姫「その点については丁重に謝罪させていただき――」
火竜「お主、なかなか良い指輪をしておるな」
姫「……それが何か?」
火竜「謝罪の印にそれを渡してもらおうか」
姫(くっ……)
姫「これは、友人からの頂き物です」
火竜「渡せないと言うのかね?」
姫「いえ……ですから大事にしていただきたいのです」
火竜「よかろう。さっさと外せ」
姫「……」
火竜「それから」
コウモリ「!? まだ何かあるのかよ」
火竜「……」ギロ
コウモリ「う……」
火竜「指輪は謝罪の印。償いはまた別だ」
スライム「そんな!」
火竜「儂のものになれ、女」
姫「……!」
姫「それは、一体どういう意味で?」
火竜「儂は、美しいものを集めるのが好きだ。集めたものを並べてずっとずっと眺めていたい」
姫「……」
火竜「お主は美しい。だが、時間がたてばその美貌も醜く衰えていくだろう」
姫「話が見えません」
火竜「お主を水晶に閉じ込め、それを儂のものにする」
スライム「ええ!?」
火竜「お主にとっても悪い話ではないぞ。なにしろその美しさを永遠に保っていられるのだからな。ははは!」
姫(この……!)
コウモリ「ちょっと待てやこの変態爺! 黙って聞いてりゃ――」
火竜「うるさい」ヒュボ!
コウモリ「!?」
ドゴオッ!
スライム「コウモリ君!」
姫「"光矢"!」ビシュッ!
火竜「ふん」ピシ
スライム「姫ちゃん! 怒らせちゃ――」
姫「もうそんなこと言ってる場合じゃないわ! あなただけでも逃げなさい!」
火竜「愚かな……」
姫「もう一発行くわよ!」ポゥ
火竜「遅い」ヒュボ!
姫「あ――」
ドゴォッ!
スライム「あ……」
火竜「ふんっ」
スライム「……」プルプル
火竜「どうした逃げないのか? 今なら見逃してやってもよいぞチビ」
スライム「チビっていうな」
火竜「ん?」
スライム「よくも……よくもぼくの友だちを殺したな! ぜったいにこうかいさせてやる!」
火竜「命はもっと大事にすべきだよ」フゥ
スライム「行くぞ!」ググ
火竜「好きにしろ。そして死ね」ヒュボ!
ドゴォッ!
モクモクモク……
火竜「……む?」
「まったく。弱いのに無茶しやがって」
スライム「うう……」
火竜「お主、何者だ?」
「オレ? 礼儀がなってない若いのだけど」
火竜「先ほどの蝙蝠? いや……」
「合ってるぞ? でもちょっとだけ違う。へへへ……」
吸血鬼「夜はオレの時間だぜ!」
――コウモリは吸血鬼にへんしんした!
姫「いつつ……」
スライム「あれ……?」
吸血鬼「間一髪だったけど。なんとか助けられたな」
火竜「……吸血鬼一族。伯爵家の者か」
吸血鬼「その通り! 今更吠え面かくなよ!」バッ
火竜「ふん……」ヒュボ!
吸血鬼「おっと」
火竜「チィ……!」ヒュボ! ヒュボ!
ドゴォッ! ドゴォッ!
吸血鬼「当たんねーよバーカ!」
火竜「この……!」
吸血鬼「よ!」ビュッ!
火竜「ぐあッ! 目がァッ!」
吸血鬼「今だスライム!」
スライム「うん!」ビュン!
スポッ!
火竜「もごッ!」
スライム「お口に着地しましたー! 続いてふくらみまーす!」プクー!
火竜「もごごッ!」
吸血鬼「これで火弾は撃てねえだろ!」
火竜(この……!)
吸血鬼「そしたら仕上げだ! 姫、やっちまえ!」
火竜「!」
姫「行くわよ! "溜撃光矢"!」ギュォッ!
――ズドン!
……
…
火竜「ぐぐ……」
吸血鬼「おっし。これでしばらくは安全だろ」
姫「あなた吸血鬼だったのね……」
スライム「あれ? 言ってなかったっけ?」
姫「聞いてはないわね。まあそれはともかく」
吸血鬼「もちっと傷めつけとくか?」
姫「……」ツカツカ
火竜「儂を殺すか……」
姫「"癒しよ"」ポゥ
火竜「ぬ?」
吸血鬼「おい!?」
姫「ここに勝手に踏み込んだのはわたしたち。となれば元はといえばわたしたちのせいよね」
吸血鬼「でもこいつ、変態だぜ!」
姫「それとこれとは話が別」
火竜「……」
姫「大丈夫。暴れられない程度にとどめとくから」
火竜「図に乗るなよ小娘……」
姫「……」
火竜「儂はそういう余裕が気に食わん……!」
スライム「♪」ポヨン
火竜「……?」
スライム「ムリしちゃだめだよ? まだ治したばっかりだから」
火竜「何のことだ? ……あ」
スライム「歯、ちょうしいいでしょ? ぼく、そういうのとくいなんだ」
火竜「……」
スライム「さいきんぐあい悪くなかった? きっと歯がよくなかったんだよ」
火竜「……」
スライム「ごきげんが悪かったのもそのせいだよね」
火竜「小僧……」
スライム「これでかってに入ってきちゃったおわびにならないかな?」
火竜「あー……」
姫・吸血鬼・スラ「?」
火竜「儂は疲れた。寝る」
姫「え?」
火竜「zzz……」
吸血鬼「なんだこの爺?」
スライム「……ふふ」
次の日
姫「じゃあ出発しましょうか」
スライム「おー!」
コウモリ「この爺、まだ寝てるのな」
火竜「ウウム……」
姫「まあいいじゃない。起こさないように行きましょう」
火竜「ムニャ……洞窟の奥、左。抜け道」
姫「……?」
火竜「zzz……」
姫「寝言、かしらね」
スライム「ありがとうおじいちゃん!」
コウモリ「チッ、素直じゃねえの」
姫「あんたがいうの?」ウリウリ
コウモリ「やめろっ」
数刻後
スライム「うわあ……!」
コウモリ「こいつは……」
姫「海ね」
スライム「すっごーい! おっきーい!」
コウモリ「ひゃっほーい!」バシャバシャ!
姫「朝日があっちから出ていて、東に人間界があるから。海沿いに行けばいいはずよね」
スライム「うわーい!」
コウモリ「とりゃーい!」
姫「追手は掛かっているはずだから急がないと」
スライム「姫ちゃん助けてえ! コウモリ君がおぼれたあ!」
コウモリ「ブクブク」
姫「あーはいはい! 今行くわよ!」
姫(服が冷たい……)
コウモリ・スライム「キャッキャ!」
姫「……もういいでしょ! そろそろ行くわよ」
コウモリ・スライム「もうちょっとだけー!」
姫「はあ、まったく」
「いやはや、元気のいいことですな」
姫「元気がいいのはいいんだけれど。それが過ぎると困りものよ、ね……?」
側近「ふふふ」
――側近にそうぐうした!
姫「――ッッ!」ダダダ!
スライム「どうしたの、ってうわあ!」
コウモリ「掴むな!」
姫「いるのよ!」
スライム・コウモリ「?」
側近「やあ」
スライム・コウモリ「――ッッ!」
姫・スラ・モリ「うわああぁぁぁッ!」ダダダ!
側近「そんなに急いで逃げられるとちょっとショックです」
姫「"光矢"!」ビシュッ!
側近「ふうむ。そこまで嫌われてますか」カキン!
姫「効かない!?」
側近「やっぱりショックですな」
姫(いつの間に前に回り込んで――!)ズザッ!
スライム「掴まって姫ちゃん!」プクー!
姫「ええ!」ガシ
スライム「ん!」ビョン! バチャン!
側近「海に逃げますか」
コウモリ「ここまでならさすがに追ってこれないだろ」
側近「困りましたねえ」
側近「こんなに嫌がられるとは」
側近「繰り返しですが。ショックです」バサ!
コウモリ「げげっ! あいつも飛べるのかよぉ!」
側近「待っててくださあい。すぐ行きますからねえ」
コウモリ「くんなああぁぁ!」
姫「"光矢三連"!」ビシュシュシュッ!
側近「効きませんな」キキキン
姫(ここまで、かしら……)
スライム「……ねえ」
姫「安心して。あなたたちに痛い思いはさせないから」
スライム「ええと、そうじゃなくて」
姫「?」
スライム「前。何か来る……!」
姫「え?」
バシャシャシャシャシャシャ!
「あれは間違いない……姫!」
「そして上のは、敵か!」チャキ!
姫(すごい速さでこちらに向かってくるあれは……舟?)
姫「誰……?」
「姫――!」
姫「……まさか」
「お迎えに、あがりました!」
姫「勇者……!」
勇者「今助けます!」
――勇者があらわれた!
側近「あれは、まさか……!」
勇者「おおおおおッ!」ダンッ!
側近(な!? 一瞬でこの高さまで!)
側近「くっ!」ジャキ!
勇者「シッ!」ビュッ
側近「が――ッ!?」ドス!
側近(勇者……か……)
ヒュルルル……バシャン!
勇者「……」スタ!
スライム「……すごーい」ポカーン
コウモリ「……化け物かよ」ポカーン
姫「勇者……!」
勇者「……姫。お待たせして申し訳ありませんでした」