僧侶「朝起きたらみんながいなかったです」 2/5

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―――町長の家

町長「まあ、座りなさい」

僧侶「失礼します」

町長「あの宿屋の火事。原因は貴方と聞いたが?」

僧侶「あ、えと……それは……」

町長「どうして燃やしたのですかな?」

僧侶「ふ、不可抗力です……」

町長「―――何かされたわけではないのですかな?」

僧侶「え……?いえいえ、私は昨日からあの宿屋で働かせてもらうことになって……」

町長「そうか……まだ、被害には遭われてなかったと。では、偶然か」

僧侶「あの……どういうことですか?」

町長「うむ……実はあの店主はな、この辺りの魔物が凶暴で傷つく旅人が多いのを良いことによからぬことを繰り返していたんじゃ」

僧侶「よからぬこと?」

町長「若い娘の旅人には無料で泊らせてやるといって、猥褻なことをしておったらしい」

僧侶「そ、そうなんですか!?」

町長「うむ。もう何人もそういったことでわしのところにきておってな」

僧侶「わ、悪い人だったんですね」

町長「昨日、証拠を見つけたんで今日辺りに町民総出で問い詰めてやろうと考えていたが、今朝の火事だ」

僧侶「す、すいません……」

町長「いやいや、責めているわけではない。むしろ感謝しておる」

僧侶「え?」

町長「良い薬になっただろうて。貴女は街の恩人じゃ。今日はここに泊っていきなさい」

―――街中

僧侶「……うーん、よかったのでしょうか……」

男性「あ、僧侶さん!」

僧侶「はい?」

男性「俺もうすかっとしましたよ!!」

僧侶「はい?」

女性「あの宿屋の所為でこの街の品位が疑われてたんですよ?」

僧侶「は、はい」

男性「そーそー、街の評判は本当に悪くなる一方だったからな。でも、僧侶さんのおかげでもう安心ですよ!」

僧侶「そ、そうですか。よかったです」

女性「僧侶さんはいつまでこの街にいるんですか?できれば、もうずっと居てほしいってみんなで話してたんです」

僧侶「えと……まだ、決めてません……」

男性「まあ、ゆっくりしていってください。あ、働きたいなら俺の道具屋で働いてもらってもいいですよ?」

僧侶「えぇ!?」

女性「あ、私の経営している酒場でもいいですよ!僧侶さんなら大歓迎です!!」

―――夜

僧侶「はへぇ……」

町長「おやおや、どうなされた?」

僧侶「それが、色んな方に「私のところで働いてくれ」って言われて……」

町長「ほう……それで嬉しい溜息を?」

僧侶「まあ、疎まれるよりは全然嬉しいですけど……正直、どこに行こうか迷います」

町長「僧侶さんはこの街にずっと居てくださるのか?」

僧侶「それは……わかりません。とりあえず、ここで勇者さんが迎えに来るのを待とうと思います」

町長「そうかそうか」

僧侶「それにしても……うーん……」

町長「道具屋がいいのでは?」

僧侶「道具屋ですか?」

町長「殆どの客は町民だし、冒険者もそこまで接客対応に文句はつけてこないからの」

僧侶「なるほど……」

僧侶「道具屋かぁ」

―――翌日 道具屋

僧侶「今日からお世話になりますすす!!!」

男性「あはは、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」

僧侶「そ、そうですか?」

男性「じゃあ、まずは店で取り扱っている商品から覚えてもらいますね」

僧侶「は、はい!」

男性「ところで、道具屋で買い物はしたことありますよね?」

僧侶「もちろんです!」

男性「実は冒険者用と町民用に品物を分けているってご存知でした?」

僧侶「え?そうなんですか?」

男性「ここは道具屋ですから日用品も置いています。消え去り草とか毒消し草なんて一般家庭ではそうそう使いませんから」

僧侶「な、なるほど、言われてみれば」

男性「ですから、意外と多いんですよ。しっかりとどこに何があるのか、覚えてくださいね」

僧侶「はい!一生懸命だんばります!」

男性「噛んでるけど……まあ、気合いたっぷりでいいか」

客「こんにちはー」

僧侶「あ、いら、いらっしゃいまっす!」

客「あら、新人さん?」

男性「ほら昨日、宿屋を燃やした」

客「ああ、僧侶さん?いやぁ、エプロン姿だとわかなかったわ」

僧侶「えへへ」

客「じゃあ、えっとね、お醤油とマヨネーズと、あとサバとお米5キロ、それからお茶の葉も貰える?」

僧侶「え?えと……醤油にマヨネーズに……」

男性「うんうん」

客「大丈夫なの?」

男性「懸命さは伝わってくるでしょ?」

客「まあ、ね」

僧侶「サバ……に……お米……おも……」

男性「あ……そんないっぺんに持たなくても―――」

僧侶「―――あ!?きゃぁぁぁああああ!!!!(ガッシャーン!!」

客「あらら……」

男性「大丈夫!?」

僧侶「うええ……お醤油とマヨネーズが顔に……くさいです……」

男性「あーあー、服も汚れちゃったな」

僧侶「すいません……」

男性「とりあえず、着替えてきて。片づけはその後でいいから」

僧侶「すいません……本当にすいません」

客「大丈夫?」

僧侶「は、はい……」

男性「あ、すいません。これご注文の品です」

客「ありがと。またくるね」

男性「いつもありがとうございます」

男性「―――さてと、片付けようか……醤油くさいし」

僧侶「くすん……なんでこんな簡単なこともできないんだろ……」

僧侶「よし……がんばろう!しっかりしなきゃ!うん!!」

男「さてと、なに買おうかなぁ」

女「薬草でも買っとこうかなぁ」

子ども「ママー、おやつかってぇ!!」

母「だめです」

ザワザワ……

僧侶(ひぃぃぃ……いっぱいきたぁ)

僧侶(ダメ……ダメです。雰囲気に呑まれちゃ……そこで私の負け!!)

僧侶「いらっしゃいませー」

男性(笑顔がひきつってるなぁ)

男「これください」

僧侶「は、はい!!えと……これが……10G……いや、15G?ん?あれ?」

男「早くしてください」

僧侶「す、すいません!!えーとえーと」

女「まだー?詰まってるんだけど?」

僧侶「えとえと……10Gでいいです!!!」

男性「あー!ちょっと、それは20Gだから。勝手に半額にしないで」

僧侶「あ……すいません!」

男性「もういいから、僧侶さんは品出ししてください」

僧侶「は、はい……」

男性「品出ししながら商品がどこに並んでいるか、値段と一緒に見ておいてください」

僧侶「わ、わかりました」

男性「―――あ、すいません。お待たせしました。合計で120Gになります」

僧侶「はぁ……」

子ども「おかし♪おかし♪」

僧侶「えと……」

子ども「あ、お姉ちゃん、その上のやつとってー」

僧侶「上のって……これですか?」

子ども「うん!!」

僧侶「ちょっとまってくださいね……うーしょ……うーっしょ……あ!?きゃぁぁぁ!!(ガシャァァァン!!」

子ども「oh……」

―――夜

男性「ふぅ……やっと片付いた」

僧侶「すいません……棚が倒れるなんて思わなくて」

男性「俺も商品を取るだけで棚を倒すとは思いませんでした」

僧侶「すいません!」

男性「もういいですよ」

僧侶「でも……」

男性「……明日、酒場の方に行ってみたらどうですか?」

僧侶「え?」

男性「そこの経営者がどうしても来てほしいって言ってましたから」

僧侶「そ、そうなんですか?……でも、ここのお仕事も……」

男性「ま、とりあえず明日は酒場のほうに顔を出してあげてください。僧侶さんを一人占めするわけにもいきませんし」

僧侶「そうですか……わかりました。明日は酒場のほうに行ってみます」

男性「そう、助かります」

僧侶「今日はありがとうございました!」

―――路地裏

店主「ひぃぃぃ!?!?」

魔物「貴様……どういうことだ?」

店主「ですから……店が燃えてしまって……もう、魔王様に若い娘を献上することが困難に……!!」

魔物「そんなことが言い訳になると思っているか!!」

店主「お、おゆるしをぉぉぉ!!」

魔物「店がなくても女を捕えろ。方法はいくらでもあるだろ?ん?」

店主「し、しかし……旅の者でないと……町の人間だと怪しまれます」

魔物「知らん。貴様は我々に生かされてることを自覚しているのか?」

店主「ひぃ!?」

魔物「貴様がなんでもするというから、あの壊滅した小さな村から一人だけ救ってやったのだぞ?」

店主「そ、それは……もう、えへへ。魔王様のお陰ですから……へへ」

魔物「ならば、分かってるな?近日中に三人、魔王様に捧げる乙女を用意しろ」

店主「は、はい……」

魔物「頼むぞ?―――ふふふ」

―――翌日 酒場

女「じゃあ、後はよろしくね」

少女「はい」

僧侶「あ、の。先輩!よろしくお願いしますっす!!」

少女「ふふ……もう、緊張しないでください。それに私も先月ここで働きだしたばかりですから」

僧侶「でも、先輩は先輩ですよね?」

少女「まあ、そうかも。でも、そんな堅苦しい感じで呼ばなくてもいいですよ?」

僧侶「そ、そうですか?」

少女「あ、じゃあ、丁寧語もなしで。いい?」

僧侶「は、はい……じゃなくて、うん」

少女「まあ、無理はしないで行きましょうか」

僧侶「はい」

少女「じゃあ、まずはね―――」

僧侶(同じ年ぐらいでしょうか……)

僧侶(私よりもしっかりしてますね……がんばらないと!)

―――夜 開店

ザワザワ

客「おーい!酒、ジョッキで追加!!」

少女「はーい!ただいまー!」

僧侶「あ、ととと……わぁ!!」

少女「―――よっと、危ない。グラスを割ったら、オーナーきれちゃいますからね?」

僧侶「すいません」

少女「焦らないで、急いで、そして丁寧に、ね?」

僧侶「そんな無茶な……」

少女「無茶でもやるの。あと、これ三番テーブルに追加」

僧侶「えぇ……」

少女「ほらほら、追加の声がまた聞こえてくる前に急いで配膳して」

僧侶「は、はぃ!!」

客「すいませーん!!注文、いいですかぁ!」

少女「はーい」

僧侶「あわわ……」

客「あ、ちょっとトイレー」

ドン

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