勇者父「積みゲーするなら買うな」 4/4

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姫「そういった脅迫も受けてはおりませんよ?」

勇者父「まあ、設定通り可愛らしいお嬢さんだもんなー。弱みとかあるわけないか」

姫「あらお上手なんですから」

勇者「なんでこんな変質者がリア充なの……」

魔王「僻みが喜ばしいので聞き流しておいてやろうか。と、いうわけで帰ろうか、姫」

姫「はい?いえ、でももう少し勇者様方とお話してみたいです。女性の勇者様には私初めてお会いしますし」

勇者「そ、そうだよ。私だって家で引きこもってばっかだったから、お母さん以外の女の子と話すの初めてなんだよ!?」

勇者父「リアルで泣けるわー……おい魔王、どうせ購入者まだまだゲーム始める気なさそうなんだし、別にいいじゃねえか」

魔王「ぐっ……し、しかし姫も用事が」

姫「いえ別に。どうせ私登場の三話まではモブ声でしか出番がありませんし。いい息抜きです」

魔王「いやあの、そういうわけにも」

勇者父「お姫さんと俺らが喋ってたら何か不都合あるのかよ」

魔王「あ……るわけないだろう」

勇者父「よっしゃ痛い腹探ってやんよ!いけ!娘!」

魔王「貴様ぁぁあああ!!」

勇者「い、いけって言われても……えーっと、初めましてー」

姫「はい、初めまして」

姫「勇者様、なんですよね?」

勇者「え、う、うん」

姫「大変ですね……女の子なのに、厳しい旅に出なければならないだなんて……」

勇者「そ、そんなことないよ。戦えばそのうちレベルも上がって楽になるだろうし」

姫「ですが過酷なことには違いないでしょう」

勇者「ま、まあそうかもだけど」

姫「ああ……できることなら私が代わって差し上げたいものです……」

勇者「え、そ、その!泣かないで!?大丈夫だからね!」

勇者「お父さんお父さん!この子すっごくいい子だよ!」

勇者父「うん、見りゃ分かる」

魔王「ふ、ふはは……それ見たことか。我が姫に弱点などあろうはずもない」

勇者父「お前は黙ってろ。息もすんな」

勇者「とっととMP切らして私刑にさせなさい」

魔王「はっ、非リアどものさえずりが耳に心地よいわ!」

姫「こらこら喧嘩をなさらないの」

魔王「む……」

姫「まったく、あなたもあなたですよ。私をいきなり呼び出したりして」

魔王「あ……あーそれは……うむ、すまん」

姫「私はかまいませんが、勇者様方に迷惑をかけてはいませんよね?」

魔王「勇者どもに迷惑をかけてこそ魔王だと思うのだが……ああ、程良く仲良くやっている」

姫「もう、だったらいいのですけど。あなたは妙に人をからかう癖がありますし」

魔王「き、気をつける……」

姫「本当に、お気をつけくださいね」

勇者「うわああああああああリア充だよおおおお過度にイチャつかない代わりに絆の深さが浮き彫りのリア充だよおおおおお」

勇者父「落ちつけ、落ちつけっての頼むから。まあアレがほのぼのと幸せ満喫してるとか、途中で脱落する主力キャラよりぶっ殺したくなるよな」

勇者「うん。ゲーム中でフルボッコにできる日が待ち遠しくなったよ」

勇者父「俺の分まで……頼んだぞ娘」

勇者「もちろんだよ!」

魔王「負の方向に意気投合するな、そこのバカ親子ども」

勇者父「でもお姫さん、こいつろくな奴じゃねーぞ?付き合っていけるのか?」

姫「あら、魔王ですもの。ろくな方ではないことくらい、百も承知です」

魔王「お、おう……釈然としないがまあ」

勇者父「お姫さん以外にも、サキュバスとか色々口説いてるみたいだけど」

姫「……あら、そうなんですの?」

魔王「は……はは、何のことだか」

勇者父「あと俺の娘にセクハラしてたぞさっき。娘よ、証拠出せ」

勇者「あ、あったよー会話ログ。便利だよねえ今どきのRPGって」

姫「あらあら、まあ……」

魔王「貴様!今すぐここでキャラクターデータごと消し去って」

姫「魔王様」

魔王「すみませんでした」

勇者父「おー修羅場だ修羅場だ」

勇者「のっかった私が言うのもなんだけどさ、ちょっと可哀想かも……」

勇者父「いいだろ別に。それにほら、あの縮み上がってる魔王見てみろ」

勇者「心が安らぐね!」

勇者父「だろー?でもあのお姫さんのことだし、ちょーっと叱って終」

姫「おいお前……あたし一筋だ、って前に言ったよな?」

魔王「はい言いました」

姫「だったらこのログ何だこれ。あ?説明しろ」

魔王「出来心でその、昔、ちょーっと口説いた女の話をしました」

姫「どんな女だ」

魔王「いや、もうその話は」

姫「どんな女だ、っつってんだけど?」

魔王「雑魚キャラのサキュバスです。しかもあっけなくフラれました。だから全くの未遂というか誤解で」

姫「女とよろしくヤろうと一瞬でも思った時点で誤解もクソもあるかボケェっ!」

魔王「ひぃいい!」

勇者「……何あれ」

勇者父「……いや、俺にも何がなんだか」

魔王「お、おい姫!本性バレてる!バレてるからもうやめよう!なっ!?」

姫「黙れこの××カス野郎!ちょうど猫被りも飽きてきたからこれでいいんだよ!!」

魔王「開き直るの早いぞ!?折角私がボロの出ぬ内に城に帰してやろうとしたのに……!」

姫「浮気かましといて恩着せがましい物言いすんじゃねえ!どうせそこの勇者ちゃんも食い物にするつもりだったんだろ!頭のいらねえ職業だからって下半身オンリーで物事考えてんじゃねーよ去勢されてえのかゴミ!性欲持て余してんなら川原にでも行って清掃活動に励んで来いや!!あたしと人様の迷惑考えろ!!」

魔王「すみませんでした。私がすべて悪かったです」

勇者「あ、ついに無言の土下座を始めたよ」

勇者父「折れるの早かったなーってか、あの。お姫さん」

姫「何だよ」

勇者父「そっちがオフのしゃべり方?」

姫「あーそうそれ」

姫「いやー正味、あのテンプレお嬢様口調しんどいんだよねー。キャラが崩れるからあんま外ではしねーようにしてるけど」

勇者「で、でも魔王を圧倒するあの迫力はすごいよ!見習いたいもん!」

姫「お、おお。ありがとう。でもあたしメインつっても仲間になんねーキャラだからなーいくら迫力あっても無駄っちゃー無駄なんで」

勇者「仲間になっていたらラスボスなんかワンパンで沈むだろうに……もったいない!」

魔王「ちなみに、こいつの中の人は完全自由人でな、ブログやTwitterでブチ切れ発言かましてよく炎上させるんだ……」

勇者「そんなところから性格由来せんでも……」

姫「まーそんなわけだからよろしくー。どうせオフなんだし自由にいこうや」

勇者父「あんたは自由すぎると思うんだけどな」

姫「そうかぁ?でも自由っても、あんたたちと違って、あたしにはできないことが山ほどあるんだぜ」

勇者「……戦うこととか?」

姫「そうそれ」

姫「あーあたしも戦闘キャラだったらなー。全力でこいつ叩きのめすことができたってのに」

魔王「すでに精神的に弱りきっているので、ご勘弁願いたい」

勇者「え、何、今MP尽きちゃってるの?タコ殴りにしていい?」

勇者父「くくく……ようやくこの、魔王様より託された宝剣を使う時が来たか」

魔王「断じて来とらん。何でお前たちは私を殺すことに全力なんだ」

姫「あーダメダメ。こいつ殺っていいのはあたしだけだから」

魔王「ちょっと待て、お前はまたそんな」

姫「お前って……誰に言ってんだ?」

魔王「すみません姫様調子に乗りました」

姫「よろしい」

勇者(今のノロケだよね)

勇者父(ああ……どのみちリア充には変わりねえ)

姫「いやほんと、いろんな意味で勇者ちゃんみたいなポジションは憧れる訳よ」

勇者「うーん……でもあんまりいいことなんかないよ?」

姫「まあ、主役なんだし大変なことも多いと思うし、下手にうらやましいとか言っちゃいけないんだろうけどさ」

勇者「ううん、その辺りは気にしないで!」

勇者「私テストプレイで選ばれなかったからさー……結局主人公ってどんなことをするのか、いまいちわかんないままなんだよね」

姫「ああ、そういやそうだね」

魔王「主人公か……例えばどんな苦行があるだろう?」

勇者父「えーっと、メインの苦行は私生活四六時中監視される延々放浪の旅?」

魔王「あとあれか、ムービーをスキップされてテンポ狂わされたり、ポーズ画面でずっと放置されたり、カメラ操作などで下着確認されたりと、プレイヤーの好きに弄ばれる苦行か」

勇者父「あー……さっきみたいな女主人公のみのエ○イベントってまだあるの?」

魔王「ああ。確か温泉シーンに中ボスの粘液まみれにされるシーン、触手に捕らわれるシーン、手頃な大きさの黒ナマコを口に突っ込まれるシーンなどなど」

勇者父「何が全年齢対象ゲームだよ!?」

姫「お前ら無駄に煽ってんじゃねーよ!!」

勇者「っていうか地味に初耳なんだけど……」

勇者「ピンチになるシーンが多いのは主人公だからだよねー……って台本読んだ時は気楽に構えていたのに……私そんな汚れ役だったんだね……はは……デリートされたい」

姫「い、いやほら!旅に出れるってそれだけでいいじゃん!あたしなんかずーっとどっかに閉じこめられてるシーンばっかだし!お前らもなんか慰めろ!!」

勇者父「大丈夫だぞ娘よ。俺が中ボスとしてたまに会いに行ってやるからな。手加減はできねーから、レベルしっかり上げてないと二三回死ぬと思うけど」

魔王「私はそうだな……終盤になるまで直接顔を合わせることがないので……遠くからその痴態を拝んでおこう」

姫「おっさんは黙れ。魔王はのたうち回って死ね」

魔王「冗談。冗談です姫様」

勇者「うう……やっぱり私もサブキャラがよかったよ」

勇者父「あー『ずっと寝てる村人A』がよかったとか言ってたな」

姫「えー……でもアレはアレで辛そうじゃね?ずっと同じ体勢、同じ台詞ってあたしなら発狂しかねーわ」

魔王「まあ、勇者がワープ魔法覚えてからはいつ村に来るか分からんし、スタンバイする村人は村人で苦労するだろうなあ」

勇者「一生お布団に潜っていられるならもうそれでもよかったのに……!」

姫「まあゲーム始まったら面倒なのは仕方ないさ……こればっかりは実際問題誰も代わってやれないし」

勇者「うう……主人公なんて不幸すぎる」

姫「でもストーリー上死なないだけマシじゃん?あたしなんて何度も誘拐されたり救出されたりで、最後は魔王に殺される鬱ヒロインなんだぜー」

魔王「まあ私もすぐその後ラスボス戦で殺されるから、お互い様というわけで」

勇者父「俺なんか死んでるのにもう一回死ぬとか。割に合わねえわ」

勇者「慰めが重いよ!?」

勇者「でも実際死ぬわけじゃないんだし……みんな裏で楽しそうにやっててうらやましいんだもん」

姫「あれ、勇者ちゃんはオフ充実してねーの?」

勇者「待機で……部屋で寝てるだけだよ」

姫「え、何それもったいない!」

姫「ダメじゃねーか勇者ちゃん。オンオフはっきり分けて、せめてどっちか片方だけでも充実させとかねーと。割に合わねーよこんな仕事」

勇者「そ、そうかな」

姫「ああ、あたしが保証する!」

魔王「お前が言うと、少し言い過ぎの気がせんでもないが……」

勇者父「うーん、まあでもその通りかもなあ」

勇者「お、お父さんまで」

勇者父「俺はこんなとこで死ぬし、道中お前の敵として出てくる」

勇者「う、うん」

勇者父「でもそれ以外の時は……なんつーか、仲良し親子みたいなことやってみたいわけよ」

勇者「……」

勇者父「主役ってのはやっぱ辛いことも多いと思う。だからお前にも、『主役以外の時間』を持ってもらいたいんだ。寝てるだけじゃなくて、なんだ、好きな奴と一緒に過ごすとかさあ」

勇者「……うん」

勇者父「まあそれは俺的に、甚だ不本意な話ではあるんだけどな……」

姫「そこは譲れよダメ親父」

魔王「娘の恋人をいびって、娘当人から嫌われるパターンだな」

勇者父「やかましいぞそこの外野ども!」

勇者「分かった!私、もっとオフ充してみるよ!」

勇者父「そうか……正直布団に潜ったままでヒキってくれてた方が、視覚的にも優しかったんだけどな」

魔王「やはり性的な目で見ていたんじゃないか」

勇者「細かいことは気にすんな」

姫「あー……男はみんなこれだもんな。で、どうするのさ勇者ちゃん。勇ましく立ち上がった次にすることは?」

勇者「決まってるよ!うちに帰るの!」

姫「それで?」

勇者「お母さんに会って、ちゃんと言う!」

勇者父「おー……なんだか早速ほのぼのな予感」

勇者「『一人の女性として好きです!!』って!!」

勇者父「…………は?」

勇者父「あ、あの、勇者さん?あなたの好きな人ってもしかして?」

勇者「お、お母さんだよ……やだもう決まってるじゃない」

勇者父「何が!どう!決まってるって!?」

勇者「お父さんは知らないだろうけどね!お母さんの笑顔はそりゃもう超可愛くって、間近で見ると食べちゃいたいくらいで……!それを我慢するためにも私はお布団にヒキっていたのです!」

勇者父「やっぱお前見た目通りの痴女じゃねーか!!」

魔王「まあ、接点あるのは母親だけと言っていたしな。自ずと好きな相手など分かるだろうに」

姫「所詮ここゲームだし?設定上の身分とか血縁関係とか性別って、あんま意味ないよな確かに」

勇者父「いやだがしかし!嫁がお前の気持ちを受け入れると決まった訳じゃ……!!」

勇者「私とお母さんはずっと家で仲良く暮らしてきたんだよ!一線を越えてラブラブになるのは当然のこと!」

勇者父「親子関係は恋人になる下地にならねーよ!?ってかこらどこに行く!」

勇者「というわけで、お家に帰してください魔王」

魔王「ああ、いいぞ。帰って好きにやってこい」

勇者父「ええいなら俺も送れ!娘に嫁寝取られるとかどのユーザーにも受けねえよ!断固として阻止する!!」

姫「おー見事なまでに見苦しいなあ……さすが死にキャラ」

魔王「もういいからお前らまとめて行ってこい……」

勇者「負けないんだからねお父さん!」

勇者父「おう!こっちの台詞だ!」

少し後――

姫「で、この結果か」

勇者「……ううううううううう」

勇者父「……クソがああああああ」

魔王「見事なまでに撃沈して帰ってくるとはな」

姫「ちょっと焚きつけた責任を感じる……」

魔王「姫が気に病む必要はない。所詮こいつらの家庭の事情だ」

勇者「……あ、あんまりだよこんなの」

勇者父「ああ……まったくだ」

魔王「まさかもう一方の勇者に、とうの昔に寝取られ済みだったとは」

姫「昼ドラも真っ青だよ」

魔王「まあしかしあとの旦那と娘がこんな調子では……」

姫「手近な男にコロッといっちゃう気が分からんでもないってか。お前も手近な女に手ぇ出すんじゃねえぞ」

魔王「流石にまだ余生を楽しみたいので遠慮したいところだな」

勇者父「くそ……嫁が庇ったりしなきゃあんなレベル1、さくっと始末できたってのに……」

勇者「失恋も痛いけど、あれだけ暴れたらもう家に帰るの気まずいよー……どうしよう……」

姫「ま、まあ二人とも元気出そうぜ」

魔王「そうだぞ。もう購入者の奴、このゲームの存在をすっかり忘れておる。このままだと中古屋に売り飛ばされでもしない限り、永遠に出番は皆無だろうな」

勇者父「なっ……それはそれで」

勇者「困る……よね」

魔王「は?」

勇者父「購入者の嗜好を見る限り、どうせ主人公に選ばれるのはお前だ。つまり」

勇者「あの泥棒勇者は永遠に裏方行き……それにゲームが始まれば、家に帰る大義名分ができる……お母さんに会える!」

勇者父「俺も腹に剣刺さったままの待機が終わるし、割と自由に動ける……つまり」

勇者「早くゲームを始めろ購入者ー!!」

勇者父「そんでもってせめて主人公選んですぐセーブしろー!!」

勇者「エ○ゲばっかやってんじゃないわよこの童貞!!」

勇者父「少年だった頃のまっとうな心を思い出せー!!」

魔王「えーっと……放っておくか」

姫「なんかよく分かんないけど、とりあえずもうしばらくここにいていいか?」

魔王「ああ、好きにしてくれ。折角久しぶりに会えたんだ。少し話そう」

姫「……ばーか」

勇者・勇者父「あとリア充どもを抹殺できるゲームを早く出してください開発元!!」

【終】

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