魔王「いい魔王」 2/5

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少年ズ「お姉ちゃん!」

少女「あ、足首が…」

少年A「血、出てるよ」

魔王「ふん…」

スライム「……」

魔王「何をしている、行くぞ」

スライム「魔王さま」

魔王「なんだ」

スライム「先のは酷いと思います」

魔王「何の話だ」

スライム「さっきの人間の女の子、怪我してました」

魔王「だからなんだ。我の道を塞ぐ不届きもの、その場で殺してないだけマシだ」

スライム「でも……うーん……魔王さま、良い魔王って言ったのに。あんなことしたら、ボクのこと虐めた人間たちと変わらないです」

魔王「…我に【悪い】というのか」

スライム「…!」ゾクッ

スライム「で、でも……」

スライム「あ、あんな、ことしたら、……【良い魔王】じゃないと思います!」

魔王「……」スッ

スライム「ひっ!」ブルブル

魔王「…」ホイミ

少女「うぅ……あ、あれ?もう痛くない?」

魔王「これで良いだろ。行くぞ」

スライム「……?」

少女「どうして…あ、ちょっと!」

少年A「お姉ちゃん、もう大丈夫?」

少年B「あ、怪我なくなってる。血ももう流れない」

少女「……」

スライム「魔王さま、さっきのってなんですか?」

魔王「魔法だ」

スライム「【魔法】?」

魔王「魔王と、選ばれしごく一部の存在しか使えない力だ」

魔王「さっきのは回復の魔法だ」

スライム「あの人間の怪我を治してくれたんですか」

魔王「汝が言ったろ。あの人間を怪我させたら【悪い魔王】と」

魔王「我は【良い魔王】になるのだ。こんなところで汚点を残すつもりはない」

スライム「……」

魔王「汝は元からここに住んでいたのか」

スライム「住む?」

魔王「……」

スライム「…ボク、判らない。目覺めたらここに居て、いきなりさっきの奴らが虐めてきて…」

魔王「生まれたばかりなのか。スライムなら自然発生しやすいからな」

スライム「ごめんなさい」

魔王「謝る必要はない。しかし、となるとこれからどこかに城を作らないといかないな」

スライム「お城?」

魔王「うむ、魔王城だ」

魔王「いや、さすがに部下がスライム一匹じゃ大したものはつくれないな。せいぜい臨時基地と言ったところだ」

スライム「でも、どうやって造るのですか」

魔王「ふっ、我の力を見るが良い」スッ

スライム「あ!森の木たちが斬られていく!」

魔王「まぁ、こんなものだ」

スライム「森の木であっという間に丸太の家が…」

魔王「暫くはこれで我慢するとしよう。入るぞ」

スライム「はい」ピョンピョン

家の中 居間

スライム「おお!!」キラキラ

魔王「材料が木しかなかったから取り敢えず木製のテーブルと椅子ぐらいしか置いてないが」

スライム「すごいです!魔王さま、すごいです!」

魔王「ふ、ふふん、褒めても何も出ぬぞ」ニヤニヤ

魔王「それに、まだまだ始まったばかりだ」

スライム「まだあるんですか」

部屋

魔王「一変何も居ないこの部屋だが…」

スライム「何もないですね」

魔王「見てろ」スッ

スライム「おお、部屋の床に変な紋様が……」

魔王「転送」ウィーン

スライム「おおお!」キラキラ

魔王「我の元の世界にいた頃の部屋のものたちをここに持ってきた」

スライム「すごいです!あ、これなんかふかふかします」布団の上でピョンピョン

魔王「おい、我の布団の上ではしゃぐんじゃない」

スライム「この色んな色してる水入った瓶ってなんですか」

魔王「水ではない。我が趣味で作っているポーションだ」

スライム「ぽーしょん?」

魔王「魔法の力が入った薬だ。飲めばさっきのように回復できる薬から、状態異常回復出来る薬、投げたら爆発する薬とか色んなものが造れる」

スライム「ああ、これなんかボクと同じ色だ。美味しそう」キイテナイ

魔王「間違ってでも呑んだりするんじゃないぞ」

スライム「…ん?」ゴクゴク

魔王「おい!」

ボーン!

スライム「けほっ!けほっ!」真っ黒

魔王「……」

魔王「お前この部屋に入るの禁止な」

スライム「えー!そんなー」

魔王「また飲んだりしたら偉いことになるからな」

スライム「もう飲みませんから!せめてベッドで一緒に寝かせてください」

魔王「うるさい。お前なんか床で寝て十分だろ」

スライム「うぅぅ…」シクシク

魔王「…あ、素が出ちゃった」

スライム「?」

魔王「コイツはあまり差を感じないようだが…」

魔王「まあ、いいや。なんか面倒くさくなってきたし」

魔王「取り敢えず、今日はもう日が暮れたから寝るぞ。お前はそこで適当に寝てろ」

スライム「ガーン」

人間の村、教会

少女「今日のアイツは一体なんだったんだろう。この村の人ではなさそうだったし」ガチャガチャ

少年A「お姉ちゃん」

少年B「ご飯まだー」

少女「はい、はい、今行きますよ」

少女「それはそうとお前たち、あたしは森で薬草を採ってきたさいと言ったはずだけど、明らかに森の奥まで入ってたよね」

少年ズ「ギクッ」

少女「サボる気満々だったよね」

少年A「うっ…Bがサボろうって言ったんだ」

少年B「あ、お前!」

少女「どっちも一緒よ」ゴン ゴン

少年ズ「いて!」

少女「まったく」

神父「少女」

少女「あ、神父さま」

少女「他の子たちはもう寝ました」

神父「そうですか」

神父「今日は坊主たちが仕事をせず森に行っていたと」

少女「すみません。あたしがちゃんと監督してなかったせいで…」

神父「子供の習性というものです。仕方のないことです」

神父「に比べると、少女はもうちょっと遊びまわる年だと思いますけどね」

少女「あ、神父さま、実は今日森で変な人に会ったのですけど…」

神父「変な人…?」

少女説明中

神父「……」

少女「不思議ですよね。手を伸ばしただけで傷が治るって…」

神父「…少女、明日から子供たちにあの森に近づかないように言っておいてください。もちろんあなたもですよ」

少女「え、いきなりどうしてですか?」

神父「貴女が言っていたその者、危険な存在かもしれません」

少女「…わかりました」

少女(ちょっとおかしな人ではあったけど、危なげな人には見えなかったけどな…)

翌日

魔王の家

魔王「第一回【良い魔王】になろうの会を始める」

スライム「わーい」ピョンピョン

魔王「まず、良い魔王とは何か、それからしっかりしなければならない」

魔王「魔王とは元々多くの魔物たちを司る存在と言って魔王と呼ばれた。だからこそ魔王にはどの魔物よりも強くなければならない」

魔王「だが、それは基本的な条件でしかないのだ」

魔王「【良い魔王】という更なる高みを目指すには何をすればいいか。それを考えなければならない」

スライム「はい」ピョン

魔王「よし、スライム、言ってみろ」

スライム「良い魔王なら良い事をすると思います」

魔王「ふむ、それは具体的にどんなものだ?」

スライム「例えば、昨日魔王さまがやったように傷ついた人を癒してあげるとか」

魔王「ふむ」

スライム「後は…困ってるところを助けてくれたらいい魔王になれると思います」

魔王「…なんか地味だよな」

スライム「?」

魔王「魔王ならもっとこう…大きくでないといけないと思うんだがな」

スライム「魔王さまそんなに大きくないですし」

魔王「体躯のことではない!」プヨ

スライム「いた」

魔王「…」

スライム「ひぅー」シクシク

魔王「…わるい、痛かったか?」オロオロ

魔王「ごほん!とにかく、我は動き回ることは嫌いだ。魔王なら、そういうことは部下たちに任せて、自分は統率だけしていればいいんだ」

スライム「部下ってボクのことですか?」

魔王「そうだ。だからお前が外で困ってる奴らが居たら我に伝えろ」

スライム「で、でも、ボク昨日みたいに虐められたりしたら嫌です」

魔王「狼狽えるな。我の部下であるなら勇ましく進むのだ!」

スライム「無理ですー」ブルブル

コンコン

魔王「?」

魔王「誰だ。昨日建てたばかりの家の門を叩くとは」ガチャ

少女「あ」

魔王「…貴様は」

少女「やっぱり、お前の家だったんだ」

魔王「分かって尚この門を叩いたというのか。いい度胸しているな」

少女「あのさ、ちょっと入れさせてくれない」

魔王「何故我が貴様などを家に上がらせなければならぬ」

少女「聞きたいことがあるの」

魔王「……何だ」

少女「ね、お前って悪い奴なの?」

魔王「…は?」

少女「今日神父さまが村の人たち集めて言ったのよ。森に危険な奴が現れたから、子供たちがそっちに遊びにいけないようにしてって」

少女「昨夜あたしがお前のこと話たら神父さま顔色悪くなってたし」

少女「お前何者なの?」

魔王「我は魔王だ」

少女「魔王?なにそれ」

魔王「魔王は……えっと……」

少女「…」

魔王「偉くて良い奴だ」

少女「……」

魔王「なんか言えよ」

スライム「魔王さま、誰ですか?」ひょこ

少女「あ、昨日の変なのだ」

スライム「ひっ!」

魔王「我の眷属にへんなの呼ばわりするな」

少女「だって変だもん。ぷよぷよしてるし、喋るし…ねえ、ちょっと触ってみていい?」

スライム「い、いやだ」ブルブル

少女「昨日はうちの子たちが虐めてごめんなさい」

少女「怖かったよね」ペコッ

スライム「…え?」

少女「許してくれる?」

スライム「あ、の……うん…」

少女「あはっ、冷たくて気持ちいい」なでなで

スライム「うーん」

魔王「嫌がってるだろ、やめろ」

少女「え、嫌だったの?」

スライム「ふえ?い、いえ、別に…」

少女「本人がいいって言ってるじゃん」

魔王「ええい、一体貴様は何しに来たのだ!」

少女「あ、そうだった。でもお前結局悪い奴なの、どうなの?」

魔王「我はいい魔王と言っているだろ!」

少女「じゃあ、悪い奴じゃないと」なでなで

魔王「当たり前だ。悪い魔王なんかなって何になるというのだ」

少女「…じゃあ、いっか」

魔王「は?」

少女「お前ここで住むの?」

魔王「あ、まあ、暫くはな」

少女「そっか。じゃああたし帰るから」

少女「スライムちゃん、またね」

魔王「…なんだったんだ」

スライム「…」

スライム「……」ジー

魔王「…なんだ、お前。なんでさっきからそんなじっと見てるんだ」

スライム「…魔王さま」

魔王「何だ、早く言え」

スライム「ボクの頭撫でてくれませんか」

魔王「は?」

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