次の日─
魔王「昨夜気付いたのだが、食事だけではまずいな」
姫「…?」
魔王「今日は部屋から出してやる」
姫「え」
魔王「勘違いするな、適度な運動をしないと体に障るだろう」
姫「え、え?」
魔王「ほら、行くぞ」
姫「う、ん」
魔王「……」
姫「……(キョロキョロ)」
魔王「……お」
姫「……(ビクッ)」
側近「……何をやってるんだあんたは」
魔王「仕事だ」
側近「俺には仲良く散歩してるようにしか見えないんだがなあ」
魔王「運動をさせなければ、弱ってしまうからな」
側近「で、手を繋ぐ必要は?」
魔王「逃げられると面倒だからだ」
側近(………まさか、こいつ本当に、ロリ…)
姫「………(コソコソ)」
魔王「さて、運動は終わりだ」
姫「……うん」
魔王「ちゃんと夕食を取ること。分かったな」
姫「……(コクコク)」
魔王「よし。では、また明日」
姫「あ、あの!」
魔王「何だ」
姫「ほ、ほんとに……まおう、なの?」
魔王「…?何を今更」
次の日─
魔王「それでな、側近が馬鹿なことに……」
姫「うん」
魔王「私は止めたのだが、あいつは致命的に頭が」
姫「うん」
ギィッ
側近「…何やってんだあんた」
魔王「む」
魔王「見ての通り、仕事だ」
側近「俺には仲良くお茶してるようにしか見えんが」
魔王「適度に間食を与えれば、より一層健康が保てるだろう」
側近「なんか釈然としねえ……」
魔王「こいつは昨日の夕食を残していた。全く…ちゃんと見張っておかねばな」
姫「…」
次の日─
側近「で、とうとうあんたの部屋で飼うことに……」
魔王「一々客間に行くのが面倒でな」
側近「じゃあ膝に乗せる意味は」
魔王「逃げないよう…こら、菓子をこぼすな」
姫「……ごめんなさい」
魔王(案外楽なものだな)
姫「……♪」
魔王(姫も健康そのものだし、人間の動きの知らせも入ってこない)
姫「……?」
魔王(一応仕事をしているから側近も文句を言わんし、これは良い)
姫「どうか……したの?」
魔王「いや。お前、ずっと元気でいろよ」
姫「う、うん!」
次の日―
魔王「側近!大変だ!」
側近「うわ?!な、なんだどうした」
魔王「姫が……姫が!」
側近「ま、まさか死んだのか?!」
魔王「熱を…………出した」
側近「はあ?」
魔王「なんだその反応は?!」
側近「…そんな取り乱すことか?」
魔王「私の飼育は完璧だったのだぞ!それが……それが!!」
側近「知らん知らん。あんたの魔法でぱっぱと治せばいいだろ」
魔王「…人間の治療など、やった試しがない」
側近「ああ……なるほど」
魔王「このままでは死んでしまう。どうすれば……」
側近「どうせ風邪か何かだろ。そんな悲観するなよ。人間用の薬とか探して来てやるから」
魔王「……すまん」
側近「いいってことよ。あんたは姫の看病を頼んだ」
魔王「勿論だ」
魔王「調子はどうだ?」
姫「う……ん」
魔王「果物は欲しいか?」
姫「……(フルフル)」
魔王「………そうか」
姫「……」
魔王「……」
姫「……(ケホケホ)」
魔王「……」
姫「……」
魔王「……」
姫「……(スゥ)」
魔王(人間とは…脆いものだな)
魔王(お前がそんな調子では、私は暇で仕方がない……)
魔王(死ぬなよ)
魔王(死なないでくれ)
魔王(頼む……)
次の日朝─
姫「……ふぁ」
魔王「……(スゥスゥ)」
姫「………あ」
魔王「……」
姫「……えへへ」
魔王「…う…ん」
姫「あ……」
魔王「なんだ…お前、もう起きていたのか」
姫「うん…お、おはよ」
魔王「お早う。調子はどうだ?」
姫「げんき」
魔王「そうか良かった。しかし油断するなよ、今日一日はまだ寝ておけ」
姫「うん」
姫「て」
魔王「?」
姫「ずっと、にぎってて、くれたの?」
魔王「ああ。それがどうかしたか?」
姫「ううん。なんでもない」
魔王「変な奴だな」
姫「えへへ……ありがと」
魔王「何故感謝する?」
魔王「そうだ。一つ聞いておきたいことがある」
姫「なに?」
魔王「お前の名は?」
姫「……ひめ」
魔王「違う。お前の、本当の名は?」
姫「………にせ、ひめ」
魔王「偽姫か。良い名だ」
偽姫「……しってたの?」
魔王「ああ」
偽姫「………」
魔王「まあ、どうでもいいんだ。人間の反応を見る限り、『姫を攫う』という目的は達成されているのだし」
偽姫「……ここに」
魔王「?」
偽姫「いても、いいの?」
魔王「そうでなければ、私が困る」
次の日─
魔王「すっかり元気になったな」
偽姫「うん!」
魔王「では、今日は久々に散歩でも」
バンッ!!
側近「大変だ魔王!!」
魔王「何だ騒がしい」
側近「あの国の奴等…姫を見捨てやがった!!」
魔王「……何?」
偽姫「え………」
側近「…姫の様子は?」
魔王「泣き疲れて眠っている」
側近「そりゃそうだろうな…実の親どころか、国自体に捨てられたんだし」
魔王「……姫は、我等に殺されたと、そう公表されたのだったな」
側近「ああ。一応攻め込む予定らしいが…あまり本気でもなさそうだ」
魔王「………」
魔王「実はな…あれは影武者だ」
側近「何?!先に言えよ!」
魔王「私も、つい先日知ったばかりだ」
側近「本当かあ…?」
魔王「影武者故、助け出す必要もないのだろう」
側近「つっても同族だろ…そんな簡単に見殺しにしていいのかよ」
魔王「人間とは……厄介な生き物だな」
ギィッ…
魔王「……目が覚めたか」
偽姫「ひっく……えぐ…」
魔王「ああ、泣くな泣くな」
偽姫「うぐっ…………う、ん」
魔王「よしよし、いい子だ」
偽姫「あの、ね」
魔王「ああ」
偽姫「ほんとの、おひめさまはね、ちょっとまえにね、なくなったの」
魔王「…ああ」
偽姫「かわりにね、そっくりなわたしが、かわれたの」
魔王「そうか。話してくれて、ありがとう」
偽姫「でも、もう……どこにも、かえれない」
魔王「国に帰りたければ…返してやるぞ」
偽姫「ううん。あんなとこ、もういや…」
魔王「…そうか」
偽姫「ここが、いい」
魔王「……」
偽姫「まおうと、いっしょが……いい」
魔王「……私は、魔王だぞ」
偽姫「しってるよ」
魔王「恐ろしくはないのか?」
偽姫「やさしいから、すき」
魔王「お前は本当に…変な奴だな」
偽姫「えへへ……」
魔王「眠ったか」
偽姫「……(スゥスゥ)」
魔王「もうお前に、人質としての価値は無くなった」
魔王「帰る家も、帰りを待つ家族も、お前にはない」
魔王「………ならば」
側近の部屋―
魔王「……どうだろう」
側近「ああ」
魔王「分かってくれ。頼む」
側近「…本当、最近あんたは冴えてるな。俺は何の異論もねえよ」
魔王「では」
側近「いいんじゃね?他の魔物も、姫に同情的だしな」
魔王「……感謝する」
次の日─
魔王「起きたか」
偽姫「うん……」
魔王「それでは、お前の処遇についてだが…」
偽姫「………ぅぐ」
魔王「聞く前に泣くな」
偽姫「ご…ごめんなさい……」
魔王「悪い話ではない。まあ、聞け」
偽姫「う、うん」
魔王「ここにいたいと、昨夜言ったな」
偽姫「……(コクリ)」
魔王「ならば、お前…魔王になる気はないか」
偽姫「…え」