国王「名づけて……勇者ドッキリ大作戦!」 2/5

1 2 3 4 5

青年(本当に俺なんかに、勇者になる素質があるんだろうか)

青年(本当に魔王が現れたんだろうか)

青年(なんだか、あまりにも唐突すぎてとても信じられない)

青年(でも、わざわざ城から国王様や大臣様がこんな村まで来ているんだ……。

本当なんだろう)

青年(魔王か……)

青年(もし俺でなきゃ、魔王を倒せないのなら、世界を救えないのなら──!)

青年「父さん、母さん……」

父「どうした?」

母「なんだい?」

青年「もし俺がいなくなっても……大丈夫かい?」

父「もちろんだとも!」

母「私たちは大丈夫だよ」

青年「俺……バカだけど色々考えた結果、勇者になってみようと思うんだ!」

父「うむ、お前は勇者になった方がいい!」

母「それがなによりの親孝行だよ!」

青年「う、うん……」

青年(とりあえず父さんと母さんは大丈夫なようだ)

青年(実をいうと、ちょっとくらい引き止めて欲しかったんだけどな……。

でも、大陸が滅びるかどうかの瀬戸際だし……こんなものかな)

父&母(なんとしても息子には城に行ってもらわないと……!)

翌日──

青年「心は決まりました」

青年「俺に勇者となる素質があるのなら……。

俺でしか魔王を倒せないのなら……俺、勇者になります!」

国王「おお……よくぞ決断してくれた!」

大臣「では、さっそくあちらの馬車に……」

青年「いえ、馬車はけっこうです」

大臣「え?」

青年「これからは、今まで以上に体を鍛えなければなりませんからね。

兵士の方々と一緒に、徒歩で城まで行かせて下さい」

国王「さすがは勇者、すばらしい心がけだ!」

(すっかりその気になっているな……木こり風情が。こりゃあいい)

大臣「彼ならば、打倒魔王も夢ではないでしょうな」

(ま、まずい笑うな……こらえろ……)

こうして村中の声援を背に、青年は故郷を発った。

城下町──

住民は、青年を快く迎え入れた。

ワアァァァァァ……!

「お帰りなさいませ、国王陛下!」 「勇者様が来られたぞ!」 「バンザーイ!」

「頑張ってくれよ!」 「これでこの国は滅びずに済むんだ!」 「やったぁ!」

青年(すごい熱狂ぶりだ……!)

青年(おそらくこの町の人々には、魔王の件がすでに伝わっているんだろう)

青年(さぞ不安だったにちがいない……)

青年(正直いって、流されるままにこんなところまで来てしまったけど、

この光景を見たらいくら俺だってやらなきゃいけないって分かる)

青年(絶対勇者に相応しい人間になってやる……!)

むろん、城下町の住民には全てが明かされており、買収と口止め済みである。

城──

国王「青年君。おぬしはまだ、なにか武功を立てたワケではない」

国王「しかし、我々の願いを聞き入れ、人々のために立ち上がったおぬしは、

すでに勇気ある者──すなわち“勇者”を名乗る資格がある」

国王「ゆえに本日この場から、おぬしは勇者を名乗るがよい」

青年「はいっ……!」

(とりあえず、名前だけは勇者になれたということか……。

なんだろう、体の中が沸騰するように熱いや)

国王「ここまで慣れない道を歩いて疲れたであろう。

今日はゆっくり休んで、特訓は明日からということにしよう」

メイド「では、こちらが勇者様のお部屋となります」

勇者「どうもありがとう」

メイド「なにか御用の際は、私におっしゃって下さい」

勇者「は、はい」

メイド「…………」

勇者「なにか?」

メイド「……いえ、失礼いたします」

勇者(こんな豪華な個室に、しかもメイドさんまでついてくるなんて……)

勇者(あまりにも恵まれすぎてて、逆に不安になってくるよ。

本当に俺なんかが勇者で大丈夫なのだろうか?)

勇者(寝て起きたら、村に戻ってるんじゃないだろうか?)

勇者(でも……どうやらこれは現実のようだ)

勇者(国王様は勇者になる決意をした時点で勇者だ、といってくれたけど

やっぱり結果が伴わないとなんにもならない)

勇者(明日からの訓練で、なんとしても強くならなければ!)

大臣「明日から訓練が始まる」

大臣「いいか、くれぐれもいっておくぞ」

大臣「相手は普通の人間ではない。非凡な才能を持つ勇者なのだ。

魔王を倒せる可能性のある、唯一の人間なのだ」

大臣「そんな彼が訓練でつまずくなどありえない」

大臣「おだてておだてて、おだてまくるのだ」

大臣「自分は優れた人間だと自信をつけさせるのだ」

兵士長&魔術師「はい」

大臣「とはいえ、しょせん木しか相手にしたことのない田舎の木こりだ。

褒めるところを探すのも一苦労だろうがな」

兵士長「案外才能を秘めている、ということも考えられますよ?」

大臣「ないない。なにしろ、そういうヤツを選んだのだからな」

翌日──

兵士長とのマンツーマンによる、剣の訓練が始まった。

兵士長「剣の握り方はこうです」ギュッ

勇者「こ、こうですか……?」ギュッ

兵士長「おお、すばらしい! センスを感じる握り方ですよ!

もしかして今までに剣術をやっておられたのですか?」

勇者「い、いえ……剣なんて……もっぱら斧ばかり振るってましたから」

兵士長「続いて、素振りです。私のマネをして下さい」ブンッ

勇者「えいっ!」ブンッ

兵士長「さすが勇者殿ですな。

素振り一つとってみても、溢れんばかりの才能を感じ取れますよ」

勇者「ありがとうございます……!」

続いて、魔術師とのマンツーマンによる魔法の訓練が行われた。

魔術師「まず、あなたの魔力を測らせていただきます。

自然体で立っていて下さい」

勇者「こうですか」スッ

魔術師「むむ……これは……!」

勇者「どうですか……!?」

魔術師「すばらしい魔力をお持ちですね。

私の占いはやはりまちがっていなかったようです」

魔術師「これほどの魔力の持ち主はザラにいるものではありません」

勇者「この俺に……魔力が……!」

魔術師「とはいえ、剣術とちがい魔法はある程度の予備知識が必要です。

しばらく実習はせず、講義に専念していただきます」

勇者「はいっ!」

初日の訓練が終わり──

大臣「──さて、どうだった?」

兵士長「大臣のおっしゃったとおりでした。全く才能はありませんな」

兵士長「木こりをやっていただけあって体力だけはあるようですが……

本当にそれだけです」

兵士長「一年間みっちり鍛え上げても、並の兵士ほどに強くなれるかどうかも

怪しいですな」

大臣「フフフ、やはりな。そうでなくては意味がない」

大臣「強くする必要はない。強くなった気にさせるのが、お前の使命だ。

いいな?」

兵士長「かしこまりました」

大臣「魔術師、魔法の方はどうだ?」

魔術師「驚きました。体に魔力なんてこれっぽっちもありません。

あれではなにを教えようと、魔法なんて唱えられませんよ。

なにせ、燃料が空っぽなワケですから」

魔術師「あれでは実習など不可能なので、講義を受けさせていますが……」

大臣「うむむ……それはマズイな。

剣術とちがって、魔法はごまかしがきかん。

かといって伝説の勇者は剣と魔法を使う戦士、ということだからな」

大臣「どうにかして、勇者に魔力を宿せないか?」

魔術師「一応、魔力薬というものがありますが──」

大臣「魔力薬?」

魔術師「ドーピング剤の一種です。あれを使えばなんとか……。

ただし、副作用がかなりあるので──」

大臣「死ななければかまわん。今晩からでも魔力薬とやらを、

シェフに命じて料理に混ぜさせよう」

魔術師「……はい」

勇者「うっ……」

勇者「おええぇぇぇぇっ……!」ビチャビチャ

メイド「勇者様、大丈夫ですか!?」

勇者「……えぇ、なんとか」ハァハァ

勇者「急に環境が変わったから、体がついてきてないんだろうね。

しょっちゅう頭痛や目まいがしたり、手がシビれたり……。

だけど、すぐ慣れると思うよ」

勇者「それにしても、あんなに美味しい料理を吐いてしまうなんて、

もったいないことをしたよ、ハハハ」

勇者「美味しすぎて、胃がビックリしちゃったかな」

メイド「…………」

勇者「そんな心配そうな顔をしないでくれよ。

俺は必ず勇者に相応しい実力を身につけてみせるから!」

メイド「えぇ……無理はしないで下さいね……」

ある日──

勇者(城の中は広いなぁ、道に迷ってしまった……)スタスタ

兵士「ちょっと勇者様!

勇者様は城内の決められた場所以外、勝手に歩き回らないで下さい!」

勇者「あ、すみません……」

兵士「勝手な行動は情報の漏えいにつながります」

兵士「万が一にも勇者様の存在が魔王に知られたら、

この国がターゲットにされてしまいます」

兵士「そして、もし勇者様が倒れられたらこの大陸は終わりなのですから……」

勇者「そうでした……軽率でした」

勇者「ところで、今魔王の侵略はどの程度進んでいるんですか?」

兵士「え!? え、えぇ……とにかくスゴイ勢いらしいですよ。

人間の軍などまるで歯が立たないようです」

勇者「そうですか……ありがとうございます」

大臣「──との兵士からの報告です」

国王「うむ、好き勝手に歩き回られて、

万一ドッキリに関する情報を耳に入れられたらオシマイだからな」

国王「勇者の監視を厳しくするよう、兵士たちに伝えておけ」

大臣「かしこまりました」

大臣「魔王の件はいかがいたしましょう?」

国王「当初の予定どおり、新聞社に勇者用の新聞を刷ってもらおう。

勇者に魔王を憎ませるような記事を心がけよ、と伝えておくのだ」

大臣「よい記事ができるといいですな」

翌日から、勇者のもとに新聞が届けられるようになった

『魔王軍の侵攻、とどまることを知らず!』

『○○国軍前線基地、壊滅!』

『△△村、村民虐殺される』

勇者「…………」プルプル

1 2 3 4 5