魔法「ああ……言い忘れたけども、今まで私が撃っていた魔法はそこそこ力込めた生活用魔法ね」
戦士「本来焚き火するのに火を起こす程度なのに、敵を燃してるってどういう事だ」
戦士「……とりあえず最後の町を過ぎたら強を撃ってもらいたいな」
勇者「あ、あたしも見てみたーい」
魔法「私にとってある意味深刻な話なのよ……」
魔法「年々魔力は増えるばかり……これから先どうしたらいいのか」
戦士「現在進行形か……」
戦士(なんか、神様が転生しているんじゃないかと疑いたくなるな)
戦士「ご馳走様でした」フゥ
勇者「あー美味しかったぁ」
魔法「私は一足先に部屋に戻るけれども、勇者はどうするの?」
勇者「うーん、ちょっと武器屋見てこようかな」
戦士「なんだ? 買い忘れか?」
勇者「いやーほら、魔法剣とかあったじゃん」ジュルリ
魔法「元はただの町娘なのに……」
戦士「頭の中まで剣士に育って……」
勇者「えっ」
戦士(最後の町に着いた訳だが)
戦士(この後どうしたものか……なんかもう魔王城ごと蒸発させてしまえばいいような)
戦士(障壁だってあれだけの威力を打ち込んだら破れるだろうし……)
戦士(そういえば対障壁兵器ってどうなったんだろう?)
戦士(魔王城まで一本道になったんだけ)コンコン
戦士「どうかしたか?」ガチャ
騎士「夜分遅くに失礼するよ」
戦士「え、誰?」
騎士「私は風の女神の従者、グリーングランドの騎士だ」
戦士「ああ、そういう……俺は癒しの神の従者の戦士だ」
騎士「件のものを持ってきたぞ」ジャラ
戦士「なんだこれ……魔石か? こいつを魔王に当てれば障壁が消えるのか?」
騎士「強い衝撃がかかると割れて半径5,6m以内の魔法が消滅」
騎士「その範囲内であればしばらくの間は魔法そのものが使えなくなる」
戦士「ほー……効果時間はどのくらいだ?」
騎士「おおよそ10秒だ。可能であれば障壁消滅と共に攻撃し、10秒以内に張り直させられれば楽になるだろう」
戦士「障壁を封じられた、と思い込ませるか?」
戦士「にしても凄い量だな」ジャラ
騎士「此度の魔王は魔力に優れるものの、身体能力は非常に低いらしい」
騎士「インファイト限定だったら、人間の軍にも負けるレベルだそうだ」
戦士「ひ弱すぎるな」
騎士「全くだ。だというのに魔法学は滅法弱いらしい」
戦士「可哀想だな……」
騎士「全くだが魔力操作には長けている所為で、空を飛んだり障壁を張ったり出来るらしい。迷惑な話だ」
戦士「天は二物を与えない、か」
騎士「その癖、その魔力で魔法ゴリ押しで強いのだからな」
戦士「死ねばいいのに」
騎士「それと追加情報なのだが、魔王の側近は時を止める魔法というものを使えるらしい」
戦士「時を? どんな効果なんだ?」
騎士「それが詳しい事が分からないんだ。特定の対象なのか空間なのか。自己犠牲型なのか……すらな」
戦士「魔王はどうにかできそうだが……側近か。変なところからイレギュラーが現れたな」
騎士「魔王? お前、その体で一騎当千という訳にもいかんだろう?」
戦士「あー……あのさ、仲間の魔法使いがとんでもない魔力持ちなんだ」
戦士「従者でもトップクラス足り得るほどのなんだ。強クラスの魔法で魔王城が消し飛ぶんじゃないかってぐらい」
騎士「……神が降臨しているという話は聞いていないのだが」
戦士「それが人間なんだ……一週間前まで生活用魔法で援護されている事に気づかなかったよ」
騎士「……良かったな。その者とは天界で末永い付き合いができるだろう」
戦士「だろうな」
戦士「あーあと一騎当千ってのはいけるかもしれない」
騎士「?」
戦士「なんか鍛えていたら剣圧で魔物を薙ぎ払えるようになってさ」
騎士「そんな馬鹿な。いくら従者と言えどこの体は人間の肉体だぞ。多少、限界値が高めであっても、そこまではできまい」
騎士「……いや待て、少し調べさせろ」
戦士「調べる、てどうするつもりだ」
騎士「大人しくしてろ」ガチャガチャ
戦士「なにその機材怖い」
騎士「……」
戦士「で、診断結果は?」
騎士「お前を天界に送るべきか否か悩むところだ」
戦士「えっ」
騎士「お前の体が変質しつつある……既に人間の壁を超えている」
騎士「このままだと従者の肉体に近づいていくぞ」
戦士「聞こえはいいな」
騎士「人間からすれば人外になっていくのだぞ。何より変質が進んだ時、果たして天界に帰れるか否か」
戦士「あれ? かなり不味い状況か?」
騎士「仮住まいの肉体だからこそ、肉体の死や消滅でもって我々は天界に戻る。だと言うのに、器が定住できる形になってしまったらどうなる事か」
騎士「だがこんな事……何故?」
戦士「飽くまでこの体は容器だ。一度、それも神々が作った物がそう簡単に変質するだろうか? あ、この体不良品?」
騎士「人間として作られた体とは言え、人ではなくなった我々の精神と魂を入れるのだし、ある程度は力が発揮できるように作られているはずだが」
戦士「大き目の器って事か。うん? 待てよ? それだとリミッター解除なんて一度で肉体が破壊されかねないよな」
騎士「リミ……? 何の話だ?」
戦士「魔王討伐にあたって、五回までは一時的に出力を上げられるんだ」
戦士「通常が従者の体の二割に対し、リミッター解除をすると五分間だけ四割まで発揮できるとさ」
戦士「とは言えあれで筋力そのものが二倍なんて事は無いだろうし、飽くまで全能力を総合してって事だろうけど」
騎士「そんな力が?」
戦士「今回限りにして俺だけだろうがな。前回前々回と何にも無かったからな」
騎士「なるほど……恐らくはそれが原因だな」
戦士「どういう事だ?」
騎士「お前の器はそのリミッター解除ができるよう伸縮性を富んだものなのだろう」
騎士「違うとしたら何か、他にお前の力を膨らます要因が発生したか……」
騎士「何れにせよ癒しの女神様は六回でその伸縮が限界を来たし、弾けるだろうと予想していたのだろうな」
騎士「このままお前の力が膨らみ続けたらどうなるか」
戦士「単純に考えて、まるっと俺が納まるサイズまで膨らんで帰れなくなるか、いきなり弾け飛ぶか」
戦士「そうなると人間界に残る原理ってなんだ?」
騎士「我々には理解できない話らしいが、簡単に言ってしまうと普通の人間と同じ大きさになるまで魂を削ってしまうんだそうだ」
戦士「なにそれ怖い」
戦士「だからあんな慎重に話をしたのか。そりゃそうか人間界に残って一世紀程で天界に戻れるんなら、そこまで深刻な話じゃないだろうからな」
騎士「とにかくお前は気をつけろよ。帰れなくなるか弾け飛ぶか。どちらが先かは分からない」
戦士「ああ、気をつけるよ」
騎士「それでは私は失礼する」ガチャ
戦士「魔王は任せてくれ。他の連中は頼んだぞ」
騎士「心得ている」バタン
戦士「……」
戦士「ふぅ」ボフ
戦士「やっべえぇぇぇ天界帰れないとかマジないからぁぁ」ゴロゴロ
戦士「さて、しっかり休息も取ったし、そろそろ魔王城に殴りこむとするか」
勇者「いよいよなんですね」ゴクリ
魔法「でも魔王城まで距離換算で三日。戦闘を加味すれば五日、六日。そんなところかしら?」
戦士「まあ焦らずじっくり先に進もう。ここで敵を倒していけば、町への被害も少なくなるわけだしな」ザッ
勇者「ですね」ザッザッ
魔法「ゆっくりと休息が取れない以上、小まめにとるしかないものね」ザッザッ
軍隊「」ザッザッ
戦士「……」ザッザッ
勇者「……え、なん、え?」ダラダラ
魔法「訳が分からないわ」ダラダラ
兵士「我々は魔王城までの道中、勇者様方をお守りすべく馳せ参じた者です!」
兵士「魔王城まで我々がお守りいたします! どうぞご安心を!!」
勇者「ええ?! い、いいんですか?」
戦士「……というか必要だろうか?」
魔法「うーん、あら敵ね」
魔物の軍隊「オオオォォォォ!」ゾロゾロゾロ
軍隊「お控え下さい! ここは我々」
魔法「結構な数ね、やってみようかしら」キィィン
戦士「退避ぃ! 総員退避ぃぃ! 兵士ども、お前らもだ!!」
魔法「爆破魔法・強」カッッ
ゴゴゴゴゴ
戦士「……」
勇者「ゎー」
軍隊「」
魔法「あー久々に気持ちがいいわー!」ノビー
勇者「あたし、これ本で読んだ事があります。クレーターって言うんですよね」
戦士「じゃあ魔王城のところにもクレーターができるな」
軍隊「」
戦士「えーと、君ら。まだ付いてきたい?」
軍隊「ゆ、勇者様方の力を温存させるべく、以降の戦闘は我々が全」
魔法「物足りないわ……あと四十発は強が撃てるのに相手がいないだなんて」
軍隊「帰ります」
戦士「兵糧もタダじゃないからな」
戦士「というかお前、今までの魔力温存ってなんだったの?」
魔法「貴方が言い出したから従っただけよ。威力を抑えるのが面倒というのもあるけれども」
戦士「うん? なんだあの海」
勇者「何かが移動してますね? 巨大なイカダ?」
戦士「いや……あれは魔物か! なるほど、陸路では迎撃されるから泳げる魔物を大々的に出撃させたのか」
魔法「ふーん」キュィィン
勇者「あ、凄い魔力」
戦士「魔力100%チャージ。魔法使い砲……ってぇ!!」
魔法「落石魔法・強っ」カッ
戦士「……?」シーン
勇者「あれ? 不はt」ォォォオオ
ズゴゴゴゴ
勇者「い、隕石……」ゴクリ
戦士(あれーメテオって神様クラスの魔法じゃなかったけかなー)
勇者「あ、凄い、お城よりおっきい」ドゥン
戦士「あれ? これ俺達津波で死ぬんじゃないか?」ズドドドドド
魔法「そうね、危ないわね」キュィィィィィン
魔法「障壁魔法」カッ
勇者「おおおおお! 凄い!! 波が壁に当たったかのように押し戻されていく!」ドドドドド
魔法「しばらく波は引かないでしょうからこのままね」
戦士「そうだな……いや。町、いや」
勇者「建物が見えてきましたね」
戦士「やっとで魔王城か」
魔法「……」キュィィィィン
戦士「せめてしっかりと辿り着いてからにしてやれよ!」
魔法「それもそうね。海上にしておこうかしら。爆破魔法・強」カッ
戦士「何て酷い宣戦布告」ドッ オオオオォォン
勇者「わー涼しー」ゴオオオォォォ
戦士「で、魔王城が見えてきた訳だが」
魔法「……」キュィィィィン
戦士「……もう好きにしてくれ」
勇者「わーあたし何のためにいるんだろー」
魔法「火炎魔法・強!」ゴアアアァァ
戦士(これで終わりか……呆気ないが安全に片付くのだから喜ぶべきなんだろうな)チラ
勇者「……」サァー
戦士「どうした? そんな血の気の引いた顔をして」
勇者「あ、あれ……」
戦士「? なんだ? 魔王城は無傷だな。流石に対魔法用の障壁でも貼っているのか」
魔法「……」キュィィィィン
魔法「爆破魔法・強!」カッ プシュゥゥゥ
勇者「なん、で……? どうなっているの?」
戦士(閃光は見えたが爆発はしなかった……となると魔法そのものは正常に発動されたはず)
戦士(であればこれは……まさか)
戦士「魔法使い、落石魔法を撃ってくれ」
魔法「え、ええ、分かったわ」キュィィィン
魔法「落石魔法・強!」カッ
勇者「そうか! 炎も爆発も効かなかったけど、この物理威力の魔法なら!」ズゴゴゴゴ
戦士「いや……恐らく」ゴゴゴ シュゥン
魔法「そんな……落石も消えた?」
戦士(参ったな……状況はより深刻だったのか)
戦士(魔王の障壁は対物じゃないんだ。全てに対して防御しきるものなのだろう)
戦士(ああ、だからか……だから魔王の魔力が直撃した石からこの兵器が生まれたのか)
戦士(一切の物理を通さなかったように、魔法さえも障壁に接触した瞬間に消滅させてしまうとんでも障壁)
戦士(落石魔法は元ある岩を飛ばすんじゃない。魔力を元に岩を上空に生成しているだけだ)
戦士(だから魔法の効力を消滅させれば岩も消える……いや、そもそも魔法の中で)
戦士(魔法単体で何かに働きかけ、その何かで相手にどうこうする魔法は無い……実質、策を講じなければ魔王の障壁は魔法に対しても無敵な訳か)
戦士「恐らくは魔王が障壁を張っているのだろうな」
勇者「ええ?! 魔法使いちゃんの魔法も弾くほどの?!」
戦士「噂には聞いていたが凄まじいな」
魔法「知っていたの……?」
戦士「勿論だ……そしてその上で託されたものもある」ジャラ
魔法「……宝石かしら?」
戦士「あの障壁を消し去る石だ。こいつを魔王に当てれば効果が発揮されるが、恐らくしばらくの間、お互い魔法が使えなくなるだろう」
魔法「……魔法の効果を打ち消す、みたいなものかしら」
勇者「ええと……つまり魔王倒すには普通に戦わなくちゃいけなくて、結局魔王城には乗り込まないといけないの?」
戦士「そういう事だ。腹括って行くとするか」