女神「魔王が人間界に攻め込んだようです」 2/9

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魔物「ガアアアアア!」ブンブン

戦士(こりゃ一発でも貰ったら痛いな)ヒョイヒョイ

戦士「よっと」ズバン

魔物「ガッ」ブシュァァ

戦士「さて、これで」ヒュン

魔物「ゥゥゥゥ!!」ブォン

戦士「うぉ」ガッ

魔物「アァァァァ!」ダッ

戦士(しま油断っ)ドザ

戦士「逃げろっ! 勇者!」

勇者「え……あ……」

魔物「ガアアアアアア!」ブォン

勇者「くっ!!」ズバン

魔物「ガッ……アッ」ドザ

勇者「……ぅ、ぁぁ」フルフル

戦士「大丈夫か!」

勇者「……は、はい」コクリ

戦士「……今の一撃、見事だよ」ナデナデ

勇者「あ、ありがとう、ございますっ」

戦士(土壇場とは言え顔目掛けての一撃か……ビギナーズラックと呼ぶにはタイミングが完全にあっていた)

戦士(過保護すぎるのもあれかな……)

戦士「明日はいよいよ旅立ちだな……」

勇者(駄目だなぁあたしは……)

勇者(運が良かっただけだ。殆どパニックの中闇雲に剣を振っただけ)

勇者(明日からどうなるんだろう……洞窟の魔物を倒したから旅立ち? 足手まといだけはならないようにしないと)

戦士「そろそろ旅に入ろうと思うが、勇者はどう思う?」

勇者「私は……自信が無いです。洞窟の魔物もまぐれと言うか奇跡的に当たっただけですし」

戦士「だったらその奇跡の感覚を忘れるな。今は奇跡でも、実力に出来る範囲の事だ」

戦士「始めから上手くできる奴なんていないし、今までどおりサポートも稽古もする」

戦士「だからそんなに不安にならないでくれ」

勇者「……はい」

勇者「すみません、弱気になってしまって」

戦士(シルバースノウを囲う山脈……他国に行くにはこれを超えなくては行かないが)

戦士(幾つか山中を突っ切る洞窟がある……しかし場所によっては天然の洞窟を利用していて)

戦士(遭難者が出たりもしたが……)

行商人A「もうすぐでシルバースノウだなぁ」パカラパカラ

行商人B「早くうんまい酒っこのめべぇ」ガラガラ

戦士(随分と内部が整理されたもんだ……まさか馬車が通るようになるとは)

戦士(俺が死んでから何年だ? 300年? そりゃあ変わるか)

勇者(さっきからしきりに黙ったまま頷いたり……どうかしたんだろうか)ドキドキ

戦士「やっと山越えか……」

勇者「うわー。わあ~」キョロキョロ

戦士「シルバースノウを出るのは初めてか?」

勇者「はいっ! やっぱり山を抜けると暑くなりますねー」

戦士(気候的には涼しいの分類なんだけどなぁ)

戦士「確かこの先に宿があるな……今日は無理に進まずそこで一泊しよう」

二人部屋

勇者「……」ソワソワ

戦士(路銀と部屋の事を忘れていた件)

戦士「あー……今後の方針を決めようか」

勇者「は、はい! 方針?」

戦士「どういうルートで魔王城を目指すかとかだな」

勇者「あ、あの魔物の被害に対してあたし達はどう動くべきでしょうか」

戦士「……話じゃ鉱山は瘴気の様な魔力が滞留して、魔物の住処になっているらしい」

戦士「が、何処もかしこもだ。一つの国の領土内にどれだけ鉱山があると思う」

勇者「え、えと……4、5ぐらいでしょうか?」

戦士「俺も詳しくは知らんがもうちょっとあったな。まだ全部じゃないがかなりの数が魔物に占拠されている」

戦士「それを一つ一つ片付けていったらきりが無い」

戦士(まー魔王がガス抜きに魔力を放っているんだろうな。大した挑発だよ、何処の国にでも気付かれずにこれるって事なんだから)

戦士(そもそも、勇者は選ばれただけであって、魔物魔族に対し特別な力を持っていない)

戦士(ぶっちゃけ各地で起こる被害は兵士達に任せ、勇者がいるからと放置されるであろう魔王を倒す事が最優先だが……)

勇者「あたしは飽くまで魔王を見据えて行動しろ、という事でしょうか?」

勇者「……人々を苦しめる魔物も討伐できないようで、魔王を倒せるのでしょうか?」

戦士「魔王城は確か南東……シーサンドとグリーングランドの間ぐらいにある離島らしいな」

戦士「長旅になる。例え、そういった魔物を倒さずとも、嫌でも自力はつくだろうな」

戦士「それとそんなに焦るな。今日の明日で世界が滅ぶ訳じゃないし、勇者が全てをこなさないと滅ぶ訳でもない」ポム

勇者「……はい」

戦士「とは言え今日は時間もあるし、みっちり稽古がつけられるな」

勇者「わーぉ」

勇者「づがれだー」グテー

戦士「ああ、こら。そこでぐったりしない。上半身を起こせ」

勇者「うー」ムク

戦士「ほら、ストレッチを手伝ってやるから」グッグッ

勇者「そういえば……戦士さんはシルバースノウに来る前は何をしていたんですか?」

戦士「旅をしながら傭兵まがいの事をしていたさ」

勇者「そうなのですか……」

戦士「どうかしたか?」

勇者「いえ、戦士さんはあまり自分の事を語られないので、どうなんだろうと思いまして」

戦士「あーそれは悪かったな」ナデナデ

勇者「あはは、そういえば良くあたしの頭を撫でてくれますね」

勇者「何でだろうなぁ……戦士さんに撫でられるとなんだか落ち着く気がします」

戦士「……そうか」

勇者(?)

勇者(これからは魔王城に向けて、魔物を倒しつつ進撃か……)

勇者(それにしても……本当にあたしは魔王を倒せるのだろうか?)

勇者(いや、今は何よりっ)ジー

戦士「……ん? どうした?」

勇者(うわあぁぁ緊張して眠れない! ていうかあたし女の子として魅力無いの?!)

戦士(あーまずい。意識しちゃうなぁこれは。早く眠ってくれればいいが)

勇者「ふぁ……あれ? 戦士さん?」

勇者「……外かな?」ガチャ

戦士「……」ヒュンヒュン

戦士「うん? お早う勇者」ピタ

勇者「お早うございます……こんな朝から素振りですか?」

戦士「ちょっとした習慣だ」

勇者(これから長旅なのに……凄い人だなぁ)

戦士「右!」

勇者「わわっ!」バッ

魔物C「ガルル!」ビュ

勇者「くっ! はっ!」ガッビュォ

魔物C「ギャウゥ!」ブシュァ

戦士「だいぶ様になってきたな」

勇者「はぁ……はぁ……でも、戦士さんの支援無しだと、凄い心もとないです」

戦士「じゃあそろそろ一人で三体いってみるか」

勇者「わー……スパルタァ」

戦士「向こうで火の手が見えたな……」

勇者「町……! ってこんな近くには何もなかったような」

戦士「キャラバンか何かが魔物と戦っているのかもな」

戦士「金さえあれば何か珍しい物でも買えたかもしれないが」チャラチャラ

戦士「無駄使いはできないよなぁ」

勇者「でも覗くだけ覗いていきませんか?」

行商「旅人さんかぁ?」ガラガラ

戦士「そんなところだ」

勇者「シルバースノウへ行かれるのですか?」

行商「南も東も魔王城が近いのか、魔物が強くていけねぇ」

戦士「やはりただの噂じゃないのか」

勇者「うっ精進します」

「あら……その声、勇者?」

勇者「え?」

魔法使い「勇者じゃない! ああ良かった! 行き違いになるんじゃないかと不安だったのよ!」

勇者「うわわっ! 魔法使いちゃん!? どうしてここに?!」

戦士「知り合いなのか?」

勇者「あたしの幼馴染なんです!」

魔法使い「……勇者、その人は?」ピタ

勇者「えと、あたしが勇者に選ばれて……」

魔法使い「知ってる……まさかその男と二人旅」キョロキョロ

勇者「うん……危険だから断っていたんだけど、この人はそれでもついて来てくれるって言ってくれて」

魔法使い「……」ギロ

戦士(なんでー?)

魔法「駄目よ勇者」バッ

魔法「きっと勇者を誑かしあんな事やこんな事……果てには人気の無い所でこの男は勇者を……」ワナワナ

勇者「ま、魔法使いちゃん? 剣も教えてくれるし頼もし」

魔法使い「そう思わせているだけよ! 男なんて皮一枚剥げば下衆なものよ!!」

戦士(まー言っている事は分からないでもないが)

魔法「引きなさい下衆野郎! 魔王討伐は私と勇者で行うわ!」ギッ

戦士「それはいいんだが、それだと勇者が一人で前衛務める事になるのだが?」

勇者「わー死ねる」

魔法「チッ!」

戦士「凄い悪意ある舌打ちをしたな」

勇者「魔法使いちゃん……戦士さんは本当に良い人だからね?」

勇者「戦士さんもその……信じられないかもしれませんが、魔法使いちゃんは本当に優しい人なんです」

戦士「まあ俺はどちらでもいいさ」

魔法「なに、喧嘩を売ってんの?」イラ

戦士「仲間にならないならさようならだし、仲間になるんだったら運命共同体だ。後ろから刺すとか阿呆な真似はしないだろう」

勇者「そういえばどうしてキャラバンに? ウェッブリバーで魔法を習いに出て行ったのに」

魔法「貴女が勇者になったからよ。仲間のあてがあろうが無かろうが、私は貴女と共に旅をするつもりだったの」

勇者「魔法使いちゃん!」ギュ

魔法「安心して……私が着たからにはもう大丈夫よ」ギュ

勇者「ありがとう魔法使いちゃん」ギュゥ

魔法「どんな魔物も私の魔法で吹き飛ばしてやるわ!」

勇者「あたしも頑張ってもっと強くなるよ!」

戦士「……」

戦士(百合か……悪くないな)

魔法「という事でして、申し訳ありませんが私はここで」

行商「おう、護衛ありがとうなぁ」ガラアラ

勇者「シルバースノウへの行商に便乗に?」

魔法「ええ。ま、多少の魔物程度なら蹴散らしてくれるわ」

戦士(図らずとも優秀な魔法使いが見つかったか。悪くない流れだな)

戦士(もう少し仲間がいてもいいが……勇者が強くなれば後衛がいいな)

戦士(今動くとなると賭けだな。ちと長い目で見るべきか)フーム

魔法「……こいつ本当に大丈夫なの?」

勇者「と、時々押し黙る事はあるけど、頼りになるんだからね」

戦士「重心をもっと左に!」

勇者「はいっ!」ズバ

戦士「避ける時は次の攻撃を考える! 常に意識しろ!」

勇者「よっ!」ヒラリ

勇者「たぁ!」ズバ

魔法「ふーん……意外と真面目に教えているのね」

戦士「初めからそうだと話したよな」

戦士(この魔物の群れを一人で任すのは怖いな)

戦士「魔法使い、すまないが勇者と二人で戦ってもらえるか?」

魔法「あんたは戦わない気?」

戦士「危なければ手を出すさ」

勇者「頑張りますっ!」ギュ

魔物A「ガアアアア!」

勇者「よっはっ!」ヒラズバン

魔法「そこっ!」スドドド

戦士(一匹左に抜けたな)チャキ

勇者「いかっせない!」シュバ

戦士(ほう……)パッ

戦士「さて、このあたりで野宿とするか」

魔法「何故馬を用意していないの?」

戦士「魔物が現れたらどうやって馬をつないでおくんだ」

勇者「あー……そういう理由だったんですね」

戦士「馬車を引かせる馬番もいるならいいが、そういう訳じゃないからな」

戦士「まあ……野営時の利便性は高いが、その為だけに用意する人数でもあるまい」

魔法「意外と考えているのね」

戦士「このくらい考えないでどうするんだ……ああ、火の魔法を頼む」

戦士「本日のメニューは……」

魔法「ただのパンと干し肉ね」

戦士「そう言うな。こいつをこう軽く炙ってだな、でこのパンに挟んでほら。案外美味しいから食べてみろ」

勇者「わぁ……いい香り」

戦士「デザートじゃないがそこら辺で取れた木の実だ」

魔法「何時の間に……」

戦士「サバイバル生活は慣れたものだからな」

戦士(生きてる時は狩人だったし、一人で魔界を横断させられたりしたからなぁ)

勇者「初めて見る木の実ですが……これは?」

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