女神「魔王が人間界に攻め込んだようです」 1/9

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従者「あれ和平とかは……」

女神「人間界に対する不可侵は執り行われていません」

女神「魔界と行った和平は飽くまで天界とのものですし、人間界は我々の管轄という訳ではありません」

女神「異教徒扱いされてはいますが、魔王を崇拝する者達もいますからね」

従者「それはまた面倒な……他の魔王達はどういう判断で?」

女神「元々魔界でも浮いていた者らしく、侵略意思を持たない者達も傍観するようですね」

従者「あー……面倒な」

女神「それと、勇者と呼ばれる者が現れたようですね」

従者「勇者、ですか……具体的には?」

女神「どうも人間の中に神のお告げが、という類の者が定めたようでして」

従者「完全に投げっぱなしの祭り上げじゃないですか」

女神「ええ、流石に見かねた我々も少し力を授けたのですが……」

女神「勇者として覚醒した! と更に周りが盛り上がってしまいまして」

従者「それ駄目なパターンの援助じゃないですか」

従者「なんか見えてきた……俺が勇者の補佐をしろって事ですか?」

女神「その通りです。今回は微弱ながらもリジェネレーションの効果もつけます」

従者「矛と盾になれって事ですね」

女神「……その勇者は女の子なのです。いくらなんでも最前線に立たせる等不憫で不憫で……」

従者「あー……まあ女の子の盾になるのでしたら、気合入れて体を張りますよ」

女神「……」ジト

従者「そんな目で見ないで下さい。俺も男ですし生まれは人間なのです」

女神「時折、貴方のその吹っ切れ方は誇らしく思えますね」

従者「どうも」

女神「魔王城は南の樹海の国グリーングランドと、東の砂漠の国シーサンドとの間にある孤島に存在します」

女神「当然ですが魔王城に近いほど魔物達も強い種族が多くなります」

従者「シーサンドは軍事力高めだからいいとしても……グリーングランドは大丈夫なんですかね?」

女神「鬱蒼とした樹海の地の利を生かし、上手く魔物を退けていますよ」

女神「中央の川が集まる国ウェッブリバーは二ヶ国の決壊に備え、国境沿いに軍隊を配備。現状応援要請が無い為、それ以上の深入りはできないみたいですね」

女神「西の洞窟の国ロックケイブ、北の雪国シーサンドはウェッブリバーに兵士を派遣している状態です」

従者「グリーングランドとシーサンドは要請をしている暇は無い、と?」

女神「このまま魔物勢の戦力を削ぎ落とし、弱まった所を叩くつもりでいるのでしょうが……」

従者「魔王の周辺を固める魔人や魔物が出てきたりでもしたら、ですか」

女神「人間界への降臨は以前同様の方法で行います」

従者「まあ、そうでしょうね」

女神「また同様に帰還に際して人間として生きる事を強く望めば、以後そのまま人間界で生きる事もできます」

従者「どうしたんですか? 今回は同じ事をそんな……」

女神「……」

従者「?」

女神「これ、本来はその都度行わないといけない事で、叱られてしまいました」フルフル

従者「えー……」

従者「あー……人間として、とか事前確認しておかないとなんか制約に引っかかるんですか?」

女神「なんで分かるのですか?」

従者「いや、今の話の中で一番重要そうなところですし、今だってそこだけ同様です、で終わりにしていないですし」

女神「……その通りですよ。はあ……前回言わなかった事を口に出しさえしていなければ」

従者「女神様の従者で、俺以外に降臨する人っていないのですか?」

女神「人間界での制限を考えると、他の女神の従者の方が能力のバランスがいいのです」

従者(回復特化でも制限かかると他の従者と並ぶもんなー)

女神「今回は相手が相手ですので、能力の制限を一時的に緩和させる事ができるようになっています」

従者「リミッター解除! みたいなですか? 持続時間はどの程度ですか?」

女神「五分です」

従者「短っ!」

女神「それと使用回数も制限がありまして五回までです」

従者「五回のリミッター解除か……もう二度と服を身につけられなくてもいいという覚悟……!」

女神「……はあ?」

従者「いえ、お気にになさらずに。因みに無理して六回目を使うとどうなります?」

女神「死ぬと思いますよ?」

従者「そんなさらっと……おまけに疑問符つけて」

女神「制限を緩和するのですから、人間の体で耐えられる範囲を超える能力で活動する訳です」

女神「五回を超えるとなると、体はその形を維持できず裂けてしまうでしょうね」

従者「裂ける痛みあったりするんですかね?」

女神「……人間の体に身が裂けるほどの痛覚を遮断する機能が備わっていましたか?」

従者「裂ける痛みをそのまま味わうのか」ブルル

従者「……あ、その制限緩和ってどのくらいまで能力を引き出せるんです?」

女神「貴方ですと人間の体でだいたい二割程度の実力が発揮できるようになっていますが、それが四割なるかならないかですね」

従者「んーあれで二割で約二倍になれるのか」

女神「くれぐれも慢心せず慎重に……いくら従者としての貴方が死ぬわけではないとは言え」

女神「魔王に引き裂かれたなどという話、聞きたくはありませんからね」

従者「分かっていますよ……」

従者「魔界横断の時、耳にたこができるほど魔王と接触したら全力で逃げ出せ、と言われたのですから」

従者「むしろ人間の体使って魔王倒すとか余計に無理そうな……もう体そのままで降臨させて下さいよ」

女神「魔王が先手で人間界に被害を与えていなければ、むしろ我々神々が降臨して抹殺していましたよ」

従者「今、平然と凄い事を言いましたね」

女神「ああそれと勇者の現在地は北部、シルバースノウ。私では降臨させられませんのでまた月の女神に頼みます」

従者「また雪国から……ってまた吹雪を抜けなくちゃいけないのか」

月の神「おお、来たか。何時でもシルバースノウにいけるぞ」

従者「そうなのですか?」

女神「元々、そこまで準備に時間はかかりませんからね」

従者(うん……?)

月の神「ああ、そうだ……これを持って行きなさい」

従者「回復薬ですか」

月の神「あまり量は無いが少しくらいの助けにはなるだろう」

女神「魔法が使えないですからねぇ」ハァ

月の神「これで魔法が使えたら最強の従者の座を欲しいがままにしてしまうな」ハハ

月の神「ではいくぞ」パァ

従者「安定の猛吹雪」ビュアアアァァァ

従者「変っ身っ!」パァ

戦士「良し! 暖炉! 暖炉のあるどっかにぃ!」ガチガチ

店主「こんな昼間っから酒かい? 旅人さんにしちゃあ珍しいこった」コト

戦士「俺が悪いんじゃない……昼間っからやっているバーが悪いのさ」グビリ

店主「そりゃあいい。うちの所為にしてどんどん飲んでってくれ」

戦士「そういえば勇者様ってこちらにいらっしゃったりするのか?」グビ

店主「あんた、珍しいもの見たさにここまで来たのかい……?」ジロッ

店主「あの子は可哀想だよ……ただの女の子なのに神様の啓示だがなんだが知らんが」

店主「ただの押し付けだ。見てられないよ……そんな子を見物しに来たのなら俺はあんたを」

戦士「マスター。そこに置いてあるのはゴミだろ? 俺に放り投げてくれ」

店主「え?」

シュパン ポト

戦士「無理やり勇者として旅立たせられそうになっている。勇者として力は覚醒した」

戦士「それでも実戦経験は無い。これが稼げる話に聞こえなくて何に聞こえる」ニタァ

戦士(まー魔物を片っ端から倒していれば十分な稼ぎになるんですけどねー)

店主「……」

店主「あんた、明日の朝八時にここにきな」

店主「勇者ちゃんがここに挨拶に来る。きっと同行を認めてくれるだろうよ」

戦士(とりあえずこれで接触できそうか……というか一人旅立つのか?)

戦士(魔法使いや剣士の一人や二人いても良さそうだが……)

戦士(というか俺は魔法が使えないから、魔法使いはいてくれないと困る)

戦士(まさか勇者のみ? それはそれできつそうだな)ムーン

戦士(最悪、どっかの町で俺の方から探してみる事も考えておくか)

戦士(追々考えるか……実際他にも仲間がいるかもしれないし)ボフッ

戦士(ふあぁ……)

――……

「お兄ちゃん遅いよっ」

「ほぉら! あと少しあと少し!」

「ね、綺麗でしょ! えへへ、お兄ちゃんとあたしだけの秘密の場所だよ」ニコッ

「……また、二人で来ようね」

戦士「……」ボケー

戦士(この国に来ると必ずこの夢を見るな)ガシ

戦士(まだ時間もあるし、少し素振りをしておくか……)

戦士「やべぇ時間やべぇ!」バタバタ

戦士(八時半……まだか?)

店主「八時って言っちまって悪かったな。世話になった人の所を回るって話なんだよ」

戦士「来なかったりして」ハハハ

店主「てんめぇ……」カラン

勇者「お早うございます」

店主「おう勇者ちゃん!」

戦士(まだまだ子供じゃないか……いくら神の啓示とは言え、本気で魔王討伐をさせる気なのか? 狂ってるな)

勇者「あ、お店邪魔しちゃいましたか?」

店主「いやいや違うんだよ。ほれ」ポム

戦士「俺は戦士という者だ。もし君さえ良ければ魔王討伐の旅に同行させて」

勇者「お断りします」キッパリ

戦士(おいこらおっさん)ギロッ

店主(私だって驚いてるわ)

勇者「あたしは神に選ばれただけの子供です……確かに謎の力は得られましたが」

勇者「この程度では到底、魔王の下に辿り付く事すら……それでもあたしは行きます」

勇者「だからこそ誰も連れてはいけません。こんな危険な旅に誰かを巻き込むだなんて」

戦士「勇者になったから行く……危険だから誰も連れて行かない……なんだ? 自殺がしたいのか?」

店主「なっ、おいてめ」

戦士「違うだろう。だからこそ差し出された剣を受け取るのだろう。一人じゃ適わないから助力を求めるのだろう」

戦士「それでも尚、一人で行くのなら今ここで自殺するといい。魔王討伐が適わないのならさして未来も変わらない」

勇者「……」ツゥ

勇者「あ……う、ぐす」ポロポロ

戦士(やばいっ言いすぎたっ! 落ち着け俺! フォロー!)ダラダラ

戦士(思いつかんっ!!)ダラダラダラ

勇者「ち、違い、ます……これは、違います」グス

勇者「こんな風に諭してくれる人、いなくて、その……」グズグズ

勇者「皆同行してくれるとは言うのですが、少し断るとそのすぐに……」

勇者「だから皆、やっぱりそうだよね……て思ってしまって」

勇者「それでも貴方はついて来てくれるって……嬉しくて……」グス

店主「お前……悪いな、俺も言葉が悪かったりしてよ」

戦士「いや、俺の言い方も悪かった。すまない」

戦士(しかし、これだと二人旅か……うーむ、もう一人サポート欲しいな)

勇者「あの……これからよろしくお願いします!」ニコッ

戦士「……」

勇者「……戦士さん?」

戦士「ああ、悪い。少しぼーっとしていた。こちらこそ宜しく頼むよ。勇者」

勇者「はいっ!」

勇者「今分かっているのが……地図だとこのあたりの洞窟に大きな魔物がいるとの事ですっ!」

戦士(いきなり中堅とは戦いたくないなぁ)

戦士(せめて戦い慣れして貰わないと俺が苦しむ)

戦士「勇者は戦った事はないんだよな? しばらくは町の近くで魔物と戦い、戦う感覚を覚えてもらう」

勇者「お、おお……本格的だ」ドキドキ

戦士「できるだけ君の事は守るつもりだが、戦わないという訳にもいかないだろう」

戦士「何よりその大型の魔物と戦うとなればお互いがフォローし合い、自分で身を守らないといけなくなる」

勇者「やあっ! たあっ!」ビュンビュン

戦士「違う! 手首の返しが足りないっ!」

戦士「それと構えはこうだ。常にこの構えを意識しろ」ギュ

勇者(あわわわ、後ろから抱きしめられれれ)カァァァ

戦士「聞いているのか?!」

勇者「はははははい!」

戦士「よし、もう一度!」

戦士「まだ実践は早いな。今日の所は俺が戦うから見ていてくれ」

勇者「わ、分かりましたっ」

戦士「……ふっはっ」ズバスバン

勇者(うわー向かい来る魔物を全部一太刀……凄いなぁ)

戦士「こんなもんだな」シャーチン

戦士「俺も動きは実践で覚えたから上手く教えられないからな」

戦士「できるだけゆっくり動いたが、ちゃんと見えていたか?」

勇者「え゛っ! あれでゆっくり?!」

勇者「やっ! たあ!」ヒュンズバ

戦士(ようやく魔物も倒せるようになってきたか)

戦士(そろそろ洞窟……いやまだ不安があるな)

戦士「よし、今日はここまでだ。ゆっくり休むように」

勇者「はい!」

勇者(旅立つと決めた日から二週間……う~ん)モンモン

戦士「はっはっ……」ザザザ

戦士「ここの洞窟か……」ハァッ

戦士(どの程度の強さなのだろうか……? それ如何でどうするか変わってくるからな)

魔物「ウウゥゥ」フーッフーッ

戦士(ゴリラみたいな魔物だな……パワー特化か)サッ

戦士(勇者を援護に回せば何とかいけるか?)ザザザ

戦士(そろそろ旅に出れないフラストレーションも溜まっている頃合だろうし、一丁やってみるとするか)

勇者「いよいよ……」ゴクリ

戦士「基本的には俺の援護に回ってくれ。絶対に前に出るなよ」

勇者「わ、分かった」ゴクリ

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