魔王「今日も平和だ飯がうまい」 3/4

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魔王「私には後継者…つまり、子供がいない」

偽姫「……」

魔王「お前さえ良ければ……私の跡継ぎとして、城に迎えてやろう。どうだ?」

偽姫「そ、それ…って」

魔王「魔王の父親は、嫌か?」

偽姫「う………ううん、すき」

魔王「決まりだ。よろしく、娘」

偽姫「よ、よろしく!」

数日後─

偽姫「……(キョロキョロ)」

側近「お、偽姫ちゃん」

偽姫「そっきんさん、おはようございます」

側近「一人でどうしたんだ。魔王は一緒じゃないのか?」

偽姫「さがしてるの。そっきんさん、みなかった?」

側近「ああ…薔薇園じゃねえかな。あいつ他に行くとこねえし」

偽姫「ありがとー」

メイド「あら。お早うございます、姫様」

偽姫「おはよーございます」

メイド「魔王様はご一緒ではないのですか?」

偽姫「これから、むかえにいくの」

メイド「そうですか。お気をつけて」

偽姫「うん。いってきます!」

魔物「よう、姫さん」

偽姫「おはよーございます!」

魔物「今日は珍しく魔王様を連れてねえんだな」

偽姫「まおう、まいごなの」

魔物「そりゃ大変だ。魔王様を見つけたら、オレが捕まえておいてやるよ」

偽物「ありがとう。またねー」

薔薇園─

偽姫「まおう!」

魔王「む」

偽姫「おはよ!」

魔王「お早う。もう少し寝ていても良かったんだぞ」

偽姫「はやくおきたら、いっぱいあそべるもん」

偽姫「すごいねー。きれいだねー」

魔王「薔薇か」

偽姫「うん!おせわ、おてつだいしてもいい?」

魔王「では、このジョウロで水をやってくれ」

偽姫「わ、わわ…」

魔王「重いか?やめるか?」

偽姫「がんばる!」

魔王「そうか。頑張れ」

側近「よう。やっぱここか」

魔王「何か用か?」

側近「いや偽姫ちゃんの様子を見に来ただけだ」

魔王「あの子は向こうで水遣りに燃えている」

側近「へー……(ニヤニヤ)」

魔王「何か言いたそうだな」

側近「いや。あんた、この薔薇園他の誰にも今まで弄らせた事ねえよな」

魔王「あの子は特別だ」

側近「しかし偽姫ちゃんは人気者だねー。皆、あの子の話で持ちきりだ」

魔王「最近、すっかり魔物にも慣れてしまったしな」

側近「いやー、もうあんたより求心力あるんじゃね?」

魔王「ふっ…当然だ。私の娘だぞ」

側近「あ、今の褒め言葉で捉えるんだ」

偽姫「まおう!」

魔王「おお、終わったか」

偽姫「うん!がんばった!」

魔王「よしよし、偉いぞ(ナデナデ)」

側近「偉いねー」

偽姫「えへへ」

偽姫「わたしね、ここ、だいすき」

魔王「そうか。気に入ってもらえて、良かった」

偽姫「ばらえんも、おしろも、みんなも、まおうも、ぜんぶすき」

魔王「そうかそうか(ナデナデ)」

偽姫「でも、いちばんすきなのは、まおう!」

魔王「ははは、そうか(ナデナデナデナデ)」

側近(うわあ)

一月後─

魔王「とうとう、この時が来たか」

側近「ああ。遂に昨日軍が出発した」

魔王「……」

側近「俺らの準備は既に万端だ。いつ攻められても」

魔王「いや」

側近「?」

魔王「『攻められる』のではない。我等も、『攻める』」

側近「…ほぉ」

側近「随分とやる気だな」

魔王「奴等は魔王の娘を虐げた。その報いを、受けねばならん」

側近「じゃあ…」

魔王「軍を潰してから、直にあの国を攻める。明日より、我等も出るぞ」

側近「了解。こりゃ忙しくなるな!」

魔王「ああ……」

側近「浮かない顔だな。どうした」

魔王「偽姫としばらく会えなくなると思うと…な」

側近「なあに、たかが人間だ。俺らが本気になりゃ数日で片がつくだろ」

魔王「む……それもそうだな」

側近「ま、気楽にやろうぜ、魔王様」

魔王「うむ」

魔王の部屋─

ギィッ…

魔王「ただいま」

偽姫「おかえりなさい!おはなし、おわったの?」

魔王「ああ……先に、寝ていても良かったのだぞ」

偽姫「だめ!いっしょにねるの!」

魔王「全く…頑固だなお前は」

偽姫「こればっかりはゆずれません!」

魔王「少し話がある」

偽姫「なあに?」

魔王「明日からしばらく、私は帰らない」

偽姫「………たたかう、の?」

魔王「ああ」

偽姫「……」

魔王「心配するな。お前を苛めた奴等に、少し灸を据えるだけだ」

偽姫「けがとか……しちゃ、やだよ」

魔王「私は魔王だ。怪我などせん」

偽姫「ちゃんとかえってくる?」

魔王「できるだけ、早く」

偽姫「やくそくだよ」

魔王「ああ。約束だ」

偽姫「おやすみ、おとーさん」

魔王「お休み、娘」

偽姫「おしごと、がんばってね」

魔王「お前のために、父は頑張るよ」

……────

───………

魔王「………ふああ」

側近「随分と余裕ですねー、居眠りとは」

魔王「…昨夜も戦略を練っていて、寝不足なのだ。仕方あるまい」

側近「いくら眠くても、敵の軍隊と睨み合う最中で寝ますか」

魔王「構わんだろう。あちらは攻めあぐねているのだから」

魔王「しかし睨み合って既に数日か」

側近「流石に、これだけの魔物を連れてちゃ人間どもも必要以上にビビリますよ」

魔王「ほぼ全戦力だからな。しかし、あちらも数が多い…」

側近「ところで、いい作戦は思いつきましたか?」

魔王「む……難しいな、こういう事は」

側近「まー、ゆっくりやりましょう。時間はあるんですし」

魔王「………」

魔王「……おい」

側近「何でしょう、魔王様」

魔王「お前、普通に喋っても良いのだぞ」

側近「俺が魔王様にタメ口きいてちゃ、士気に関わりますからね」

魔王「そうかもしれんが………正直慣れんな」

側近「まあ、俺もあんたを魔王と認めているんです」

魔王「……」

側近「俺だけじゃない。皆、魔王様を信じて、ここまで来たんです」

魔王「……ありがとう」

側近「ははは、礼は全部終わった後に頼みますよ」

魔王「そうだ、一応作戦は出来たんだ」

側近「おーおー。どんなのです?」

魔王「幸い、私は見た限りでは人間と区別がつかない」

側近「………はあ」

魔王「というわけで、私一人敵軍に潜り込み、機を見て一暴れ」

側近「却下!!」

魔王「何故だ?!」

側近「あんたにそんな危ない真似させられるか!」

魔王「私は魔王だぞ、心配はいらぬ」

側近「怪我でもされちゃ俺の株が落ちるんだよ!!第一、他の魔物も認めねえからな!」

魔王「む………過保護だな」

側近「いいから大将は大将らしく、頭だけ使ってくれ。頼むから」

魔王(…思わず素になる程、嫌なのか)

側近「てめえ!!結局一人で叩き潰しやがって!!!!」

魔王「…上手くいったのだから、良いだろう」

側近「いいから反省しろ!二度とこんな危ない真似するんじゃねえぞ?!!」

魔王「確かに……私にも至らぬ点はあった」

側近「お、珍しく殊勝じゃねえか…」

魔王「油断して、少し服が汚れてしまった。今後の反省点だな」

側近「てぇんめええええええええええ!!!!!」

魔王「しかし、これであの国までの障害物は取り払われた」

側近「ま……まあ、そうだがよ」

魔王「我等が悲願の成就のためだ、少しの無茶は許せ」

側近「………無茶っつーか…単に頭に血が登ってるだけだろ」

魔王「……」

側近「焦るのも分かる。あんたが、魔物を傷つけたくない気持ちも分かる」

魔王「……」

側近「だがな、俺たちもあんたに何かあったら、後悔どころじゃあ済まん」

魔王「………ああ」

側近「分かってくれよ。あんたは俺達の王なんだからな」

魔王「王……か」

側近「まあ、ここまで来たら勝利は目前だ。もうちょっと気楽に行こうぜ、って話だよ」

魔王「うむ」

側近「なあ。全部終わったら、したいこととかあるのか?」

魔王「ふっ……聞いて驚くな」

側近「何だよ勿体ぶって」

魔王「一緒に、歩く」

側近「……」

魔王「一緒に茶を飲む」

魔王「一緒に食事を取る」

魔王「一緒に薔薇園を眺める」

魔王「一緒に眠る」

魔王「どうだ」

側近「それはまた……『日常』だな」

魔王「ふっ……素晴らしいだろう」

側近「ああ。早く叶うといいな」

魔王「そのための戦いだ」

魔物「よお、魔王様」

魔王「おお。調子はどうだ?」

魔物「万全ですよ。とっととオレらも戦いに参加させてくださいよ」

魔王「まだ時期ではない。焦らず機を待て」

魔物「魔王様にゃ言われたくないね」

魔王「む……」

魔物「しかし魔王様も立派になったもんだね」

魔王「そうか?」

魔物「オレはあんたがちっちぇえ頃から知ってるからな。よく分かるよ」

魔王「ああ………」

魔物「先代様も、今のあんたを見れば喜んでくれるはずさ」

魔王「…そうだと、良いのだがな」

某国王都付近─

魔王「ふむ…静かだな」

側近「一般の住民は移住したって話だ」

魔王「では、中にいるのは」

側近「兵士と……国王だよ」

魔王「国王か………」

魔王「……っく」

側近「?」

魔王「く……く…ふははははははは!!!」

側近「お、おいどうした」

魔王「これが笑わずにいられるか側近よ!」

魔王「我が復讐が!我が悲願が!目と鼻の先にあるのだぞ!!」

側近「へいへい……落ち着けよ。ったく…不安だ……」

魔王「安心しろ。ちゃんと、私の役目と皆の役目はわきまえている」

側近「本当だろうな?流石にこればっかりは、あんたに任せるしかないんだからな」

魔王「分かっている。失敗は、許されないのだから」

側近「……最後の仕上げだ。頼む」

魔王「ああ」

魔王「聞け!魔物達よ!!」

魔王「遂にこの日がやって来た!」

魔王「我等が目的はただ一つ!」

魔王「我等が願いはただ一つ!」

魔王「我等が誇りを汚した人間どもに死を!!」

魔王「そして………我等が誇りを取り戻すために!!」

魔王「行け!!!」

ウォオオオオオオオォオオオッ──!!

側近「……全面戦争の開始、か」

魔王「ああ。しかし、それもすぐ終わる。終わらせる」

側近「気をつけろよ」

魔王「任せておけ」

側近「………一緒に行ってやれなくて、すまない」

魔王「気にするな。魔物のお前を連れてはいけないからな」

??「た、たすけて!助けてください!」

兵士1「な!まだ住民が残っていたのか?!」

??「ま、魔物が来る!!早く中に!中に入れて下さい!!」

兵士1「待ってろ!今門を開けさせる!!」

兵士2「ま、待て早まるな!!本当にあれは人g」

王城─

魔王「ご苦労」

兵士29「ぐあ?!」

兵士30「ぎゃあああああ!!」

兵士31「た、たすけ」

兵士32「ひ、ひあああああああ?!!!」

魔王「………」

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