魔王「今日も平和だ飯がうまい」 1/4

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側近「働かずに召し上がる食事は、そんなに美味なものですか?」

魔王「何を言う。我が城のシェフの腕は確かだぞ、不味いわけがないだろう」

側近「はあ…」

魔王「……何だ」

側近「いえいえ別にー」

魔王「…………明日から」

側近「はい?」

魔王「明日から本気を出す」

側近「……(チッ)」

魔王「……(ビクッ)」

魔王「というわけで、見ろ。本気を出してみた」

側近「うわあい綺麗に手入れされていますねえ」

魔王「ふっ……薔薇園の剪定など私にとっては朝飯前…ってどこに行く側近!」

側近「俺は仕事があるんです。下らない用事で呼びつけないでください」

魔王「…………」

側近「で、本日は…………」

魔王「うむ。部屋の掃除だ」

側近「……」

魔王「このように骨が折れるものだったのだな。メイド達の苦労がよく分かった…って、どうした側k」

側近「いい加減にしろこの駄目魔王があああ!!」

魔王「?!(ビクッ)」

側近「あんたの仕事は魔王だろうが!どこの世界に薔薇愛でて爽やかに汗流して掃除する魔王がいる?!」

魔王「ここに」

側近「うるせえ黙れ」

魔王「魔王に何だその言い種は。ちゃんと敬え」

側近「ちゃんと魔王らしい仕事をすればな」

側近「ったく……先代様は人間の村を焼いたり国を乗っ取ったり、色々手広くこなしておられたのに……跡継ぎのあんたがこれじゃあな」

魔王「父上はやり手だったからな」

側近「あんたも先代様を見習って、しっかり魔王を勤め上げろよ!」

魔王「嫌だ。手広くやり過ぎたせいで、父上は人間に討たれたのだぞ?」

側近「だからって何もしないのもどうかと思うがな」

魔王「む……」

側近「いいか魔王城警備員。あんたがそんなんじゃ、下に示しがつかない」

魔王「警備員……」

側近「今はまだ安心だが、その内魔王の座を狙う奴だって出てくるかも知れん。俺とか」

魔王「くっくっく……側近は面白いことを言うな」

側近(若干マジなんだがなあ……)

側近「……三日やる」

魔王「?」

側近「何か、魔王として名が通るようなデカイ仕事を考えろ。実現可能な範疇でな」

魔王「……私がか?というか、そもそも何でお前に命令され」

側近「出来なかった場合、ご自慢の薔薇園は焦土と化す」

魔王「くっ……人質とは卑怯な!!」

夜─

魔王「そう言われてもな……」

ペラッ

魔王「外に出るのは面倒だし」

ペラッ

魔王「かといって城で出来ることなどたかが知れている」

ペラッ

魔王「人質さえ取られていなければ、こんな無茶な要求……人質?」

ペラッ

魔王「…………?!」

魔王「これだ!」

朝─

魔王「早速良い案が浮かんだぞ側近!!」

側近「うわあ」

魔王「何だその目は。夜を徹して策を練った私に、労いの言葉はないのか」

側近「いや、だって早すぎるだろ…信用ならねえって」

魔王「ふっ…その減らず口、いつまで持つかな」

側近「一応聞いてやるわ。どんな案だよ」

魔王「おお。さる国の王族は特別な力を持っていてな。それが我等魔物には少々厄介故、この際潰してしまおうかと」

側近「そいつらを皆殺しにするだけか?そりゃ、派手だし魔王らしいが」

魔王「まあ最終的にはそのつもりだがな」

側近「?」

魔王「現在の国王には、まだ幼い一人娘がいるらしい」

側近「おう」

魔王「その姫を攫って来い」

側近「却下!!」

魔王「何故だ?!」

側近「確かにそれは犯罪だ。だがな!俺はロリペド野郎の邪な性癖には付き合ってられん!」

魔王「何を勘違いしているかは聞かぬが…姫は人質だ」

側近「…人質?」

魔王「餌とも言うな」

側近「性欲処理じゃ…」

魔王「そのような趣味はない」

魔王「姫を大々的に攫えば、きっと国軍は取り返そうとやっきになるだろう」

側近「まあ…そうだろうな」

魔王「姫はすぐには殺さず、人間どもをこちらに誘い出す餌とする」

側近「……で、俺たちはそいつらを」

魔王「私の悪名が各地に轟き、国が疲弊した頃を見計らい徹底的に叩き潰す」

側近「おお………」

魔王「長期戦にはなるが、魔王対人間という図式を作るには良い案だと思うのだが。どうだ?」

側近「…あんたが考えたにしてはまともだな。いや、正直見直したわ」

魔王「ふっ……私は魔王だぞ。見くびるな」

魔王(…『父上の遺した日記にあった計画を丸々拝借した』、などとは言えんな)

側近「よし!俺はこの計画、乗った!」

魔王「では……姫の件、頼まれてくれるか。」

側近「おう、折角あんたが出した計画だ。頓挫しねえよう、慎重に準備を始めるよ」

魔王「頼んだぞ」

側近「任しとけって!じゃあな!」

魔王(…誘拐が成功しなければ、そこでこの計画は終わり)

魔王(成功したとしても、城で人間どもが来るのを待つだけでいい)

魔王(あの国の軍がどれほど強大かは知らぬが、姫ばかりにそう力を裂けるはずもない)

魔王(すなわち……たまに来る人間を相手にするだけで、私の名は広まる)

魔王(どうせ側近が誘拐に成功するのも先の話だろう)

魔王(それまでは………警備員も悪くはない)

次の日─

側近「攫ってきたぞ」

魔王「なん、だと………?」

側近「いやあ、何かあの計画を聞いたら興奮しちまって。昨日の夜に行って来たんだ。早いほうがいいだろ?」

魔王「あ、ああ………」

側近「もう国中大騒ぎだぜ。近日中に軍が送られるって話だ」

魔王(あああああああああ)

魔王(ま…まあ、あの国からこの城まで、人間の足では一月は掛かる……つまりまだ私には暇が)

側近「いやー、あんたも早速仕事ができて良かったな」

魔王「は?」

側近「は、て。姫の面倒はあんたの仕事だから」

魔王「な、何だと?!」

側近「俺らは色々忙しくなるから、最悪餓死させかねん。計画じゃ、姫を殺しちゃまずいんだろ?」

魔王「ぐ……ぐぐ」

側近「客室に丁重に閉じ込めてるから、適当に飼ってくれ。じゃあまたなー」

魔王「お、おい側近!待て!」

魔王(側近は本気か…)

魔王(魔王が子守とはな……)

魔王(ああしかし!姫に死なれるとこの先色々と利用できなくなる!)

魔王(私の平和なニートタイムのためだ!少しの苦労は買ってやろうではないか!)

魔王(姫が何だ!人間など、適当に餌をやっていれば死ぬことはないだろう!)

客室─

ギィッ……

姫「ひ」

魔王「……?」

姫「あ、あ……」

魔王「お前」

姫「うう……」

魔王「姫か?」

姫「うあ……はい…」

魔王「そうか、姫か」

姫「あ、……あなた、は」

魔王「魔王だ」

姫「まお、う…?!」

魔王「…私が、恐ろしいか」

姫「こ………こわく、なんか、ないです!」

魔王「ふっ…そうか」

姫「ひっ」

魔王「では後ほど食事を運ばせる」

姫「……?」

魔王「よく食い、よく眠り、よく生きろ」

姫「…??」

魔王「またな」

ギイッ……

魔王「………」

魔王「あれは影武者か。王族の力が全く感じられん」

魔王「あの様子では、側近は気付いてはいないな」

魔王「……面白いし、気付くまで黙っているか」

次の日─

魔王「結局側近は気付かぬままか」

魔王「回りの者は多忙にしているが、私は姫の飼育だけ」

魔王「案外楽なものだな。餌を与え生死を確認するのみというのも」

魔王「さてと、姫は生きているかな」

ギィッ……

姫「ひっぐ……えう」

魔王「?!!」

姫「う…えぐ、あ、う」

魔王「お前…全く食事に手をつけていないではないか!」

姫「ひっ………!」

魔王「あ、ああすまん。そんなに怯えるな、寿命を縮めてしまうだろう」

魔王「…ほら、食え。口を開けろ」

姫「……(フルフル)」

魔王「くそ……どうすれば」

姫「………」

魔王「そうだ!」

姫「……?」

魔王「ほら、これならどうだ」

姫「…え」

魔王「わざわざ持ってきてやったのだ。ケーキなら、食えるだろう?」

姫「……」

魔王「食わんのか?子どもなら、甘いものが好きなはずだろう」

魔王「食ってくれ。お前に食ってもらわねば、私が困る」

姫「………(グー)」

魔王「ほれ」

姫「……(パク)」

魔王「よしよし、もっとあるぞ。沢山食え」

姫「……(コク)」

魔王「平らげてしまったな。これなら、普通の食事も食えるだろう」

姫「あ、あの」

魔王「何だ」

姫「あ……ううん」

魔王「変な奴だな」

姫「……」

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