魔王「今日も平和だ飯がうまい」 2/4

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次の日─

魔王「昨夜気付いたのだが、食事だけではまずいな」

姫「…?」

魔王「今日は部屋から出してやる」

姫「え」

魔王「勘違いするな、適度な運動をしないと体に障るだろう」

姫「え、え?」

魔王「ほら、行くぞ」

姫「う、ん」

魔王「……」

姫「……(キョロキョロ)」

魔王「……お」

姫「……(ビクッ)」

側近「……何をやってるんだあんたは」

魔王「仕事だ」

側近「俺には仲良く散歩してるようにしか見えないんだがなあ」

魔王「運動をさせなければ、弱ってしまうからな」

側近「で、手を繋ぐ必要は?」

魔王「逃げられると面倒だからだ」

側近(………まさか、こいつ本当に、ロリ…)

姫「………(コソコソ)」

魔王「さて、運動は終わりだ」

姫「……うん」

魔王「ちゃんと夕食を取ること。分かったな」

姫「……(コクコク)」

魔王「よし。では、また明日」

姫「あ、あの!」

魔王「何だ」

姫「ほ、ほんとに……まおう、なの?」

魔王「…?何を今更」

次の日─

魔王「それでな、側近が馬鹿なことに……」

姫「うん」

魔王「私は止めたのだが、あいつは致命的に頭が」

姫「うん」

ギィッ

側近「…何やってんだあんた」

魔王「む」

魔王「見ての通り、仕事だ」

側近「俺には仲良くお茶してるようにしか見えんが」

魔王「適度に間食を与えれば、より一層健康が保てるだろう」

側近「なんか釈然としねえ……」

魔王「こいつは昨日の夕食を残していた。全く…ちゃんと見張っておかねばな」

姫「…」

次の日─

側近「で、とうとうあんたの部屋で飼うことに……」

魔王「一々客間に行くのが面倒でな」

側近「じゃあ膝に乗せる意味は」

魔王「逃げないよう…こら、菓子をこぼすな」

姫「……ごめんなさい」

魔王(案外楽なものだな)

姫「……♪」

魔王(姫も健康そのものだし、人間の動きの知らせも入ってこない)

姫「……?」

魔王(一応仕事をしているから側近も文句を言わんし、これは良い)

姫「どうか……したの?」

魔王「いや。お前、ずっと元気でいろよ」

姫「う、うん!」

次の日―

魔王「側近!大変だ!」

側近「うわ?!な、なんだどうした」

魔王「姫が……姫が!」

側近「ま、まさか死んだのか?!」

魔王「熱を…………出した」

側近「はあ?」

魔王「なんだその反応は?!」

側近「…そんな取り乱すことか?」

魔王「私の飼育は完璧だったのだぞ!それが……それが!!」

側近「知らん知らん。あんたの魔法でぱっぱと治せばいいだろ」

魔王「…人間の治療など、やった試しがない」

側近「ああ……なるほど」

魔王「このままでは死んでしまう。どうすれば……」

側近「どうせ風邪か何かだろ。そんな悲観するなよ。人間用の薬とか探して来てやるから」

魔王「……すまん」

側近「いいってことよ。あんたは姫の看病を頼んだ」

魔王「勿論だ」

魔王「調子はどうだ?」

姫「う……ん」

魔王「果物は欲しいか?」

姫「……(フルフル)」

魔王「………そうか」

姫「……」

魔王「……」

姫「……(ケホケホ)」

魔王「……」

姫「……」

魔王「……」

姫「……(スゥ)」

魔王(人間とは…脆いものだな)

魔王(お前がそんな調子では、私は暇で仕方がない……)

魔王(死ぬなよ)

魔王(死なないでくれ)

魔王(頼む……)

次の日朝─

姫「……ふぁ」

魔王「……(スゥスゥ)」

姫「………あ」

魔王「……」

姫「……えへへ」

魔王「…う…ん」

姫「あ……」

魔王「なんだ…お前、もう起きていたのか」

姫「うん…お、おはよ」

魔王「お早う。調子はどうだ?」

姫「げんき」

魔王「そうか良かった。しかし油断するなよ、今日一日はまだ寝ておけ」

姫「うん」

姫「て」

魔王「?」

姫「ずっと、にぎってて、くれたの?」

魔王「ああ。それがどうかしたか?」

姫「ううん。なんでもない」

魔王「変な奴だな」

姫「えへへ……ありがと」

魔王「何故感謝する?」

魔王「そうだ。一つ聞いておきたいことがある」

姫「なに?」

魔王「お前の名は?」

姫「……ひめ」

魔王「違う。お前の、本当の名は?」

姫「………にせ、ひめ」

魔王「偽姫か。良い名だ」

偽姫「……しってたの?」

魔王「ああ」

偽姫「………」

魔王「まあ、どうでもいいんだ。人間の反応を見る限り、『姫を攫う』という目的は達成されているのだし」

偽姫「……ここに」

魔王「?」

偽姫「いても、いいの?」

魔王「そうでなければ、私が困る」

次の日─

魔王「すっかり元気になったな」

偽姫「うん!」

魔王「では、今日は久々に散歩でも」

バンッ!!

側近「大変だ魔王!!」

魔王「何だ騒がしい」

側近「あの国の奴等…姫を見捨てやがった!!」

魔王「……何?」

偽姫「え………」

側近「…姫の様子は?」

魔王「泣き疲れて眠っている」

側近「そりゃそうだろうな…実の親どころか、国自体に捨てられたんだし」

魔王「……姫は、我等に殺されたと、そう公表されたのだったな」

側近「ああ。一応攻め込む予定らしいが…あまり本気でもなさそうだ」

魔王「………」

魔王「実はな…あれは影武者だ」

側近「何?!先に言えよ!」

魔王「私も、つい先日知ったばかりだ」

側近「本当かあ…?」

魔王「影武者故、助け出す必要もないのだろう」

側近「つっても同族だろ…そんな簡単に見殺しにしていいのかよ」

魔王「人間とは……厄介な生き物だな」

ギィッ…

魔王「……目が覚めたか」

偽姫「ひっく……えぐ…」

魔王「ああ、泣くな泣くな」

偽姫「うぐっ…………う、ん」

魔王「よしよし、いい子だ」

偽姫「あの、ね」

魔王「ああ」

偽姫「ほんとの、おひめさまはね、ちょっとまえにね、なくなったの」

魔王「…ああ」

偽姫「かわりにね、そっくりなわたしが、かわれたの」

魔王「そうか。話してくれて、ありがとう」

偽姫「でも、もう……どこにも、かえれない」

魔王「国に帰りたければ…返してやるぞ」

偽姫「ううん。あんなとこ、もういや…」

魔王「…そうか」

偽姫「ここが、いい」

魔王「……」

偽姫「まおうと、いっしょが……いい」

魔王「……私は、魔王だぞ」

偽姫「しってるよ」

魔王「恐ろしくはないのか?」

偽姫「やさしいから、すき」

魔王「お前は本当に…変な奴だな」

偽姫「えへへ……」

魔王「眠ったか」

偽姫「……(スゥスゥ)」

魔王「もうお前に、人質としての価値は無くなった」

魔王「帰る家も、帰りを待つ家族も、お前にはない」

魔王「………ならば」

側近の部屋―

魔王「……どうだろう」

側近「ああ」

魔王「分かってくれ。頼む」

側近「…本当、最近あんたは冴えてるな。俺は何の異論もねえよ」

魔王「では」

側近「いいんじゃね?他の魔物も、姫に同情的だしな」

魔王「……感謝する」

次の日─

魔王「起きたか」

偽姫「うん……」

魔王「それでは、お前の処遇についてだが…」

偽姫「………ぅぐ」

魔王「聞く前に泣くな」

偽姫「ご…ごめんなさい……」

魔王「悪い話ではない。まあ、聞け」

偽姫「う、うん」

魔王「ここにいたいと、昨夜言ったな」

偽姫「……(コクリ)」

魔王「ならば、お前…魔王になる気はないか」

偽姫「…え」

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