヒョイ

スライム「ひゃ――!?」

パタン

「ん。あれ? スライムのやつどこ行きやがった?」

スライム「――! ――!」

姫「静かになさい!」

スライム「……」

姫「……素直ね?」

スライム「うるさくしたらいたくする?」

姫「大人しくしてくれるならなにもしないわよ」

スライム「わかった。静かにする」

姫「ありがとう」

スライム「でもおろしてほしい」

姫「暴れないでね? はい」

スライム「よいしょ」ピョイ

スライム「……」ジー

姫「なに?」

スライム「人間だあ」

姫「ええ」

スライム「もしかして、きみが姫?」

姫「そうよ」

スライム「思ってたのとちがう」

姫「? どんな想像してたのよ」

スライム「んとね」

『キシャアアァァッ!!』

『我はヒメ! 魔界に終焉をもたらす者なり!』ギラギラ!

『跪け愚かな魔物ども! ギャオオォォン!』カッ!

姫「ちょっと待ちなさい」

スライム「え?」

姫「何よそれ」

スライム「えらい人間はすごくつよいって聞いたよ」

姫「そんなことないわよ」

スライム「そうみたいだね。きみはかわいいし」

姫「まあね」

スライム「でもごめん」

姫「え?」

スライム「ペッ!」

姫「きゃ!?」サッ

姫「何するのよっ」

スライム「姫を見かけたらつばをかける約束なの」

姫「約束?」

スライム「うん。友だちとの約束」

姫「ろくな友達じゃないわね」

スライム「悪口はだめ!」ピョン!

姫「おっと」サッ

スライム「ぷぎゅ!」ビタン!

姫「あ」

スライム「いたい……」

姫「あの。ごめんなさいね?」

スライム「……ゆるす」

姫「ありがとう。ところで」

スライム「なに?」

姫「わたしここから逃げたいのだけれど」

スライム「それはムリじゃないかなあ」

姫「お願い。手伝ってちょうだい」

スライム「バレたらぼく、おこられちゃう」

姫「そこをなんとか。ね? ほら飴ちゃんあげるから」

スライム「アメ!? ちょうだい!」ピョン!

姫「で、どうすれば逃げられると思う?」

スライム「ムリだと思う」モゴモゴ

姫「……」グリグリ

スライム「いたいいたいっ」

姫「どういうことよっ。手伝ってくれるんじゃないのっ?」

スライム「アメのお返しはしたいけど。でも」

姫「もしかして監視が厳重なの?」

スライム「城にはいっぱいなかまがいるよ」

姫「困ったわね。どうにかならない?」

スライム「思いつかない」

姫「こっそり行けば」

スライム「きみ、いいにおいするよね」

姫「そう?」

スライム「ぼくのなかまには、すごくハナがいいのもいるよ」

姫「……そっか。それじゃあ見つかっちゃうわね。ハァ……」

姫(この子は見たところ下っ端だから人質にはならなさそうだし)

姫(開錠魔法封じがなかったのはどうせ逃げられないと踏んでいるせいね……)

スライム「ごめんね?」

姫「いいのよ。あなたのせいじゃないわ」

スライム「……」ジー

姫「なに?」

スライム「もうない?」

姫「なにが? ……って、もしかして飴のこと?」

スライム「うん!」

姫「仕方ないわね」ゴソゴソ

スライム「♪」

姫「……」

スライム「?」

姫「やっぱりだめ」

スライム「なんでっ? まだあるんでしょ!」

姫「そうね」

スライム「いじわるしないでよお」

姫「意地悪じゃないわ。ちゃんとあげるわよ」

スライム「……どういうこと?」

姫「条件があるの。毎日ここにきてわたしの話し相手になってちょうだい。その時に一つずつあげる」

姫(情報源は確保しておかないとね)

スライム「……」

姫「これでどう?」

スライム「うーん。一度にたくさん食べたいなあ」

姫「でもそうしたらすぐになくなっちゃうわよ? 少しずつ楽しむのもいいんじゃない?」

スライム「そっかあ……それもそうだね」

姫「じゃあわたしたちの間だけの約束よ? 他の奴には秘密だからね」

スライム「わかった」

姫「ちゃんと守ってよ?」

スライム「そっちもね!」ギィ

パタン

スライム「♪」

「あ。この、どこいってやがったスライム!」

スライム「!」

「てめえサボってたな!」

スライム「あわわ……」

「お前は掃除箇所の追加! あとげんこつ一発だ!」

スライム「ご、ごめんなさーいっ」

ガチャ

側近「姫。私は魔王さまの側近職を務めさせていただいている者です」

姫「……」

側近「何か不都合はありませんでしたか?」

姫「……別に」プイ

側近「なにかご入用のものがあればお持ちしますが」

姫「何もないわ。早く消えて」

側近「そうですか……では」ギィ

姫「あ。待って」

側近「?」

姫「飴が欲しいわ。出来るだけたくさん」

側近「飴、ですか? はあ。分かりました」

姫「なくなったらその時は言うから追加しなさいね」

側近「……は。ではごゆっくり」

……パタン

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