勇者父「積みゲーするなら買うな」 3/4

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勇者「私も暇じゃないんだよねー用が済んだら帰るよ」

勇者父「ちなみに暇じゃない、ってのは?」

勇者「夢の中でイメトレしてー、お母さんのご飯食べてー、夢の中でお昼寝するの」

魔王「そのうち干からびるぞお前」

勇者「作中に年取るイベントないから、ずっとピチピチのままですー」

勇者「というわけで、待機がんばってね二人とも。魔王、家に送ってよ」

魔王「分かった分かった。はあ……これでまた野郎二人のむさ苦しい空間に逆戻りか」

勇者父「いや!まだだ!まだ用事は終わってねーぞ!」

勇者「はぁ……何ですか?」

勇者父「とうとう他人行儀に……いやでも俺は負けねえ!」

勇者父「つまりお前!主人公たるお前のリハーサルを手伝ってやる!」

勇者「遠慮します」

勇者父「速攻で切るなよ!父さんはお前のことを思ってだな!」

勇者「私のことを思ってならもう寝かしてよ!」

魔王「しかしそうだな、心の準備くらいはしておいた方がいいんじゃないか?お前テストプレイでストーリー通っていないんだろう?」

勇者「えー……魔王も父さんの言うことにのっからないでよ」

魔王「そうは言うが、ゲームが始まればお前はずっと画面に出ずっぱりなんだぞ。私たちはそうそう出番がないからいいが」

勇者「うう……プライバシーも何もあったもんじゃないよ」

勇者父「頑なにプライバシーを見せない主役ってのもどうかと思うがな」

魔王「いやまあ、見せないだけで馬車やら宿屋やらで歴代大物主人公たちも一体何をやらかしてきたものだか」

勇者父「その他の仲間に馬車を引かせて、自分は中でうんぬん……ってパーティーの空気最悪どころの騒ぎじゃねーな」

勇者「そういうゲスいプライバシーの話をしてるんじゃないから!女の子的な意味合いだから!」

魔王「しかし布団にくるまった痴女に言われても説得力が……」

勇者「この半裸鎧は私の趣味じゃないもん!そんな目で見るなー!」

勇者「うう……ここにはろくな人がいないのね……」

勇者父「まあ俺死んだら人じゃなくなるし」

魔王「私は元々人ではないし」

勇者「屁理屈こねないの!いいからリハーサルとか!そんなの必要ないもん!」

勇者父「えー。そんならちょっとテストしてみる?」

勇者「て、テスト?」

勇者父「よーっし、かかってこーい!」

勇者「……」

勇者父「おーいどうした!?」

勇者「ねえ」

魔王「何だ?」

勇者「バトンタッチ」

魔王「いや、戦闘用のステータスだと、私はこいつを瞬殺してしまいかねんのだが」

勇者「構わない、ううんむしろいい!殺っちゃってよこの目障りなの!」

魔王「勇者の吐く台詞がそれか」

勇者父「はっは、俺のこの中ボスグラフィックに恐れをなしたか!」

勇者「それ、お父さんが操られてるって設定の“謎の黒騎士”だよね?」

勇者父「おう!いいだろーこの全身鎧にでっけー剣。顔はでねーけどイケメン臭がプンプンするだろ!」

勇者「今のご時世その狙い澄ましたポジションは受けないと思うの」

魔王「その、やたらゴテゴテ装飾過多の癖してスタイリッシュ気取った鎧のデザイン、既視感が半端ないんだが」

勇者「死んだと思っていた父親が云々ってパターン、王道だけど下手に使うともうギャグにしかならないよね」

魔王「ほら言ってみろ、『I'm your father.』って」

勇者「私、『Nooooooo!!』って言ってあげるよ?」

勇者父「うっせーよ!!これフルフェイス鎧ってだけでガスマスクじゃねーからな!」

勇者父「ってか王道はそれだけですばらしいもんなんだよ!いいからほら掛かってこい!」

勇者「えー……だって端から勝負見えてるじゃない。私レベル1よ?」

勇者父「別に真面目に戦う気はねーよ。どんだけ手加減しても1ターンキル確定だしな」

勇者「腹立つ……じゃあ何しろっての」

勇者父「ほら、ゲーム中にあるだろ?強制負けイベント」

勇者「あー……あった気がするなあ」

魔王「確か、突然現れる強敵・あっけなく破れる味方・味方を庇い一人立ち向かう勇者・あっけなく破れるも強敵は意味深な台詞を残し立ち去る……といったイベントだよな」

勇者「なんというテンプレ……っていうか、一応正体秘密のはずなのに喋っていいの?ボイス加工もなしだよね?声でバレるんじゃない?」

魔王「まあ、そういった正体バレバレなキャラクターは古今東西数多くいるだろう。『分かってる、分かってるから』感を楽しむというか何と言うか」

勇者「某中華麺男みたいな?」

魔王「あれは隠す気などサラサラないだろう」

勇者父「いいからかかってこいつってんだろ!意気投合してハブってんじゃねーよ俺だってこの一張羅で突っ立てるの恥ずかしいんだよ!」

勇者「でもなんでまたあ……?」

勇者父「俺とお前の重要イベントの一つじゃん?テストプレイの時は男の勇者だったからなーお前との打ち合わせと、立派に勇者できるかのテスト、みたいな?」

勇者「本音は?」

勇者父「娘と遊びたい」

魔王「清々しいまでに自由だなお前」

勇者「まあ……暇だし練習くらいいいよ……なんか拒否するのも面倒だし」

勇者父「そうかそうか。なんか引っかかるがまあいいだろ。んじゃあ魔王はこいつの仲間役で」

魔王「いいのか?」

勇者父「あ?お前も暇だろうが」

魔王「お前がそう言うのなら、別に構わんぞ」

勇者父「?」

勇者父「はいじゃあ第二章終盤、四天王の一人を討ち取ったところから」

勇者「四天王の一人、そんな序盤で倒されるのね……」

魔王「筋肉だるま系の奴だからな。仕方あるまい」

勇者父「あと因みにそいつ土属性だから」

勇者「なんて納得の捨て牌ポジション」

魔王「土属性という時点で半分以上ギャグだからな」

勇者「まあいいや……ごほん、えー……っと」

魔王「『やりましたね勇者様!』」

勇者「!」

魔王「『これで村も救われるはずです!さあ早く帰って村長さんに報告しましょう!』」

勇者「……」

勇者父「ノリの良さがきめえ……」

勇者父「しかしすぐ俺の出番だし、こっから勇者が仲間と帰りかけたところを……と」

魔王「『ああ勇者様!』」

勇者「?」

魔王「『腕、怪我をしてるじゃないですか!』」

勇者「??」

勇者父「……はい?」

魔王「『私たちを庇ったからですね……ああ、勇者様申し訳ございません』」

勇者「……」

魔王「『お力、勇敢さ、そして思いやり……やはり貴方は我らの勇者様です!』」

勇者「……」

魔王「『ですから勇者様、そのお怪我、私が治させてくださいませ』」

勇者「……?」

魔王「『さあ……傷をお見せくださいませ。舐めて差し上げます勇者様』」

勇者「ぶっ!?ちょ、ちょ!?」

魔王「『大丈夫何も怖くはありません。大人しく私に身を委ね』」

勇者父「ちょっと待てやてめえ!!」

魔王「なんだ唐突に」

勇者父「何だ、じゃねーよお前俺の娘に何やってんだ!?」

魔王「お前が仲間ポジションをやれと言ったからやったのだが。因みに今のは本来女性キャラがやるはずの役だ。良かったな、百合ユリだぞ」

勇者「何がいいのかよくわかんないし、い、今のセクハラだよね!?訴えたら勝てるよね!?ね!?」

勇者父「完全勝訴で死刑確定だ。ってか男の勇者の時はあんなのなかったぞ!?」

魔王「あー、それはほら、女勇者を選んだ場合のファンサービスというやつだ。考えてもみろ、あんなの男主人公がされたら喜ぶどころか殺意沸くだろう、プレイヤーとしては」

勇者父「いやまあそうだけどさあ!?無理やりねじ込んだ感がひでえし、何よりよく審査通ったな!?全年齢だぞこのゲーム!」

魔王「バレなければ問題はない」

勇者「そういうイベント隠し通して、あとで審査やり直しになったゲームもあるけどね……」

勇者父「すまん!すまん娘!あんなイベントだったとはつゆ知らず……!!」

勇者父「ってかお前が気に食わねえ!なんださっきから娘と仲良くなりやがって!」

魔王「落ち着け。私はさっきお前の目の前でこいつにフラれたばかりだろう」

勇者父「それでも安心できるか!さあ娘、こっちに来い!そんな顔色悪い変質者から離れるんだ!」

勇者「どっち行っても変質者なんで、うるさくない方につきます」

勇者父「なんてことだ……娘が魔王に洗脳されちまった」

魔王「それはお前の方だろう、色んな意味で」

魔王「いやしかし、私ほど安心のおける男はいないと思うのだが」

勇者父「根拠は?」

魔王「沈着冷静な性格で、グラフィックはイケメン。一国一城の主であり、多くの部下を抱えるワンマン経営者だ。さらに仕事はいつ何時も手を抜かないという真面目ぶり」

勇者父「お前が真面目に仕事しちゃダメなんだよ、分かれよ」

勇者「でもすごく魅力的な物件に聞こえるのは何でだろ……」

勇者父「ちょ、娘!?騙されちゃいけないぞ!こいつチョイ悪ってレベルじゃねーから!触ったらヤケドどころか消し炭だからな!?」

魔王「そうだろうそうだろう。だが一つ残念なお知らせだ」

勇者父「なんだよ、この上さらに自慢か?」

魔王「ああ。売約済みなんだよな私」

勇者「は!?」

勇者「え、だってそんな設定なかったはずだし……はっ!まさか脳内彼女!?」

魔王「二次元の世界で脳内彼女を作ると、それは果たして何次元になるんだろうな」

勇者父「いや脳内彼女の時点で次元もクソも……ってかマジ?」

魔王「ああ。オフ、というやつだ」

勇者「……オフ?」

勇者父「あー、ゲームシナリオは仕事。裏方待機時はオフって割り切って好きにやってる奴結構いるみたいなんだよ」

勇者「へ……へー」

魔王「というわけで、私もオフではリア充だ。悪かったな負け組ども」

勇者父「あー悪い。微妙に腹立たねえわ」

魔王「はっ、僻みも大概に」

勇者父「だってお前ここでずーっと俺と待機してるよな?いつ彼女とリア充してるって言うんだよ」

魔王「…………」

勇者「魔王ってあっさり膝つくんだね」

魔王「貴様……!言ってはならんことを軽々しく……!!」

勇者父「ほら、どうよ。これでもこいつの方がマシだと思うか?」

勇者「うーん……かわいそうな具合だと、魔王に軍配がかなり上がってきたかなー」

勇者父「何しろ脳内充だもんな」

魔王「違う!違うと言うに!人の話を聞け!」

魔王「まず、私と彼女が出会ったのはテストプレイの中でだな」

勇者父「語りだしたよ」

魔王「その際諸々あって惹かれあい、交際がスタート」

勇者「端折った部分がなんだか怖いよね」

魔王「こうしてゲームスタート待機中のためろくに会えないが、連絡だけは欠かさず」

勇者父「ところでお前が言ってた好きなやつって脳内じゃないよな?」

勇者「いくらなんでもそこまで落ちていないよ。落ちるのは布団の魔翌力だけで十分だよ」

勇者父「はは、すまんすまん。さすがにこれはないよなー」

魔王「聞け!聞いてきっちり文面通りに大人しくとって把握しろ!!」

魔王「ええいそこまで言うならグラフィックを見せてやる!これだ!」

勇者父「……あ?」

勇者「……あれ?」

魔王「はっは驚いたかお前たち!」

勇者「だってこの人、あれだよね……?魔王がさらった、どっかのお姫様っていう」

勇者父「あー……『昔の恋人に生き写し』で『特殊な能力を持った末裔の』お姫様……だよな」

魔王「おおそうだとも!重要キャラクターなため、グラフィックは勇者女と比類なき力のいれ具合だ!美人だろう!」

勇者「結局オンオフどっちも全力ストーカーなだけじゃない!」

勇者父「うわーないわーマジ引くわー……」

魔王「だから違うと言うに……!」

勇者「くたばれ女の敵ー!」

魔王「やめろ殴るなレベル1。痛くはないが心にくる」

勇者父「そうだぞ娘よ、こんなの素手で殴ったらばい菌がつく」

勇者「はっ……どうしよう触っちゃったよ、私汚れちゃった……」

勇者父「心配するな、お父さんが装備したまんまのでっけーこの剣貸してやるから」

魔王「おいそれ設定上私が与えてやった剣」

勇者父「自分の剣に斬られて死ぬ、って悪役にはよくあるじゃん?」

魔王「よくあるが納得行くか」

魔王「くそ、そこまで言うならお前たちそこで待っているがいい。今すぐ本人をここにつれてきてやる!」

勇者「ちょ、待ちなさいそこの犯罪者!」

勇者父「素早く消えやがった……今ゲームが始まったらどうすんだあいつ」

勇者「でもそれはなさそうだよ。購入者、今パソコンでえっちなゲーム始めたみたいだから」

勇者父「ああうん、そりゃそのゲーム終わっても他に何もやる気にはならんだろな。ってか見るな。見ちゃいけない」

魔王「連れてきたぞ愚民ども!」

勇者父「はえーよ。ってか必死すぎるだろお前」

魔王「脳内認定される辛さが分かるか貴様に。ほら、じゃあ自己紹介を」

姫「勇者様、勇者様のお父上様。お初にお目にかかります。ゲーム中ではキーパーソンをさせて頂いております、姫ともうします」

勇者父「え、ああ……ご丁寧にどうも。声もかわいいのな」

魔王「そうだろう、今一番売りに売れてる有名女性声優が中の人をやっているからな」

勇者「くっ……ダメよ姫様!」

姫「は、はい?」

勇者「付きまとわれて嫌ならビシッと言わないと!下手にエサをやっちゃうと、こういう魔王は後々厄介だよ!」

姫「え、えーっと……何の話でしょうか?」

勇者「脳内彼女認定されてるんだよ!?怖くないの!?」

姫「別に怖いとかはありませんし……それに、本当のことですし」

勇者「……なにが?」

姫「恋人、ですし……きゃ、恥ずかしい……」

勇者「…………」

勇者父「…………」

魔王「この期に及んでその疑いの眼差しとはな」

勇者父「え、お前ちょっと吐いてみ。どんな洗脳術使ったんだよ」

魔王「使っておらん。マジだ。本気だ」

勇者「えー……姫様こんなののどこがいいんですか?」

勇者父「やっぱあれ?城目当て?」

魔王「うむ、そろそろ怒ってもいいよな?な?」

姫「どうどう、ですよ」

魔王「む……ぐ」

姫「イベント中とてもよくして頂いて……それでお付き合いを始めましたの」

勇者「イベント……って浚われてどうこう、ってイベント?」

姫「ええ、あとは回想イベントなどで」

勇者父「魔王の過去イベントか?あんた出てたっけ」

姫「いえ、魔王の昔の恋人が私に生き写しって設定じゃないですか」

勇者父「ああうん」

姫「あれ、私のグラフィックの差分使い回しなんです。声も一緒ですし、実質私の一人二役という仕様で」

勇者「もう少し捻れよってツッコミたくなる仕様だな……」

姫「そんなわけで、現在お付き合いをさせて頂いております」

勇者「う、嘘よ……これは何かそう、きっとやむにやまれぬ事情があるはず!」

魔王「人の色恋沙汰取り上げて、よくそんな暴言吐けるなお前」

勇者父「事情って例えば?」

勇者「よ、弱みを握られているとか!」

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