側近「働かずに召し上がる食事は、そんなに美味なものですか?」
魔王「何を言う。我が城のシェフの腕は確かだぞ、不味いわけがないだろう」
側近「はあ…」
魔王「……何だ」
側近「いえいえ別にー」
魔王「…………明日から」
側近「はい?」
魔王「明日から本気を出す」
側近「……(チッ)」
魔王「……(ビクッ)」
魔王「というわけで、見ろ。本気を出してみた」
側近「うわあい綺麗に手入れされていますねえ」
魔王「ふっ……薔薇園の剪定など私にとっては朝飯前…ってどこに行く側近!」
側近「俺は仕事があるんです。下らない用事で呼びつけないでください」
魔王「…………」
側近「で、本日は…………」
魔王「うむ。部屋の掃除だ」
側近「……」
魔王「このように骨が折れるものだったのだな。メイド達の苦労がよく分かった…って、どうした側k」
側近「いい加減にしろこの駄目魔王があああ!!」
魔王「?!(ビクッ)」
側近「あんたの仕事は魔王だろうが!どこの世界に薔薇愛でて爽やかに汗流して掃除する魔王がいる?!」
魔王「ここに」
側近「うるせえ黙れ」
魔王「魔王に何だその言い種は。ちゃんと敬え」
側近「ちゃんと魔王らしい仕事をすればな」
側近「ったく……先代様は人間の村を焼いたり国を乗っ取ったり、色々手広くこなしておられたのに……跡継ぎのあんたがこれじゃあな」
魔王「父上はやり手だったからな」
側近「あんたも先代様を見習って、しっかり魔王を勤め上げろよ!」
魔王「嫌だ。手広くやり過ぎたせいで、父上は人間に討たれたのだぞ?」
側近「だからって何もしないのもどうかと思うがな」
魔王「む……」
側近「いいか魔王城警備員。あんたがそんなんじゃ、下に示しがつかない」
魔王「警備員……」
側近「今はまだ安心だが、その内魔王の座を狙う奴だって出てくるかも知れん。俺とか」
魔王「くっくっく……側近は面白いことを言うな」
側近(若干マジなんだがなあ……)
側近「……三日やる」
魔王「?」
側近「何か、魔王として名が通るようなデカイ仕事を考えろ。実現可能な範疇でな」
魔王「……私がか?というか、そもそも何でお前に命令され」
側近「出来なかった場合、ご自慢の薔薇園は焦土と化す」
魔王「くっ……人質とは卑怯な!!」
夜─
魔王「そう言われてもな……」
ペラッ
魔王「外に出るのは面倒だし」
ペラッ
魔王「かといって城で出来ることなどたかが知れている」
ペラッ
魔王「人質さえ取られていなければ、こんな無茶な要求……人質?」
ペラッ
魔王「…………?!」
魔王「これだ!」
朝─
魔王「早速良い案が浮かんだぞ側近!!」
側近「うわあ」
魔王「何だその目は。夜を徹して策を練った私に、労いの言葉はないのか」
側近「いや、だって早すぎるだろ…信用ならねえって」
魔王「ふっ…その減らず口、いつまで持つかな」
側近「一応聞いてやるわ。どんな案だよ」
魔王「おお。さる国の王族は特別な力を持っていてな。それが我等魔物には少々厄介故、この際潰してしまおうかと」
側近「そいつらを皆殺しにするだけか?そりゃ、派手だし魔王らしいが」
魔王「まあ最終的にはそのつもりだがな」
側近「?」
魔王「現在の国王には、まだ幼い一人娘がいるらしい」
側近「おう」
魔王「その姫を攫って来い」
側近「却下!!」
魔王「何故だ?!」
側近「確かにそれは犯罪だ。だがな!俺はロリペド野郎の邪な性癖には付き合ってられん!」
魔王「何を勘違いしているかは聞かぬが…姫は人質だ」
側近「…人質?」
魔王「餌とも言うな」
側近「性欲処理じゃ…」
魔王「そのような趣味はない」
魔王「姫を大々的に攫えば、きっと国軍は取り返そうとやっきになるだろう」
側近「まあ…そうだろうな」
魔王「姫はすぐには殺さず、人間どもをこちらに誘い出す餌とする」
側近「……で、俺たちはそいつらを」
魔王「私の悪名が各地に轟き、国が疲弊した頃を見計らい徹底的に叩き潰す」
側近「おお………」
魔王「長期戦にはなるが、魔王対人間という図式を作るには良い案だと思うのだが。どうだ?」
側近「…あんたが考えたにしてはまともだな。いや、正直見直したわ」
魔王「ふっ……私は魔王だぞ。見くびるな」
魔王(…『父上の遺した日記にあった計画を丸々拝借した』、などとは言えんな)
側近「よし!俺はこの計画、乗った!」
魔王「では……姫の件、頼まれてくれるか。」
側近「おう、折角あんたが出した計画だ。頓挫しねえよう、慎重に準備を始めるよ」
魔王「頼んだぞ」
側近「任しとけって!じゃあな!」
魔王(…誘拐が成功しなければ、そこでこの計画は終わり)
魔王(成功したとしても、城で人間どもが来るのを待つだけでいい)
魔王(あの国の軍がどれほど強大かは知らぬが、姫ばかりにそう力を裂けるはずもない)
魔王(すなわち……たまに来る人間を相手にするだけで、私の名は広まる)
魔王(どうせ側近が誘拐に成功するのも先の話だろう)
魔王(それまでは………警備員も悪くはない)
次の日─
側近「攫ってきたぞ」
魔王「なん、だと………?」
側近「いやあ、何かあの計画を聞いたら興奮しちまって。昨日の夜に行って来たんだ。早いほうがいいだろ?」
魔王「あ、ああ………」
側近「もう国中大騒ぎだぜ。近日中に軍が送られるって話だ」
魔王(あああああああああ)
魔王(ま…まあ、あの国からこの城まで、人間の足では一月は掛かる……つまりまだ私には暇が)
側近「いやー、あんたも早速仕事ができて良かったな」
魔王「は?」
側近「は、て。姫の面倒はあんたの仕事だから」
魔王「な、何だと?!」
側近「俺らは色々忙しくなるから、最悪餓死させかねん。計画じゃ、姫を殺しちゃまずいんだろ?」
魔王「ぐ……ぐぐ」
側近「客室に丁重に閉じ込めてるから、適当に飼ってくれ。じゃあまたなー」
魔王「お、おい側近!待て!」
魔王(側近は本気か…)
魔王(魔王が子守とはな……)
魔王(ああしかし!姫に死なれるとこの先色々と利用できなくなる!)
魔王(私の平和なニートタイムのためだ!少しの苦労は買ってやろうではないか!)
魔王(姫が何だ!人間など、適当に餌をやっていれば死ぬことはないだろう!)
客室─
ギィッ……
姫「ひ」
魔王「……?」
姫「あ、あ……」
魔王「お前」
姫「うう……」
魔王「姫か?」
姫「うあ……はい…」
魔王「そうか、姫か」
姫「あ、……あなた、は」
魔王「魔王だ」
姫「まお、う…?!」
魔王「…私が、恐ろしいか」
姫「こ………こわく、なんか、ないです!」
魔王「ふっ…そうか」
姫「ひっ」
魔王「では後ほど食事を運ばせる」
姫「……?」
魔王「よく食い、よく眠り、よく生きろ」
姫「…??」
魔王「またな」
ギイッ……
魔王「………」
魔王「あれは影武者か。王族の力が全く感じられん」
魔王「あの様子では、側近は気付いてはいないな」
魔王「……面白いし、気付くまで黙っているか」
次の日─
魔王「結局側近は気付かぬままか」
魔王「回りの者は多忙にしているが、私は姫の飼育だけ」
魔王「案外楽なものだな。餌を与え生死を確認するのみというのも」
魔王「さてと、姫は生きているかな」
ギィッ……
姫「ひっぐ……えう」
魔王「?!!」
姫「う…えぐ、あ、う」
魔王「お前…全く食事に手をつけていないではないか!」
姫「ひっ………!」
魔王「あ、ああすまん。そんなに怯えるな、寿命を縮めてしまうだろう」
魔王「…ほら、食え。口を開けろ」
姫「……(フルフル)」
魔王「くそ……どうすれば」
姫「………」
魔王「そうだ!」
姫「……?」
魔王「ほら、これならどうだ」
姫「…え」
魔王「わざわざ持ってきてやったのだ。ケーキなら、食えるだろう?」
姫「……」
魔王「食わんのか?子どもなら、甘いものが好きなはずだろう」
魔王「食ってくれ。お前に食ってもらわねば、私が困る」
姫「………(グー)」
魔王「ほれ」
姫「……(パク)」
魔王「よしよし、もっとあるぞ。沢山食え」
姫「……(コク)」
魔王「平らげてしまったな。これなら、普通の食事も食えるだろう」
姫「あ、あの」
魔王「何だ」
姫「あ……ううん」
魔王「変な奴だな」
姫「……」