魔王「『ふん……この程度か』」
勇者父「『ぐ……ぐはっ……つ、強い……!これが、魔王……!』」
魔王「『愚かな人間だ。我に歯向かわずにおれば、もう少し長生きができたものを』」
勇者父「『馬鹿を言え!貴様を倒すまで、俺たち人間に未来はない!』」
魔王「『人間の未来……そんなものよりまず、自分の身を案じてはどうだ?』」
勇者父「『くそっ……俺もここまでか……』」
魔王「『終わりだ、人間よ』」
勇者父「『くそっ……すまない、我が子よ……』」
魔王「と、まあこんな調子でいいか」
勇者父「……いいんじゃねーのー」
魔王「何だお前、テンション低いな。リハとはいえ、もう少し緊張感を持て」
勇者父「だってよ……俺らここでスタンバって何日よ」
魔王「さあな……十日を経過した辺りから数えておらん。このリハもゆうに四ケタだ」
勇者父「リハってレベルじゃねーぞ」
勇者父「だいたい、俺はその間腹に剣ぶっ刺さったままなんだぞ。ちったー気ぃ使え」
魔王「やかましいわ。私も立ちっぱなしで結構辛いんだ」
勇者父「くそー……なんだってこんなことになったんだ……」
魔王「……購入者が、すぐこのゲームを積んでしまったからに決まっているだろう」
勇者父「解せねー」
魔王「予約特典のドラマCDにまんまと釣られおって。買ったはいいが、いまいち気乗りせず放置ときた」
勇者父「せめて……せめて冒頭の俺らのこのシーンさえ終えてくれれば……!俺らのこのクソつまんねー待機も終わるのに……!」
魔王「まず、購入者には封を開けるところから始めてもらわねばな」
勇者父「予約までして未開封とかマジないわ……」
勇者父「しっかしあれだな」
魔王「なんだ」
勇者父「マジな話、俺らの出番ってーかこのゲーム、日の目を見る日が来るのかね」
魔王「日の目というより、蛍光灯だが……ま、しばらくは確実に無理な話だろうな」
勇者父「だよなー」
魔王「我らのこのゲーム以外にも、購入者は大量のゲームを積んでいるからなあ。ジャンル問わず」
勇者父「やりかけゲームもハードごとに最低三本はあるし……そんな中で、手堅い昔なつかしRPGなこのゲームがふと手に取られる可能性なんて」
魔王「せめてパッケージを女キャラの半裸絵などにしておけば……」
勇者父「それをやるにはジャンルを大幅に変えなきゃなんねーよ」
魔王「だがしかし、『これがエ○ゲだったらなー』と思った試しがないわけではないだろう?」
勇者父「えー……そりゃあるにはあるけどさあ。あのジャンルの仕事は結構キツそうじゃね?同じ二次元住民の搾乳プレイとかアヘ顔とかオークによる輪○とか、間近で見たらフィクションとわかってても多分引くわあ」
魔王「なんでお前は純愛系のエ○ゲを想像せんのだ」
勇者父「逆にお前が純愛とか言うなよ」
魔王「しかし本当に……一向に出番が見えんというのも辛いものがあるなあ」
勇者父「そうそう……よっこいせ」
魔王「あ、おいお前。何腹の剣抜いてるんだ」
勇者父「いいじゃねえか別に。ゲーム起動からこのイベントが始まるまで、だいたい数分あるんだぞ。すぐ元の待機状態に戻せるさ」
魔王「なるほど……では、私も腰を下ろすか」
勇者父「もー適当に、気楽にいこうぜー」
魔王「というか、お前」
勇者父「なんだよ」
魔王「設定では今死ぬ間際だよな?」
勇者父「そうだけど?」
魔王「その割にピンピンしておるよな」
勇者父「まあ、特に痛みとかはないからな。見た目薄汚れてるだけだし」
勇者父「全年齢対象にするためには流血描写がNGなんだと。だから剣刺さっててもあんま死にかけに見えねーんだろうな」
魔王「コンセプトに救われたな」
勇者父「全くだ。ゲームと現実の区別のつかないお子様がたんまりといるから、俺ら二次元住人の快適ライフが保証されています」
魔王「これが洋物だったら、お前多分臓物まで見えてるぞ」
勇者父「まず洋物で魔王と勇者なRPGなんざ出ねーだろ」
魔王「それもそうか」
勇者父「しかし、いくら日本のお家芸って言ってもなあ」
魔王「今日び、単発で勇者が魔王を倒す手堅いRPGなど売れるものかなあ」
勇者父「この一本は確実に売れてるけどな。ストーリーもシステムもよく言えば無難、ってところだし」
魔王「売りはせいぜい我らの声とグラフィックか」
勇者父「ふはは!俺、なんだかんだで出番でちょこちょこあるから中の人イケメン声だろー!」
魔王「私の中の人だって渋いイケメン声だ。その上こいつ洋画引っ張りだこのベテランなんだぞ。最近名前が売れてきた貴様の中の人とはわけが違うわ」
勇者父「くっ……伊達にラスボスやってねーな……!」
魔王「まあ、出番は割とあるからな」
勇者父「いやでもほら、俺勝ち組だし?」
魔王「ここでくたばるのにか?くたばった上私に操られ、四天王の一人謎の黒騎士として実子と闘わされるはめになるというのに?」
勇者父「正味、自分でもそのテンプレ設定には赤面ものだわ……ちげーよ、俺には子供がいる。つまり?」
魔王「嫁がいるから勝ち組だとでも?馬鹿馬鹿しい。それなら名もなき村人Aなども勝ち組に」
勇者父「ちなみにこれが嫁のグラフィックね?」
魔王「くたばれ」
勇者父「うんうん!正直でいいねー!」
魔王「これが一児の母グラフィックだと……?そして貴様の嫁だと……?どう見ても妹キャラだろう……」
勇者父「いやー、ロリ巨乳とか素敵じゃーん?」
魔王「イベントシーンモード故、攻撃魔法が放てる仕様でないのが憎い」
勇者父「憎め!妬め!誹れ!それらが全て我が糧となるのだ!ふはははは!」
魔王「貴様を合法的に殺れる日が待ち遠しい」
魔王「とりあえずどこぞに通報しようと思う」
勇者父「どこだよ」
魔王「うーむ……開発元か」
勇者父「手段は聞かないけどよ。それ通報になるのか?」
魔王「彼女をネタにした純愛系エ○ゲの発売を意見する」
勇者父「まっとうな全年齢ゲーム作るとこだってーの!ってか純愛こだわるなお前!」
魔王「アンケートはがきか、ネットからの投書、どちらの方が意見を採用される可能性かわ高いだろうか……」
勇者父「どっち送っても即ゴミ箱行きだし、お前は人の嫁さん捕まえて何ほざいてんだ」
魔王「魔王と一町民の純愛エ○ゲ……これは売れる!」
勇者父「てめえが出るつもりかよ!?ますます認めるか!!」
魔王「やかましい!こんなありきたりなRPGより、エ○ゲの方がまだ需要は多いはずだ!!」
勇者父「ちょっと頷きかけちまうけど!俺らがそれ言ったら元も子もねーだろうが!!」
魔王「くそっ……世の中間違っている……こんな理不尽な世の中……私が正してくれる!」
勇者父「そんな理由で立ち上がるなよ魔王。非モテ儚んで世界征服とか儚すぎるわ」
魔王「しかし私が蘇り世界征服に励み始めた理由は『恋人を亡くした腹いせ』だからなあ」
勇者父「もう少し言葉選べ……『恋人が人間のせいで死んでその敵討ち』ってやつだろうが」
魔王「いやしかし、結局のところ腹いせだろう?」
勇者父「悲しくなるからフォローさせろ!」
勇者父「ほらあれだ、お前んとこの魔物にもいい女はごまんといるだろ」
魔王「いるにはいるが……」
勇者父「なんだっけかなー名前忘れたけど、四天王紅一点の、あの美人とかさー乳も尻もいい感じじゃん?お前立場利用してあんなの食いまくりなんだろ」
魔王「お前は私をどういう目で見ているんだ。そんなゲスい所業をするものか」
勇者父「お前の職業何だよ」
魔王「雇われ魔王だ」
勇者父「んでも立場関係なくさー、身近にいい女がいることは確かじゃん?」
魔王「いるにはいるが……お前のさっき言ってた四天王紅一点の彼女」
勇者父「あ、やっぱ見た目通り性格キツい?」
魔王「性格はおっとりしていて気立てがよく、料理上手で子ども好き」
勇者父「文句ねえじゃん」
魔王「だが残念なことに男がいる」
勇者父「……は?」
勇者父「え、何それ。そんな設定あったっけ?」
魔王「設定ではなく、オフというか舞台裏でな。付き合いだして日も浅く、ラブラブだそうだ」
勇者父「寝取りとかは?」
魔王「趣味ではない」
勇者父「つくづくお前はクリーンな魔王だよな」
魔王「まあこの設定なら女遊びしまくりじゃないのか?と思った試しがないことはないが」
勇者父「ある意味男の夢だもんなー絶対忠誠の美人の部下がわんさかって」
魔王「しかもモブモンスターでも中々のグラフィックだろう?」
勇者父「ああ……あの半裸サキュバスとか最高だよな。ストーリー上俺は無理だけど、なんとか手合わせ願いたいと思ってたわ」
魔王「同志よ。あの乳グラを組んだスタッフには敬意を評する」
勇者父「いや俺は尻の食い込みが」
魔王「乳は嫁で満足だとでも言いたいのかこの外道が……!!」
勇者父「お前が外道とか言うと、俺が異常に悪いやつみたいじゃねーか」
勇者父「あーでも胸もいいよなー……あれ何カップなんだろ」
魔王「公式設定ではGカップらしいぞ」
勇者父「……なんでモブ敵の乳設定があるんだ?」
魔王「スタッフの趣味だろう」
勇者父「エ○ゲ作る日も近いかもしんねーなこりゃ」
勇者父「もしマジでエ○ゲ作られたら、俺の息子が主役でお色気冒険ものになるのかねー」
魔王「お前の息子主役とは、つまりそれはどちらの意味だ?」
勇者父「血縁的な意味に決まってんだろが。絡み方がわけわけんねーよ」
魔王「下半身に血の繋がりがないと?お前それ教会で見てもらったらどうだ、不能どころか壊死しておるのでは」
勇者父「うるせえよ!元々血液描写アウトなんだから血なんか通ってるわけねーだろが!!」
勇者「けっ、お前なんかどうせ凌辱抜きゲーの主役に大抜擢なんだろ。いいねえ悪役は」
魔王「いいかお前……魔王だからといって贅沢三昧女喰い放題だと思ったら間違っている」
勇者父「んでも『そういうゲームだ』って大義名分あればヤリ放題じゃねーの」
魔王「甘い。私はな、まだ世の真理を悟る前、サキュバスの一匹に『一晩どうだ?』とニヒルに誘ってみたことがあった」
勇者父「腹立つわー」
魔王「すると彼女は真顔でこう言った……『そういったことは業務に含まれておりません』と」
勇者父「泣け……今ならプレイヤー含め誰も見てねーから」
魔王「だからきっと業務上そういった所行が許されたとしても……!あとでオフの落差を見せつけられて死にたくなるのは必至!よって私はエ○ゲ主役など断固として拒絶する……!」
勇者「お前が拒絶したとしても、俺らは所詮雇われ二次元住民だから拒否権はねーんだけどな」
魔王「そうなったらそれはそれ。セーブが飛ぶレベルのバグなんぞを、あちこちにバラ撒きまくってやるわ」
勇者父「勇気ある会社はそれでも発売すっけどなー」
魔王「それはゲームや客に立ち向かうことを、端から放棄しているだけだ」
勇者父「あーしかし暇だー」
魔王「まあ、ひたすら座り込んで談話というのもシケた話だよな」
勇者父「しかもここ辛気くせーし暗いし」
魔王「わがまま言うな。ここは魔王の間なんだぞ。ラストダンジョン最上層部が無駄に照明効いていても困るだろう」
勇者父「照明の真下でパイプオルガン弾いて勇者待ちかまえる魔王だっているじゃねーか」
魔王「よそはよそ、うちはうちだ。贅沢言うな」
魔王「ちなみに、この部屋は勇者がやって来る時は絢爛豪華にラストバトル感満載に飾り付けられる」
勇者父「え、何。俺の場合はそんなもてなししてくんねーの」
魔王「負けると分かっているのに飾られたいのかお前」
勇者父「そりゃまあ錦を飾る的な?」
魔王「第一お前みたいに地味なキャラ、派手な背景なんぞ背負ってみろ。食われて存在感マッハで消滅するわ」
勇者父「一応俺勇者の父でメインキャラで、んでもってイケメン設定なんですけど!?」
魔王「しかし出で立ちが浮浪者」
勇者父「うるせえ!長旅の末に魔王の城までやってきて服に汚れの一つもねえ主人公パーティーが異常なんだよ!!」
魔王「どうどう。所詮イケメンでもお前は死にキャラだ。つまり時報」
勇者父「お前だって長い目で見りゃ死にキャラだろうが!」
勇者父「あーもうマジ無駄な論議」
魔王「とうとう床に寝そべるまでに」
勇者父「別にいいだろうが。どうせまだ始まんねーよ」
魔王「まあ、購入者も別のゲームにハマり初めておるようだしなあ」
勇者父「今何やってんだっけあいつ」
魔王「バーチャルな彼女といちゃつくゲームらしい」
勇者父「……前は確か女の子の体ひたすらタッチするゲームだったよな」
魔王「ますますどうして我らのゲームを買ったのだろうか」
勇者父「CDドラマだけが目当てだったのかもしんねーぞ」
勇者父「あんまよく知らねーんだけどさあ、俺ら以外の中の人って結構な豪華さなのか?」
魔王「うむ。主人公やら魔王にさらわれるヒロイン枠の姫君やら、わりと人気の女性声優ばかり起用しているぞ」
勇者父「へー無駄なところに金かけてんだなー……へ?」
魔王「どうした」
勇者父「主人公に、女性声優?」
魔王「何かおかしなことがあるか?」
勇者父「いやだって俺の息子よ?グラフィック見たけど女声似合わなくね?」
魔王「は?お前は何を言っているんだ」
勇者父「え、何その反応。お前は俺の息子の顔知らないかもしらねーけどさあ」
魔王「知っている。だがお前の息子の方は、ちゃんとイケメン声優が割り振られている。心配はいらん」
勇者父「なーんだそれなら」
魔王「女声優はお前の娘の方だな」
勇者父「え」
勇者父「……え?」
魔王「ゲームを始める前に、主人公は性別が選べただろう」
勇者父「……マジで?」
魔王「おう。と言うより、何故お前が知らん」
勇者父「だってお前正当派RPGで主人公で勇者って言ったら男だけかと思うじゃねーか!?それにテストプレイの時男の勇者だったし!!」
魔王「時間が間に合わず、男勇者のみでプレイしたのだろう」
剣士「世間のニーズ考えたら勇者一択だろ……片方でテストするなら、なんでそっちでしなかった……」
魔王「女勇者ルートで問題が発見された場合、本気で直さねばならなくなるので、敢えて目を瞑ったといったところかな」
勇者父「やっぱりこの会社死ぬわ。近々確実に」
魔王「そして勇者女のグラフィックはこんなもんだ」
勇者父「なんだこの痴女!?」
魔王「古きよきビキニ・アーマーというやつだな。ロマンだな。しかも母親譲りの巨乳で微ロリときた」
勇者父「……心なしか異常にグラフィック凝ってるよな」
魔王「お前がプレイヤーなら、どちらを選ぶ?」
勇者父「勇者女に決まってんだろが……はっ、ち、違うぞ!俺は別に娘を嫌らしい目で見ているわけではなくて一般的な男の目で」
魔王「そうだな、うん。その通りだと思う」
勇者父「汚物を見るその目をやめろ!」
魔王「いいじゃないか、どうせ他人に近い娘だ。好きに欲情するといい」
勇者父「誰が!欲情するか!!お前もそのグラフィック、とっととデータん中に戻せ!!」
魔王「ちっ……分かった分かった。ああ、せっかくむさ苦しい空間に花がきたというのに……」
勇者父「しかし娘かあ……マジあんな格好で外うろつかせたくねえ……」
魔王「装備でグラフィックが変化しないゲームなので、その望みは永劫叶わんな」
勇者父「いいや!購入者が俺らのゲームに手を出さない限り!娘の純血は守られる!」
魔王「お前このゲーム真っ当なRPGだということを忘れてはいないだろうか」
魔王「だが購入者、確実にこのゲームに手を出したら勇者は女を選ぶだろうなあ」
勇者父「ぎゃああああああ想像に難くねええええええええええ!!」
魔王「それでもって『勇者ちゃんぺろぺろ』とか言いつつプレイするのだろう」
勇者父「あああ……娘よ……無力なお父さんを許してくれ……」
魔王「HP真っ赤の勇者女をオカズにしたりとか」
勇者父「なんかまず倒すべきなのはお前じゃねーかな、と思ってしまうわ……」
勇者父「あーでも娘かー。さぞかし健気ないい子なんだろう」
魔王「会ってみたいか?」
勇者父「そりゃ会いたいけどよぉ。始まった時のために俺はここで待機してなきゃなんねーし、会いに行くのは無理だろ」
魔王「まあ、今頃勇者も自宅待機だろうし、私たちもこの場を長時間空けることは避けたい。だが、幸い、私のMPは腐るほどある。このゲーム中の魔法は全て覚えている」
勇者父「……つまり?」
魔王「ちょっくら飛んで連れてきてやろう」
勇者父「……魔王!お前ってやつは……」
魔王「正味、野郎二匹で延々同じ空間に缶詰とか死にたくなってきたところだ」
勇者父「お前娘に手出したらどうなるか分かってんだろうな」
魔王「はっ、どうなると言うのだ」
勇者父「魔王が『エ○ゲに出たいなー主役やりたいなー』とぼやいていたと、サキュバスさん辺りにそっと告げ口する」
魔王「やめろ!ますます職場での視線が冷たくなるだろうが!!」