魔王「私には後継者…つまり、子供がいない」
偽姫「……」
魔王「お前さえ良ければ……私の跡継ぎとして、城に迎えてやろう。どうだ?」
偽姫「そ、それ…って」
魔王「魔王の父親は、嫌か?」
偽姫「う………ううん、すき」
魔王「決まりだ。よろしく、娘」
偽姫「よ、よろしく!」
数日後─
偽姫「……(キョロキョロ)」
側近「お、偽姫ちゃん」
偽姫「そっきんさん、おはようございます」
側近「一人でどうしたんだ。魔王は一緒じゃないのか?」
偽姫「さがしてるの。そっきんさん、みなかった?」
側近「ああ…薔薇園じゃねえかな。あいつ他に行くとこねえし」
偽姫「ありがとー」
メイド「あら。お早うございます、姫様」
偽姫「おはよーございます」
メイド「魔王様はご一緒ではないのですか?」
偽姫「これから、むかえにいくの」
メイド「そうですか。お気をつけて」
偽姫「うん。いってきます!」
魔物「よう、姫さん」
偽姫「おはよーございます!」
魔物「今日は珍しく魔王様を連れてねえんだな」
偽姫「まおう、まいごなの」
魔物「そりゃ大変だ。魔王様を見つけたら、オレが捕まえておいてやるよ」
偽物「ありがとう。またねー」
薔薇園─
偽姫「まおう!」
魔王「む」
偽姫「おはよ!」
魔王「お早う。もう少し寝ていても良かったんだぞ」
偽姫「はやくおきたら、いっぱいあそべるもん」
偽姫「すごいねー。きれいだねー」
魔王「薔薇か」
偽姫「うん!おせわ、おてつだいしてもいい?」
魔王「では、このジョウロで水をやってくれ」
偽姫「わ、わわ…」
魔王「重いか?やめるか?」
偽姫「がんばる!」
魔王「そうか。頑張れ」
側近「よう。やっぱここか」
魔王「何か用か?」
側近「いや偽姫ちゃんの様子を見に来ただけだ」
魔王「あの子は向こうで水遣りに燃えている」
側近「へー……(ニヤニヤ)」
魔王「何か言いたそうだな」
側近「いや。あんた、この薔薇園他の誰にも今まで弄らせた事ねえよな」
魔王「あの子は特別だ」
側近「しかし偽姫ちゃんは人気者だねー。皆、あの子の話で持ちきりだ」
魔王「最近、すっかり魔物にも慣れてしまったしな」
側近「いやー、もうあんたより求心力あるんじゃね?」
魔王「ふっ…当然だ。私の娘だぞ」
側近「あ、今の褒め言葉で捉えるんだ」
偽姫「まおう!」
魔王「おお、終わったか」
偽姫「うん!がんばった!」
魔王「よしよし、偉いぞ(ナデナデ)」
側近「偉いねー」
偽姫「えへへ」
偽姫「わたしね、ここ、だいすき」
魔王「そうか。気に入ってもらえて、良かった」
偽姫「ばらえんも、おしろも、みんなも、まおうも、ぜんぶすき」
魔王「そうかそうか(ナデナデ)」
偽姫「でも、いちばんすきなのは、まおう!」
魔王「ははは、そうか(ナデナデナデナデ)」
側近(うわあ)
一月後─
魔王「とうとう、この時が来たか」
側近「ああ。遂に昨日軍が出発した」
魔王「……」
側近「俺らの準備は既に万端だ。いつ攻められても」
魔王「いや」
側近「?」
魔王「『攻められる』のではない。我等も、『攻める』」
側近「…ほぉ」
側近「随分とやる気だな」
魔王「奴等は魔王の娘を虐げた。その報いを、受けねばならん」
側近「じゃあ…」
魔王「軍を潰してから、直にあの国を攻める。明日より、我等も出るぞ」
側近「了解。こりゃ忙しくなるな!」
魔王「ああ……」
側近「浮かない顔だな。どうした」
魔王「偽姫としばらく会えなくなると思うと…な」
側近「なあに、たかが人間だ。俺らが本気になりゃ数日で片がつくだろ」
魔王「む……それもそうだな」
側近「ま、気楽にやろうぜ、魔王様」
魔王「うむ」
魔王の部屋─
ギィッ…
魔王「ただいま」
偽姫「おかえりなさい!おはなし、おわったの?」
魔王「ああ……先に、寝ていても良かったのだぞ」
偽姫「だめ!いっしょにねるの!」
魔王「全く…頑固だなお前は」
偽姫「こればっかりはゆずれません!」
魔王「少し話がある」
偽姫「なあに?」
魔王「明日からしばらく、私は帰らない」
偽姫「………たたかう、の?」
魔王「ああ」
偽姫「……」
魔王「心配するな。お前を苛めた奴等に、少し灸を据えるだけだ」
偽姫「けがとか……しちゃ、やだよ」
魔王「私は魔王だ。怪我などせん」
偽姫「ちゃんとかえってくる?」
魔王「できるだけ、早く」
偽姫「やくそくだよ」
魔王「ああ。約束だ」
偽姫「おやすみ、おとーさん」
魔王「お休み、娘」
偽姫「おしごと、がんばってね」
魔王「お前のために、父は頑張るよ」
……────
───………
魔王「………ふああ」
側近「随分と余裕ですねー、居眠りとは」
魔王「…昨夜も戦略を練っていて、寝不足なのだ。仕方あるまい」
側近「いくら眠くても、敵の軍隊と睨み合う最中で寝ますか」
魔王「構わんだろう。あちらは攻めあぐねているのだから」
魔王「しかし睨み合って既に数日か」
側近「流石に、これだけの魔物を連れてちゃ人間どもも必要以上にビビリますよ」
魔王「ほぼ全戦力だからな。しかし、あちらも数が多い…」
側近「ところで、いい作戦は思いつきましたか?」
魔王「む……難しいな、こういう事は」
側近「まー、ゆっくりやりましょう。時間はあるんですし」
魔王「………」
魔王「……おい」
側近「何でしょう、魔王様」
魔王「お前、普通に喋っても良いのだぞ」
側近「俺が魔王様にタメ口きいてちゃ、士気に関わりますからね」
魔王「そうかもしれんが………正直慣れんな」
側近「まあ、俺もあんたを魔王と認めているんです」
魔王「……」
側近「俺だけじゃない。皆、魔王様を信じて、ここまで来たんです」
魔王「……ありがとう」
側近「ははは、礼は全部終わった後に頼みますよ」
魔王「そうだ、一応作戦は出来たんだ」
側近「おーおー。どんなのです?」
魔王「幸い、私は見た限りでは人間と区別がつかない」
側近「………はあ」
魔王「というわけで、私一人敵軍に潜り込み、機を見て一暴れ」
側近「却下!!」
魔王「何故だ?!」
側近「あんたにそんな危ない真似させられるか!」
魔王「私は魔王だぞ、心配はいらぬ」
側近「怪我でもされちゃ俺の株が落ちるんだよ!!第一、他の魔物も認めねえからな!」
魔王「む………過保護だな」
側近「いいから大将は大将らしく、頭だけ使ってくれ。頼むから」
魔王(…思わず素になる程、嫌なのか)
側近「てめえ!!結局一人で叩き潰しやがって!!!!」
魔王「…上手くいったのだから、良いだろう」
側近「いいから反省しろ!二度とこんな危ない真似するんじゃねえぞ?!!」
魔王「確かに……私にも至らぬ点はあった」
側近「お、珍しく殊勝じゃねえか…」
魔王「油断して、少し服が汚れてしまった。今後の反省点だな」
側近「てぇんめええええええええええ!!!!!」
魔王「しかし、これであの国までの障害物は取り払われた」
側近「ま……まあ、そうだがよ」
魔王「我等が悲願の成就のためだ、少しの無茶は許せ」
側近「………無茶っつーか…単に頭に血が登ってるだけだろ」
魔王「……」
側近「焦るのも分かる。あんたが、魔物を傷つけたくない気持ちも分かる」
魔王「……」
側近「だがな、俺たちもあんたに何かあったら、後悔どころじゃあ済まん」
魔王「………ああ」
側近「分かってくれよ。あんたは俺達の王なんだからな」
魔王「王……か」
側近「まあ、ここまで来たら勝利は目前だ。もうちょっと気楽に行こうぜ、って話だよ」
魔王「うむ」
側近「なあ。全部終わったら、したいこととかあるのか?」
魔王「ふっ……聞いて驚くな」
側近「何だよ勿体ぶって」
魔王「一緒に、歩く」
側近「……」
魔王「一緒に茶を飲む」
魔王「一緒に食事を取る」
魔王「一緒に薔薇園を眺める」
魔王「一緒に眠る」
魔王「どうだ」
側近「それはまた……『日常』だな」
魔王「ふっ……素晴らしいだろう」
側近「ああ。早く叶うといいな」
魔王「そのための戦いだ」
魔物「よお、魔王様」
魔王「おお。調子はどうだ?」
魔物「万全ですよ。とっととオレらも戦いに参加させてくださいよ」
魔王「まだ時期ではない。焦らず機を待て」
魔物「魔王様にゃ言われたくないね」
魔王「む……」
魔物「しかし魔王様も立派になったもんだね」
魔王「そうか?」
魔物「オレはあんたがちっちぇえ頃から知ってるからな。よく分かるよ」
魔王「ああ………」
魔物「先代様も、今のあんたを見れば喜んでくれるはずさ」
魔王「…そうだと、良いのだがな」
某国王都付近─
魔王「ふむ…静かだな」
側近「一般の住民は移住したって話だ」
魔王「では、中にいるのは」
側近「兵士と……国王だよ」
魔王「国王か………」
魔王「……っく」
側近「?」
魔王「く……く…ふははははははは!!!」
側近「お、おいどうした」
魔王「これが笑わずにいられるか側近よ!」
魔王「我が復讐が!我が悲願が!目と鼻の先にあるのだぞ!!」
側近「へいへい……落ち着けよ。ったく…不安だ……」
魔王「安心しろ。ちゃんと、私の役目と皆の役目はわきまえている」
側近「本当だろうな?流石にこればっかりは、あんたに任せるしかないんだからな」
魔王「分かっている。失敗は、許されないのだから」
側近「……最後の仕上げだ。頼む」
魔王「ああ」
魔王「聞け!魔物達よ!!」
魔王「遂にこの日がやって来た!」
魔王「我等が目的はただ一つ!」
魔王「我等が願いはただ一つ!」
魔王「我等が誇りを汚した人間どもに死を!!」
魔王「そして………我等が誇りを取り戻すために!!」
魔王「行け!!!」
ウォオオオオオオオォオオオッ──!!
側近「……全面戦争の開始、か」
魔王「ああ。しかし、それもすぐ終わる。終わらせる」
側近「気をつけろよ」
魔王「任せておけ」
側近「………一緒に行ってやれなくて、すまない」
魔王「気にするな。魔物のお前を連れてはいけないからな」
??「た、たすけて!助けてください!」
兵士1「な!まだ住民が残っていたのか?!」
??「ま、魔物が来る!!早く中に!中に入れて下さい!!」
兵士1「待ってろ!今門を開けさせる!!」
兵士2「ま、待て早まるな!!本当にあれは人g」
王城─
魔王「ご苦労」
兵士29「ぐあ?!」
兵士30「ぎゃあああああ!!」
兵士31「た、たすけ」
兵士32「ひ、ひあああああああ?!!!」
魔王「………」