スライム「少女さん…あなたは…」
少女「小さい時から、他の子供たちよりもずっと力が強かった。それが大きくなるとどんどん増して…」
少女「他の人たちに知られたら怖がられると思って隠していた」
スライム「…そうだったのですか」
少女「…行こう、魔王を助けに」
スライム「宜しいのですか?下手すれば、あなたも殺されるかもしれません」
少女「それでも、魔王を助けに行く。アイツが【悪い魔王】でないことはあたしが一番良く知っているつもりだから」
少女「あたしが証明してやる」
スライム「……分かりました。一緒に行きましょう」
一方、魔王
魔王「…起きてみればなんか回りが暗い」
魔王「手脚も縛られてるみたいだし」
魔王「このまま解いて出ていっても良いけど」
魔王「どんな礼儀知らずな奴がこんなことを仕掛けたのか見ておくためにも、もう少し黙っているか」
魔王「まぁ…大体見当はつくけどな」
魔王「…止まった…か?」
??「袋を開けろ」
魔王「うおっ、眩しい」
??「…お前が魔王を名乗る奴か」
魔王「貴様は誰だ。何故我をここに連れてきた」
??「私は神に仕える使者、教会の頂点である教皇だ」
魔王(うわ、宗教裁判だ、これ)
魔王「で、最近の教会では人の拉致とかもするのか?」
教皇「もう一度とおう、汝が魔王か」
魔王「だとすれば何だ」
教皇「…この者を捕縛しろ」
魔王(えぇ…)
衛兵ズ「神妙にしろ」
魔王「これ食らって寝てろ」ブシュッ
衛兵ズ「うっ!」
教皇「…!呪いか」
魔王「ただの眠り薬だ。貴様らが使うと聖水で我が使うと呪いの毒かよ」
教皇「貴様は人間を苦しめる存在だ。ここで排除しなければならない。既に教会の外にも百以上の兵士と魔導師たちが集まっている」
魔王「貴様らが我をどう言うかは我は構わん。我はただ良い魔王になろうとしているだけだ」
教皇「おとなしく捕まれ。でないと貴様を隠していた村の人々を皆殺しにする」
魔王「っ!!」
魔王「…貴様、それでも人間か」
教皇「大のために小を犠牲にするまで…」
魔王(…村の人たちを巻き込むわけには…取り敢えず捕まるしかないか)
魔王「好きにしろ」
教皇「この魔王を牢に入れろ。明日首都の広場で火刑を行う」
牢屋
魔王「脆いな、牢屋」
魔王「今すぐにでもぶち壊したいぐらい脆い」
魔王「でもこれを壊したら村の人たちが…」
魔王「…少女も……」
看守「ふごぉ!い…きが…」バタン
魔王「ん?」
スライム「魔王さま」スライム状態
魔王「スライム!」
スライム「直ぐにここから出します」
魔王「お前、どうやってここが分かったんだ」
スライム「少女さんが教えてくれました。一緒に来ています」
魔王「!」
教皇「魔王が居た村の代表?
少女「はい、村長の代わりにあたしが来ました。魔王を放して欲しいんです」
少女「魔王はあたしたちの村のために色んなことをしてくれました。決して悪い人じゃありません。ですから…」
教皇「…あなたの話は神父から聞いています。人並み以上の力を持った人間とか」
少女「…!」
教皇「教会の伝説によると、魔王と倒すのは選ばれし勇者でしか出来ないといいます」
教皇「あなたがその【勇者】なのかもしれませんね」
少女「勇者…あたしが?」
教皇「あなたが勇者としてあの魔王を倒すなら、我ら教会はあなたの名を全ての人々に広めましょう」
教皇「そしたらあなたはこの国の王以上に人々に愛される存在になれます」
少女「……」
教皇「さあ、少女、いや、勇者、あなたの使命を果たしてください」
少女「……あの魔王は【良い魔王】です」
少女「例えあなたが言う通りに魔王を倒すのがあたしの使命だとしても、あたしは魔王を倒すことは出来ない」
教皇「そうか…残念ですね」
教皇「では私は、教会の名の元に、魔王を隠していたあなたと村の人々を処罰しなければなりません」
少女「そんな!」
教皇「魔王は邪悪な存在でなければなりません」
教皇「人を女神という良い存在に従わせるために……」
魔王「じゃあ、悪はお前がやれ。我は引退するよ」
教皇「なに…うごぉ」
スライム「魔王さまを殺そうとした罰です」教皇の頭を包む
教皇「い、息が……神よ…うっ」
魔王「あぁ、これだから神は…なんでこんあ狂信者量産するかな」
スライム「早く村に戻りましょう」
魔王「そうだな…なんか教会の兵が村を包囲してるらしいし」
少女「あ、それなら心配ないよ」
魔王「え?」
スライム「来てる途中それらしき連中が居たので倒しておきました」
魔王「」
少女「ちなみに神父さまも殺っちゃった」
魔王「お前ら…」
魔王「そこまでやらかしたのなら、もう一つ、行くべきところがある」
城
国王「なっ、教皇が死んだだと」
大臣「はい、何も床で溺れ死んでいたとか。口の中に水ではない液体が沢山詰まっていたそうです」
国王「なんということだ…こんな時期に教皇が死んだとなると軍の士気が…」
>>何者だ!
>>はい、はい、退いた、退いた。
>>うぉっ!
国王「な、何の騒ぎだ」
魔王「お前が人間の王か。初めてあって早速悪いが聞きたいことがある」
魔王「なんか最近戦争とかやってるそうじゃないか。重税のせいで人々も悲鳴を上げてるというのに」
魔王「一体どこの国と喧嘩してるんだ」
国王「…我々が戦っているのは他の国ではない」
少女「じゃあ、誰なんですか」
国王「魔物だ」
魔王「…!」
国王「一年ぐらい前、人が住まない荒野に城が一つ出現、その城が現れた以来、そこからどんどん人間ではない怪物たちが現れている」
国王「各地から兵を集めて対応しているが、奴らが人間の領地まで来るのも時間の問題だろう」
魔王「魔物が…?」
魔王(我は何もしていない。となると…嫌な予感がする)
魔王「ちょっとその城というものに行ってみる必要があるな」
少女「城って?」
魔王「多分、魔王城だろう。どっかの魔王が自分の城ごとこの世界に来たのだ」
スライム「他の魔王ですか?」
魔王「…この世界を自分のものにしようとしているのだろう」
少女「じゃあ、どうするの?」
魔王「取り敢えず、様子を見てくる。お前たちはここで待っていろ」
スライム「一人では危険です。一緒に…」
魔王「すぐに戻ってくる。お前たちが居ると無駄に魔力だけ消耗するまでだ
魔王「普通の人間や魔物ならまだしも、魔王が相手だと二人では歯がたたない」
魔王(それは我も一緒だが…)
スライム「…分かりました」
少女「気をつけてね」
魔王「ああ」スッ
魔王 スッ
魔王「立派なお城だな…我も出来ればこんな所に住みたかった」
魔物「!曲者!」
魔王「あぁん?」ギロッ
魔物「ひっ!」
魔王「何お前、その爪我に向けて立ててるのか?」
魔物「はっ、い、いえ、これは…申し訳ありません」
魔王「ったく…一体どの魔王だ。こんなことをしたのは…」
大魔王「余だ」
魔王「…え?」
魔王(だ、だだだ大魔王…さま?)
魔王「な、な何故」
大魔王「貴様の様子を見に来たのだが、やはり貴様は出来損ないだったようだ」
大魔王「この世界に来て何年も経つのに、この世界にはろくな魔物もない」
大魔王「人々が苦しみ、恐怖を知れば、魔物は自然と増えていくもの。なのに、貴様は魔王としての業務を怠った」
大魔王「貴様は【良い魔王】ではない」
魔王「……!」
魔王(やはり…そうだったのか。薄々感じていた)
魔王(【良い魔王】とは、つまり【悪い魔王】が良い魔王だったのだ)
魔王(そして、魔王たちの目からすれば、我は【悪い魔王】だ)
大魔王「この世界は我が支配する。貴様は約束どおり消えてもらおう」
魔王(だが逆に考えてみると…大魔王はこの世界が平和だったと言っていたのだ)
魔王(それはつまり、我は我が目指していた【良い魔王】の任務をちゃんと行なっていたというわけではないか)
魔王(それを壊させたくない。大魔王がなんだ。我の世界だ)
『魔王たるもの、自分が選んだ道を貫くための力を持ってなければ駄目ってこと』
魔王(女魔王の言った通りだ。我は強くなければならない。我の世界をこの大魔王に渡しはしない!)
魔王「こ、ここは我の世界だ。ベタに手を出すことは控えてもらおう」
大魔王「…ほう?」
魔王「わ、我には我の計画があるのだ。この世界に魔王は二つも要らない。最初に我とした約束を果たしてもらおう」
大魔王「随分と良い度胸しているではないか」
大魔王「ここに来て数年、貴様がこの世界に来て魔王として何をやった」
魔王「色んなこと…しかし、それが結果を出すにはもう少し時間がかかる」
魔王「そして、その結果を出すために大魔王、汝にはこの世界を去ってもらおう」
大魔王「我は既に汝を殺すと心を決めた。何故汝に更にチャンスを与えねばならない」
魔王「一週間だ」
大魔王「…!」
魔王「一週間で、この世界を我の支配下に入れて見せよう」
大魔王「……面白い」
魔王「何も持たぬ雛魔王が、たった一週間で人間の大国を制覇し支配できると?」
魔王「いかにも」
大魔王「…良いだろう。汝の言う通りに一週間だけ時間をやる。連れてきた魔物も消そう」
大魔王「しかし、一週間が過ぎても何にも変わらないのなら」
魔王「その時はこの世界も我の命も好きにすれば良い」
魔王「」スッ
スライム「魔王さま!大丈夫ですか」
少女「魔王」
魔王「…大魔王だった」
スラ・女「…え?」
魔王「この世界に降りてきた魔王は大魔王だった」
スライム「大魔王ということは…魔王さまよりも偉い魔王なんですか」
魔王「多分、魔王の中でも最強だ」
少女「そんな奴に目をつけられたの?この世界」
魔王「我のせいだ…我がアイツと【良い魔王】なると賭けをしたせいで、こんなことになってしまった」
スライム「勇者さま…」
国王「戦線から報告が上がった。突然魔物たちが全て消え去ったらしい」
魔王「時間を稼いだだけだ。一週間後には戻ってくる」
スライム「…その間、どうするのですか?」
魔王「…我に時間をくれ」
少女「方法があるの?」
魔王「……」
6日後
スライム「それから魔王さまは何も言わないまま城の部屋に閉じこもってます」
少女「外は戦争が終わったってお祝い雰囲気なのに…」
スライム「…まさか、圧迫されすぎて自殺とか…」
少女「!」
少女「勇者!勇者!生きてるんだったら返事して」ドンドンドンドンドンドン
魔王「お前が扉ドンドンするのうるさいんだよ!!」がちゃ
少女「きゃーっ!」
魔王「幽霊みたような顔すんな!」
スライム「魔王さま、心配してました」
魔王「悪い、悪い。ちょっと大魔王に勝つ方法を考えてたらね…」
少女「勝てるの?大魔王に」
魔王「ああ、方法はある」
スライム「どうすればいいんですか?」
魔王「まあ、案外簡単だったよ。取り敢えず、二人ともちょっと寄って、テレポートするから」
スライム「あ、はい」
少女「こう?」
魔王「行くぞ」ス
荒野
少女「ここって…?」
魔王「魔王城が居た場所だ」
スライム「今は荒野ではないですか。どうしてこんな所に……」
魔王「後…30分で約束した時間だな」
少女「30分後には大魔王が戻ってくるの?」
スライム「戦う準備をしなければ……」
魔王「……」
二十分後
スライム「後十分……」
少女「……」
魔王「じゃあ、そろそろ始めるか」
少女「え?何、その大量の瓶、ポーションなの?」
魔王「この前我の家をぶっ飛ばした爆発物だ」
スラ・女「…!」
魔王「この前は抑えてたけど、そのまま使ったらこの荒野が地図から消えるだろう」
スライム「ま、まさかそれを……」
少女「自爆するつもり?!」
魔王「違う、違う」
魔王「なんで魔王たちが全部この荒野で現れるか知ってる?それはこの荒野でしか魔王が自らを召喚できないからだよ」
魔王「つまりこの荒野を完膚なきまで破壊すれば、魔王はこの世界に入ることも、出ることもできない」
少女「でも、そんなことしたら魔王も戻れなくなるでしょ?」
魔王「どうせ戻っても死んだ命だし別にいいんだよ。それより、他の魔王たちからこの世界を守ることが大事だ」
スライム「時間まだ後5分です」
魔王「じゃあ、これの封を開けて」
スライム「なっ」ボヨン
少女「きゃっ、ちょっと、どこ触って」
魔王「にっげろーー!!」スッ
ボーーーーーーーーーン!!!
魔王「よっしゃー!大魔王ざまぁーm9(^Д^)プギャー」
スライム「……」
少女「…魔王」
魔王「ん?何だ?お前らなんでそんな顔してるんだ?もうちょっと喜べよ。これで平和に…」
少女「どさくさに紛れて人の胸を…」
スライム「魔王さま…なら…良いです」カァ
魔王「え、いや、あの…というかスライムお前は胸も何もないだろ(全部スライムだし)」
少女「ちょっとだけはあるんだよー!!!」
魔王「お前のこと言ってねーよ!」
少女「それはあたしの胸が語ることもないほどないってことか!」
魔王「お前落ち着け!」
その後、平和になった人間の国は、魔物のない世界になった。
いるとすれば、スライムが一匹、勇者であるべきだった少女が一人、そして両手に華を持った魔王が一人居るだけだった。
三人はそれからも自分たちの村で暮らしながら、困っている人々を助けることを生き甲斐に過ごしている。
人々を助けることが好きなこの優しい魔王を人々は【良い魔王】と称え、彼のことは世界の歴史に長らく残ることになった。
おわり