勇者「魔王倒したし帰るか」 1/6

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勇者「王様チィーッス。勇者ですよーっと」

王様「だ、誰だ!?」

勇者「いやだから勇者だって。ほれ勇者の印」ぺかー

王様「それは確かに勇者のみが持つ……ああ、すみませぬ。あまりにもその……容姿がお変わりになってて」

勇者「あー、痩せたしね。ヒゲとかも生えてるし。何より格好がこ汚いよな。鎧とかドロドロだし臭いし」

王様「い、いえ。決してそのような……」

勇者「無理しなくてもいいって。あ、ごめんちょっと吸わせてもらっていい?」

王様「は? あ、ああ、葉巻ですか? では兵に良い物を用意させましょう」

勇者「いいっていいって。自分のあるし」

王様「そうですか。ところでその……他の皆様は?」

勇者「んー、戦士と魔法使いと僧侶の事?」

王様「はい。お仲間方はどこに?」

勇者「死んだよ。俺以外は全員」プハー

王様「え?」

勇者「…………」スー……プハー

王様「……この度は……誠にその……」

勇者「あー、そういうのいいっていいって」

王様「ですが……なぜ皆様は、その、討ち死にを?」

勇者「ほんじゃその辺りも含めて、メシでも食いながら説明しようか。正直、俺ハラ減って死にそうなんだわ」ぐきゅるる~

王様「も、申し訳ございません! 誰ぞ! 誰ぞあるか! 勇者様の凱旋じゃ! 宴を開け!!」

兵士「ハハッ!」

勇者「…………」プハー

宴の場

勇者「うめえうめえうめえ」ガツガツガツガツ

姫様「まあ、勇者様は健啖ですのね」

勇者「この商売、食えるときに食っとかないとねー」ガツガツガツ

姫様「勇者様、こちらの品も美味しゅうございますわよ」

勇者「へー。どれどれ……お、ほんとだうめえ」ガツガツガツ

姫様「あらあら。お食事は逃げませんわよ?」

勇者「……んなこたねえよ」

姫様「え?」

勇者「…………」ガツガツガツガツ

王様「おお、こちらにいらっしゃったか勇者どの。おや? 姫もこちらにいたか」

姫様「はいお父様。勇者様ったら、わたくしとのお話よりも、お食事のほうが楽しいようで。まさか豚の丸焼きに嫉妬するとは思いもしませんでしたわ」

王様「はっはっは。きっと勇者様も照れているのだよ。姫の美しさに」

姫様「まあ。そうなんですの勇者様?」

勇者「あー、そうっすね。そうだと思いますはい」ガツガツガツ

王様「ところで勇者様、そろそろ魔王討伐までのお話などをいただければと思います」

勇者「んー、そうね。ハラも膨れたし」

王様「できれば、お仲間方の勇敢なる最後なども聞かせていただければと思います」

勇者「へいへい。そんじゃ行きますかね」

姫様「期待しております勇者様」

勇者「うーっす」

壇上

勇者「えー、どうも勇者です」

ザワザワ

「おお、あれが……」

「憎き魔王を……」

「英雄だ」

ザワザワ

勇者「そんじゃあどっから話しますかね。んー、そうね。食い物の話でもするか」

王様「ゆ、勇者様!?」

勇者「ん? どしたの?」

王様「で、できれば冒険のお話を……」

勇者「メシだって冒険の一部だよ。嫌ならメシ食いに戻るぞ俺」

王様「も、申し訳ありません。続けてください」

勇者「うーい。えーっと、皆さん、今日は美味い物いっぱいありますよね。俺もさっきから驚きっぱなしなぐらい美味いものばっかです」

勇者「こんな美味い物食ったのは半年ぶりぐらいです」

勇者「じゃあ普段は何を食ってたんだって話ですが、皆さんは街の周りにいるあばれイモムシとか、どくウサギとか食ったことあります?」

ザワザワ

勇者「ははは、ないっすよねえ。下ごしらえ大変だし、大変な割には美味くもないし。何より、それは魔物だし」

勇者「えー、ですが、牛や豚や鳥や、畑で採れる野菜なんてのは人間が飼ってたり作ったりしたものでして」

勇者「そして俺や仲間は魔族が支配してた土地を冒険していたわけで」

勇者「なあ王様」

王様「は、はい」

勇者「この世界に、人間の国や街や村が大体どれぐらいあるか把握してる?」

王様「え、ええと……大きい国は5つ。街や村で考えると……100は無いかと」

勇者「ふむ。その中で、魔王の居城の近くにある街や村の数は?」

王様「……0です。あっても魔王に支配されているか、滅ぼされているか」

勇者「よくできました。勇者マークあげちゃいます」

王様「い、いえ。そのような」

勇者「さてさて皆さん、こんな感じで基本的に魔王の城に近づくにつれ、街や村は減っていきます。そして、少ない街や村は基本的に貧困です」

勇者「そんな場所で摂取できる食べ物とは……はい姫様、答えをどうぞ」

姫様「魔物……」

勇者「はいよくできましたー。勇者マーク進呈! やったね!」

勇者「でだ。この辺りにいる魔物、つまりはあばれイモムシとかどくウサギみたいな奴らね。あいつらは、気性が荒いとはいえ、動物とそんなに変わりません」

勇者「ですが、魔王の城に近づくにつれ、魔物ってのは変化していきます」

勇者「では王様、第二問! その変化というのは?」

王様「…………わかりませぬ」

勇者「ブブー! はっずれー。勇者マークはおあずけー」

王様「…………」

勇者「その変化ってのはね。あいつら、知能が上がっていくんだよ」

勇者「知能が上がるってのは、感情が激しく出たり、言葉を喋ったりって感じで表れてくる」

勇者「泣きながら攻撃してきた奴を、『殺さないで』と懇願してきた奴を食って俺達は生きてきた」

勇者「人食いとなんら変わりねえ。それがあんたらの言う勇者って存在だ」

王様「…………」

姫様「…………」

勇者「おっと、湿っぽくなっちゃったね。えーっと、じゃあ話題を変えますか」

勇者「じゃあ、我らが誇る仲間たちの話でもしますか」

ザワザワ

「確か戦死されたと……」

「先程の勇者様が言われたような思いをしてまで勇敢に……」

「おお……実に誇らしい……」

ザワザワ

勇者「えー、じゃあ死んでいった順番に話しましょうかね。っと、じゃあ姫様に第二問!」

姫様「えっ!? あ、ええと」

勇者「一番最初に死んだのはズバリ誰!?」

姫様「……っ!! ふ、ふざけないでください勇者様! そのように死者を愚弄するのは……!」

勇者「いいから答えろ」

姫様「ヒッ! ……で、では、魔法使いどの……?」

勇者「なるほどー、確かに見た目も中身も温室育ちの女の子だったしねー。体力もなかったし、魔物食う時も一番ギャーギャー泣きわめいてたのもあいつだ」

姫様「…………」

勇者「でもはっずれー。正解はー……ぱんぱかぱーん! 戦士でーす!」

姫様「せ、戦士どのですか!? そんな、あの方はこの国一の怪力で、身体も心もとてもお強い方でしたのに!」

勇者「うん、そうだね。あいつは強かったよ。俺らみたいに魔法が使えないからって、いっつも真っ先に魔物に突っ込んで体を張って頑張った」

勇者「だから真っ先に死んだ」

姫様「では、魔物にやられて……」

勇者「違うよ。第一、魔物にやられたんなら蘇生できるでしょ教会とかで」

姫様「確かに……それでは、戦士どのはいったいなんで……?」

勇者「俺が殺した。あいつに頼まれてな」

姫様「な!?」

ザワザワ

勇者「…………」

姫様「もしや戦士どのは、魔王に操られ……?」

勇者「いんや違うよ。自分の意志で俺に『殺してくれ』と頼んだ。だから殺した」

姫様「なぜ!? なぜそのような!?」

勇者「じゃあその辺も踏まえて話しましょうかね」

勇者「さっき話したように、戦士は真っ先に魔物に突っ込んでいく事を選んだ」

勇者「なので、誰よりも身体に傷を負った」

勇者「誰よりも回復の魔法を受け、誰よりも回復の薬を使った」

勇者「結果、あいつは中毒になったんだよ」

姫様「……中毒?」

勇者「あー、馴染みないか。そりゃまあ、回復魔法もこの辺りの薬草も中毒性は低いしなあ」

勇者「中毒ってのは、それがないと駄目な状態と考えててくれ」

勇者「さてさて、皆さんはこれをご存知ですか?」ちゃぽん

王様「そのビンの中にあるのは一体?」

勇者「だよねー。見たことないよね。これは、魔王城近辺に生えてる特殊な薬草を煮出して凝縮させた、超回復薬だよ」

勇者「こいつは凄いよ。例えば、腕が吹っ飛んだとしても傷口から再生しちゃう。ボコボコーって。トカゲかってーのって感じ」

王様「そのような薬が……」

勇者「まあ、死んでさえなけりゃあこれで治るよ。……身体はね」

勇者「でも、精神はそうはいかない」

姫様「精神……?」

勇者「そう精神。心ともいうかな。そこがね、壊れてくるの」

勇者「この薬はよく効く反面、とても強いんだ。強くて強くて、心をズタボロにできるぐらいに」

勇者「一口飲むと、激しい高翌揚感で何でもできそうになる。実際、傷が治っちゃう訳だし」

勇者「でも、飲んで一時間後ぐらいかな。その辺りから副作用が出始める」

勇者「幻覚が見えてきたり、体の筋肉が弛緩したり、訳のわからないことを叫んだり、身体の中を虫が這いずり回ってるように感じたり」

勇者「そういう状態が半日ぐらい続くんだ」

勇者「だけど、半日もそうしてて魔物に襲われでもしたら一巻の終わりだ」

勇者「だから、こいつの副作用が出始めた頃に、精神を落ち着ける魔法をかけてもらうか、薄くした超回復薬をまた飲んでだましだましやっていく」

勇者「そんな事を続けていった結果、戦士はどうしようもないぐらいに心が壊れちゃった」

姫様「そうなってしまう前に、安全な国に戻って養生することはできなかったのですか!?」

勇者「あー、俺が帰ってくる時に使った移動魔法ね。まあ確かに、あれを使えば一瞬でここには戻れたな」

姫様「だったら!」

勇者「でも却下だ」

姫様「何故!?」

勇者「移動魔法ってのは、移動先が限定されている」

勇者「この城にもあるよね? 移動魔法用の魔方陣」

勇者「だからここには戻れる」

姫様「だから戻れるのなら何故!?」

勇者「じゃあ戻った後は?」

姫様「は? 後といいますと?」

勇者「戻った後、養生して、すっかりよくなった後だよ」

姫様「それは……また魔王を倒すために……」

勇者「どうやって行くの?」

姫様「そ、それは移動魔法で……」

勇者「魔王の支配力が強い場所へ? 魔方陣も無いのに? どうやって?」

姫様「…………」

勇者「っと、いじめすぎちゃった。ごめんね。まあ、この辺りならね、姫様の案でも悪くないのよ」

勇者「でも、24時間どんな時に凶悪な魔物に襲われるかわからないような場所で。更には先に何があるかもわからない場所ではそうはいかないんだ」

勇者「魔物を殺して薬を飲んで、魔物を食ってまた殺して。傷ついて癒してまた傷ついて」

勇者「戦士はさ、薬の副作用で髪の毛なんてぜーんぶ抜けちゃってさ」

勇者「まあ俺ほどとは言えないまでも、それなりにハンサムだった顔とかもどんどん変わっちゃってさ」

勇者「笑うと糸みたいになって、見てるこっちが笑っちゃうような目も、ぎょろぎょろしてギラギラしててさ」

勇者「俺に冗談を言っては豪快に笑ってた口も、半開きでよだれ垂らして、ずーっとブツブツ言ってるようになってさ」

勇者「武器も鎧も盾も兜も、魔物の血で常に真っ赤でさ」

勇者「どっちが魔物なのか、俺にはもうわからなかった」

姫様「…………」

勇者「でさ、魔王の直下にある四天王の一人を倒した時、腕も足も片目も吹っ飛んで、内臓なんかでろーっと見えてる状態であいつ言ったんだ」

勇者「『殺してくれ』ってさ」

勇者「当然、みんな断ったよ。魔法使いなんて、普段は戦士と喧嘩ばっかしてたのに、すげえ泣いてんの」

勇者「涙と自分の傷から出た血でべちゃべちゃな顔でさ」

勇者「『あたしを置いて行かないでくれ』とか『約束したじゃないか』とかさ」

勇者「そしたらさ、戦士ぷるぷる震えながら、目を糸目にして、少し困ったようにさ」

勇者「『ごめんな』って言ってさ」

勇者「あいつら、きっと両思いだったんじゃないかなあ」

勇者「そんで、あいつ俺に『頼む』って言ってさ」

勇者「だから殺した」

姫様「ゆ、勇者様は悪くは……」

勇者「あー、そういうのどうでもいいのよ。ただ、俺が戦士を殺したって事は事実な訳で。それはどうしようもない現実な訳で」

姫様「でも……でもそんなのって……」

勇者「悲しすぎますーって感じかな? ありがとねー。お礼に勇者マークしんてー」

勇者「多分さ、戦士はもう限界だったんだと思うよ」

勇者「最後こそちゃんと喋れたけど、その前なんて『うー』とか『あー』しか言えなくなってたし」

勇者「何度も俺たちを魔物と間違えて攻撃しようとしちゃってたし」

勇者「魔法使いにさ、攻撃しようとしちゃったし」

勇者「ギリギリで気付いて、泣きながら壁にガンガン頭ぶつけたりしてさ」

勇者「みんなが止めても言うこと聞かなくて困っちゃったよ」

勇者「長くなっちゃったね。戦士の話はこんなとこかな」

勇者「次は、魔法使いの話だ」

勇者「さて、魔法使いの死因だけど。よし、じゃあ王様! 魔法使いはなんで死んじゃったでしょー!」

王様「ま、魔物にやられて……」

勇者「ブブー! ふせいかーい! 答えはー……」

姫様「……自殺ではないでしょうか」

勇者「おお、凄いね姫様。だいせいかーい! 勇者マーク進呈! 拍手っ!」

シーン

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